晴風の甲板には机といすが並べられ、臨時の会議スペースが作られていた。
自立式スクリーンが立てられ、その前には北鈴が立っている。
臨席しているのは晴風艦橋要員と鏑木美波。はるぐもからは加久藤雛と戎崎エリス、そして紅彩智だ。
「ひとまず一次調査の結果を報告しておきます」
「一次調査?」
臨席している水雷長西崎芽衣が隣にいた宗谷ましろに尋ねる。
「ああ。どうも、あの北さんと美波さん、それに納沙さんたちが協力してこの騒動の原因を調べていたらしい」
鈴はパソコンを操作する。映し出されたのは司令部から届いたRatsウイルスに関する報告書だ。
「前提として、今回の騒動の原因は国の実験の結果開発されたRatsと呼ばれるウイルス、及びげっ歯類によるものだという事を報告しておきます。そしてそれらを手に入れたテロ組織によるバイオテロであるという事も。このことは海上安全整備官、沿岸警備官ともに守秘義務が課せられているので口外にはしないでください。……まあ、あなたは仕方がないですが」
鈴はどちらにも属さないミーナをちらりと見た。
「うむ。わしは絶対に口は割らんぞ」
鈴はそれを聞くと前を向き直す。
「加久藤さん、あれを」
「はーい」
雛は立ち上がると、足元に置いてあったアルミ製の箱を持ち上げた。
「晴風でパンデミックを起こしたネズミは、これに入っていたようです」
「えーっと、それがなんか問題あるの?」
芽衣が首をかしげた。
「この騒動で大きな疑問となっていることが一つあります」
スクリーンに日本地図が映し出された。東京や大阪などの大都市圏、そして各道府県庁所在地、そして主要都市が赤く染まっている。現在暴動がある、つまり感染が広まっている地域だ。
「暴動は15日正午に、ほぼ同時発生しました。しかし学生艦はそうではない。一週間以上前にウイルスに侵されていたんです。このタイムラグは何なのか。加えてなぜ晴風だけが、他の比叡や武蔵より遅く発症したのか、そして敵は、どうやってウイルスをばらまいたのか」
鈴の目が光った。
「すべての謎は、これに答えがあるのでは、という結論に達しました」
雛が前に立ち、空箱を置く。そして画面に映し出されたのは、補給艦「間宮」の写真だった。
「乗員に取り調べを行ったところ、主計長の等松さんによれば、この箱から大量の鼠が飛びだした。そして、これは……」
雛が箱をくるりと回転させた。
黒いゴシック体で「沿岸警備局」と書かれていた。
「それは……」
ましろが声を失う。鈴は静かに言った。
「補給物資のリストと照合した結果、この箱には沿岸警備局が依頼したサテライト点検用の機材が積まれている、という事になっていました」
「あ、サテライトっていうのはー、海上浮遊式電波塔のことですー。本来は沿岸警備局が管理してるんですけどねー」
雛が補足を入れた。
「まあ、海洋実習のついでに依頼した、という体でしょう」
「まってください!」
ましろは立ち上がった。
「あなたたちは……、沿岸警備局が組織的にウイルスをばらまいたと思っているんですかっ!?」
「ええ。サテライト点検用の端末と偽り、間宮の補給を通じてウイルスを散布したんでしょう。ただの箱にネズミを詰め込んだだけなら、補給艦に詰めるはずがありません。沿岸警備局の組織的犯行か、かなり上位の権限を持つ誰かの仕業でなければ不可能です」
鈴がうなずく。
「ですから、晴風制圧の報は海上安全整備局の宗谷監督官に入れさせていただきました。こちらの人間は誰も信用できません。特に組織の上部にいる人は」
「…………」
ましろは座り込む。そして呻くように言った。
「武蔵は……? 補給を受けられない武蔵はどうなんですか? あの船もウイルスに侵されているでしょう」
「……それについては」
鈴が言いよどむ。
「あの、北さん」
明乃が手を挙げた。
「実は、出航直後にもかちゃん、武蔵艦長の知名さんからメールをもらったんです。それが……」
明乃はスマートフォンを取り出し、画面を見せた。皆がそれを覗き込む。
『晴風はどうですか? 武蔵なんですが、急にいくつか物資を積みこむことになっちゃって、出航が遅れちゃいそう。演習頑張ろうね』
そんな文面だった。「急に積み込むことになった物資」こそ、あのネズミだろう。
一同は黙り込んだ。
「このことは……」
再びましろが沈黙を破った。
「報告しているのか?」
「……いいえ。現状、これを誰に報告すべきか判断しかねるので」
鈴が目を落とす。
「ねえさ……、いや、宗谷監督官は? 晴風制圧の報も監察官に入れたのだったら、そのまま・・・・・・」
「宗谷監督官は今、海上安全整備局局長代行の身にありますが、その立場は極めて弱いです。単に状況報告係となっているだけにすぎません。おそらく、混乱した情勢下、あの方にお伝えしても、有効に活用されるか……」
「姉さん……」
ましろは苦しい立場にある姉の身を案じる。場を支配しているのは、重苦しい沈黙だった。
「他に分かったことは?」
これまで黙っていた彩智が声を上げた。
「まず私からだ」
今度は鏑木美波が手を挙げた。
「晴風乗員はウイルスに感染したのち、海水を浴びて自我を取り戻した。このことを私なりに検証してみたのだが、それを発表したい」
そう言ってスクリーンの前に立つ。
「まず、ウイルスの特徴だが、生体電気を利用して感染者の間でネットワークを構築し、『一つの意思』の元で統一された行動を行わせる。だがそれだけだ。ウイルス自体は感染者の身体になんら影響を与えない。これはつまり、Ratsウイルスが非常に弱いウイルスであることを示している」
「それはつまり、どういうことだ?」
エリスは首を傾げた。
「つまりだ。感染者はRatsのネットワークに取り込まれるが、それを1度断つことができれば本来の自我が勝つ。晴風のように。おそらく、海水に含まれる大量の動物プランクトンの生体電流がフレアの役割を果たしたのだ。この海域は黒潮の真上だしな」
「じゃあ海水を感染者にかけて回れば!」
「わからない。感染から時間が経てば、より強固にネットワークに取り込まれることになる。そうなれば海水では太刀打ちできないだろう。しかし、この考察が意味しているのは」
美波は目を細めた。
「この地球上のどこかに存在している『女王ネズミ』を叩けば、自体を一気に収束させられるかもしれない、ということだ」
春子「どもー、みんな忘れてもーたかな? はるぐも通信士の土光春子やで!」
朋美「……三条朋美どす」
春子「どないしたんともちゃん。そないぶあいそーな顔して。せっかくあとがきの担当任されたんやで! もっとはっちゃけなっ!!」
朋美「なしてあんさんはそない呑気でおれるんどす? ここがどないなところがわかっとるんどすか?」
春子「え? いや、あとがき……」
朋美「ちゃいます。ここは出番のないもんが集まる、言わば脇役の吹き溜まりどす! 流刑地なんどすえ!!」
春子「そない怒らんでも……」
朋美「いいや! あんまり出番がないから言うて、作者もうちの名前ど忘れしとったんどすえ!? こないなこと許されへんわ!」
春子「また、ともちゃんの名前って1番普通」
朋美「やかましっ!」
春子「まあまあ。なんやあれらしいで。本編落ち着いたらうちとともちゃんの出会いの話とかしたいとか言う話もあるとか」
朋美「どないやろぉな。気ぃついたら本編で存在抹消されとるかもしれへんで?」
春子「えらいネガティヴやな。ま、ええわ。ともちゃん、あれよろしく!」
朋美「はいはい、次回「晴風からの情報がピンチ」。よろしゅう頼んます」