はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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更新が大変遅れました事お詫び申し上げます。



晴風からの情報がピンチ

 

 宗谷真霜と白峰祐樹は関西飛行場の管制塔にいた。

 

 真霜がここに来た理由を計りかねていると、白峰がぼそりとつぶやく。

 

「管制塔は空港の中でも特に警備の厳しいところです。ですから、政府機密サーバへアクセス権のある端末もここに設置してあります」

 

 そういって管制員に警察手帳を見せ、周りから人を払う。

 

「まあ、うちの調査資料を見る前にやることがありますけどね、宗谷室長?」

 

「私が、ですか?」

 

 真霜は首をかしげる。今の宗谷真霜は、所属艦隊の8割超が離反し、重大な違反行為を行った結果日本を存亡の危機に追いやった組織の傀儡だ。臨時政府内でも発言権はなく、報告と体の良い責任者以外の仕事は期待されていない。

 

「困りますなぁ。ウイルスにやられながらも正気に戻った艦があるでしょう? 事件は会議室だけじゃなく、現場でも起こってるんですよ」

 

「……その映画、私も見ましたよ」

 

「ちっ……。まあ、今海上安全整備局や沿岸警備局の無線はパンク寸前です。ちょっとここの無線を貸してもらいましょうや」

 

 白峰の言うとおり、両組織の使っている通信網は、感染者鎮圧に乗り出している味方艦隊や、外国との連絡用として使用されている。学生艦の事情聴取などに悠長に使っている暇はないのだ。

 

 真霜は管制塔の無線技士のところに駆け寄る。

 

「ごめんなさい、これ少し貸してください」

 

 そして大型の高性能無線機の前に座わった。

 

――――――

 

 このウイルステロの陰に、沿岸警備局の影がちらついている。それが明らかになり、耐え難い沈黙が甲板を覆っていた。

 

 そんななか、

 

「さっちゃん!」

 

 はるぐも無線室で待機していた土光春子が走ってきた。

 

「どうしたの? はるねえ」

 

「戒厳司令部より入電や! 暗号通信で、至急無線で返答せぇって、周波数は……」

 

 それを聞いて、全員が首をかしげた。指定された周波数は海上安全整備局が使用しているものでも、沿岸警備局が使用しているものでもなかったからだ。

 

 しかし、暗号でわざわざ送ってきたという事は、何か重大なことなのだろう。彩智はすぐに立ち上がった。

 

「わかった。すぐ行くよ」

 

 そして、ちらりと明乃を振り返る。

 

「ついてきてもらっても、いいですか?」

 

「うん、わかった」

 

「まだ晴風の無線はネズミのせいで使えへんからな。ちょぉっと狭いけど堪忍やで」

 

 春子はそう言ってかなりせまいはるぐもの無線スペースに彼女たちを案内した。ついてきたのは彩智に春子、エリスとましろ。これだけはいればすし詰めとなる。

 

「あーあー。こちら東舞女所属PC127 はるぐも。司令部応答されたし」

 

 返答はすぐに来た。

 

『こちら司令部』

 

「姉さん!?」

 

 ましろは思わず声を上げた。無縁の相手は実の姉、真霜だった。

 

 その声は、電波に乗り向こうにも届いたようだ。

 

『ましろ。無事だったのね。早速だけど、晴風が陥った状況を聞きたいの。すべて、どんなに細かい事でもいいから教えてちょうだい』

 

 四人は顔を見合わせた。

 

 確かに、はるぐも及び晴風の乗員は重大な情報を掴んでいる。

 

 しかし、その重要性は、彩智たちにも、そして真霜でも持て余すようなものだ。

 

 彩智はしばらくうつむく。そして、決心したようにマイクを手に取った。

 

「変わりました。はるぐも船長、紅です。そこに、海藤司令はいらっしゃいますか? もしくは、沿岸警備局の方は?」

 

『いないわ。一人も。呼んできた方がいいかしら?』

 

「いいえ。そこには、誰かいますか?」

 

『空港の管制員の方と、特高警察の人が一人』

 

「特高警察?」

 

『ええ。内務省の、特別高等課長の方が。でも、どうして?』

 

 彩智は言葉を切ると、一度周りを見回した。明乃とましろ、エリスは無言でうなずいた。

 

「……重大な事実が判明したので、報告します」

 

――――――

 

「……ありがとう。報告感謝するわ。Rats掃討が完了したら、すぐに戻ってきてね。以上」

 

 真霜は震える声と手を抑えて無線を切った。

 

「まったく、大した子供たちですねぇ」

 

 白峰は、本当に感心したように嘆息した。

 

「ええ。本当に」

 

 真霜は管制塔から明かりの灯るターミナルを見つめる。彼女たちの言うことが本当だとするならば、あの灯の下、沿岸警備局の制服を着て、自分たちと同じように戦っている人間の中に、裏切り者がいる。

 

「どうしますか、白峰課長。沿警の海藤司令にこのことを報告すべきでは?」

 

 真霜が白峰の方を振り返って提案すると、白峰は眉をしかめた。

 

「あんた話聞いてましたか? 沿警の人間は誰も信用しちゃいけないってあの子らも言ってたでしょう」

 

「しかし、海藤司令はそんな方には……」

 

「あれでもバリバリの反ブルマー派ですよ、司令は。そもそも沿岸警備局上層部で海上安全整備局に対抗意識を持っていない人間はいませんし」

 

 沿岸警備局と海上安全整備局の縄張り争いは、昔から有名だ。現場レベルのいざこざから、上部組織である内務省と国交省の省益をめぐる争いまで起きたことがある。

 

「……しかし、今はそんなことを言っている場合じゃ」

 

「何事も冷静を保つことが大切です。状況を整理することもね」

 

 白峰は人差し指を立てた。

 

「まず、我々はすべきこと。それは、Ratsの国内からの掃討。つまりは感染者の治療です。これについて、晴風からもたらされた情報では海水が効果的であることが判明しました」

 

 真霜は大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 

「それについては、消防の所有する放水船を手配しましょう。有効な手段になるはずです」

 

「そして二つ目。どこの誰が、この騒動を仕組んだのか?」

 

「人類進歩研究所では?」

 

 白峰ら特高警察が治安維持法違反で検挙した、大阪の反国連過激派団体。海上安全整備局の一部門が極秘で開発していたRatsの死霊を保有していた。

 

「いえ、やつらにここまでの行動が移せるほどの組織力があるとは思えません。人進研を隠れ蓑に、もっと大きな何かが動いていた可能性があります」

 

 白峰はそう言い切り、三本目の指を立てた。

 

「ならば次です。どうやって、ウイルスをばらまいたのか。これは晴風によって答えが示されています。沿岸警備局がサテライト調査機器に偽装したRatsを、間宮による補給を通して学生艦、教官艦にばらまいた。では、本土は? 大量の鼠を同時多発的にばらまく方法は、何か?」

 

 真霜はしばらく考え込んだ。そして、確認をとるようにゆっくりと口を開く。

 

「晴風の立石志摩は、艦内でパンデミックが起きる前に一度ウイルスに感染していましたよね?」

 

「ええ。それについてはあなたの方が詳しいでしょう? あなたの部下が、その立石って子が、間宮、明石を攻撃した現場に居合わせたでしょう?」

 

「ええ。その時は心身的な負担だという事になって、晴風と部下がわかれた直後に晴風が音信不通に……」

 

「……なるほど、補給を受ける前にウイルスが艦内にあったことを不審に思っているんですね。さっき言ってませんでしたっけ? アベスの箱にネズミが入ってたって」

 

 白峰の言葉に、真霜ははっと顔を上げた。

 

「アベス……!」

 

 アベスは、国内最大手の運送業者だ。最近はネットを使ったオークションや通販にも進出している。

 

「それが何か?」

 

「先週、オーシャンモール四国沖店から出航したアベスのトラックが事故を起こして積み荷を流出させたんです。事故海域がモールの目と鼻の先で、管轄を巡って沿警と少しもめたので、よく覚えています。恐らくその時流れたネズミが、晴風に……。海流の関係から見ても、十分あり得ます。と言っても、奇跡的な確率ですが」

 

 今度は、白峰が考え込む番だった。

 

「たしか、アベスは到着時間を指定するサービスを行っていましたね。それを利用して……。だとすれば、次の疑問は」

 

「誰が、ですよね。企画者ではなく、実行犯のほう」

 

 真霜は四つ目の指を立てる。そして続けた。

 

「オーシャンモール四国沖店を利用して、という事は大きなヒントです。荷物を送るときにあそこを利用したという事は」

 

 白峰はにやりと笑った。

 

「なかなかさえていらっしゃる。宗谷室長。加えて全国にばらまけるほどネズミを大量に繁殖させられる施設は限られています。そしてそれは、オーシャンモールの近辺にある、という事でしょう。Ratsは特殊な生物ですから、船上ではなく固定されたフロートなんかの方がいいでしょうし」

 

 そして、

 

「さあ、勝負の時間です」

 

 白峰の顔は、獲物を見つけた肉食獣のようだった。

 

 

 

 

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