はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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戎崎エリスがピンチ

 空にはこちらをあざ笑うかのように満天の星空が瞬いていた。

 

 戎崎エリスは1人、晴風の甲板に立ち、接舷されているはるぐもをにらんでいた。

 

「お疲れ、エリス」

 

「ん? ああ。吉野か」

 

 吉野和水が首をぐりぐりと回しながらやってきた。

 

「ネズミ退治は終わったか?」

 

「うん、じゅんちょーじゅんちょー。とりあえず艦橋とか機関室とか射撃指揮所とかは使えるようになったよ」

 

 和水はエリスの隣に立つ。そして、

 

「われらが紅船長の様子は?」

 

 おどけて聞いた。

 

「……はるぐもの船室だ。本人は船番をしているといっているが」

 

 エリスは顎で船室を刺した。明かりはついていなかった。

 

「また出ちゃったねー。彩智の悪いくせ。まあ、私がヘマったせいだから、あんまり言えないけど」

 

「…………」

 

 彩智の悪い癖。それは敵に対して、一切の情け容赦をかけないこと。

 

 もちろん、一概に短所と言えるものではない。しかし、沿岸警備局が行うのは海上交通を乱した犯人の確保であり、攻撃を加えたり、あまつさえ殺すようなことはあってはならないのだ。

 

「本人はなんか言ってた?」

 

「なんで悪いのかわからない、だと。まあ、私に手錠をかけられたのがだいぶ堪えたみたいだがな」

 

 エリスは海面に目を落とした。その様子を見て、和水は深々とため息をつく。

 

「あんたは何をそんなに悩んでるのよ。何がしたいわけ?」

 

「……紅は、前の試験でも似たようなことをやらかしただろう? その時に、教官連中が言っていた言葉が聞こえたんだ。……あんな恐ろしい奴はもうたくさんだ、って」

 

「あー、あれね。彩智が練習船の操舵室に放火したやつでしょ?」

 

 たかだか学生の実技試験で練習船が爆破炎上したのは、彩智のこの行動が直接の原因だった。

 

 『「敵」を国内に侵入させるなら、いっそ沈めた方がよい』

 

 事件後、彩智は事情聴取にあたった沿岸警備官にこう言いのけ、担当者を震わせたという。

 

「その時に思ったんだ」

 

 エリスは再び船室に視線を戻した。

 

「もう、あいつが誤解を受けるようなことがないようにしなきゃって」

 

 彩智は誰よりも頑張っている、とエリスは思っていた。

 

 沿岸警備科という、マイナーな学科において誰よりも高い志を持ち、誰よりも真摯に授業に取り組み、そしてこの個性的なメンバーを委員長として率いてきた。

 

 お世辞にも褒められた生き方をせず、和水とともに舞鶴の港で喧嘩に明け暮れていたエリスにとって、彩智はまぶしすぎた。

 

 入学当初にはエリスが突っかかっていくこともあった。衝突もした。でも彩智は、「同じ船に乗る、大切な仲間」という、ただそれだけの理由でエリスを見捨てなかった。

 

 一年を共にするうちに、エリスと彩智は打ち解けていった。まぶしさは素直に尊敬へと変わった。

 

 その時起きたのが、試験でのあの事件だったのだ。

 

 あの一件以降、周囲の彩智を見る目は変わった。

 

 恐ろしい。凶暴だ。狂っている。街の人間からもそう後ろ指をさされるようになった。

 

 人の評価なんて、たった一つのものでがらりと変わってしまうものだ。だがエリスは許せなかった。仲間を思い、海を守りたいと願う彩智の思いが否定されるのが嫌だった。

 

 だからエリスは誓ったのだ。副長として、絶対に、彩智に誤解を抱かせない。彼女を守り切る、と。なのに

 

「こんな約束も守れないとは、私もなまったもんだ」

 

 エリスは寂しそうに言った。そんな彼女を見て、和水は

 

「ふんっ」

 

「ふぎゃっ!?」

 

 エリスの頭をぶん殴った。

 

「よ、吉野!?」

 

 頭を押さえて目を白黒させるエリス。

 

「なーにがなまった、よ! 舞鶴のシャチが聞いてあきれるわ!」

 

「い、いや、その名前はもう」

 

「うるさい! 約束が守れない? あんたが守ってないだけじゃない! やりようはいくらでもあるのに諦めてるだけでしょ!? それともなに? 彩智はああだからもう仕方ないって思ってるの?」

 

「そんなわけないだろう!」

 

「なら根性みせなよ! たった一回や二回うまくいかなかったからってヘボくれて守るべきもんほったらかすとか、舞鶴女の風上にも置けないわ! 今すぐ海に飛び込め!」

 

「ああ!? そこまで言うか? だったら見とけ! 紅はシャチの名に懸けて守り通してくれるわ!」

 

 いつの間にかヒートアップしていた二人のところに、

 

「ほ、ほんまもんの任侠じゃ……」

 

 恍惚した表情の納沙幸子が、そして、

 

「あー、取り込み中すまん。そちらの船長に話が合ってな」

 

 晴風副長、宗谷ましも、

 

「紅彩智さん、いらっしゃいますか?」

 

 艦長、岬明乃が現れたのだった。

 

 




雛「任侠やってるねー。二人ともー」

鈴「任侠ってこんな感じですかね?」

雛「人が任侠だと思えばー、それはもう任侠なんだよー」

鈴「なんですか、それ。まあ、お二人の友情は熱いというお話ですね」

雛「お二人ってのはー?」

鈴「戎崎さんと吉野さんもですし、戎崎さんと船長もですよ」

雛「いいなー。ねえー、私とすずちゃんもそんな仲間かなー?」

鈴「え? そうなんですか?」

雛「…………」

鈴「あ、嘘です! 嘘ですからそんな顔しないでくださいって。ちょっと加久藤さん!?」

雛「……次回、「紅彩智がピンチ」-。気分的には私もピンチ―」

鈴「加久藤さーん!」
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