Fate/ Grand Order -南海偽曲奇譚- 作:遠井遠路
「どうだい、異常は見つかったかな」
Dr.ロマンがモニタ越しから4人に声を掛ける。
先頭を歩く牛若丸、後詰で周囲を警戒するマシュ、マスターと腕を組んで歩く清姫。そして虚ろな目をした人類最後のマスター。グランドオーダーを課された彼を、そう、仮にぐだ男と呼ぼう。
今朝のブリーフィングで「小さい揺らぎだが特異点になりかけている地点がある」とDr.ロマンから聞かされ、ぐだ男とマシュの2人、そしてフォウといういつものメンバーで問題の地点にレイシフトしてきたのだが、現地で霊脈を確保して召喚を行ったところこの2人が現れたのだ。
「いえ、ドクター。土と緑と、遠くに海。のどかな田舎そのものです。異常なんて見当たりません。ね、先輩」
「ウン、ソウダネ」
「敢えて言うならやや暑いですね。南に近い島なんでしょうか、主どの」
「ウン、ソウダネ」
「南の島! 私たちの
「ウン? ソウカナ?」
新しい出会いを期待した召喚で、まさかいつもカルデアで戯れている面子が現れるとは完全に予想外であった。本人たちは「ちょっと宝具が強くなった気がします」と言っていたが、再召喚したメリットはそれくらいだろう。
特にいつもの感じるストーカーの気配から逃げ出したことで心の平穏を得ていたぐだ男にとって、清姫との再開は青天の霹靂だった。運命を感じた清姫に抱きつかれて心が折れたとしても仕方がない。
「ドクター、本当にこの当たりに聖杯があるんですか?」
マシュの質問にロマンも困り顔で応える。
「うーん、反応値から見るに聖杯本体じゃなくてかけらだとは思うんだけどね。まぁ、いいじゃないか。危険がないなら、少しくらい羽を伸ばしておいでよ」
「確かに危険はありませんが……」
「ところで、結局ここはどの辺りなのですか。ところどころから宋の空気を感じますが、それなら西に海が見えるのはどうもおかしいですね」
牛若丸はそう言って空を見上げ、指を一舐めして風を読む。太陽の位置と風の流れで方角を見切ったらしい。牛若丸の言うとおり、西には水平線が広がっており、陸地と海の境には大小多くの船が停泊している。ここが中国大陸だとしたら位置的に色々おかしい。逆に東側には高台に石垣が築かれた、お城のような建物がそびえ立っていた。下から見上げる形になるので詳しい造りは見えないが、曲線波打つ石垣というのは幾多の戦場を駆け抜けた牛若丸にも見覚えはなかった。
「あぁ、説明がまだだったね。北緯26度、東経127度30分。そこは京の都や特異点Fより更に南。その時代だと琉球王国と呼ばれる島国だね」
「先輩っ! リゾート地ですよ、リゾート!」
Dr.ロマンの説明にマシュの目が輝いた。
海洋国家、琉球王国。日の本の支配者が貴族から武士に変わり、武士の世が終わりかける時代まで、海を結界に独自の歴史を歩んだ国である。
炎上汚染土地と化した特異点Fの時代でいうと沖縄県にあたる、南国の地だ。特異点Fでの戦闘や「直死の魔眼」を持つ少女との邂逅を経て、その時代の調査と復習を行っていたマシュにとって、琉球……つまり沖縄とは観光地でありリゾート地であるとインプットされていた。
「嬉しそうだね」
「ハッ。いけません、大事な任務中でした。つい浮かれてしまって……すいません」
「いやいやマシュ殿。戦前に緊張しては戦にならぬと聞きますし、嬉しいことがあれば素直に喜んでもよいでしょう」
「そうだね。ところで、尻尾が……」
平然とした顔でマシュをフォローする牛若丸だったが、その刀の鞘が縦にぶんぶん、横にふりふりと忙しげに動き回り、まるでタヌキの尻尾が牛若丸から生えているかのようだった。
「
「それむしろ嫉妬の力だよね」
牛若丸、清姫と合流してからもう数時間経つが、未だにこの時代で他のサーヴァントの姿は見かけない。
これまで聖杯のかけらくらいの歪みであれば、レイシフトした時点で原因に行き遭ってきたが、今回は歪みの発生元と想定される地点には何もなく、また歪みの反応が小さすぎるため、逆に発生源の特定が難しくなっているようだった。
戦闘もない。イベントもない。
ただ地道に歩くだけの時間は集中力を削りストレスを高める。牛若丸はそわそわとして落ち着きがなくなっており、マシュはアピールがどう、水着がどうと独り言を言い出している。清姫は、まぁ何も変わっていないのだが。
マスターとはサーヴァントの気持ちを汲み取るのも仕事の内。丁度道の先にいい場所が見えてきたので、ぐだ男は3人に声を掛けた。
「少し休憩しよう。海水浴だ!」
海水浴だと言ったな、あれは嘘(次回)だ!