はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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宗谷真霜がピンチ

「ついていない」というのは妹の口癖だ。確かに姉の真霜から見ても、妹の不運体質は目を見張るものだった。だがそれが自分にも影響しだしたのではないかと疑うほど、今日の宗谷真霜はついていなかった。

 

 暴動発生から半日。あれよあれよという間に自分に着いた肩書は、海上安全整備局局長代理。しかもキャリアのトップではなく、戦争犯罪人。反乱を起こした組織の長という、体の良いスケープゴートとしてだ。

 

 海洋学校練習艦が次々と行方不明となって一週間ほど、彼女は不明艦捜索のために出動した舞鶴地方隊のブルーマーメイド艦隊を見舞うために大阪に来ていた

 

 その目的が果たされ帰京しようとした矢先、暴動が発生したのだ。

 

 現地局員に誘導されるがまま関西国際飛行場に案内され、戒厳司令部の海上安全整備局最高責任者に。あげく部下のほとんどが暴徒側に離反し、妹の乗った晴風も本当に叛逆。その後始末を自分よりも年下の学生、それも沿岸警備局を目指す少女に押し付けてしまった。

 

 そしてさっき、東京の海上安全整備局本部との通信が途絶えたのだ。近畿戒厳司令部は東京本部の機能はマヒしたとして真霜を首班に臨時本部を設立を決定。肩書も正式に局長代行へと移り変わってしまった。

 

 そんな中、1人の役人が真霜を訪ねてきた。これも、真霜のストレスを跳ね上げさせる原因の一つだった。

 

「お初にお目にかかります、宗谷室長。旧海軍から続く名家のご子女にお会いできて」

 

「挨拶は結構です。白峰課長」

 

 真霜は若干のイラつきを隠そうともせず、目の前にいる人物と対面する。場違いに思える白い高級スーツに身を包み、キザな動作と言葉で彼女のところへ来たこの男。名は白峰祐樹。

 

 見た目は浮ついた若い男だが、その肩書は内務省警保局保安部、特別高等一課長。悪名高き特別高等警察のリーダーだ。

 

「特高警察の人間が、一体何の用ですか?」

 

「おやおや、海の女は随分と気が短いようだ。なにもあなたを逮捕しに来たわけじゃありませんよ。……今のところは」

 

 白峰はターミナルビルの待合室(現在戒厳司令部の人間のための休憩室となっている)のソファにどさりと腰かけた。

 

「いやぁ、たまたま大阪に来ていて助かりました。聞きましたか? 東京の政府機能船「千代田」との通信が途絶えたって」

 

 白峰は世間話でもするような口調で、けっして世間話では済まされない重要な話題を口にする。

 

「はい。関東地方との無線通信は完全に途絶したと」

 

 真霜は固い表情を崩さぬまま答えた。

 

「とうとう中央政府の機能がマヒしちまって。ここもてんやわんやですよ。外国からの問い合わせも殺到。もうすぐここに臨時政府を立ち上げるらしいですが……。まったく、日本はもうおしまいですね」

 

「勝手に終わらせないでください。ここで希望をつなぐのが、我々の仕事です」

 

「おお、さすが平和の象徴、ブルーマーメイドですね。素晴らしい」

 

 白峰は手をたたく。真霜はバカにしているのか、と怒鳴りそうになるのを必死で抑えた。

 

「それで、御用は? こちらも忙しいのですが」

 

「あなた、この資料に見覚えは?」

 

 そういって、白峰は青い表紙のファイルを取り出し、真霜に渡した。

 

「……海上安全整備局の、装備開発部によるものですか? 申し訳ありませんが、私は安全監督室の人間で」

 

「ま、中を読んでくださいな」

 

 促されるままに表紙を開く。

 

 そして絶句した。

 

「Rats……、ウイルス?」

 

「まったく、海洋技研もとんでもない化け物を作ってくれたもんですよ」

 

 白峰は真霜からファイルをひったくってパラパラとめくる。

 

「感染者は知性を保ったまま異常なまでの攻撃性を発現。さらに生体電流によるネットワークを構築して、一つの意思のもの統率を取って行動する。まったく、国連に見つかりでもしたらPK条約違反で制裁ですぜ、室長」

 

 白峰はけらけら笑いながら言う。非難しているのか、からかっているのかわからない。

 

「まさかこれが漏れ出して……、パンデミックを」

 

「半分あたりで半分はずれですね。この生物は小笠原沖の海底実験室にいたんですよ。なんせ条約違反実験なもんで、厳重に秘匿されてましたし、安全管理も厳重。こちらも調べましたが、まあ漏れ出すことなんざ考えられません」

 

 ではなぜ? そんな疑問が真霜の口から出そうになったが、一つの出来事が脳裏に思い浮かんだ。

 

「小笠原沖実験施設・・・・・・。確か、今年の初めに事故で基幹装置が故障して投棄されたと」

 

「あー、なるほど。そういう風に聞いてるんですか。ほぉ」

 

 白峰は大げさに頷く。

 

 その時真霜は思った。

 

 なぜ、特高警察の白峰がRatsに関する資料を持っていたのか、という事に。

 

「……白峰さん、それは、どこで?」

 

 白峰はにやりと笑った。

 

「実は一昨日、大阪のある宗教団体にガサ入れをしましてね、そこで押収したんですよ」

 

「宗教団体……!?」

 

 真霜の顔から血の気が下りた。見たところ、Ratsウイルスのデータは安全監督室室長の自分ですら、簡単にはアクセスできない機密資料だ。それが外部に漏れていたという事になる。

 

「『人類進歩研究所』。宗教団体というよりは、反国連団体といったほうがいいですけどね」

 

 

 

 欧州で勃発した世界大戦争は両者痛み分けのような形で終結した。四年に及ぶ大戦争の結果、史上最悪の死者と被害を出した世界は、二度と戦争を行わないという決意のもと国際連盟を設立する。

 

 国連には紛争解決のための強大な権限が与えられた。その一つが軍事制裁だ。侵略を禁止した国連協約や、大量破壊兵器につながる技術開発を禁じた国連平和維持条約(Peace Keeping Treaty、通称PK条約」に違反した国に対し、国連軍による軍事攻撃を行える。

 

 ただそれに反発する声もある。特にPK条約は恣意的な運用によって科学の発展を妨げているといわれていた。しかし多くの国において、これらの主張は「戦争を誘発する危険思想」とみられているのが現実だ。

 

 白峰が続ける。

 

「人類は闘争によって進化する、それを阻害する平和維持条約は破棄、国連は解散すべきだ、っていう主張でね。それだけならともかく、どうもテロを計画しているって情報が入ったんで、教団幹部を治安維持法違反で検挙したんです。そしたらですよ、この文書が出てきた」

 

「それは……、もしかして」

 

「今回の大規模多発暴動はRatsウイルスを利用したバイオテロの可能性が非常に高いです」

 

 

「バイオ、テロ……」

 

 真霜は体の力が抜けるのを、必死で抑えた。そのことが本当なら、もはや海上安全整備局は本当に終わりだと、直感が告げる。

 

「人進研は政財界の大物も信者に取り込んでいたようです。その過程で、このウイルスに関する情報を手に入れたんでしょうね。それでもって、海賊でも雇って実験施設を襲撃した。それが明らかになるのを恐れた装備開発部は、事故を偽ってこの事件を隠ぺいした」

 

 そんな真霜の心境を知ってか知らずか、白峰は淡々と説明をつづけた。

 

「それはつまり、政府内部にも奴らに内通していたものがいる、と?」

 

 真霜の額に冷たい汗が流れる。

 

「ええ。日本と国連は、浅からぬ因縁がありますからね。国連に反発する政財界の大物も多いと聞きます。だから、人進研は豊富な資金と機密情報を知り得た。Ratsを手中にし、こうして動乱を起こさせる。そして、国連軍を出動させ、世界中に感染を広め、やがては第二次世界大戦へ、というシナリオでしょう。今のところ、我々はその筋書き通りに動いていますよ」

 

「国連軍の出動を抑えることは? 日本の中で事態を収拾すれば」

 

「無理ですね。すでに日本の軍事組織は崩壊してます。沿岸警備局のちゃっちい巡視船ぐらいですよ、残ってるのは。諸外国も、そのように見るでしょう。すでにドイツが国連総会対日最終勧告決議に向け、動き出したようです」

 

 




雛「急に大人な話になったねー」

鈴「ええ。特高警察が出てきましたからね。本格サスペンス小説を目指すつもりなんでしょうか?これは」

雛「そういえば、特高って何?」

鈴「テロリストの取り締まりとか、そういったことを行う警察の部署ですよ。外国だと公安とか呼ばれてるみたいですね。治安維持法という法律に基づいて、テロ組織の取り締まりを行ってます」

雛「なんか怖いねー」

鈴「ま、普段あまり聞きませんからね」

雛「なんかお話も世界レベルに広がってきちゃってー。すごいなー」

鈴「ま、そうしないとあらすじ説明がうそになってしまいますして。さ、真霜さんの活躍にも期待しましょう」

雛「次はー、私たちが大活躍するんだよねー?」

鈴「出番、ほぼないです」

雛「え?」

次回「強制立ち入りがピンチ」
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