授業参観の翌日の放課後…。
部長をはじめ、グレモリー眷属は旧校舎の1階にある通称、『開かずの教室』の前に来ていた。
この部屋は厳重に閉められており、外から中を覗き見ることもできない。至るところに『KEEP OUT!!』のテープが張られている。
部長によると、この部屋にグレモリー眷属の僧侶『ビショップ』がいるのだという。何故この部屋に半ば幽閉状態なのかと言うと、この僧侶『ビショップ』の能力が危険な上に本人が扱いきれないからなんだと。
フェニックスとの一戦とコカビエルとの激闘が四大魔王をはじめ、大公アガレス家、後お偉い様方に高評価を得ることになり、今なら扱うことができるだろうということになり、その封印を解くことになった。
僧侶『ビショップ』。以前から話は聞いていたが、ゼノヴィアはもちろん、俺もアーシアもその姿を見た事はない。
正直、深夜には旧校舎内限定で外に出られるとはいえ、窮屈ではないのかな? とも思ったんだが、僧侶『ビショップ』本人はむしろ部屋から出たがらないため、特に不都合はないらしい。
ひきこもりなのか? とも思ったが、何気に稼ぎはグレモリー眷属で一番だと朱乃さんが教えてくれた。パソコンを介して契約を取り続けているらしい。
――ひきこもりの極みだな…。
やがて封印の解除が終わり、扉の解放が可能になった。
「扉を開けるわよ」
部長が扉に手をかけそっと開かれた、その瞬間…。
「イヤァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
耳をつんざくような悲鳴が部屋の中から発せられた。
っ!? 何だ!? 今の悲鳴だよな…。
部長は特に気にする素振りを見せず、朱乃さんは溜め息を1つ吐いて中に入っていった。
その他のメンバーもそれに続いた。
「御機嫌よう。元気そうで何よりだわ」
「な、な、な、何ですかぁ!? 何事なんですかぁぁぁっ!!!」
「あらあら。封印が解けたのですからもうお外に出られるのよ? さあ、私達と一緒に出ましょう?」
「イヤですイヤですぅぅぅぅっ!!! 外に行きたくないですぅぅぅぅっ!!! 人に会いたくないですぅぅぅっ!!!」
中からこんなやりとりが行われている。
部屋の中はカーテンで閉め切られているため薄暗い。だが、部屋の中はとてもかわいらしく装飾がされており、ぬいぐるみもところどころに置いてある。ただ1つ異彩を放っているのが部屋の一角にある洋風の棺桶だ。
さっきの甲高い声といい、僧侶『ビショップ』は女の子なのか?
部屋の奥に進んでいくと、金髪と赤い双眸をした駒王学園の女子の制服に身を包んだ一見してお人形さんような女の子がいた。
「へぇー、この娘がもう1人の僧侶『ビショップ』か」
俺がまじまじと見つめていると、部長から補足が入った。
「一応言っておくけど、この子は男の子よ」
「……マジですか?」
「マジよ」
あらら、男の娘でしたか、現実にいるだな。俺、男の娘って幻想での生き物かと思ってたよ。
ブルブル震えながら部長と朱乃さんから逃げようとする男の娘。俺はとりあえず挨拶をしようと、近づいていくと、俺の姿に驚いたのか…。
「ひぃぃぃっ!!!」
再び甲高い悲鳴をあげた。その時…。
……………………?
俺はへんな感覚に襲われた。言葉に出来ない、へんな感覚に。部長の方を向いてみると…。
「おっ?」
部長の様子がおかしい。いや、部長だけじゃない。全員の様子がおかしい。皆まるで、石にでもなったかのように固まっている。
俺は何が起こったのかが理解できず、キョロキョロしていると、男の娘が四つん這いになって部屋の隅に逃げようとしていた、俺はとりあえず追いかけてみることに。
「おーい」
俺が話かけると男の娘は身体をビクッと震わせた。
「ふぇっ! どどどどどどうして!?」
男の娘はまるで信じられないといった表情をした。
「? ……状況が理解できないんだが、これは君がやったことなのか?」
「ごごごごごめんなさぃぃぃぃぃっ!!! 怒らないで! ぶたないでぇぇぇっ!!!」
男の娘は顔を青くして震え出す。
うーん、話が進まないなぁ。
「昴あなた、どうして…」
後方から声をかけられる。
「あっ、部長」
どうやら部長は妙な現象から復活したようだ。部長だけではなく、他のメンバーも復活している、しかし、アーシアとゼノヴィアを除いたメンバーが驚愕していた。
「いったい、何が起こったんですか?」
俺が説明を求めると、朱乃さんが説明をしてくれた。
この男の娘には停止世界の邪眼(フォービトン・バロール・ビュー)という、視界に映した全ての物体すべてを一定時間停止させる神器を有しているのだという。
聞けば聞くほどえげつない神器だな。部長は俺の倍化や白龍皇の半減も反則だっていうけど、倍化より停止の方が利便性高いと思うけどなぁ…。
『そうはっきり言われると少しおちこむぞ』
ああ、悪いな…それにしても時間停止ねぇ……なるほど、これが制御できないからこの部屋に封じられてたわけか。けど、俺は何とも…。
「あの、俺だけ停止させられてなかったみたいなんですが」
「だから驚いているのよ、あなたに全く影響が出ていないから」
部長のその言葉に先程驚愕していたメンバーが頷く。
「昴君の有する神器が関係しているのでしょうか?」
俺の神器、ブーステッド・ギアとブレイブ・ハートだ。ブレイブ・ハートは多様性はあるが、聖魔剣やデュランダルと違って特に能力はない、強いて言えば頑強なだけだ。となると、ブーステッド・ギア……ドライグが何かしてくれたのか?
『いや、俺は特に何もしていないが…ブーステッド・ギアによるものでもない』
ドライグからはこんな回答が。
うーん、なら、いったいどういうことなんだ………やめた、部長達やドライグにもわかんないなら、俺がここで頭ひねらせても答えは出なさそうだ、それより今は…。
俺は目の前の男の娘に振り返り、両の眼を見据えながら目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「よう、君、名前は?」
「ひぃっ!」
男の娘は身体を震わせて後ずさった、先ほどように無意識に停止結界を発動させるがやっぱり俺には効かず、逃げられなかった。
「昴、この子は――」
部長が代わりに紹介しようとしたが、俺はそれを手で制した。再び、男の娘の目の前にしゃがみ、見据え…。
「名前は?」
俺はできるだけ不安がらせないように優しく努めて尋ねた。男の娘は俺の目をしばらく見つめると、今度はおどおどしながらであるが、自己紹介を始めた。
「ギャ…ギャスパー……ギャスパー・ヴラディ…です」
最後まで聞き終えると俺はニコリと笑顔を浮かべ、ギャスパー・ヴラディの頭を優しく撫でた。
「そうか、よく言えたな」
「あっ…」
ギャスパーはどこか困惑した表情を見せる。
…この子、随分と怯えた目をしているな。察するに、こうならざるを得ない何かがこの子にあったんだろう。その結果、対人恐怖症やひきこもりになってしまったのではないか?
「ギャスパー、俺が怖いか?」
「………(コクリ)」
ギャスパーは戸惑った末に頷いた。
「そうか…お前、随分と辛い目にあってきたんだな。1つ聞く、怖いのはお前にひどいことをする奴か? それとも、停止させてしまう能力を持つ自分にか?」
「…どうして、そう思うんですか?」
「わかるさ。俺はこれでも、いろんな奴を見てきたからな、それで、どっちなんだ?」
俺が再度尋ねると、おそるおそる答えはじめた。
「…両方です」
「なるほど…」
言葉を聞き終えると、俺はそっとギャスパーを抱きしめた。
「っ!?」
ビクッと身体を震わせるギャスパー。
「僕のこと、怖くないんですか?」
「どうしてだ?」
「だって、僕の傍にいると止まっちゃうんですよ? こんな能力なんていらない、もう嫌です!」
再びギャスパーはすすり泣きはじめた。
「…怖くないよ」
「えっ…?」
「俺にはどういうわけか、お前の停止が効かない、怖がる理由がないだろ?」
「あっ…」
「俺は……いや、俺も、ここにいる皆もお前にひどいことはしない。怖がったりしない、お前が怖いって言うなら俺が傍にいてやる、俺が守ってやる、だから…」
ギャスパーから身体を離し、両目を見据え…。
「一緒に外に出ようぜ」
俺は優しく声をかけた。
「…ホントに怖くないですか?」
「怖くないよ」
「ホントに傍にいてくれますか?」
「傍にいるよ」
「ホントに……ホントに……ひぐっ、ひぐっ、うぅぅ…!」
ギャスパーは再び泣き出し、俺に抱きついた。
「よしよし、俺と一緒にお外に出ような」
俺は背中をさすりながら声を掛け続けた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「信じられないわね」
部長が少々戸惑った表情で呟く。
「えへへ//」
男の娘こと、ギャスパーが俺の右腕を抱きながら笑顔を浮かべている。
「あらあら、誰にも懐かなかったこの子がこんなにも懐いてしまうなんて…」
「意外」
「全くだね」
朱乃さんも小猫ちゃんも木場も驚いている。
「俺には停止が効かないっていうアドバンテージがありますからね。つまるところ、それが一番の要因ですから。いくら理解してすり寄っても、そこを越えられない限りこの子は心を開いてくれず前には進めないですよ。同じ目線で手を引いてくれる奴がいれば安心しますからね」
俺はギャスパーの頭を撫でる、ギャスパーは気持ちよさそうな表情になった。
「それにしても、ここまで強力な神器を有した奴をよく僧侶『ビショップ』の駒1つで眷属にできましたね」
確か眷属にするときは、本人の能力や資質に加え、有する神器もその数に影響するはず。停止世界の邪眼(フォービトン・バロール・ビュー)なんて恐ろしく駒を消費しそうな気がするんだがな。
「変異の駒(ミューテーション・ピース)よ」
部長がそう答えてくれた、それが何かを尋ねてみると…。
通常の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)と違い、明らかに複数の駒を要する転生体が1つの駒の消費で済んでしまう特異な駒のことらしく、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のシステムを作りだした際にイレギュラーとして生まれた物らしい。言い方を変えればバグの類の物なのだが、それもまた一興とそのままにしたらしい。上級悪魔の10人に1人の割合で持っているらしい。
「一番の問題はギャスパーの才能なのよ」
ギャスパーはその身に類稀な才能を持っており、それが無意識のうちに神器の力を高めてしまうようで、日々その力が増大しているらしい。
「上の話では、禁手(バランス・ブレイカー)に至る可能性があると言われているわ」
「なるほど」
ただでさえ、強力なこの神器が禁手(バランス・ブレイカー)に至ったら……想像を絶することになりそうだな。
ギャスパーは半分ヴァンパイアの血を引いているとさっき部長が教えてくれた。血とか日光とかその辺は大丈夫なのか聞いてみると、ギャスパーはデイウォーカーと呼ばれる日中活動できるヴァンパイアの血族なため、苦手ではあるが、日光は大丈夫だという。ハーフであるため、血にもそこまで飢えていないらしく、10日一度、輸血用の血液を補充すれば問題ないのだと。
「生臭いの嫌いですぅぅぅ、レバー嫌いですぅぅぅ、血なんて一番嫌いですぅぅぅぅ」
何とも因果なヴァンパイアだな。
「へたれヴァンパイア」
「ぐすん」
小猫ちゃんの容赦ない一言に泣きべそを掻くギャスパー。
「ま、ともかく、神器に関しては制御できないなら制御できるように特訓すればいいだけの話でしょう。俺も特訓に付き合うから一緒に頑張ろうな」
「は、はい! 頑張りますぅぅぅぅ!」
やる気は充分なようだ。
「ギャスパーはあなたに懐いているようだから、ひとまずこの子はあなたに任せるわ。私はこれから朱乃と一緒に三すくみのトップ会談の会場の打ち合わせに行ってくるから戻ってくるまでギャスパーの教育をお願いね」
「はい、任せてください」
会談はこの学校で行うんだもんな、話し合うことは山ほどあるだろう。
「それと裕斗、お兄様があなたの禁手について詳しく知りたいらしいから一緒に来てちょうだい」
「はい、部長」
木場もか。まあ、聖と魔が入り混じった禁手なだけに知りたいこともあるんだろうな。
「アーシアと小猫とゼノヴィアも昴と一緒にギャスパーの教育を手伝ってあげてね」
「わ、わかりました!」
「はい」
「これでも昔から吸血鬼と相対してきたからね、扱いは任せてくれ」
アーシアと小猫ちゃんがいてくれれば心強いな、ゼノヴィアもやる気満々なようだし。
それじゃ、一肌脱いで――。
――クィックィッ。
俺の袖が引かれる、引いているのはギャスパーだ。ギャスパーは上目使いで俺を見つめると…。
「…お兄ちゃんって、呼んでもいいですか?」
と、おずおずと聞いてきた。
――まいったな、これにはどう答えたもんか……。
続く