はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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ブルーマーメイドがピンチ

 

 

飛行船は島国日本にとって船に次ぐ重要な輸送手段だ。

 

 その歴史は古く、アメリカ南北戦争の時代から活用されてきた。

 

一時は理論上高速で移動できる固定翼航空機の開発が進んでいた。ところが、研究を先導していたライト兄弟が実験飛行に失敗して亡くなると開発熱は冷めてしまう。

 

結果、同時期に長距離輸送が可能になった飛行船に脚光が集まることになったのだ。そして今日でも、飛行できる唯一の乗り物として、世界の空をかけている。

 

 関西国際飛行場は岸和田人工島沖合に設置されたメガフロートで、飛行船や客船の国際航路の出入り口だ。橋で岸和田島と結ばれており、国鉄や私鉄路線も乗り入れている。

 

 いつもなら大型客船や飛行船が飛び回ってる飛行場だが、今日は物々しい厳戒態勢が引かれていた。旅客機の代わりに、陸上保安局の戦闘飛行船空を舞い、客船の代わりに海上安全整備局の艦船が航行している。

 

 そんな中、はるぐもは飛行場の端に係留され、応急の補修を受けていた。

 

「大丈夫かねえ。さっちゃんとえべっさんは」

 

 岸壁に寝転がっている春子はひとりごちた。

 

「あんさんよりよっぽどしっかりしてまっせ、あの二人は」

 

 朋美が文庫本から目を上げずに言い返す。

 

「ひどいこというなぁ」

 

「っていうか、朋美もよくそんな落ち着いてられるね。私なんかもうそわそわしちゃって」

 

 和水はさっきからずっとあたりをうろうろしている。

 

「あわててもどないならんこともあるんどす」

 

「春子よりよっぽど年上に見えるなー、朋美は」

 

「はあ!? なんやて!?」

 

 春子が噛みつく。

 

「みんなー。ちょっと手伝って―!」

 

「お、雛の方が先に帰ってきたんだ」

 

 雛が沿岸警備局員とともに大きな箱の乗った台車をもって来た。

 

「なんなん? これ」

 

 春子が尋ねると、雛は嬉しそうに言った。

 

「なんかねー、本物の特警さんの装備貸してもらえるんだってー」

 

 台車に乗せられたアルミ製の箱には、「特別海上警備隊備品。危険物に着き取り扱い注意」というラベルが張られていた。

 

 

「ご苦労だった。紅巡査補、戎崎巡査補」

 

「「ありがとうございます。海藤司令」」

 

 彩智とエリスは敬礼をしていった。第五管区沿岸警備本部司令、海藤航大は渋い顔を崩さぬまま、二人の前に座っていた。

 

「ひとまず直ってちょうだい。楽にしていいわよ」

 

 隣に座っていた女性、海上安全整備局安全監督室長の宗谷真霜がほほ笑む。

 

 小さな会議室に長机を一つ並べただけの殺風景な場所だ。ふたりとも机の後ろに並んで古いパイプいすに腰掛けていた。

 

「現在ここには大規模多発暴動の戒厳司令部が置かれている。すでに帝国政府は陸上保安局、海上安全整備局、沿岸警備局に治安出動を発令し、ほとんどの部隊が出動している状況だ」

 

 エリスが口を開いた。

 

「我々がここに呼ばれた理由は?」

 

「……現況から説明しよう」

 

 海藤がリモコンを操作すると、部屋に設置されたプロジェクターが起動した。

 

 部屋の明かりが消え、海藤たちの背後の壁に映像が投影される。映し出されたのは、日本地図。

 

「現在、全国の大都市圏、及び沖縄から北海道太平洋岸の広い範囲で大規模な暴動が発生している。単なる暴徒ではない。全員がよく訓練された軍隊のような統率で街を破壊している。理由は一切不明だ。暴徒たちの目的が何なのか、一切わからない」

 

 海岸沿いの街が赤く染まった。暴動が発生している地点をマーカーで示したのだ。

 

「さっきも述べたとおり、実力をもって暴動鎮圧にあたっているが……。まあ、実際に見た方が早いだろう。宗谷さん」

 

「わかりました」

 

 宗谷がパソコンを開くと、プロジェクターの画面が切り替わった。家庭用ビデオカメラで撮影した映像のようだ。手ぶれがひどくぼやけていたが、次第に焦点が合わされ移っているものがあらわになった。軍艦を上から撮影したアングルだった。

 

「うちの哨戒飛行船が撮影した映像よ。映っているのは甲装巡洋艦出雲。ちょっと乱れてるけど」

 

 突如、出雲の砲塔が火を噴いた。砲が向いている先は街だった。

 

「名古屋での暴動鎮圧にあたっていたはずの出雲が、名古屋市街の、まだ暴徒が到達していない地区に向けて、突然砲撃を始めたの」

 

 宗谷が言うが早いが、彩智は彼女の鼻先まで駆け寄り迫った。

 

そして机を思いっきり叩いて、怒鳴った。

 

「なんでっ、ですかっ!!」

 

「紅!」

 

 エリスはすばやく後を追い、彩智の手を掴んで彼女を引き離す。

 

 真霜は彩智の勢いに、一瞬息をのんだが、すぐに平静をとりもどす。そして静かに首を横に振った。

 

「……わからない。出雲はこちらの通信を無視しているの」

 

「このように、出動した部隊が暴徒側に寝返る事態が頻発している。うちもな」

 

 羽交い絞めにされた彩智は身を乗り出し、歯を食いしばって画面に見入っている。

 

「現在、我が国が保有する武装船のうち半数以上が、「反乱分子」となっていると思われる」

 

「……そういえば、先週から、横須賀女子海洋学校の直教艦が行方知れずになっているとか。教官艦に反乱したうえで」

 

 エリスは昼に聞いたニュースを思い出す。

 

「・・・・・・ええ。その頃から前兆はあったのでしょうね、今にして思えば」

 

 宗谷は一瞬顔をしかめて、それから神妙にうなずいた。

 

 海藤はそんな宗谷をちらりと見て、再び彩智とエリスに顔を向ける。

 

「現在、わが方の巡視船及び艦船が、反乱分子鎮圧のため出動している。だが、圧倒的に手数が足りない。この非常事態だ。そこで、君たちにも出動してもらいたい。反乱艦制圧任務に」

 

「出動!? わ、我々は学生で」

 

「やります」

 

「紅っ!?」

 

エリスの声は悲鳴に近かった。だが彩智は彼女を無視するように、正面だけを見つめていた。

 

「やります」

 

 もう一度言う。

 

 海藤は、静かに彩智の目をにらむと、口を開いた。

 

「君たちに対処してもらいたい艦は、これだ」

 

 プロジェクターに、一隻の巡航艦の写真が映し出された。

 

『横須賀女子海洋学校所属 直接教育巡航艦 晴風』

 

 写真の下にはそう書かれていた。

 

「現在晴風は和歌山県の沖合を北上している。追尾していた無人飛行船が撃墜されたことを見ても、晴風は反乱分子とみて間違いない」

 

「まってください。まさかこの艦にはるぐもで対処させようと……」

 

「出動できる船はすべて出払っている。もう残されているのははるぐもだけなんだ。頼む」

 

「無茶です! 巡航艦と巡視艇では勝負になりません!自転車で車と勝負するようなものです! いや、それよりもっとひどい!!」

 

「晴風乗員は君たちと同じ女学生だ。対人戦闘経験はないし、晴風にも携行武器は積んでいない。小回りの利く高速艇はるぐもであれば、不可能ではないはずだ」

 

「ですから不可能です! 13ミリバルカンと艦砲ですよ! 近づけば木っ端みじんです! 我々を殺す気ですか!」

 

「行けるよ、エリちゃん」

 

「紅……!?」

 

 彩智は静かに言う。

 

「はるぐもは、元々領海警備用高速艇として開発されたから、砲撃をよけることは難しくない。むしろ大型巡視船より、近づくチャンスはある。中に入れさえすれば、一気に艦内を制圧できるよ」

 

「それはっ」

 

 エリスは一度言葉を切った。

 

「そんなこと……、できるはずがない……」

 

「でもやらないと。晴風を止められるのは私たちしかいないんだから」

 

 それを聞くと、エリスは押し黙るしかなかった。

 

「……沿岸警備局法第七条に基づき、君たちを一時的に正巡査の階級に引き上げる。もし晴風乗員による違法行為があった場合、逮捕、拘束を含めた措置を取っても構わん」

 

 海藤はあらかじめ用意してあったらしい許可証を二人の前に掲げた。これで、はるぐもの七人には正規の沿岸警備官と同じ、逮捕権や臨検の強制執行権があたえられたことになる。

 

「我々も、すまないと思っている。だが現在晴風鎮圧に割ける人員も船もないのが現状なんだ。……頼んだぞ」

 

 そう言って海藤は、悔しそうに拳を握りしめた。

 

「無茶なことを言っている自覚はあるわ。艦艇の対処は本来私たちの仕事だもの。……でも、今はそれができない。お願い……。晴風を、助けて」

 

 宗谷も喉から絞り出すように続ける。

 

 彩智は背筋を正して敬礼をした。

 

「了解しました」

 

「……了解、です」

 

 

 

 海藤は晴風に関する資料や、作戦詳細を伝達し、二人を下がらせた。

 

「あの子たちが東舞女のデストロイヤーズですか?」

 

 宗谷の言葉に、海藤はうなずいた。

 

「ええ。試験としては落第。制圧方法も沿岸警備官として褒められたものではありません。ですが、この状況で彼女たちがここに来たのは行幸でしょう」

 

「あの船長の、紅さんは……」

 

「ああ、失礼。どうも彼女は海上安全整備局に対して……」

 

「いや、そうではなくて」

 

 宗谷は彩智の消えたドアを心配そうに見つめていった。

 

「出雲の映像を見せた時、とても殺気めいたものを感じたんです。それが学生らしくないというか……」

 

 海藤はタブレット端末に目を落とした。映っているのは東舞女から送られてきた、紅彩智に関するデータだ。

 

「彼女は、水晶号事件の生き残りだそうです。何か、思うところがあったのでしょう」

 

「水晶号事件……」

 

 宗谷の顔から血の気が下りた。海藤はそんな彼女をちらりと見て、明るい声で言った。

 

「まあ、もう昔の話です。必ず任務を達成してくれるでしょう。あなたの妹さんも、きっと無事です。この戦いがきっと彼女たちを進歩させてくれるでしょう」

 

「……ありがとうございます」

 

 その時、ドアがノックされ、中からブルーマーメイドの制服を着た女性が入ってきた。

 

「宗谷室長。内務省の役人だという人が面会を求めています」

 





雛「なんかーすごい意味深な引きで終わったねー」

鈴「そんなことよりですよ、ご本家様のキャラクター、宗谷真霜さんがご登場です。我々からすれば神ですよ。崇め奉りましょう」

雛「晴風とのからみもあるみたーい。なんだか楽しみだなー」

鈴「何言ってるんですか。原作キャラに囲まれれば、二次キャラの我々は確実にフィードアウトですよ。キャラが消えますよ」

雛「なんで鈴ちゃんはいつもそんなにネガティヴなのさー。名前が知床鈴ちゃんも被ってるからー?」

鈴「向こうはりん! 私はすずです! 別に被っていません。

雛「はいはーい。それはそうと、今日は新しい人が登場したねー」

鈴「海藤司令ですね。近畿の沿岸警備局で一番偉い人です」

雛「私たちの階級も出てきたねー」

鈴「ええ。我々学生は沿岸警備巡査補。海藤司令は沿岸警備警視監です。基本警察と同じですね」

雛「あと内務省っていうのも」

鈴「内務省は内政に関する行政を司る省庁です。選挙だったり、放送業務の指導、消防や警察の統括しています」

雛「色々やってるねー」

鈴「はい。沿岸警備局も内務省の下にあります。……おっと、そろそろ時間ですね」

雛「ほんとだー。じゃあ今日は鈴ちゃん!」

鈴「はいはい。次回は「臨検がピンチ」です。お楽しみに」

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