Fate/ Grand Order -南海偽曲奇譚-   作:遠井遠路

6 / 7
時々間は空くけどエタることだけは避けたいんで頑張ります。


【06】狂気開放

 

「若松様、何処にお隠れになったのですか」

 

 

お堂の中から出てきた女は、歩く度に右にふらり左にふらりと体を揺らし、ほつれた髪を一筋噛んで、幽鬼めいた表情で周囲を見渡す。これまで多くの怪物化物と渡り合い、様々な狂気を見てきた一行だが、それらとはまた性質の違うおぞましさが背筋を冷やす。

 

 

「あれは完全に執念に狂ってますね。南無阿弥陀仏」

 

「私、あの方を見ていると無性にイライラしてきます」

 

 

清姫の言葉に全員が『それは同族嫌悪なのでは』と思ったが、下手にツッコミを入れて言い合いになるのを恐れて心の中にそっと仕舞った。沈黙は金である。

 

 

「ほれ、儂の言うた通りじゃろう。今日はここには誰も来ておらぬ。満足したなら帰るがよい。今ならまだ帰れるぞ(・・・・・・・・・)

 

「いいえ、若松様は必ずここにいるはずです。だって、こんなにも、こんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにも、若松様の匂いがするのですから!」

 

 

もはや狂気を隠そうともしない女は、しかし足取りは静かに一歩ずつ前に進む。歩く度に深く息を吸い込み、辺りを見回しては方向を修正する。

一歩、また一歩。「若松様、若松様」とぶつぶつ呟きながら歩く姿に座主も言葉を失って、ただ呆然とその様子を見守るばかり。

そして、女はいよいよそこ(・・)にたどり着いた。

 

 

「この鐘、ここが一番匂いが濃い。幾つか余計なものも混じっているけど、あぁ、間違えるはずもない。ここ、ここですね」

 

 

歓喜の声を上げて鐘に擦り寄るが、女はそこで立ち止まってしまう。鐘を持ち上げる(すべ)がないのだ。鐘の重さはどれほどか。マシュは一人でひょいと持ち上げたが、座主がこの釣り鐘を降ろす時は働き盛りの若い衆十数人の力を借りてようやくどうにかなった代物である。如何に妙な迫力のある女といえど、一人で持ち上げることなどできはしない。

 

 

「あぁ、若松様。なぜそんなところにお隠れになるのです。どうか私の前に姿をお見せ下さい」

 

 

「どうか、どうか」と繰り返す女は、次第に掌で鐘を打ち付け始めた。皮がめくれ、血が辺りに飛び散ってもお構いなしで、ひたすら同じ動作を繰り返す。

それは女の無垢か、執心か。

やがて鐘を叩く音が変わる。先程まで響いていた鈍い打音に加え、硬い石で鐘を叩いたかのような高い音。

 

 

「人が狂気に奔る様は幾度か見たことがありますが、これは……」

 

 

女の周囲が血で赤く染まるなか、唯一白いそれ(・・)は、肉のえぐれた女の手首から姿を見せた骨の先端だ。

 

 

「流石にあんな姿、見ていられません! 止めてきます! ……って、あれ?」

 

 

マシュが草むらから飛び出したところで、女は鐘を叩くのを止め、俯いていた顔をあげる。そこに女の顔は既に無く、どこに出しても恥ずかしくない般若の顔(・・・・)が浮かび上がっていた。

 

 

「わわ、な、何ですかあれ!?」

 

「あら、もしかしてあれは」

 

「知っているのですか、清姫!?」

 

「……何ですか、そのノリ」

 

 

清姫が説明する気を無くしたことを察したのか、Dr.ロマンがその続きを引き継ぐ。

 

 

「信じられないけど、計測したデータが間違ってなければ、今その女性は鬼に転化した!」

 

「鬼って、この前の茨木童子さんとか酒呑童子さんみたいな?」

 

「あそこまでの力は無いけど、非常に近しい存在だね。でも、触媒も魔術の気配もなしに、ただの人がいきなり鬼に転化するなんて、ありえない!」

 

 

人が人の殻を脱ぎ捨てることは決して不可能ではない。

とある出来損ないの薬で吸血鬼未満の化物になったり、肉体が滅んでもオリジナルと全く同じ人形を用いて復活するなど、方法も一つではない。だが、それらに共通することは無窮なる探求の果てにようやく辿り着く、到達点の一つだ。魔術師でもないただの一般人が成し得るなどありえない(・・・・・)

しかし。

 

 

ありえない(・・・・・)などありえません(・・・・・・)

 

 

そう言い切ったのは清姫だ。

幼いころに予言された運命の人に恋い焦がれ、その人物に裏切られた絶望、悲嘆、憤怒、それらの想いだけで鬼どころか龍に転化した少女にとって、気に食わないとはいえ鬼と化した女の気持ちはわかる。

そう、たとえこの身が異形と化しても、ただ愛した人を一目見たかった。その気持が、想いが、執念が、ありえないなどありえない。

 

 

「若松様……」

 

「まずい。君たちは顔を見られている。彼女がいきなり襲ってくる可能性もあるぞ」

 

 

鬼と化した女は、いつの間にか傷ついた右腕は元に戻り、代わりに柄の長い木槌を持っていた。ゆらりと立ち上がるやいなや、木槌を大きく振りかぶり、それまで縋っていた鐘に勢い良く叩きつけた。

鐘の音は破邪の音。しかし、その邪が響かす鐘の音は果たしていかなる効果を持つのだろうか。

一つだけ確実なことは、間近で大音量に襲われたマシュ達にとっては十分な攻撃となった。

 

 

「くっ、こうなっては戦うしか」

 

「しかしマスターが……」

 

「いくぞっ、戦闘用意!」

 

「あれっ? マスター、さっきまで体育座りで震えていたのに!?」

 

 

ぐだ男は空気が読めるマスターである。

先程までは敵と味方のダブル清姫で戦闘不能となっていたが、片方が清姫ではなく鬼になったことで平静を取り戻した、などと言って味方(清姫)の士気をわざわざ下げる必要は無い。

ただ少し後ろ暗かったので、清姫に向かって笑顔で親指を立ててみせた。

 

 

「まぁ、今晩OKだなんて、旦那様ったら大胆ですね」

 

「あれ、何か変だぞ?」

 

 

それはさておき、と襟を正し、清姫は鬼と化した女を一瞥する。

 

 

「若松様、姿を見せて、若松様!」

 

「私は、これ以上あなたを見ていられません。これがどういう感情なのか。ただ、あなたは見苦しい(・・・・)。ここで、終わらせてあげましょう」

 

「若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様、若松様ぁ!!」

 

 

マシュが正面に立ち、牛若丸が隙を伺い、清姫が扇で口元を隠す。南の島で、ようやく戦闘が始まる。

 




今回で戦闘まで終わると思ったのに意外と長くなった。大まかな流れ以外はノリで書いてるから自分でも読めない。辛い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。