凡そ遠しとされしもの、下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うと思しき者達。それら異形の一群を、人はいつしか畏れと畏怖を含め、総じて、"蟲"と呼んだ。
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とある、誰も立ち入らないような山の奥深く。そこに一人の大荷物を持った少年が足を踏み入れた。年に無相応な白髪に色を失ったような白眼、左目には眼帯をしていた。
「ん…………………?どうやら俺が最後か…………………」
「遅いぞ!ギンレイ!」
ギンレイ、と呼ばれたその少年が足を止めたところには、たくさんの人が雑貨市場のように物を広げていた。そしてそこにいる人々は共通して瓢箪や口の小さい大きなとっくりのような物を持っていた。もちろん少年にも中くらいの瓢箪が荒縄に結ばれ腰に吊り下げられている。
「すまんな。なにせ、初めて入る山だったから、入念にムグラ乗りをしてた。」
「ムグラに乗るのはいいけどよぉ。あんまりやりすぎると"主"を刺激するぞ?」
「限度はわきまえてるさ。」
「それなら良いが…………………っと、どうだい?良い蟲タバコが手に入ったんだ。光酒(こうき)5滴でどうだい?」
「悪いな、俺ももうあんまし残ってねぇんだ。それにタバコのストックならまだある。」
「そう言わずによぉ〜、頼むよ、な?」
「仕方ねぇな、3滴でそれの半分でどうだ?」
「うーん…………………チッ!相変わらずこっちのギリギリをつきやがる、いいぜ、持ってけ。」
「助かる」
そしてギンレイは男の盃に、腰の荒縄で吊り下げている瓢箪の栓を抜き、傾ける。そして瓢箪から光り輝く水が3滴盃に落とされる。
「毎度!助かるよ!」
「はぁ、調子のいい爺さんだ…………………ワタリも連中遅い…………………ん?」
ギンレイがポケットに手を突っ込むと、繭のようなものを取り出し、一部を退かすとそこに空いた小さな穴から、棒を使って細く丸めた紙を取り出す。
「ふーん…………………成る程ね。」
ギンレイは別に紙にサラサラと書いていくと、同じ様に細く丸めて繭の中へと戻す。
「ん?ギンコ、どうした?」
「悪い。光酒補充したら俺、直ぐに立つわ。」
「急だな?どうした?」
ギンコは買ったばかりの蟲タバコに火をつけて吹かす。そして、一言、ポツリとつぶやいた。
「友人に呼ばれた。」
そして、ギンレイは光酒を補充するとすぐさま山を降り、地図を片手に目的の場所へと歩き出す。
「目的地は…………………確かあいつのいるところは、東京の八王子だったか…………………」
そして、蟲タバコを吹かしながら、ギンレイはそのまま八王子へと向かう。これから始まるのは現代の主流職業、魔法師と忘れ去られた職業、蟲師の織りなす物語である。