はいこす~ハイスクール・コーストガード~   作:栄人

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艦内制圧がピンチ

 

 

「口ほどにもありまへんな」

 

 放水銃を受け倒れてしまった乗員たちを眺め、朋美は呟いた。

 

「反乱起こすわりに根性ないなぁ」

 

 春子もポリポリと頭をかく。

 

「みんな、気を失ってるみたい」

 

 乗員の一人の脈を図っていた彩智が安心したように息を吐いた。

 

 結果、あの包囲網は楽にぬけることができた。三十近い乗員たちに襲われはしたものの、装備や技術の面では彩智たちの方が断然上だ。

 

 ただ、

 

「……訂正、根性あるん残っとーやん」

 

「……こんなところでお会いするなんて奇遇どすなぁ、万理小路はん」

 

 食事用ナイフを構えた野間マチコと薙刀を向けた万理小路楓が、三人を挟み込むように立っていた。

 

 春子と朋美はお互いに背を向けて銃を構えた。

 

「さっちゃん、先行き。あんたなら機関室制圧ぐらい楽ショーやろ」

 

 春子の言葉に彩智は一瞬迷う。それでも、

 

「お願い! 二人とも!」

 

 そういって駆け出す。とっさにマチコが反応するが、

 

「あんたの相手は、うちや!」

 

 春子が放水銃を放つ。マチコはそれをよけるとナイフを右手に構え飛びかかる。

 

 その隙に彩智は、マチコの体の横を抜け機関室へ向かった。

 

 春子は自分に向かってきた彼女の右手を両手で掴む。刃先は春子の胸に突き刺さる寸前で止まった。

 

「あんたもあれやろ? お水をかけたらジ・エンド」

 

 マチコの力は十代女子のそれを凌駕しているように思えた。右手を抑えている春子の腕はプルプルと震えていた。

 

 それでも、春子は笑っていた。

 

「銃ぶっ放すだけが、うちのやり方やないんやでっ!」

 

 携行放水銃は水塊を放つという特性上、連射ができない。再び水と圧をためるのに時間がかかるうえ、片手での操作は不可能だ。

 

 だから春子は使った。敵の武器を。

 

 春子は腕の力を抜き、ナイフを自分の体にさした。ちょうど肩口。タンクと銃を結ぶホースのところに。

 

 ホースの切れ目から水が噴き出し、マチコを襲った。

 

「ほれ、みたことか」

 

 糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちるマチコを見下ろして、春子は得意げに言い放った。

 

 

 

「前にお会いしたんはいつぐらいぶりでやったか……。全国大会常連に、こうしてお手合わせ頂けるなんて、思ってもみいひんかったですわ」

 

 朋美は皮肉をこめて言うが、楓からの返事はない。

 

「ま、後でゆっくりお話ししましょうか?」

 

 楓が間合いを詰めるのと、朋美が放水銃を撃つのはほぼ同時だった。

 

 楓は水を避け、薙刀を振り上げる。

 

「くっ! 面つけてない相手に全力はあきまへんやろっ……」

 

 朋美はとっさに銃身でそれをはじいた。そして後ろに下がり、もう一発撃とうとする。しかしできなかった。

 

「……やってもうた」

 

 注水・注ガスのためのコックが破損していた。朋美は舌打ちをしてタンクごと銃を捨てる。

 

「まったく、リーチが違いますやろ」

 

 そういって、特殊警棒を伸ばした。再び楓が突撃する。朋美はそれを受け止めるが、

 

「……家元名乗るだけはありますなっ」

 

 攻勢に転じることもできず、じりじりと追い詰められていった。

 

「っ!」

 

 ついに警棒が払い取られる。楓は薙刀を突きの構に持ち、突進してきた。

 

 思わず目を閉じる朋美。だが、

 

「伏せっ!!!!」

 

 春子の声で、反射的に身をかがめた。

 

 朋美の頭の上を、さっき朋美が捨てたはずのタンクが飛ぶ。タンクは楓の顔面に直撃した。

 

 楓が倒れ込む。

 

 チャンスや。

 

 考えるより前に、朋美の体は動き出した。もう何度も訓練で行ったことだ。

 

 朋美は楓の体を拘束し、手錠をかけた。

 

「うちの、反則勝ちどすえ」

 

 朋美はにやりと唇を持ち上げた。

 

 

 

 

 結果から言えば、機関室制圧はとても容易だった。もともと機関にかなり無理をさせていたらしく、機関員はその対処にかかりきりであったからだ。その隙をついて、彩智は中にいた八人を放水銃で無力化したのだった。

 

 彩智は気絶している彼女たちに一つ一つ手錠をかける。機関自体はテレグラフの指示があったのとほぼ同時に緊急停止させたため、今はすっかり止まっていた。

 

「大丈夫かな、みんな」

 

 独り言が彩智の口から洩れた。その時伝声管から声が聞こえるのに、彩智は気づいた。

 

『……仲間が大事なら、我々の指示に従え』

 

 理性が状況を理解するより早く、彩智は走り出した。

 

 

「……誰だ、お前」

 

 エリスが尋ねる。

 

「わしか? わしはドイツ留学艦アドミラル・グラーフ・シュペー副長、ウィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクじゃ」

 

 少女は、ミーナは勝ち誇ったように、きれいな日本語で答える。見れば周りの要員達も、笑っていた。初めからこのつもりだったのだ。

 

「なぜ、ドイツ水兵がいるんだ。よりによって将校……」

 

 エリスはいい加減な情報を渡してきた海藤司令にいらだった。

 

「観念するのはおぬしらのようじゃな」

 

「そうだよ」

 

 組み伏せられた岬明乃が、エリスの下から声を発する。

 

「さあ、私たちを離して。やらなきゃいけないことがあるの」

 

「…………」

 

 エリスは歯ぎしりをした。人質を取られているこの状況では、彼女の言うことを聞かざるを得ない。

 

 エリスはそっと明乃の上から体をどけた。そして中から手を放し、両手を上にあげる。

 

「聞き分けのいい子でよかったぞ」

 

 ミーナは改めて笑う。

 

 その時、

 

「あああああああ!!」

 

 大量の水が、ドアの外から艦橋に噴出された。

 

 携行放水銃では出し得ない水量と水圧に、艦橋要員もろともエリス達を押し流す。ナイフもその拍子に、ミーナの手を離れた。

 

 一度放水が止まる。そして、

 

「なにをっ!! する気っ!?」

 

 狂ったように叫び、荒い息を吐きながら艦橋に入ってきたのは、

 

「紅!」

 

「彩智!?」

 

 彩智だった。手には晴風甲板にある高圧の消火ホースを持っていた。

 

「私の仲間にっ!!」

 

 彩智はミーナに至近距離まで近づき、その鼻先にホースを構えた。

 

「何をするつもりだったのっ!!」

 

「やめろ紅!!」

 

 エリスはとっさにホースをひったくった。

 

「やめてっ! 離してっ! そいつを! 殺さないとっ!!」

 

 抵抗する彩智を、エリスは投げた。彩智は床にたたきつけられる。そしてそのまま、彩智の手首にも手錠をかけた。

 

「えりちゃんっ!!」

 

「頭を冷やせ。あれ以上、何をする気だった」

 

 懇願する彩智を一切顧みらずエリスは言い放つ。そして艦橋の端にまとめて流された晴風クルーに再び放水銃を向けた。が、エリスは変化に気付いた。

 

「あ、あの……」

 

「どうした? 岬明乃」

 

 脅えた瞳でこちらを見る明乃。ほかのクルーにも、同様や戸惑いの色が見える。

 

 そして明乃は言った。

 

「私たち、何をしていましたか?」

 

 




鈴「いやぁ、制圧できましたね」

雛「できたねー」

鈴「そして我々は一切出番がなかった、と」

雛「そうだねー」

鈴「ま、いいんですよ。晴風は制圧できましたし、ご本家のがたがたも正気に戻られたようですし」

雛「ほんとだねー」

鈴「ところで加久藤さん、さっきからあなたは何を?」

雛「ちょっとモデルガンの調整―。いまから突入してやろーかなーって思ってー」

鈴「そうですか……。お一つ貸していただけます?」

雛「いいよー。一緒に大暴れしってうぎゃ!」

鈴「申し訳ありません、加久藤さん。あとがきの我々は本編には干渉しえないのです。さて、次回は「日本がピンチ」。お楽しみに」
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