――バーン! バーン!
この日、ついに球技大会が開催された。
午前中にクラス対抗戦や男女別の種目を行い、昼食後に部活動対抗戦だ。
ちなみに部活動の対抗戦はドッジボールを行うことになった。部長がピースサインをしながら教えてくれた。
「おくらいなさい! 支取流スピンボール!」
「甘いわ! グレモリー流カウンターをくらいなさい!」
現在、テニスコートで部長と会長がテニスの試合をしている。それはもう壮絶な試合を…。
ボールが途中で軌道を変えたり、加速したり、とんでもないことになっている。
――大丈夫なのか…?
周囲を見渡すと、観客は『魔球だ!』などと騒いでいる。というか、大抵の奴が2人のテニスウェアに鼻の下を伸ばしているようだ。
…大丈夫そうだな。
試合は、双方のラケットが壊れ、同時優勝になった。
いやいや、ありえないっしょ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
午後になり、ついに部活動対抗戦が始まった。
現在、グラウンドに出てドッジボールが行われているわけなのだが…。
「死ねぇぇぇぇっ!」
「奴を殺せぇぇぇぇっ!」
………何故だ?
さっきから俺ばかり……というか、俺にしかボールを投げてこない。
「貴様ばかり貴様ばかり貴様ばかり!」
「リア充ぅ滅べぇぇぇぇっ!」
皆血の涙を流しながら俺に力一杯ボールを投擲する。
「やれやれ…」
――パシッ!!!
ボールをキャッチ。
「ふん!」
――バチィッ!!!
「あべし!」
ぶつけ返す。
「ぶほっ!」
「たぶらわ!」
「りち!」
次々ぶつけていく。
「くそっ! だったら!」
俺にぶつけるのは無理と判断したのか、標的を変え、木場へとボールを放った。当の木場は…。
「あっ!?」
遠い目をしていた。明らかにボーっとしている。
「ああもう!」
俺は木場のもとまでダッシュし…。
――バチィッ!!!
ワンハンドキャッチでボールを掴んだ。
「あ、昴君?」
「ボーっとするな……ての!」
――ブォン!!!
「あわびゅっ!」
また1人散っていった。
その後も順調に勝ち進んでいった……のだが、木場は相変わらずボケッとしていた。基本的に俺がフォローにまわっていたので何とかなったが、木場は部長の注意を受けてもどうでもよさそうな表情を浮かべていた。
結局、球技大会は俺達オカルト研の優勝で終わった。
※ ※ ※
――ザーッ!!!
球技大会が終了に近づくにつれ、天候がどんどん悪くなっていき、大会終了と同時についに大雨が降りだした。
――パン!!!
乾いた音が部室に響く。部長が木場の頬を張ったのだ。
「どう? 少しは目が覚めたかしら」
部長からは怒気が溢れている。
だが、頬を張られた当の本人はまったくの無表情だ。
「もういいですか? 球技大会も終わりました。夜の時間まで休ませてもらってもいいですよね? 少し疲れましたので普段の部活は休ませてください。昼間は申し訳ございませんでした。それでは失礼します」
木場がそれだけ告げて俺達の横を抜けていく。
「木場」
横を抜けていく木場に俺が声を掛けた。木場は無言でその場にピタリと足を止めた。
「お前のその復讐は何のためにある? 自分のためか? 仲間のためか?」
「っ!?」
俺の言葉に木場は身体を一瞬震わせる。俺から復讐なんて言葉が出るとは思わなかったのだろう。
「……君には関係ないことだよ」
「そうだな。…けどな、俺にとってお前は仲間だ。俺には関係ある」
「…」
「木場、何のために復讐を果たすのか……、曇った眼で復讐を果たしても誰も報われないぞ。一度よく考えて…」
――キィン…。
俺の顔スレスレに木場が創造した魔剣が向けられた。
「裕斗! やめなさい!」
部長が慌てて止めに入ろうとしたが、俺はそれを手で制した。
「これは忠告だよ。これ以上知った風な口を利くなら、僕は君と言えど斬る」
木場が殺気をぶつけながら俺を睨み付けた。
聞く耳持たずか…。
「僕は復讐のために生きている。聖剣エクスカリバー…。それを破壊するのが僕の生きる意味だ」
木場は俺にそう告げると、魔剣を霧散させ、扉の方に歩いていった。
「木場、今のお前は1人じゃない。お前には仲間がいる。これだけは覚えておけ」
「…」
木場は一瞬だけ足を止め、そのまま部室を出ていった。
「バカ野郎…」
俺はポツリと呟いた。
※ ※ ※
その後、部長から木場のことを聞いた。
かつて、人為的に聖剣を扱える者を育てる計画があった。それは聖剣計画と呼ばれていたという。
木場はその計画の被験者の1人であり、来る日も来る日も非人道的な実験を強いられ、最後には、適応できなかったというだけで他の被験者共々『不良品』と決め付けられ処分されたという。
その後、瀕死になりながら1人逃げ出したところに部長と出会い、部長の眷属になった。
その話を聞いてアーシアは相当なショックを受けていた。
部長も、聖剣に狂わされたその才能を悪魔として有意義に使ってほしかったと嘆いていた。
俺はベッドで横になりながら1人思考していた。
「深いな…」
木場の業はあまりにも深い。
人生を狂わされ、仲間を殺された。聖剣に対する業が深すぎる。
――忘れろ…。
そうしろという方が無理があるだろう。
今のあいつにいくら正論を語ろうと同情を向けようと無駄だろう。
正直、現段階ではどうにもならない。何とかしてやりたいと思うが…。
「ううん…」
部長が俺の胸にもたれかかる。
「むにゃ…」
反対側からアーシアが俺の胸にもたれかかる。
「…はぁ」
俺の両腕には現在、部長とアーシアが眠っている。どうしてこうなったかと言うと…。
俺がベッドで寝ていた→部長がベッドに乱入→「昴と一緒に寝たいわ」→アーシアが乱入→「私もスバルさんと一緒に寝たいです!」→「「どっちと一緒に寝るの!?」」→「喧嘩の種になるならどっちとも寝ない」→「「じゃあ一緒に3人で寝ましょう!」」
「どうしてこうなった」
俺は2人の柔らかい肌と甘美な香りに包まれながら眠れない夜を過ごした。
結局、何も考えつかなかった。………はぁ。
※ ※ ※
翌日…。
俺は木場のことをずっと考えていた。どうすれば木場の心を救えるのか。授業そっちのけでずっと考えていたのだが…。
「やっぱり、そのエクスカリバーと向き合わない限り、解決はできないな」
俺は部室のソファーに寝そべりながら1人呟いた。
ただ聖剣なんてそこらに転がっている代物ではない。エクスカリバーとなれば、尚更だろう。
どうするか…。
――キィ…。
「あら、昴君。早いのね」
朱乃さんが部室へと入ってきた。
「ええ、ちょっと…」
俺はソファーから身体を起こし、ソファーに座りなおした。
「…」
俺が手を組み、再び考え事をしていると…。
――スッ…。
朱乃さんが目の前のテーブルにそっと紅茶を置いてくれた。
「どうも」
俺はカップを取り、一口いただいた。
うん、美味しい。
「考え事をしているんですか?」
朱乃さんが俺の横に座り、いつものニコニコ顔ではなく、真顔で尋ねてきた。
「…はい」
俺は部長から木場の事情を聞いたことを朱乃さんに話した。
「木場を憎しみという闇から解き放ってやりたい。でも、今の俺にできることが見つからない。…八方塞がりですよ」
俺はハハハッと笑って見せた。朱乃さんはそんな俺をそっと抱きしめた。
「っ! 朱乃さん?」
「…1人で抱え込まないで。昴君までそんな暗い顔してしまったら、私まで悲しくなってしまいますわ」
朱乃さんはさらに抱きしめる力を強くした。
「朱乃さん…」
「あの子の問題は簡単に解決できることではありません。もしかしたら、とてもとても長い年月が必要かもしれません。ですから、あの子を信じて、ゆっくり待ちましょう。憎しみが晴れ、あの子が新たな道を歩めるその日を」
朱乃さんは俺の頭を胸で抱き、優しく俺の後頭部を撫で始めた。
それが1番なのはわかってる。けど、今の木場はとても危うい。きっかけ1つで壊れてしまうほどに。もしそうなれば、部長も皆もとても悲しむことになる。
だが俺には…付き合いが浅い俺にできることはない。悔しいが、今は木場が乗り越えるのを祈るしかない。そう信じるしか…。
――フニュン…。
「…」
さっきから俺は朱乃さんの豊満な胸に顔を埋めてるわけなんだが…。
「あの……朱乃さん」
「どうしました?」
「そろそろ離れてくれると……その……当たってるんで…」
俺がもぞもぞっと何とか顔を上げた。
すると、朱乃さんは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「うふふ。いつもはとても頼もしくて、歳不相応に大人びてる昴君のこんなにも可愛らしい顔を見てしまったら、疼いてしまいましたわ」
…………え?
「昴君、私と浮気してみない?」
「浮気……ですか?」
俺はおそるおそる聞き返した。
「これから起こることは部長にもアーシアちゃんにも内緒にしてあげますわ。うふふ。なんだか身体が火照ってきましたわ」
「いや、それは…」
「経験豊富な昴君がリードしてくれると嬉しいわ」
「一旦落ち着きましょう、朱乃さん!」
「あらあら。部長から毎晩すごいご褒美をもらっているのでしょう?」
すごいご褒美って…。
「いやいや、部長とは何もありませんよ!」
清く正しく一緒にベッドで寝ています! これもおかしな話だが…。
「あら、そうなの? どちらも奥手なのですわね…。それでは私が最初に手を出すわけにはいきませんわね」
そう呟くと朱乃さんが俺からそっと身体を離した。
ふう~、心臓に悪い。
安心したのも束の間。
「…(ブルッ!)」
突如、俺の背筋に寒気がした。おそるおそる後ろに振り返ると…。
「…」
目元を引きつらせた部長のお姿が。
「朱乃。これはいったいどういうことかしら?」
あきらかに不機嫌そうな声を発しながらこちらへ近づいてくる。
「うふふ。可愛い後輩とのスキンシップですわ」
朱乃さんは特に悪びれる様子をなく、淡々と答えた。
「…そう。スキンシップにしては些か過激すぎることをしようとした風に見えたのだけど?」
うわ~。これ絶対怒ってるよ。
部長と朱乃さんの睨み合いをしている。何とも言えない緊張感が部室を支配する。
「…(キッ!)」
「…(ビクッ!)」
部長が俺をキッと睨む。俺は蛇に睨まれた蛙のように竦みあがった。
「勝手になさい!」
――ビシャ!!!
部長は頬を膨らませると、踵を返し、荒々しく扉を閉めて出てってしまった。
「あらあら」
朱乃さんは変わらずニコニコ顔だ。
はぁ…帰ったらどうしよう…。
※ ※ ※
その後、表の部活動で再び部長と顔合わせをしたのだが、部長は口を利いてくれないどころか目を合わせてくれなかった。結局気まずいまま帰宅となった。
帰り道…。
「はぁ…」
俺は深く溜め息を吐いた。
「部長さんと何かあったんですか?」
一緒に帰宅しているアーシアが心配そうに尋ねた。
「うん? …ちょっとな。俺が部長を怒らせちゃってね」
「そうなんですか? …もしかして、私のせいですか?」
アーシアがショボンとした表情で言う。俺はアーシアの頭を撫でながらそれを否定した。
「違う違う。悪いのは俺だよ。だからアーシアは何も心配しなくてもいいよ」
そうアーシアに告げた。
実際悪いのは俺だしな。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
それから、アーシアと話をしながら自宅へと向かっていった。とある路地を曲がったところで俺は徐に足を止めた。
「…」
「どうしたんですか?」
アーシアが訝しげに俺に尋ねる。
「…………あっ」
俺はポンと自分の手を打った。
「しまったな~、醤油を切らしてたのすっかり忘れてたよ」
「そうなんですか?」
「あれないと夕飯作れないな。買ってこないと」
「でしたら私が買ってきますから、スバルさんは先に帰っていてください」
「頼めるか?」
「はい。任せてください!」
アーシアは両拳をガッツポーズのようにして頼まれてくれた。
「悪いな。それじゃあ頼む」
俺は財布をアーシアに渡した。
「買うなら商店街のドラッグストアーで頼む。今日はポイント2倍の日なんだ」
「わかりました。それではいってきます!」
アーシアは財布を受け取ると、駆け足で商店街に向かっていった。
「気を付けてなー」
俺はアーシアが見えなくなるまで見送ると…。
「さてと…」
俺は自宅へと向かった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「…」
俺は自宅までただただ歩を進めていった。自宅までの最後の路地を曲がり、そのまま直進すると、俺の家が見えてきた。
「…ちっ」
やはり、気のせいではなかったか。
俺の家の前に2つの人影が見えてきた。その人影は2つとも白いローブのような物を纏っており、さらにフードを被っているため、顔は窺い知れない。ただ、あれはセールスだの宅急便などという輩ではない。この身体に伝わる悪寒は…。
「エクソシストか…」
この気配は悪魔や堕天使ではなく、人間だ。なら、自ずとエクソシストに搾られる。
俺は2人の近くまで歩を進めていき、声を掛けた。
「人の家の前で何か用か?」
2人は俺が声を掛けるとこちらへ振り返った。
「あら? 家主が帰ってきたみたいね」
「おや? もう1人いた気がしたが、気のせいだったか?」
2人は特に驚いた様子はなく、平然とそう言った。
この声、女か?
「こちらのお宅に、この辺りを縄張りにしている上級悪魔である、リアス・グレモリーが住んでいると聞いてね」
「失礼ながら、ここで待たせてもらいました。何時ごろ帰ってきますか?」
……狙いは部長か?
「さあな」
とりあえず、教えてやる義理はない。
「…」
「…」
「…」
三者はそのまま黙り込んだ。しばらく黙り込んでいると、相手の1人がふうっと大きな溜め息を吐いた。
「そう警戒しないでくれ。今日は君達を討滅しに来たわけではないんだ。純粋に用があるだけだよ」
「…」
…確かに、敵意や殺気はないが、それでも相手の目的がわかるまでは油断はできない。何しろ、相手は悪魔の仇敵なんだからな。
「教会側の人間が家の前で待ち伏せしていれば、警戒するなと言う方が無理な話でしょ? 今日はどのみち挨拶するだけのつもりだったんだから、日を改めましょう? ごめんなさいね。それでは失礼するわ」
もう1人がそう言うと、2人は俺の横を抜け、何処かへ歩いて行った。俺は、横を抜ける瞬間に…。
「あんたら、随分物騒な物を持ち歩いているんだな」
2人に問いかけた。2人は歩みを止めると、俺に振り返った。
俺に突き刺さる悪寒は、2人からよりも、2人の持っている物から感じる。それは十字架や聖水の比じゃない。悪魔にとっては致命的な何かを持っているんだろう。
「おや? 魔力は抑えていたんだが、やはり悪魔にはわかってしまうようだな」
1人が厳重に包帯で巻かれた長い物体を俺に見せてきた。
あれだ。あれからとめどない悪寒を感じる。
「これは君達悪魔の天敵中の天敵………聖剣さ」
そいつはうっすらと笑みを見せた。
――これが聖剣なのか…。
俺は初めて聖剣と相対したのだった……。
続く