はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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みんなピンチ

『アクアシティリゾート、特におかしなところはありません』

 

 島から一キロほどしか離れていないここからは、建物の形まではっきりと見えた。遠目の利くマチコでなくとも、アクアシティがうち棄てられた廃墟となっていることがわかる。

 

 エリスはゼロ戦に乗り込む。計器類や機銃、動力系統の動作を確認し、咽頭マイクと骨伝導のイアホンを着け、風防を下ろした。

 

 エンジンを暖気させ、いつでも出れる状態となる。

 

「こちら戎崎、出撃準備完了。どうぞ」

 

『こちら吉野。準備オッケー』

 

『北です。いつでも出れます』

 

『こちら紅、了解。以後戎崎機をゼロ1、吉野機をゼロ2、本機をモモ1、北機をモモ2と呼称します』

 

「了解」

 

 機体はクレーンを使って次々と水上に下ろされる。

 

『全機投下完了しました』

 

『ありがとう、鈴ちゃん。これより作戦を開始。全機前進!!』

 

 エリスはアクセルを倒した。

 

 ゼロ式のエンジンがうなりを上げ、快調に前に進みだす。速度はあまり上げない。目的はあくまで偵察だ。

 

 島まで接近し、その周りをゆっくりと回る。

 

『人っ子一人いないね』

 

 和水の声が骨伝導イアホンから鼓膜に伝わる。丁度晴風の反対側に到達したぐらいだ。

 

「まだ油断するな、吉野」

 

『へいへい。相変わらずだねぇ、エリスは』

 

 その時、

 

「!!」

 

 ビーチの奥の草むらから海鳥が一斉に飛び立った。エリスはほとんど直感的に叫んだ。

 

「逃げろっっ!!」

 

 海面が爆発した。

 

『退避っ!!』

 

 エリス達の周りで次々と爆発が起こる。エリスは茂みから、何かがこちらへ撃ち出されるのを見た。

 

「くそッ!」

 

 エリスは舌打ちを打つ。敵は、少なくとも一キロ離れた相手を攻撃するだけの能力を持っていた。これでは制圧も簡単にはいかないだろう。

 

 だが、自分たちの任務は偵察のみ。ここに敵がいることがわかれば成功だ。あとはさっさと離脱して……。

 

『モモ2被弾!!』

 

 和水の悲鳴が聞こえた。

 

 とっさにエリスは機首を反転させる。そこに、モモ2は、鈴と朋美の乗った一〇〇式司偵はなかった。あったのは、粉々になった残骸。

 

「……っ!?」

 

 すべての音が消えた気がした。自然とアクセルから手が離れた。エリスのゼロ戦が速度を緩める。

 

『……ス。おいエリス!! バカ! ボーっとしてんじゃないわよ!!』

 

「……すまない、吉野」

 

『こっちに二人の救命保護テントがある! モモ1が回収するから、あたしと一緒に援護して!!』

 

 見ると、テントの横に停止したモモ1から彩智が身を乗り出していた。テントを機体に括り付け、そのまま引っ張っていくようだ。

 

 エリスと和水はアクセルをふかし、島の、砲弾が発射されているところへ向かって突っ込んだ。

 

「くらえっ!」

 

 二人は備え付けの機銃を撃った。その間にも、砲撃が襲いかかる。

 

「モモ1! まだか!!」

 

『もう少し―!』

 

 その時、エリスは自分に向かってくる黒い点を見た。

 

「あ」

 

 エリスの意識は、ここで途絶えた。

 

 

 

最初、エリスは自分が目が覚めたのかどうかわからなかった。

 

「起きた? エリス」

 

 暗闇の中から和水の声がする。次第に、目が慣れて、ぼんやりとだが状況がわかってくる。どうやら、トンネルのようなところにいるらしい。トンネルは大人の男が立ち上がって歩けるほどの高さ。幅3メートルほどの地下水路が流れ、その横に1メートルほどしかないコンクリートの岸があった。明かりは一つもない。

 

 エリスが寝ていたのは、トンネルの横にぽつんと空いたくぼみの中だった。上半身を起こしたら頭が当たりそうになるほどの小ささだ。

 

 エリスは横に転がってから立ち上がった。ひりひりとした痛みがあちこちからするが、動かすのに支障はない。

 

「あんたが疑問に思っていることに先に答えると、ここはアクアシティリゾート内部の排水管の中。エリスは敵に撃墜されて、直撃ではなかったけど脳震盪を起こして気絶してた。それ以外は見たところけがはない。あんたがやられた後、あたしとモモ1もやられた。エリスやモモ2みたいに大破はしなかったけど、航行に支障が出るレベルでね。そして晴風に何とか戻ろうとしたけど、晴風も攻撃を受けたらしくて後方に撤退。仕方がないから島に上陸して追手が来る前にこの排水管中に逃げ込んだ。オッケー?」

 

 和水は一気にしゃべると、エリスにカバンを渡す。

 

「とりあえず単眼式の暗視スコープがこの中に入ってるから、大丈夫そうならそれつけて警戒に当たってくれない?」

 

「そういえば、モモ2の北と三条は?」

 

「朋美は無事だよ、でも鈴がさ、そこのカーテンの中、見てみ」

 

 目を凝らすと、エリスがいたくぼみの横にも空間があるようだった。一見してわからなかったのは、その入り口が布で覆われ隠されていたからだ。

 

 エリスは少しだけ布をめくった。

 

 中はランプが灯されていて明るかった。慌ててエリスは片目をつぶる。暗闇になれた目には刺激が強かったが、すぐに慣れてくる。高さは外と変わらないが、奥行きは2メートルほどしかなく、奥の壁には上へと通じるハシゴが取り付けられていた。

 

 そしてそこでは、

 

 血まみれの朋美が小声で怒鳴っていた。

 

「北はん! しっかり気張りやっ! あんたの死に場所はここと違いますやろっ!」

 

 

「北……?」

 

 鈴は上半身裸で寝かされていた。左肩から右わき腹にかけて大きな傷ができており、彼女自身血まみれになっている。傷自体はすでに縫合されていたが、鈴の顔は青白く、生気を失っていた。胸がかすかに上下していることから、かろうじて生きているようだ。

 

「北はん! 聞こえとるんなら返事しておくれやすっ!」

 

 朋美は焦りを隠そうともせず鈴に向かって叫ぶ。しかし、鈴は何の反応も示さなかった。

 

 横で座っていた彩智がそっと鈴に訪台を巻いていく。

 

「鈴ちゃん……」

 

「北は……無事なのか?」

 

 エリスが尋ねると、二人はその時初めてエリスの存在に気付いたようだった。

 

「ああ、戎崎はん、気ぃ付きはったんか。よかった……」

 

「大丈夫? エリちゃん」

 

「私は大丈夫だ。でも、北が……」

 

「問題ありません」

 

 朋美が言った。とても固い顔だった。

 

「鎮痛剤と麻酔を打っとります、抗生物質も。出血もひと段落しましたさかい、ひとまずは無事どす。絶対……」

 

 それは、自分に言い聞かせているようでもあった。

 

「そうか……、ならよかった」

 

「ねえ、エリちゃん。目が覚めたばかりで申し訳ないんだけど、外でなごちゃんたちと一緒に見張りをお願いしてもいい?」

 

「了解した」

 

 エリスはその空間内に立てかけてあった小銃とヘルメット、防弾チョッキといった装備を持って、再び外に出た。

 

「あ、気が付いたの~?」

 

 そこにちょうど雛がいた。和水と同じように完全武装だ。

 

「ああ。心配かけてすまない、加久藤」

 

「大丈夫だよ~。あ、なごちゃん、ひとまず周りを見てきたけど~、今のところ大丈夫そう~」

 

「サンキュ、雛」

 

「これからどうする?」

 

 そういって、エリスは銃を持って和水の反対側立つ。

 

「さあね。助けが来るのを待つしかないんじゃない?」

 

 和水もまた、やや投げやりに言った。

 

「それまで見つからなければいいけどねー」

 

「……そんなわけにも、いかないかもな」

 

『探せっ! このあたりに潜んでいるはずだっ!!』

 

 暗闇の奥から、男たちの声と大勢の足音がこだましてきた。

 

―――――――――――

 

「離さんかいっ!! はよぉ島に戻るんやぁっ!!」

 

 艦橋の入口で暴れる春子を、勝田聡子と山下秀子が二人がかりで取り押さえている。

 

「落ち着くぞな!!」

 

「落ち着けるかいっ!! あん子らが……みんながやられてもーたんやっ! はよぉ助けに行かんとっ!」

 

「今、晴風は……」

 

 ましろがつかつかと春子の前に進み出る。

 

「右舷前方に被弾し、ここまで退避するのも限界でした」

 

 ドガン。という爆発と、大きな揺れが晴風を襲う。

 

「一番砲が破壊され、弾薬庫にも被害が及んでいます」

 

 金属がゆがむ音が響く。

 

「この艦は、間もなく沈むでしょう。たった一発、得体のしれない攻撃を受けただけで」

 

 沈む。この言葉で、春子の力が抜けた。

 

「私たちだって、行けるもんなら行きたいですよっ!!」

 

 ましろの声は震えていた。

 

 春子はそっと艦長の明乃に視線を移す。帽子を深くかぶり、肩を震わせていた。

 

「艦長……。これ以上は危険です……」

 

 幸子が悲痛な顔で報告すると、明乃は静かに頷き、ぽつりと言った。

 

「総員、離艦」

 

 




雛「鈴ちゃんー!?」
鈴「よっしゃ。注目浴らびれましたよ、これで」
雛「鈴ちゃん―!? さっきとは別の意味で衝撃に一言だよーっ!」
鈴「うるさいですね。せっかく美味しい役どころですよ。喜ぶに決まってるじゃないですか」
雛「気持ちはなんとなくわかるけど、雰囲気台無しだよー。もうちょっと空気読もうよー」
鈴「空気を読むのは日本人の悪癖だと私は思います」
雛「そんなー」
鈴「ま、そんなことよりやっと最終局面に突入したみたいですね。いやぁ長かった」
雛「ほんとだねー。さて、ここからどうなるのやら―」
鈴「では次回、『鬼ごっこがピンチ』よろしくお願いします」
雛「……タイトルコール取られた―」
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