魔法科高校の蟲師   作:elf5242

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一匹目 ???『片方の耳が聴こえません…………………』

魔法、それはここ十数年の間で、御伽噺の産物としてではなく、れっきとした技術として確立された。しかし、技術として確立した今でも、その数は不足しているのが現状である。

その対策として国立魔法科大学、そしてその付属高校、通称魔法科高校が設立された。その中でも第一高校は、トップクラスの設備を誇る。その第一高校では、奇妙な事柄が起きていた。

 

「深雪、片耳は大丈夫か?」

 

「はい、お兄様。もう片方が聞こえますから、問題ありません。」

 

そしてこの兄妹も、その奇妙な現象に見舞われていた。第一高校に入学し、一月ほど経った頃、妹である深雪に異変が起きた。

 

『お兄様…………………左の耳が、聞こえません…………………』

 

兄である達也はあらゆる観点で検査したが深雪の体に異常は見つからず、自身の固有魔法をも使ったがそれでも深雪の異変は収まらなかった。そして、師である九重八雲にこのことを話すと意外な答えが返ってきた。

 

『うーん…………………僕はこういう事には専門外だけど、もしかしたら彼なら治せるかもしれないね。僕の友人に連絡を取ろう。彼なら何とかしてくれるはずだからねぇ。』

 

そして、八雲に一週間後の今日、自身の所に来る様に、といわれ、そして今日がその日なのであった。

 

「先生のお知り合い…………………いったいどんな方なのでしょう?」

 

「分からない、だが、治せるというのならその方がいい。」

 

兄妹は九重寺へと歩を進める。そして門をくぐると、坊主頭に左目に走った傷が特徴の男がいた。彼こそが達也の師匠であり、この寺の住職、九重八雲である。

 

「やあ、来たね。達也君。」

 

「こんばんわ、先生。」

 

「師匠、それで。」

 

「うん、彼ならもう来てるよ。」

 

達也と深雪が視線を向けた先には、木箱を腰掛けにしてタバコを吹かしている少年がいた。目測での身長は深雪よりも低く、どう見ても義務教育を終えていない年齢に見えた。

 

「先生、あの方は…………………?」

 

「うん、彼が僕の知り合いだよ。ギンレイ君。来たよ。」

 

ギンレイが達也たちの方を一瞥すると、木箱から腰を上げて立ち上がり、木箱を持ってこちらに歩いてくる。

 

「師匠、彼は?」

 

「うん、彼はギンレイ。僕の友人でね。彼はある事に対処する事に関しては専門家だ。」

 

「ご紹介に預かったギンレイだ。流れで蟲師をやってる。」

 

達也の疑問に八雲が答えると、ギンレイ、と呼ばれた彼は立ち上がり、タバコを人のいない方向に吹かす。

 

「よくもまあ、回してくれたな。俺以外でも蟲師はいただろう?」

 

「いやぁ、僕の知ってる蟲師は君しかいなかったんだよ。許して?ダメ?」

 

ギンレイは八雲の顔に蟲タバコの副流煙を浴びせる。吹きかけられた八雲はわたわたと慌てた後に咳き込む。

 

「まあ、良いや。さっさと治療を始めよう。八雲、中へ入らせてもらうぞ?」

 

ギンレイは八雲が答える前にさっさと寺の中へと入ってしまう。

 

「さぁ、達也君達も彼についていくと良い。大丈夫、彼なら治してくれるはずさ。」

 

「はい。」

 

「かしこまりました………。」

 

そして達也達も八雲に促され、寺の中へと入る。

 

「さて、患者はどっちだ?」

 

「あ、はい。私です」

 

「聞こえない方の耳を俺に向けて横になってくれ」

 

深雪はギンレイの言う通りに横になる。そしてギンレイは木製の道具で、耳の中を見ていく。そして、ギンレイの目が細まる。

 

「この粘液は…………………確かにな、頭の固い現代医療じゃ治せん。」

 

「原因がわかるのか?」

 

「ああ、こいつの原因は"蟲"で確定だ。八雲、湯を沸かせ。」

 

「もう沸かしてあるよ。このくらいで良いのかい?」

 

「上等」

 

達也の上げた疑問にギンレイが答えつつ、治療の準備を整える。と言ってもギンレイのやった事は白い粒の荒い何かを湯に溶かしただけだった。そして、それを小さな差しに入れる。

 

「熱かったら言ってくれよ、こいつを聞こえない方の耳に流し込むと……………。」

 

深雪にそう一言呟いた後に、ギンレイは差しの中の水を深雪の耳の中に流し込む。そして、すぐさま緑色に光るナメクジのような生き物が深雪の耳から這い出てくる。そして深雪は体を起こし咳き込む。それを見た達也が素早く駆け込む。

 

「ほい、この通り。終わりだよ。」

 

「けほっ、けほっ!?し、塩辛いです!?今のは何ですか!?」

 

「塩水だよ。」

 

「塩水…………………あれ?き、聞こえます!聞こえますよ、お兄様!」

 

「深雪…………良かった………!」

 

喜び合う兄妹を尻目に、蟲タバコを吹かすとギンレイは木箱の引き出しの一つから書物を取り出す。年月的にも相当古い代物の書物を二人の前に広げる。

 

「あんたについていた蟲は"呍"(うん)という。」

 

「"呍"?」

 

「そう、耳ん中にカタツムリそっくりな器官があんのは知ってるだろ。こいつはそこに寄生して音を喰って静寂を生み出す。普段は森なんかに住んでんだが、最近は森が少ないから住処がない。さらに言えばそれに伴っての餌も少なくなっている。だから、住処と餌を求めてこんなところまで来たんだろう。そして、あんたについていたのは相当飢えた個体だった、てわけだ。」

 

「あの………蟲、と言うのは一体………?」

 

「この世で最も命本来の形に近しい奴らのことで、俺たちとはまた違った形の命さ。何はともあれ、これであんたの治療は終了だ。」

 

ギンレイは木箱に粗方資料をしまうと、木箱を背負って立ち上がる。

 

「あ、あの、待って頂けませんか??」

 

「ん?」

 

ギンレイに声をかけたのは深雪だった。ギンレイは深雪の方を見る。

 

「もう一人、真逆の現象が起きている者がいます、その方も治せるのか?」

 

「ほう………?」

 

ギンレイは目を閉じてしばらく考え込む。そして、目を見開く。

 

「良いぜ。明日、案内しな。そいつのところへな。」

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