「皆さんお集まりいただけて何よりです」
とある日のとある場所。大学の講堂というよりは学校の教室といった雰囲気の部屋で、男が話を始めた。
その部屋には述べ30人余りの、性別も年齢も異なる人々が座っていた。
各人の机の上も統一性がない。紙、NPC、レコーダー、PDA。唯一共通する点といえば何かを記録する、ということだろうか。
それこそがこの集いの目的。普段多忙な彼ら彼女らが時間を割いてここに居る理由なのだ。
「では、始めましょう。現代基礎魔術学を」
――対深海棲艦研究集団”光線”は、大真面目に魔術を学ぶことを決定した。
◆◇◆◇◆◇
ことの始まりは実は結構昔のことになる。
AF細胞の培養に初めて成功した事例だ。
//研究員0331:深海棲艦は今のところ科学では理解できないので論理立てたオカルトに頼ろうと思いました。下に深海、重力強めなら、いけそうじゃないかと思ったのが始まりです。
コレはさも培養槽が深海に近いと、周囲の環境とその重力で誤魔化した事例である。
その後もAF細胞の活性化処理にはたびたび用いられる手法となっており、研究者間でもオカルトの存在を認識するようになっていった。
深海棲艦自体がオカルトの塊だとは誰も指摘しなかったが。
しかし彼等は腐っていても科学者。
理屈と理論と理性でこの世の解明に全力を挙げる人種である。
そんな彼らが導き出した答え。それは『現在我々が法則化出来ていない未知の関数が存在する』ということを認める、ある種科学者らしい思考だった。
ではどうするか。未知の関数とやらはどうすれば判るのだろう。
彼等はそれをオカルトに求めた。
因子、という言葉がある。
これは別に特別な言葉では無く、一般的にも研究的にも使用されるものだ。
彼等はこの因子にオカルトが宿ると踏んだ。
因子とはベクトルである。
因子とはスカラーである。
因子とは時間である。
そして、未知の因子とは働きかける意思である、と。
意思を定数化する、というもはや訳の判らないことを本気で考えた研究チームは、なんとそれで現存するオカルトの大半を公式付けて解釈し、あわよくば実践してみせた。
浮かぶ火の玉、機器と振動を用いない
霊媒師・陰陽師・祈祷師で構成する日本不思議協会はこの報告に白目を剥いた。
『もう本当にどうしてそうなった』と言いたいのだが、彼等はそれをやってのけたのである。
そこまでわかった彼らは因子を引数として既存の公式の手直しを始めた。教科書の公式が丸ごと新しい公式へと変化するのだ。一般人にとってはたまったものではない。
現代社会の混乱を予期した”光線”上層部は、この事実を隠蔽することで合意。研究者に啓蒙する以上の行動を禁止した。
――さて、ここまでで勘の良い人ならばわかるだろう。
あの変態研究者共がこんな美味しく楽しそうな話をみすみす逃すはずがない、と。
威力に限界を感じてきた武装開発も、人型ホ級のバイタルが安定しなくててんてこ舞いな生態プロジェクトも、抗AF細胞装甲の実現に頭を悩ませている基礎技術研究部も。
全員が全員こぞってこの公式の解説と議論の場を欲しがった。
その結果、基礎講義の受講者が当選確率300倍という事態になったのはご愛嬌か。
まぁ、その。かくして。
この