はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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一応調べてから書いておりますが、素人なので設定やモデルにミスや矛盾があるかもしれません。軍事関係もさっぱりです。酷ければご指摘いただければ幸いです。



補習がピンチ

 

 

 二十世紀初頭。世界は戦火に包まれた。兵器の発達がもたらした史上初の世界大戦争は甚大な被害を出し終結した。

 

 世界は決意した。もうこの悲劇は繰り返さぬと。

 

 そしてその誓いは百年以上、多くの犠牲を出しながらも守られることとなる。

 

…………

 

 4月15日。日本は全国的に春らしいうららかな日差しと、心地よい陽気に包まれていた。

 

絶好の航海日和だ。休日という事も相まって、大阪と日本海を結ぶ阪越海峡は多くの自家用船やバスが行き交っていた。

 

 その中に、巡視艇「PC127 はるぐも」はあった。周りの船は厄介ごとに巻き込まれてはかなわないと、はるぐもからは距離を置いている。

 

「避けられてるね」

 

「あたりまえだ。誰が巡視艇の横に行きたいと思うんだ」

 

 巡視艇の船室上部甲板に立つ二人の少女は、つまらなそうにため息を吐いた。

 

 東舞鶴女子海洋学校沿岸警備科に在籍する紅彩智と戎崎エリスだ。二人とも、群青色の東舞女指定ジャージ(地元でダサいと評判だ)に身を包み、手すりにだらりと寄りかかっていた。胸には沿岸警備科の学生であることを示す金色の学生章がついている。

 

「にしてもいい天気だね。なんだかいいことがありそう」

 

 若干浮かれたように、彩智は顔をほころばせた。彼女の三つ編みが風に揺れ、とろんとした瞼が気持ちよさそうに細められる。

 

「補習に合格する、とかか?」

 

「うっ」

 

 エリスが皮肉交じりに言い、彩智の表情にひびが入った。

 

 白く脱色された毛先を弄びながら、エリスはわざとらしく大きなため息を吐く。彩智を横目でにらんで。

 

「世間は進級だ進学だと浮かれてるのにな。私たちもぜひ世の中の風潮に乗りたいんだが」

 

 進級進学は風潮でもなんでもないが、そんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。

 

「う、うん。まあね。頑張って進級しよ!」

 

そのセリフがかなりおかしいことに沙智もエリスも気づいていない。

 

「そうだな。去年一年生として入ったのに一年たってもまた一年生何て、笑い話にもならん」

 

「自分も原因の一端やろ、元ヤンが!」

 

「げっ」

 

 下からツッコミの声が飛び、エリスが傷をえぐられたかのように呻いた。

 

 梯子をつたって、同じジャージ姿の少女が甲板に上がってきた。

 

「春ねえ!」

 

 彩智が嬉しそうに駆け寄ったのは、土光春子。小柄な彩智よりさらに小柄で、背の高いエリスと比べると姉妹のようだ。

 

「オーよしよし、さっちゃん。こわかったなぁ、あの元ヤンにいじめられとったんやろ? ねーちゃんに言うてみ?」

 

「ば、違うぞ土光! 私は別にいじめてなんか! あと元ヤンっていうな! 足は洗った!」

 

「ふっ、それを元ヤンっていうんやろ」

 

 エリスは顔を真っ赤にして怒鳴ったが、春子はどこ吹く風というように鼻で笑う。

 

「別にいじめられてたわけじゃないよ、春ねえ。私がふがいないだけだったんだし」

 

「まーだあの試験のこと言いよったんか? ええってええって。チームの失敗はチームの責任。再試がんばりゃええだけやで。ほんで、みんなで沿岸警備官になろーや」

 

 

 

 

 京都府舞鶴市といえば今も昔も海軍ゆかりの街である。海軍が解体され、海上安全整備局となった今日でも舞鶴地方隊の本部がおかれ、この地にある東舞鶴男子海洋学校は潜水艦乗組員の養成学校として全国的に有名だ。

 

 だが東舞校の隣に東舞鶴女子海洋学校という学校があることは、地元以外ではあまり知られていない。この学校は横須賀女子のようなブルーマーメイド養成学校ではなく、商船や旅客船乗組員の養成を行ってるごく一般的な海洋学校だからだろう。

 

 だが地元舞鶴市民でも、沿岸警備局の隊員を養成する沿岸警備科なる学科がここに併設されていることを知る人は少ない。元々舞鶴沿岸警備学校という独立した教育機関だったのだが、余りの生徒数が少なく、東舞校、東舞女にそれぞれ統合されたのだ。

 

 だが沿岸警備局などというマイナーかつ不人気部署に自ら入ろうなどという奇特な子供は少ない。東舞校の沿岸警備科は数年前から休講。東舞女でも、昨年二年ぶりに彩智たち七人の少女が入学しただけだ。

 

 この人知れず存続してきた沿岸警備科の知名度は、今年の初めに起きたとある出来事によってうなぎのぼりとなっているのだ。

 

 主に悪い意味において。

 

…………

 事件はこの7人によって引き起こされた。

 

 例年東舞鶴女子海洋学校沿岸警備科では、三月初めに進級試験を兼ねた模擬実戦訓練が行われる。

 

 内容は毎年変わるが、実際に沿岸警備局の任務として想定される事態に対処することがメインとなる。

 

 今回は「武装工作員を乗せた不審船」への臨検と乗組員の拘束。停船命令には応じず、場合によっては攻撃も辞さない。試験自体は、過去最高レベルの難易度だった。

 

 海上安全整備局より荒事の多い沿岸警備局といえど、こんなことはめったにない。教官たちも多少甘めに採点するつもりで臨んだのだが、結果は……。

 

 はるぐもによる執拗な攻撃と、過剰ともいえる船内制圧戦が行われ、不審船乗員役の教員2名が重傷。不審船役に借り受けた舞鶴市役所所有の練習船は爆破炎上、沈没し、一週間にわたって舞鶴港が使用不能となる大惨事に陥ったのだ。

 

 こうしてめでたくこの事件で大手新聞の一面を飾ることになったのである。

 

 当然と言えば当然だが、7人には停学処分が下され、試験は落第。本来四月からは二年生となり、沿岸警備局への実地研修が予定されていたのだが、留年が決定し、再試験に合格するまで一年生をやり直す羽目になったのだ。

 

 その第一回目が、明日から神戸の第五管区沿岸警備本部監督のもと行われるのである。

 

 

 

操舵室。

 

 舵を取る北鈴はちらりと計器を見た。

 

「大阪市に入りました。あと一時間もすればつくでしょう」

 

「やっと大阪かー、長かったな」

 

 隣に座っていた吉野和水は大きく伸びをして答えた。

 

「長かったって、このぐらいで根を上げてどうするのですか?吉野さん」

 

「だってさ、鈴。あたしらずっと座りっぱなしじゃん。しんどいったらたまんないわ」

 

「上に上がってくれば良いのでは? 船長と副長がいらっしゃりますよ」

 

「あー、やめとく。2人のデート邪魔しちゃ悪いし〜」

 

 和水はニヤニヤとからかうように笑う。

 

「誰と誰のデートだって?」

 

「にゃっ!?」

 

 噂していた張本人、戎崎エリスの登場に和水は変な声を上げて椅子から転げ落ちた。

 

「あ、え、エリスさん〜。お加減の方はよろしいのですか〜?」

 

「やかましい」

 

 先ほどとはうって変わってすり寄ってくる和水の頭をエリスは強めに叩いた。

 

「副長、船長と土光さんは? まだ上ですか?」

 

「ああ、土光の地元がこの辺りらしくてな。2人で騒いでるよ」

 

「あらあら、愛しの紅船長にフラれちゃいましたか? 戎崎副長〜」

 

「次はゲンコツだぞ、吉野」

 

「すみません嘘です」

 

「あらあら。みなさんおそろいどすか?」

 

 奥の船室から主計士、三条朋美が姿を現した。

 

「いいえ、船長と土光さんが上に。どうかされましたか? 三条さん」

 

鈴が答える。

 

「ええ、ちょうどお昼前やし、お腹すきはった思て軽食を作ったんどす」

 

「お、やった!」

 

 和水が手を叩いた。

 

「朋美のおにぎりってなんかめちゃうまなんだよね。うちのやつが食べれなくなっちゃう」

 

「おおきに、和水はん。三条家伝わる秘伝の塩を使っとるさかいそりゃ絶品でっせ」

 

「マジ!? そんなんあるの!?」

 

「ウソどす」

 

 和水はずっこけた。

 

「紛らわしいうそつかないでよ」

 

「すんまへんなぁ」

 

 そこに、

 

「朋美ちゃーん。彩智ちゃんと春子ちゃん呼んできたよー」

 

 砲術士、加久藤雛も入ってきた。おにぎりを乗せたお皿を持って。

 

 その後に、彩智と春子も続く。

 

「あ! 朋美ちゃんのおにぎりやん! ナイスタイミングやったなぁ~」

 

 春子はおにぎりに手を伸ばそうとして、

 

「手ぇ洗わんとがっつきなさんな。みっともない」

 

 朋美にぴしゃりと叩かれた。

 

「ええ~、いけず~」

 

「変な病気かかったらどないしはりますの。うちは死体を海に流すことしかできまへんえ」

 

「病気したら死ぬ前提かいな! わかりましたよ。洗ってくりゃええんやろ」

 

 春子は口を尖らせながら、船室の方へ出ていった。

 

「姉さんぶるんならそれらしい行動せなあきまへんわ」

 

 朋美は軽く文句を言い、

 

「さ、ウェットティッシュがあるさかい、皆さんはこっち使い」

 

「あるのか!」

 

 ポケットから除菌用ウェットティッシュを取り出した朋美に、和水がツッコんだ。

 

 そこに手を洗い終えた春子が戻ってきた。

 

「あれ!? みんな手は!?」

 

「文明の利器がありますさかいなぁ」

 

 ウェットティッシュの袋をピラピラと振りながら、朋美がさぞかし楽しそうに、そして意地悪そうにほほ笑んだ。

 

「な! 何ちゅうことを……。昔はこんな子やなかったのに、お姉さん悲しいわぁ」

 

「やかましい」

 

 朋美が一喝する。

 

「さ、冷める前に食べてまいまひょ」

 

「「「はーい!」」」

 

 その時、はるぐもに差し込んでいた陽光が突如陰った。

 

 不思議に思って左舷から窓の外を覗く。

 

「あ! ブルーマーメイドの戦艦だー!」

 

 雛が歓声を上げた。

 

 海上安全整備局所属の戦艦加賀だ。200メートル以上ある巨体だが、滑るようにしてはるぐもとすれ違う。岸にいた子供たちが、加賀に手を振っているのが見えた。

 

 和水はそれを見て、うらやましそうにつぶやいた。

 

「やっぱ人気者だねー、ブルーマーメイドは」

 

「女の花形だからな」

 

「そうかな? 私はあんまりだけどね」

 

 ただ一人、船長の彩智は首を傾げた。

 

「お、きましたな? 彩智のブルマー嫌い」

 

 和水がにやにやと彩智を見つめる。

 

「別に嫌いじゃないよ。でも! この間沿岸警備局が何て呼ばれてたか知ってる?」

 

「河童、やろ?」

 

「そうなんだよ! ハルねえ!!」

 

 彩智はびしっと春子を指さした。

 

「片や人魚! 片や日本妖怪! 似たようなことやってんのにこの差は何なの!!」

 

「河童もー、人魚もー、似たようなもんだよー」

 

 雛が興奮した彩智をやんわりと抑える。

 

「全然違うよ! 河童と人魚だよ!?」

 

「人魚は船乗りを歌声で誘って船ごと沈める西洋の妖怪です。河童よりむしろ不吉ですよ」

 

 鈴はさぞどうでもいいといった様子でタブレットを操作していた。おそらくこの話を聞いてわざわざ調べたのだろう。

 

「イメージの差だよ!」

 

 彩智はまだ納得いかないようで、バタバタと暴れていた。

 

「ま、不人気部署だからな、私らは」

 

「せやねぇ」

 

 エリスと朋美は二人そろってため息ついた。

 

「河童」とは、『警察の用で警察でなく、海上安全整備局のようでそうでもない』沿岸警備局を揶揄するときによく使われる言葉だ。法律では海上警察・消防機関と定められているが、何分ほかの組織とかぶっている任務が多い。

 

 もちろん沿岸警備局のみが行う職務もあるのだが、一般にはあまり知られていない。また多くの市民が航海中に臨検を受けた経験を持つため沿岸警備局自体、余り覚えがよくないのだ。

 

 人気も戦力も予算も組織の規模も海上安全整備局に劣っており、存在そのものが金の無駄。と暴論を吐くものまでいる始末。そこまではいわなくても、沿岸警備局はブルーマーメイドの二軍と思っている人々が大多数だ。

 

「ま、怒ってもしゃあありません。うちらはうちらの仕事をすればええんどす」

 

「せやで、さっちゃん。沿警のよさはうちらがようわかっとるさかい。頑張ってブルマーさん見返したろーや」

 

「うう、でも……」

 

「……ま、今はその沿岸警備局に入れるかもわからん状況だがな。今度こそうまい具合に試験を乗り切らねば」

 

「……了解デス」

 

 彩智はうなだれた。

 

 

 




雛「どうもー。はるぐも砲術士の、加久藤雛ですー」

鈴「同航海士の北鈴です。ここでは何かと本文で出番の少ない我々がその存在をアピールしようと無理やり作った解説コーナーです」

雛「そんなこと言わないでよー」

鈴「事実を取り繕ってもしかたありません。さ、進めますよ、加久藤さん」

雛「はーい。えーっと、今回は登場人物の紹介ー。彩智ちゃんとエリスちゃん、和水ちゃんでーす」

鈴「紅彩智さん、はるぐもの船長です。船員思いで、正義感に燃える人ですよ。やりすぎる時もありますが……。雰囲気あなたに似てますよね」

雛「ええー。あんなに優秀じゃないよー。彩智ちゃんかわいいし。三つ編みすっごい似合ってるよねー」

鈴「そんな紅さんの側にいるのが戎崎エリスさん。副長です。舞鶴じゃ有名なスケバンだったみたいですよ?」

雛「だから髪の毛の先白いんだねー。でもエリスちゃん結構まじめじゃないー?」

鈴「生真面目というか、情に熱いというか。任侠タイプですね。船長のことをかなり気にしてるみたいです。いつも棒つきキャンディを舐めてるのですが、理由は知りません」

雛「あとはー、機関士の吉野和水ちゃんだねー。よくお喋りするよー。うーん、明るくて楽しい子だよー。ショートカットで元気な女の子って感じー。エリスちゃんによくチョッカイかけてるよねー」

鈴「ええ。ふたりは幼なじみで、一緒に舞鶴の街を荒らしてたらしいですよ。なんでまた2人して沿岸警備科に入学したのか……」

雛「色々あったんだろーねー。本文でいつかやるかもー」

鈴「だといいんですが。あとの人間はまた次回ということにしましょう、加久藤さん、タイトルコールを」

雛「え? 私なのー?えーっと、次回『大阪がピンチ』」
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