Fate/ Grand Order -南海偽曲奇譚-   作:遠井遠路

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なんとか今日に間に合った……。


【05】スタイリッシュ自殺未遂

 

サーヴァント達がぐだ男に追いついたのはDr.ロマンが言っていた寺の目の前だった。マシュはともかく、男を追いかける(・・・・・・・)逸話を持つ清姫や、野山を庭とする天狗の弟子である牛若丸でも追いつけなかったのは、それだけぐだ男と若松の二人が必死だったということだろう。

 

 

「旦那様ったら、早すぎますわ……」

 

「それ別の意味でダメージになりますよ」

 

「しかし、ここが寺ですか。私が知っている寺とはやはり違いますね」

 

 

牛若丸がそう呟くのも仕方がない。寺と言っても門や塀が無く、道と敷地の境界線上にはとげとげした草が植えられているだけで、奥には鐘と本堂のみ。牛若丸が預けられた鞍馬のお寺とは雲泥の差である。

寺の前に五人も集まればさすがに騒がしかったのか、奥から年老いた座主が小坊主を連れて奥からやってきた。

 

 

「こんな遅くにいかがしましたか」

 

「お騒がせしてすみません。えぇと、なんと言いますか……」

 

「恐ろしい女に追われているのです! どうかお助け願います!」

 

 

唇を青くして肩を震わせながら叫んだのは若松だ。先ほどの女の表情がよほど恐ろしかったのだろう。親指を口に咥え爪を噛む様は、年頃の乙女が見たら百年の恋も覚めるであろう。ただし、今まさに追いかけてくる女が諦めるかどうかは別の話だが。

詳しい事情を聞いた座主はうんうんと頷き、女から匿うことを了承した。

 

 

「情欲に堕ちた女人というのは恐ろしいからのう。しかし、匿うとしてもどこに隠したものか」

 

「あちらのお堂の中では駄目なんですか?」

 

「それでもいいのじゃが、話を聞くに、その女は何があっても押し通る意地であろう。そうなってはお堂に隠れてもあまり意味はない。絶対に見つからないところがあればいいのだが……」

 

 

座主が困り顔になったところで、意外なところから声が上がった。座主の後ろに控えていた小坊主たちだ。まだ二桁にもなっていないような年頃で、頭も剃髪したばかりなのかまだまだ青い。縦に一列並んでいた三人の小坊主は、前から順に話しだした。

 

 

「あれあれ、誰にも気付かれなければいいのじゃろ」

 

「あれあれ、あそこの中に隠れればいいのじゃろ」

 

「あれあれ、誰かが言わねば絶対ばれぬ。誰かが言うかもしれぬが」

 

『おい』

 

 

前二人の小坊主が三番目の坊主に突っ込みながら、揃って指差したのはお堂の横に鎮座していた釣り鐘だ。釣り鐘と言っても補修中なのか、鐘は縄が外され、地面に置かれていた。

 

 

「って、だから何で皆して私を見るんですか?」

 

「え、いや……」

 

「まぁ、言いたくはないのですが……」

 

「焼き殺したりしないよね?」

 

「酷くないですか!?」

 

 

清姫と似た顔の女に追いかけられ、寺に逃げ込んで、鐘の中に隠れて女をやり過ごす。これがもし清姫伝説をトレースした異変であったら、鐘に隠れた後は竜と化した女に焼き殺されるだけだ。流れるような自殺とも言える。

 

 

「これはもう迎え撃った方が早くないですか?」

 

「でも、旦那様がこの様子では」

 

 

若松と一緒に膝を抱えてガタガタ震えるぐだ男は膝を抱えたまま何事か呟き目は虚ろ。戦闘指示ができる状態にはとても見えなかった。

 

 

「どちらにせよ早く決めた方がいい。反応が近づいている」

 

 

対応に困っているとDr.ロマンから時間制限が告げられる。判断に困ったマシュは、ひとまずマスターの身を守るのが第一だと決断し、ぐだ男と若松を抱え上げて鐘へと向かう。

 

 

「ここは一旦隠れましょう。最悪、火攻めにあっても私のスキルで守ります!」

 

「ここはマシュ殿に従いますか」

 

「旦那様と暗闇で密着! あぁ、何という桃源郷」

 

 

マシュはそのまま鐘に近づくと、片手で鐘を持ち上げてぐだ男と若松を地面に下ろす。どうやって鐘を持ち上げるか考えていた座主と小坊主たちがその光景に目をむくが、デミサーヴァントにとってこの程度朝飯前である。

涼しい顔で「それでは」と言って鐘の中に入ったマシュ達を見送り、信じられない光景を見た座主たちは「はて、あちらが化物(マジムン)の類だったか?」と首をひねるのだった。

 

 

*

 

 

「夜分に失礼致します。こちらに中城若松と名乗る方が来られませんでしたでしょうか」

 

 

マシュ達が鐘に隠れてから少しして、寺に新しい客がやってきた。

事前に説明を受けていなければ、先ほど見た清姫という女性と同じ顔が現れた、と座主も驚いていたことだろう。女は見た目こそ粗末な装いでところどころが汚れていたが、その所作は礼儀を知っている者の振る舞いで、座主に対しても弁えた態度であった。

思わず女、……少女といってもよい年頃の存在を好ましく思ってしまった座主は気を取り直し、女と相対する。

 

 

「知らぬ知らぬ。今日は虫の一匹も来ておらぬ」

 

「そんな嘘ばっかり。土に足あとが残っていますよ」

 

「儂と小坊主どもの足あとであろう」

 

「分かりました。来ていないというのなら、本当に誰もいないのか確かめても問題ありませんよね」

 

「どういう意味じゃ」

 

「中を検めさせて頂きます」

 

 

女の顔がニヤリと歪む。所作も態度も丁寧にしているが、座主の言うことは一切気にせずズンズンと中に押し入ろうしてきた。まるで言葉が通じていない様子に、座主は慌てて小坊主達を使って少女の蛮行を止めさせる。

 

 

「こりゃ、坊主ども! 寺の中は女人禁制、決して中に入れてはならんぞ!」

 

 

「あれあれ、女人が入ると祟られるぞ」

 

「まさか徳の高い仏寺の中で祟られことはないでしょう」

 

 

「あれあれ、女人が入ると呪われるぞ」

 

「それではあとでお祈り念仏を唱えましょう」

 

 

「あれあれ、それにしても女人はよい匂いがするものだ」

 

「あら、お上手」

 

『おい』

 

 

三人目の小坊主だけやけに不真面目だが、これはこれでいいトリオなのだろうか。あれやこれやと理由をつけてズカズカお堂に踏み込む少女を、道を塞ぎ、ふすまを閉じて、悪戦苦闘、なんとか行く先に立ちふさがる。しかし、少女は小坊主達の妨害を意にも介さず、更に奥へ、更に奥へと進んでゆく。

その様子を見た座主は「これはいかん」と慌てだし、少女に見つからないように鐘へと近づくと声を掛けた。

 

 

「お前たち、お前たち。あの女はいよいよまずい。恋に溺れる女人の執心、きっとこの鐘まで辿り着くぞ」

 

 

座主の言葉を聞いた一行は慌てて鐘から飛び出して、お堂の逆側、森の茂みに隠れて様子をうかがうことにした。

 




早く次のエピソード行きたいのに中々話が進まない。
あ、評価・感想お待ちしてます!
2016/06/09 0:15 女の台詞を間違えていたので修正。
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