はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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臨検がピンチ

 プップー、というブザー音が岸壁に響いた。

 

「おもーかーじ一杯! 左舷前進微速!」

 

 彩智の声が操舵室を震わすと、エンジンが高鳴り船はゆっくり岸壁を離れた。

 

「で、任務ってつまり何?」

 

 そう言って和水がエンジンルームから顔をのぞかせた

 

「聞いとらんかったんかい、なごやん」

 

「だってエンジン音うるさくてさー。だいたいわかるよ、横須賀女子の艦止めに行くんでしょ?」

 

「うん、ちょっと聞いてほしいんだ」

 

 彩智は船室に全員を呼び集めた。ただエリスは、操舵室で舵を握っている。

 

「私たちの任務は、現在和歌山県沖を北上している直教巡航艦晴風の鎮圧。乗組員はみんな学生だから、制圧に際しての致死性武器使用は厳禁。ただ、艦砲攻撃を受けた場合のみ、正当防衛で機関砲の使用が認められたの」

 

「巡航艦!? しかも陽炎型やんけ! 一発でも貰ったら木っ端みじんやで!」

 

「しかもー、船速37ノットもあるよー。はるぐもと大して変わらないじゃんー」

 

「でも、このままだと五時間後には和歌山沿岸に到達する。そうなれば、ほかの反乱艦みたいに、本土砲撃を始めるかもしれない」

 

 彩智はテーブルに広げた海図を指さした。

 

「今から急げば、ぎりぎりのところで間に合うかもしれないんだ。だから」

 

必死の形相の彩智を見て、朋美は彼女の頭の上にポンと手を置いた。

 

「ともちゃん?」

 

「そない気張らんでもええ。うちらならできまっせ。任しておくれやす」

 

「……ありがとう。これが晴風の艦内見取り図と、乗員名簿。作戦決行までに頭にたたきこんどいてほしいんだ」

 

 

 数時間後。太平洋は少ししけていたが、はるぐもの運航には支障はない。しかし、海上にはもやが広がっていた。

 

あと数十分で日没。あたりはすでに薄暗い。

 

『これでホンマにええんか?』

 

 春子が疑問を口にする。

 

「大丈夫。たぶん来るよ、晴風は」

 

 はるぐもは、海上安全整備局の無線周波数を使って晴風に通信を送っていた。もちろん届いている保証はない。こちらの場所を延々伝え、返信を求める内容だ。そのうえで、無視するようなら強硬手段に出るという事も。

 

「もし晴風が反乱を起こしてるんだったら、絶対に引っかかると思うんだ」

 

 そして、すぐにかかった。

 

「3時の方向に艦影。……晴風どすな」

 

 上部甲板で見張りに立っていた朋美の一言が、船内に緊張をもたらした。

 

「春ねえ! 晴風に通信」

 

 彩智は指示を飛ばすが、すぐに泣きついたような春子の声が聞こえる。

 

『あかん! 返答あらへん! 完全無視の構えやで!』

 

 電探を見つめていた鈴も言う。

 

「晴風との距離、約7マイル。晴風は現在25ノットでこちらに向かってきています」

 

「晴風の主砲射程は19000メートル。……射程内だ」

 

 冷たい汗がエリスの額をつたった。

 

 その瞬間、こちらに向けられた晴風の砲塔が火を噴いた。

 

「ちっ、晴風発砲!」

 

「回避!!」

 

 彩智の号令が飛ぶ。

 

「ほんとに撃ってきたよ……。うそみたい」

 

 和水は茫然とつぶやいた。

 

 ブルーマーメイドは平和の象徴。その砲弾が「何か」に向けて、敵意を持って撃たれることなど今までなかったし、これからも絶対にあってはならないことだった。

 

 そもそも艦船につまれている砲塔が「武器」であるという認識すら薄い。「張りぼての虎」などと揶揄されることの多かったブルーマーメイド艦船が反乱を起こすなど、夢にも思わなかった。

 

しかし、現実として、晴風ははるぐもに攻撃を加えている。

 

彩智が指示を飛ばした。

 

「鈴ちゃん、砲弾を避けながらこちらの射程内まで近づいて!」

 

「無茶言いますね、船長」

 

 鈴は文句をたたいてハンドルを切った。

 

 はるぐもの最大船速は40ノット以上。舵を使わないウォータージェット推進のため、方向転換時に減速しないのが大きな特徴だ。

 

 狙いをつけさせないために大きく蛇行しながら接近する。やはり高速移動する巡視艇を目標にするのは難しいのか、晴風の砲弾ははるぐもが通ったあとに水柱を立てている。

 

 小さな影だった晴風は、みるみる大きくなりマストがはっきり見えるぐらいまで近づいた。

 

 ちょうど正面から向き合う形だ。

 

「SN旗掲揚! 停船勧告発令!」

 

 発光信号やスピーカーが晴風に向けて停船を呼びかける、が。

 

「ま、これでとまりゃ苦労はないわ」

 

 和水はひとりごちる。当然、晴風の動きに変化はない。

 

「こちらの射程範囲に入りました」

 

「威嚇射撃はじめー!」

 

「射撃はじめ―!」

 

 雛がトリガーを握る。一分間に500発の弾を吐き出す機銃がうなり、水面や上空に飛んだ。

 

 だがこれは、あくまでも儀式的なものだ。

 

「こちらはるぐも。晴風より攻撃を受けました。停船命令は無視しています! これより海上交通法第十八条に基づく強制立ち入り検査を実行します。よって武器使用の許可を!」

 

『こちら近畿地方戒厳司令部。警察官職務執行法第7条に基づいて、7条の範囲内における武器使用を許可する』

 

「了解!」

 

 彩智は無線機を置き、腹に息を吸い込んだ。

 

「ただいまより、晴風に対して海交法十八条による臨検を実施します! 臨検用意!」

 

「「「臨検用意!」」」

 

 復唱がこだまする。

 

「雛ちゃん、船体射撃を許可! エリちゃん警告!」

 

『船員! これより晴風前部船腹に射撃を行う!! 至急退避せよ!』

 

 沿岸警備局巡視船艇が船体射撃を行う際にしなければならない警告放送だ。エリスの声が大音量で晴風に告げると同時に、機銃の照準が合わせられた。

 

 雛の顔がにやりと歪んだ。

 

「くふふふ。船体射撃開始ぃぃぃぃぃ!」

 

 雛は人が変わったような叫び、同時に弾丸が晴風に命中した。

 

「はははははっ! 駆逐艦がなんぼのもんじゃーい!!」

 

「……雛って相変わらず怖いわ」

 

 笑い狂う雛を、和水が遠巻きに見つめていた。

 

 弾丸は遠隔制御装置の甲斐もあり船腹に全弾命中する。しかし、着弾場所に火花がちるだけで、ロクな損傷を与えることができない。

 

 そうしている間に、晴風前部の25ミリ機関砲が発砲した。

 

「くっ!」

 

 鈴がうなり声をあげてハンドルを切ったが、鈍い衝撃音が船体に響いた。朋美が叫ぶ。

 

「船首付近着弾!!」

 

 数発の弾丸が、はるぐもに命中したようだった。

 

「航行に支障ありません」

 

 鈴が短く言う。そして続けた。

 

「あと十秒ですれ違います」

 

「そのまま左舷から回り込んで、右舷艦橋横に張り付いて!」

 

 お互い30ノット以上のスピードではるぐもと晴風はすれ違った。艦と艇の間は500メートルほど。

 

 そのままはるぐもは旋回し、距離を保って晴風の右に着く。その間にも、晴風の機関砲から放たれる弾丸がはるぐもを襲う。

 

「向こう、機関砲の射撃に切り替えたな」

 

「おう、でけえ砲じゃちっせーはるぐもは狙いずれえからな。機関砲でも晴風の方が威力は上よ」

 

「っていうか本当にキャラが変わるな、加久藤」

 

 エリスの言うとおり、先ほどから晴風は主砲ではなく機関砲で攻撃を行っていた。

 

「これだと、あまり近くには近づけません。機関砲の射撃をよけるのはさすがに……」

 

 鈴ははるぐもを一定の距離を保たせていた。

 

「大丈夫だ!! 私が撃って撃って撃ちまくって!」

 

「射撃性能はこちらが上ですが、銃の数と弾の威力が違いすぎます。船の防御も」

 

 血のたぎる雛を半ば無視して鈴は分析する。

 

「……晴風の機銃は、手動だよね?」

 

「ええ。遠隔操作機能はありません」

 

 彩智は確認をとるとこちらに銃首を向けている晴風の機関砲を見つめた。

 

「砲手を狙おう」

 

「正気か!? 紅!」

 

 エリスがとっさに叫ぶ。

 

「そりゃ不味いでしょ、彩智」

 

 和水もそういって彩智をたしなめる。

 

「でも、このままじゃ近づけない。砲手をやれば銃撃は止まる。その隙に……」

 

「お前は、自分が何を言っているのかわかってるのか!? 人を殺そうとしてるんだぞ!」

 

「でも、このままじゃ私たちが殺される」

 

 エリスは彩智の襟首をつかんで、顔を引き寄せた。

 

「紅、試験で言われたことを思い出せ。私たちは沿岸警備官を志すものだ。殺戮者ではない。―はるかぜの機銃は殺すためじゃなくて守るためにあるんだぞ」

 

 そう言ってまっすぐ彩智の瞳を見つめる。それはあまりにも暗く感情のなく、このままのみこまれそうになる恐怖をエリスは覚えた。

 

「……………彩智!」

 

 エリスは必死に呼びかける。彩智は自分の襟をつかむエリスの手に、そっと自分の手を重ねた。

 

「わかったよ。えりちゃん」

 

 わかってない……。エリスは直感的に感じ取った。だが、本人がそういう以上、ひかざるを得なかった。

 

 エリスは手を放し、ため息交じりに吐き捨てる。

 

「……なら、いい」

 

「で、どーすんだ。じり貧に変わりはねえぞ」

 

雛が厳しい顔で、遠隔操作用のパネルを見つめた。エリスはそれを横から覗きこんで、口を開いた。

 

「……スキッパーをねらえばいい」

 

「スキッパーだぁ?」

 

 晴風の前方に搭載されているスキッパー。

 

 彩智も同調する。

 

「そうだね。それに、艦橋横のボート。雛ちゃんそのあたりをねらって。船上で火災を起こさせよう」

 

「それで煙幕はろうって腹か! いいぜぇ!」

 

 それを聞き、エリスは再び拡声器にほえた。

 

『船員に次ぐ! これよりスキッパー及び甲板構造物に対する射撃を行う! 付近のものは退避せよ!』

 

 すると、機関砲の防弾板に隠れていた砲手が艦内に退避し始めた。

 

「意外だな。こんなに素直に逃げるなんて」

 

 エリスは首をかしげた。

 

 くどいほどの警告の後、再びはるぐもの機関銃がうなる。弾丸はスキッパーやボート、工作用のクレーンなどに次々命中した。そしてすぐに炎上した。

 

「よし、燃えた。鈴ちゃん、接舷開始! 他は乗船準備!」

 

 彩智は自らも乗り込む準備をするために操舵室を離れる。エリスはその背中を心配そうに見つめた。

 

 




鈴「うわぁ。ついにでましたね、裏加久藤さん」

雛「ひゃーっはっはっはっ! オレ様の天下じゃー!!」

鈴「……誰ですか、この子にモデルガン持たせたの。中々鬱陶しいんですけど」

雛「このまま船長たちからメインの座を奪い取ってやるぜー!」

鈴「はぁ、よっこいしょ」

雛「あれ? 鈴ちゃんどうかしたの?」

鈴「あなたからモデルガンを没取したんですよ。全くややこしい性格してますね、あなたも」

雛「でもー、これでいいキャラ付けになったと思わないー?」

鈴「そういう魂胆ですか。じゃああれですか? 私も操舵中は性格変えてみた方がいいと?」

雛「その方向は私だけで充分だよー」

鈴「くっ、感じます。特徴がついて上から目線になっているのをひしひしと感じます」

雛「それはそうとー、彩智ちゃんもなんかヤバそうだったねー」

鈴「そうですね。副長ともなんだか確執のようなものを感じました。これが後々どう影響するのか」

雛「その辺の謎はー次回?」

鈴「いいや、次は我々はるぐもではなく、あの人にスポットが当たるようです。我らが神、宗谷真霜さんに」

雛「へぇー! じゃあ大人な話なのー?」

鈴「その辺は次回のお楽しみですよ」

次回「宗谷真霜がピンチ」
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