ハイスクールD×D~転生せし守り手~   作:bridge

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投稿します!

すっかり冷え込んで来ましたね…(;^ω^)

それではどうぞ!



Life.149~絶望の先の希望、果たされぬ約束~

 

 

 

復讐を宣言したシャルバ。

 

別行動をしていた英雄派の1人、レオナルドを攫い、魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)を暴走させ、巨大な魔物を創り出し、魔界へと送り込んだ。

 

その後、弱体化したオーフィスを攫い、そのシャルバを追った昴が対峙。

 

しかし、真の姿を晒したシャルバの力は強大で、昴はその力の前で圧倒されてしまう。

 

絶望的な状況の中、歴代の赤龍帝の1人であり、神器(セイクリッドギア)内に残った最後の1人であるジャックが、悪魔の囁きをするのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…」

 

血塗れで地に伏せる昴。

 

『何を悩む必要があるの? もう、奴を倒すには覇龍(それ)しかないじゃない』

 

耳元で囁くように告げるジャック。

 

「(…話にならねえよ)」

 

しかし、昴はその誘惑を突っぱねる。

 

「(俺は覇の道は歩まねえ。何度も同じ事を言わせるな)」

 

『あはっ! 強がっちゃって♪ だったら、この状況、どうするの? そんなボロボロで、もはや、起き上がる事も出来ない。それに、さっき、試そうとしたみたいだけど、出来ないんでしょ? あの獅子との戦いの時に見せたあれ(・・)

 

「…」

 

あれとは、サイラオーグとの戦いの時に使った、七星閃氣の事。昴は今の戦いの折、使おうとしたが出来なかった。

 

『サマエルの呪いは、君の視力を奪っただけではなく、君の氣のコントロールにも大きく影響を与えていた。普通に戦う分にはさほど影響はなかったけど、自身の氣を無理やり拡張させるあの技は繊細な氣のコントロールが必要。だけど、呪いのせいで繊細なコントロールが出来ない今の君が使えば、相打ちはおろか、何も出来ずに自滅しかねない』

 

「…」

 

『もう理解してるでしょ? あの蠅の魔王を倒すには、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)しかないって事が。暴走や命を削る事を気にしてるなら、私が何とかしてあげる。私としても、あの蠅の魔王はちょっと気に入らないからね。同族嫌悪って奴? このままあいつを放置は出来ないんでしょ?』

 

「…」

 

『迷ってる時間はないよ。すぐに何とかしないと、あいつは冥界に行っちゃうよ? ――さあ、だから…』

 

昴に対し、手を差し伸べるジャック。

 

「(…何度も言わせるな。俺は覇の道は歩まねえって言ってんだろ)…っ」

 

その手を取らず、昴は激痛が伴う身体に鞭を打ち、立ち上がろうとする。

 

「(それに何が何とかするだ。記憶の思念体に過ぎないてめえにそんな事が出来るとは思えねえし、仮に出来たとしても、てめえがそんな真似する訳がねえだろが)」

 

『…あはっ! 何だ、バレちゃってたんだ♪』

 

舌を出しながらジャックは差し出した手を引っ込めた。

 

『ざーんねん。過去の赤龍帝は、ほとんどこれで騙せたんだけどなー』

 

「(ああ。ホントに残念だったな)…ぐっ!」

 

どうにか身体を起こすと、膝に手を突きながら何とか立ち上がろうとする。

 

「何処に行こうってんだ? 俺はまだ戦えるぞ」

 

立ち上がった昴がシャルバに向けて告げる。

 

『……むっ? まだ立ち上がれるか。しぶとい奴め』

 

その言葉にシャルバが振り返り、鬱陶し気に言い放つ。

 

『大人しく寝ていれば暫しの間、命を繋げたものを、そんなにすぐに死にたいならすぐに殺してやろう』

 

シャルバは蠅を操り、昴に向けて放った。

 

「…っ」

 

飛んで来た蠅を村雨で防ぐ。だが、蠅は絶えず昴目掛けて襲い掛かる。

 

「くそっ…!」

 

迎撃し切れない蠅を、英雄の器(ブレイブ・ハート)の武器を展開し、盾にして対応する。

 

「ぐっ!」

 

しかし、それでも蠅の数は圧倒的で、何匹かの蠅はその盾を突破し、昴の身体を傷付ける。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1匹の蠅が昴の肩を貫く。

 

「…がっ!」

 

昴の身体が後方に倒れる。

 

「…っ」

 

だが、昴は堪え、体勢を立て直す。

 

『いい加減、死ね!』

 

苛立った様子でシャルバが蠅を昴に飛ばす。

 

「…っ」

 

もはや昴はかわす事が出来ず、蠅は昴の身体を捉えるも何とか致命傷だけは避け続ける。

 

『ええい、鬱陶しい!』

 

耐えかねたシャルバが魔力の球を昴目掛けて放つ。

 

 

――ドォッ!!!

 

 

「がはっ!」

 

魔力の球を何とか村雨で受け止めたが、その威力によって吹き飛ばされてしまう。

 

『ふん』

 

鼻を鳴らして踵を返すシャルバ。

 

「…っ!」

 

再び倒れた昴だったが、それでも昴は再度立ち上がる。

 

『…っ、忌々しい、下級のトカゲ風情が…!』

 

尚も立ち上がる昴に、さらに苛立ちを募らせるシャルバ。

 

『…』

 

その様子をジーっと観察するジャック。

 

『……君は、絶望しないんだね』

 

尚も諦めず、希望捨てない昴を見て、ジャックが呟く。

 

「絶望なんざ、何度も乗り越えて来た。今回も、これからも、それは変わらねえ…!」

 

そう言い放つ昴の目には、一切の曇りも絶望もなかった。

 

「…っ」

 

村雨を構え、1歩1歩、ゆっくりとシャルバに向けて歩みを進める。

 

『……あーあ、つまんない』

 

そんな昴を見ていたジャックがつまらそうな表情で呟いた。

 

『もういいや。もうここから消えるよ』

 

「…あっ?」

 

突然の宣言に、思わず昴はジャックの方に振り返った。

 

『消えるって言ったんだよ。君を見ていても面白くないし、これから何十年、何百年もこんな調子じゃ退屈過ぎて頭がおかしくなりそうだからね』

 

「…」

 

『じゃあね。ま、せいぜい、すぐに歴代の赤龍帝(私達)のようにならないようにね』

 

手をヒラヒラさせながらジャックは昴に背を向けると、少しずつその姿が薄れていった。

 

「……ジャック・ザ・リッパー。…いや、アルフレッド」

 

『っ!?』

 

名前を言い直した瞬間、ジャックは目を見開きながら昴へと振り返った。

 

『どうして…』

 

「お前の内部に何度目か、入り込んだ時、とある建物の中の隠し階段を降りた先にあった部屋に、朽ちた表札のような物にその名前が記されていたのを思い出してな。それがお前の本当の名前なんだろ?」

 

『…』

 

如何に、内部の世界を本人の自由に変える事が出来ても、その者のもっとも本質な部分は変える事や偽る事は出来ない。

 

「その反応からするに、ビンゴみたいだな。ま、その顔が見れただけで充分だ。…じゃあな。来世では、せいぜい、マシな人生を歩むんだな」

 

皮肉交じりで昴がジャックに最後の言葉を贈った。

 

『……そうか。それが私の本当の名前。色々な名前を名乗って、色々な名前で呼ばれてたから、すっかり忘れていたよ』

 

フッと薄く笑みを浮かべるジャック。

 

『感謝するよ。最後に、自分の本当の名前を思い出す事が出来た』

 

感謝の言葉を述べるジャック。その姿は、確実に薄れていく。

 

『(狂った世界で狂った力を持った私に、希望などなかった。あるのは形を変えた絶望だけ…)』

 

ジャックもまた、世界によって狂わされた人間の1人だった。

 

『(故に私は、その絶望を世界に振舞った。それは、死に行く時も、思念体となっても変わらなかった…)』

 

その力を他者を絶望する為に行使し、自身が死に行く時も、所有者が変わっても絶望を囁き、その者を覇龍(絶望)へと落とした。

 

『(だけど、君は…君だけは、どんな苦境でも絶望せず、最後まで覇龍(絶望)に落ちる事はなかった…)』

 

幾人の赤龍帝を、ジャックは絶望に誘ってきたが、終ぞ、昴は絶望しなかった。

 

『(…エルシャやベルザードが君に希望を見出した理由。もし、生前、君と出会える事が出来たなら。私は――)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ありがとう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「これは!?」

 

ジャックが姿を消した次の瞬間、とある変化が訪れた。

 

「…ドライグ、なのか?」

 

昴の目の前に、ドライグの姿があった。

 

『…よもや、神器(セイクリッドギア)から出られる時が来るとはな』

 

かつて、神器(セイクリッドギア)にその魂を封印された、二天龍の片割れであるドライグ。封印されて以降、決して神器(セイクリッドギア)の外に出る事は叶わなかったのだが…。

 

「その様子だと、魂だけが解放されたのか?」

 

『ああ。残念ながらな。かつてのように自由には出来んようだ』

 

表に姿を現したドライグ。しかし、解放されたのは魂だけで肉体はなく、行動や干渉には制限がある様子。

 

『お前が歴代の赤龍帝の思念体達を全て解放させた事で、俺は神器(セイクリッドギア)から、魂のみ解放された。これは、神器(セイクリッドギア)を作った神が仕組んだ事なのか、それとも、神が死んだ事で引き起こされたイレギュラーな現象なのか…』

 

何やら考え込むドライグ。

 

『だがこれで、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が新たなステージへと進む。過去の赤龍帝のいずれも到達出来なかった、新たなステージ。お前だけの新たなステージに』

 

「俺だけの…」

 

『さあ、唱えろ。お前の、お前だけの祝詞を!』

 

「…」

 

昴は暫し目を瞑り、そして開く――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――我、目覚めるは、調和を願う赤龍帝なり…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――無限の希望と可能性をその身に抱き、我が道を往く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――我、紅き守護者に成りて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――汝を、我が信念と覚悟を以って、我が道に誘おう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Juggernaut(ジャガーノート) Over(オーバー) Soul(ソウル)!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、ドライグが周囲一帯を紅き輝きで照らし出した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ぬぅっ! これは!?』

 

思わず声を上げるシャルバ。昴を中心に眩い程に一帯を照らした紅き光がやがて、収まると…。

 

「っ!? これが…」

 

訪れた変化に昴も驚きの声を上げる。

 

『フッ、それがお前の出した答えか』

 

含みのある笑い声を上げるドライグ。

 

先程まで、神器(セイクリッドギア)から解き放たれ、目の前にいたドライグ。その声が昴の右手…正確には、昴の持つ村雨(・・・・・・)から響いた。

 

『まさか、お前の持つもう1つ神器(セイクリッドギア)英雄の器(ブレイブ・ハート)に、俺の魂を合体…いや、融合させるとはな』

 

禁手(バランス・ブレイカー)によって、昴の身を覆っていた軽鎧は既に解かれ、ドライグの魂が昴の右手に持つ村雨と融合し、新たな形へとその姿を変えていた。

 

『相棒よ、調子はどうだ?』

 

「…ああ、力が湧いてくる。この感覚、禁手(バランス・ブレイカー)とも違う」

 

ドライグと融合した村雨を頭上に翳し、反対の手を握ったり閉じたりする昴。

 

『クックックッ、面白い事を考える』

 

そこへ、刃の声が聞こえ始める。

 

『君の魂ともっとも結び付きの深い村雨に、赤き龍の魂を融合させる事で、恐らく今の君は、赤龍帝としての力を限りなく引き出せるようになっている』

 

「…」

 

神器(セイクリッドギア)は、所有者の想いに応える。君がその赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に何を求めたか。それが、新たに得た力の答えだよ』

 

「ほう」

 

刃の解説に、唸り声を上げる昴。

 

『フン、何が起きたかと思えば…』

 

「…」

 

そこへ、一連の現象を目の当たりにしていたシャルバが口を挟む。

 

『それがいったい何だと言うのだ? 以前に見たヴァーリの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)からは、膨大なオーラを感じ取れたが、今の貴様からは欠片も感じん。そんなこけおどしにもならん変化が起きた所で、私には――』

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

言い切る前に、突如として、シャルバの左腕の1本が飛んだ。

 

『っ!? うがぁっ!!!』

 

自身の左腕が斬り飛ばされ、驚愕の声を上げるシャルバ。

 

『…っ』

 

その時、シャルバの前方にいたはずの昴の姿がない事に気付く。

 

『っ!?』

 

周囲を見渡し、ハッと振り返ると、そこに昴がいた。

 

『何故だ…、我が下僕の蠅による陣を突破出来るはずが…!』

 

シャルバの使役する蠅は、攻防一帯であり、例え、シャルバ自身が感知、認識が出来なかったとしても、自らの意志でシャルバを命を懸けて守る。先程まで、昴はその蠅達の包囲網を全く突破出来なかった。

 

『話は聞いていただろう? 今の相棒は、赤龍帝としての力を限りなく引き出せると。それは、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)とて、例外ではない』

 

『っ!?』

 

『正確には、本来なら覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を発動させなければ引き出せない力であっても今のこ奴は引き出せる。何処まで引き出せるか、何処まで力を伸ばせるかは今後のこ奴次第だがな』

 

「ありがたい限りだ。正直、従来の禁手(バランス・ブレイカー)は、率直に、俺の戦闘スタイルに合わない。ドライグに鎧を調整してもらったが、それでもな。だがこれなら、俺の理想の戦い方を追求出来る」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)において、これを近接戦闘に長けた者が使用する場合、戦い方として、相手が何か仕掛ける前に先手必勝で押し潰すか、やられる前に押し潰すかが適している。だが、これはテクニックタイプの昴には適さない戦い方。昴は可能な限り、自身の戦闘スタイルに添えるよう工夫を施してはいたが、それでも反映はし切れず、曹操にそこを突かれてしまった。だが、この形態は、昴の戦闘スタイルを完全に反映する事が出来る。

 

「さしずめ、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)英雄(・ブレイブ)二重奏(・デュオ)。とでも名付けるか?」

 

『フッ、悪くないネーミングだ』

 

新たな形態のネーミングに、ドライグは満足気に頷いた。

 

『おのれぇ!!!』

 

激昂したシャルバが蠅を操り、昴に差し向ける。

 

 

――フッ…。

 

 

蠅が昴を捉える直前、昴の姿が消え失せる。

 

『見えているぞ!』

 

後ろに振り向いたシャルバ。そこに昴はおり、すぐさま蠅を差し向ける。しかし…。

 

『っ!?』

 

蠅は、昴を貫いたのと同時に蜃気楼のようにフッと消え失せる。そこから昴は高速移動を繰り返しながらシャルバの周囲を飛び回った。

 

『ぐっ…!?』

 

戸惑いの声を上げるシャルバ。シャルバの視界には昴の姿が複数に映っている。あまりに昴が速過ぎる為、動くたびに残像が残ってしまう為だ。如何に蠅を操ろうとも、貫くのは昴の残像。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は圧倒的な力の権化とも呼べる代物だ。この形態はその圧倒的な力をスピードにも変換出来る。あの圧倒的な力をスピードに変換したこ奴は、もはや貴様の蠅如きでは触れる事すら叶わん』

 

『ほざけぇ!!!』

 

叫ぶのと同時にシャルバが右腕を振るう。すると、さらなる蠅が出現した。それだけではなく…。

 

『ならばこちらも本気を出してやろう。蠅の数も、操るスピードもこれまでの2倍だ! 避けられるものなら避けてみろ!』

 

数もスピードも倍となった蠅が昴を襲う。

 

「っと」

 

自身に迫る蠅を、高速移動でかわす昴。だが、移動した直後、すぐに別の蠅の大群が襲い掛かる。

 

『ハッハッハッ! いつまで逃げ切れるかな!』

 

勝ち誇ったかのように笑い声を上げるシャルバ。

 

シャルバは、視界に映る残像全てに蠅で攻撃を仕掛けた。圧倒的な蠅による数の暴力で昴を追い詰めようとする。

 

「……そう来たか。だったら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――こっちもスピードを上げようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう昴が呟くと、残像の数が倍以上に増えた。

 

『なっ!?』

 

驚愕の声を上げるシャルバ。最高速と思われた所からさらに速度が上がったからだ。

 

「慣らし運転はもう充分だ。そろそろ行かせてもらうぜ」

 

 

――バチィ!!!

 

 

昴の言葉と同時にシャルバの背後から何かが弾ける音が響く。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

次の瞬間、シャルバの右腕の1本が斬り裂かれた。

 

『ぐぅ!』

 

苦悶の声を上げるシャルバ。今の一刀。シャルバは視認はおろか、感知すら出来なかった。自身の背中からの攻撃を蠅に要警戒させた為、一瞬、昴の一撃を止める事が出来、直撃を防げたのだ。

 

『っ!?』

 

前後左右、キョロキョロと視線を動かすシャルバ。シャルバを包囲するかのように残像が君臨している為、もはやシャルバでは昴の姿を捉える事が出来ない。

 

「どうした? 自慢の蠅が止まって見えるぞ」

 

残像を残しながらシャルバの周囲を飛び回る昴が煽るように告げる。

 

『っ!? 貴様ら二天龍は、何処まで私を愚弄すれば…! ならば!』

 

シャルバが右手を翳すと、蠅の動きが変わる。

 

「むっ?」

 

蠅の動きの変化に、思わず昴が唸り声を上げる。これまで、直接昴に差し向けていた蠅を、今度は昴の動きを制限、妨害、そして包囲するよう操り始めたのだ。動きが徐々に制限されるにつれ、残像が出現する範囲が狭まっていく。やがて…。

 

「…」

 

『ハッハッハッ! 捕まえたぞ』

 

笑い声を上げるシャルバ。蠅の包囲網は遂に、昴の半径数メートルにまで狭まり、もはや飛び回る事はおろか、逃げ道すらなくなっていた。

 

『スピードアップしたくらいで調子に乗りよって。どれだけスピードアップしようとも、私の手にかかれば、見ての通りだ』

 

万を遙かに超える蠅の包囲網が完成し、優越感に浸るシャルバ。

 

『私の使役する全ての蠅による一斉攻撃。もはや、貴様と言う存在は影も形も残らんだろう』

 

「…」

 

『今度こそ終わりだ! …食らい尽くせ、我が下僕共よぉっ!!!』

 

合図と同時に包囲網を作った蠅が一斉に昴に襲い掛かる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおーーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蠅が一斉に襲い掛かると、昴は村雨を振るいまくり、蠅を次々と細切れにしていく。村雨を振るう毎に蠅の数は確実に減っていく。やがて、最後の一振りで、昴を包囲していた蠅は全て、細切れとなった。

 

『バカな…、あり得ぬ、あり得ぬぅっ!!!』

 

状況を受け入れられず、発狂しながら後ずさるシャルバ。

 

「これで終わりだ」

 

『っ!?』

 

背後から声が聞こえ、振り返ると、そこには村雨を上段に構えた昴の姿があった。

 

「消えろ、シャルバ。その醜い容姿と憎しみと共に」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

上段に構えた村雨を振り下ろし、シャルバは肩口から腰元にかけて斬り裂かれ、真っ二つとなった。

 

『ガハッ! まさか、下等なトカゲごときに…この私が…!』

 

致命的なダメージを負ったシャルバ。

 

『ただ…では、死なん。貴様…だけでも…!』

 

「っ!?」

 

シャルバが叫ぶと、斬り落とされた腕が動き出し、昴に掌を向けると、そこから1匹の蠅が撃ち出された。

 

「ふん」

 

昴はその蠅を叩き落とすべく、村雨を振るった。

 

「…っ」

 

しかし、身体の反応が鈍く、村雨を握る右腕が動かなかった。

 

サマエルの呪いで身体は蝕み、さらに視力を失った状態で最上級死神プルートとの戦いに、シャルバとの戦い。戦いで受けたダメージと、さらなる力の覚醒。ここに来て、遂に身体に限界が来てしまったのだ。

 

「ちっ!」

 

仕方なく、昴は辛うじて動く左腕で迫る蠅を防いだ。

 

「ガハッ!!!」

 

蠅が左腕に直撃すると、昴は吐血をした。

 

「こ…れは…!」

 

左腕から激痛、寒気、倦怠感が昴の全身に駆け抜ける。

 

『クククッ…、今の蠅は特別性…でな。ハーデス…より、借り…受けた、サマエルの血を…媒体に産み出したものだ』

 

含み笑いをしながら喋るシャルバ。その身体は、少しずつ朽ち始めていた。

 

「…っ」

 

『貴様はすで…に、サマエル…の呪いに…蝕ま…れている。そんなじょう…たいで、サマエルの…血を、その身に…受ければ、ヴァーリ…程、魔力の…ない、貴様…では、もはや耐え…られん』

 

「…っ、ゴホッ!」

 

加速する激痛によって、さらに血を吐き出す昴。

 

『クククッ、す…でに、賽は…投げられ…た。もはや、誰…にも、止め…られん。結果…が、見られ…のが、残念…だが…』

 

着実に、崩壊していくシャルバの身体。

 

『間も…なく、きさ…まも、死ぬ。残り…わず…かな時間。精々、ぜ…つぼうするのだな。…フフッ、貴様は、いったい、ど…んな顔…して、死に行く――』

 

言い切るより前に、シャルバの身体は朽ちていった。

 

「ハァ…ハァ…」

 

シャルバが消えると、昴は呼吸を乱しながら膝を付いてしまう。

 

『おい、しっかりしろ!』

 

苦しむ昴に、ドライグが必死に声を掛ける。

 

「…ああ、まだ、倒れる訳には、いかない…!」

 

サマエルの呪いが蝕む身体に鞭を打ち、膝に手を置き、立ち上がった昴は、ノロノロとオーフィスの下へ足を進める。

 

「大丈夫か? …ってのを聞くのは野暮か」

 

オーフィスを拘束する縄を解く。

 

「…昴。何故、我を助けに来た?」

 

「俺のいない時に、アーシアとイリナを助けてくれた。それに、約束しただろ?」

 

「約束?」

 

「一緒に、遊園地に行くって」

 

つい先日、2人で公園に寄った際交わした、他愛のない約束。

 

「その為に…」

 

「ああ」

 

激痛が身体を走る中、無理やり笑顔を作る昴。

 

「さあ、帰ろう、俺の家に」

 

オーフィスに手を差し出す昴。

 

「…」

 

「それとも、このまま次元の狭間に残るか?」

 

オーフィスは、暫し、差し出された昴の手を見つめた後…。

 

「我も帰る。昴の家に」

 

その手を、オーフィスは取った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

崩壊していくフィールド…。

 

残った足場を、昴は、オーフィスの手を引きながら、ゆっくりと歩いていた。

 

「…っ」

 

その時、昴の足から力が抜け、前のめりに倒れてしまう。

 

『しっかりしろ相棒! 後少し頑張れば、アザゼルと合流した白いのが、龍門(ドラゴン・ゲート)を開いて俺達を呼び出してくれる。それまで頑張るんだ!』

 

必死に問い掛けるドライグ。

 

「……昴?」

 

倒れた昴を起こそうと仰向けにするオーフィス。しかし…。

 

「…」

 

昴の瞳から、着実に光が消え失せようとしていた。

 

「(ドライグが何か、言っているみたいだが、聞き取れない…)」

 

もはや昴には、返事をする事も出来なかった。

 

「(何も感じない。さっきまで、身体のあちこちに走っていた痛みすら感じない。…どうやら、俺の最後が、近いみたいだな)」

 

少しずつ五感が無くなってきている事を実感する昴。

 

「(一生の内に、3回も死を経験する事になるとはな。…皮肉な話だ)」

 

自嘲気味に胸中で苦笑する昴。

 

 

――昴!!!

 

 

「…っ」

 

その時、昴の頭の中に思い浮かんだのは、昴を愛し、昴が愛した最愛の主であり、女性であるリアスの声。

 

「(まだ…死ぬ訳には行かない。俺の中に残った僅かな魔力。これでせめて彼女に…)」

 

昴は、最後の気力を振り絞り、残った魔力を練った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「よし、召喚用の魔方陣の用意は出来た。…龍門(ドラゴン・ゲート)を開くぞ」

 

フィールドから脱出をしたリアス達は、アザゼルと合流し、中級悪魔の昇格試験センターの転移魔方陣があるフロアに集結し、そこでドラゴンを呼び出す儀式…つまりは、昴を呼び寄せる為、龍門(ドラゴン・ゲート)を開く準備に取り掛かった。魔方陣の周囲には、リアス達を始め、サマエルの呪いを受けて苦しむヴァ―リと、急遽呼び寄せたタンニーンとティアマットの姿もあった。

 

現在、冥界は魔獣達の襲来によって、混乱を極めている状況であり、悪魔を始め、三大勢力が対応に当たっているが、手を焼かされていた。

 

「スバルさん…」

 

胸の前で両手を組み、祈るようにその名を呼ぶアーシア。

 

「――繋がった! 始めるぞ!」

 

同時に魔方陣が光り出すと、それに呼応するようにヴァーリの身体が白く、タンニーンの身体は紫、ティアマットの身体は青色に光り出した。

 

眩い程の光がフロア全体に広がり、やがて、少しずつ収まった。

 

『昴(さん)(くん)!!!』

 

魔方陣の中央に、皆が待ち望んでいた昴の姿が現れた。

 

「待っていたわ!」

 

「ご無事で何よりです…!」

 

歓喜する朱乃と、涙を浮かべるアーシア。

 

『…』

 

「シャルバは仕留めたのか?」

 

「オーフィスはどうした?」

 

ヴァーリとアザゼルが尋ねる。

 

『…』

 

しかし、昴は依然として一言も喋らず、一点を見つめていた。

 

「……先輩?」

 

様子がおかしい事に気付いた小猫がおずおずと尋ねる。

 

『…』

 

尚も言葉を発しない昴。

 

 

――スッ…。

 

 

昴がゆっくりと歩き始める。

 

『?』

 

その様子を、誰もが固唾を飲んで見つめていた。

 

やがて、リアスの前に辿り着くと、昴はゆっくりと何かを握った右手をリアスに差し出した。

 

「…っ」

 

何かを悟ったリアスが、震わせながら導かれるように両手を前に出す。ゆっくりと昴が両手を開くと…。

 

「っ!?」

 

リアスの両目が見開かれる。リアスの両の掌の中に、8つの兵士(ポーン)悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が納まっていた。これは、昴を自身の眷属にする為にリアスが与えた駒。

 

「…っ!」

 

震えながらゆっくりと視線を両の掌から昴に移す。そこには、悲し気な表情をした昴が…。

 

「――――」

 

その昴がゆっくりと口を動かし、何かをリアスに発する。

 

「昴!!!」

 

慌ててリアスが昴に手を伸ばし、抱きしめようとする。しかし…。

 

 

――昴の姿は、まるで陽炎のごとく、消え行き、その手が、昴を抱きしめる事はなかった…。

 

 

「う…そ…」

 

全てを悟った朱乃が茫然とした表情で崩れ落ちるようにその場で両膝を付く。

 

「スバルさん? …えっ?」

 

状況を理解出来ないアーシア。

 

「そんな…」

 

「いやぁ…」

 

小猫とレイヴェルが、嗚咽を漏らす。

 

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

 

木場は、その場で両膝を突き、涙を流しながら地面を力強く叩き、絶叫した。

 

「嘘よ…、だって…!」

 

昴を抱きしめる事が出来ず、倒れ込んだリアス。

 

 

――ごめんな。

 

 

最後、昴がリアスに語り掛けた言葉。それは、リアスが先日、リアスが見た夢で昴が告げたのと同じ言葉。

 

「約束…したじゃない…!」

 

リアスの瞳から、とめどなく涙が溢れたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その日、世界は英雄を失った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)英雄(・ブレイブ)二重奏(・デュオ)…。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の新形態であり、神器(セイクリッドギア)から解放されたドライグの魂を英雄の器(ブレイブ・ハート)に融合させた形態。赤龍帝としての力を全て引き出せる状態であり、その力を破壊だけではなく、スピードに変換したりも出来る。

イメージは、文章中の言葉通り、某シャーマンキングの憑依合体から着想しており、能力のイメージは、某オサレ漫画の天鎖斬月から着想しております。

ヴァーリのと同様、伸びしろがあり、覇龍の危険性を可能な限り省かれてある(厳密にはあるにはあるが、その危険性は全て、ブレイブ・ハートが引き受けており、ブレイブ・ハートは不滅なので、実質ノーリスク)。

ただし、体力の消耗だけはどうにもならないが、これまでは、蛇口を全開か閉めるかしか出来なかったが、この形態はその辺の調節が利き、必要な時に必要な分だけ力を行使出来るので、不要な体力の消耗を抑える事が出来ます。

…さて、これで第11章も終わり、次話から新章に突入する訳ですが…。そこがこの二次のターニングポイントなんですよね…(;^ω^)

当初のプロット通りに話を進めるか、新たに練り上げたプロット通りに進めるか。前者は原作を主軸に、後者はオリジナル展開となり、今の時点で、後者を進みたいのですが、原作で以降に出て来るはずのキャラが出しづらくなるのと、1番の懸念点はシンプルにエタリそうってのが挙げられます…(>_<)

さて、どうしょうかな…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!
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