黒翼を生やした三下の男を返り討ちにしてから一夜が明け、俺は昨日以上の気怠さに悩まされながら1日を過ごした。
そして、やってくる放課後…。
「や。どうも」
そう声を掛けられ、机に突っ伏した身体を起こすと…。
「お~、木場…」
いつもと変わらない爽やかなスマイルを携えた木場祐斗が居た。
「ふわぁ~……要件は…、リアス先輩の使い、で良いのか?」
俺は大きく伸びをしながら質問する。
「話が早くて助かるよ」
「待ちかねたよ。それじゃ、案内頼むわ」
「うん。僕に付いてきて」
俺は席から立ち、木場の後に続いた。
「見て見て! あの2人が並ぶと絵になるわね!」
「木場君×御剣君……ジュル!」
「ううん、御剣君×木場君よ!」
などと女子達が盛り上がっている。
「? 皆は何を騒いでいるんだい?」
「気にするな。というか知らない方がいい。早いとこ案内頼む」
俺は木場の肩を組んで足早に教室の外に向かっていった。
「「「「きゃぁぁぁっ♪」」」」
いかん、油注いでもうた。
※ ※ ※
木場の案内の元、たどり着いた場所は、何となく予想は付いていたが、旧校舎だった。
「ここに部長がいるんだよ」
部長? ……ああ、リアス・グレモリーの事ね…。
俺は2階建ての木造校舎である旧校舎の中へと入っていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
階段を上がり、2階の奥に進むと、とある教室にたどり着く。その教室の戸のプレートには…。
『オカルト研究部』
へぇー、ここが部室なんだ。
「部長、連れてきました」
木場が戸の前で確認を取ると…。
「ええ、入ってちょうだい」
と、中から返事が返ってきた。
今の声はリアス・グレモリーだな。
木場が戸を開け、中に入ると俺もその後に続いて入った。
「…おお」
俺は室内を見渡した。室内はとても薄暗く、床、壁、天井、至る所に何やら奇妙な文字が記され、その中央には巨大な魔方陣があった。
他にはソファーとデスクがいくつか鎮座していた。そのソファーに小柄な女の子が羊羹を食べながら座っていた。
あの子、確か…、1学年下の塔城小猫だな。あの子もこの学校の有名人の1人だから知っている。
「こちら、御剣昴君」
木場が塔城小猫に紹介をすると、彼女はペコリと頭を下げた。
「こんにちは、塔城ちゃん」
俺は手を上げてそう挨拶した。
――シャー…。
部屋の奥から何やら物音が。
この音は、シャワーの音か? 入っているのは、リアス・グレモリーか。
旧校舎ってシャワーも完備してんだな。
…だが、散々、話を引き延ばした挙句、呼ばれて来てみれば……。
俺は、僅かではあるが、リアス・グレモリーに含むものを覚える。
――キュッキュッ…!
水を止める音。
「部長、これを」
「ありがとう、朱乃」
そのような掛け合いが聞こえてきた。
中から2人の気配。リアス・グレモリーとあともう1人。
やがて着替えを終えたリアス・グレモリーがカーテンを開けて出てきた。
「ごめんなさいね。今日は少し汗を掻いてしまったから…」
「いえ、お気になさらず」
リアス・グレモリーと一緒にもう1人、黒い髪をポニーテールに束ねた女性が出てきた。
あの人も知ってる。1つ上の先輩でリアス・グレモリーと並ぶ美しさを持つこの学校の有名人の1人…。
――姫島朱乃…。
松田と元浜は二大お姉さまとかなんとか言ってたっけか。
「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」
と、ニコニコ顔で丁寧に挨拶をしてくれた。
「ご丁寧にありがとうございます。私は御剣昴です。よろしくお願いします」
俺も挨拶を返した。
「これで全員揃ったわね。御剣昴君。いえ、昴、私達、オカルト研究部はあなたを歓迎するわ」
「…」
「――悪魔としてね」
………悪魔?
またとんでもない単語が飛び出したよ、おい…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「粗茶です」
「どうも」
ソファーに案内され、姫島朱乃がお茶を出してくれた。
ズズズ…うん、美味い。
やがて姫島朱乃がリアス・グレモリーの隣に腰をおろし…。
「単刀直入に言うわ。私達は悪魔なの」
「本当に単刀直入ですね。でもまあ、分かりやすくて助かります」
「あまり驚かないのね?」
俺はお茶を一口飲み…。
「ん~、まあ、昨晩に黒い羽生やした変なのに会っちゃいましたし、何より…」
俺はカップをテーブルに置き…。
「リアス先輩達がただの人間じゃないことは分かってましたから」
「「「「!?」」」」
これには、リアス・グレモリーを除く全員が驚いたようだ。
「御剣君、君は僕達が悪魔だと気付いていたのかい?」
「さすがに悪魔とまでは予想外だったが、とりあえず常人とは違う世界に生きているんだろうなあってのは分かってたよ」
「…」
木場はいつものスマイルが曇るほどに呆気にとられていた。
「…何故そう思ったの?」
ん~…と俺はここにいる皆が納得出来るような言葉を探し…。
「まずは匂い…、かな」
「匂い?」
「リアス先輩を含め、特殊な環境に身を置いているような匂いがした。とりあえず、普通に産まれ、普通に育ったならそんな匂いはしない」
皆が黙って俺の言葉に聞き入る。
「後は身のこなし。ここにいる全員それらが優れている、まるで物語やゲームに出てくるような魔物とでも戦ってきたような、ね」
俺はもう1度カップを取り、お茶を飲んだ。
「とまあ、そんな理由です。今は俺の事より、俺の身に起こった事や昨日の奴の事とか聞きたいのですが…」
俺がそう言うとリアス・グレモリーはハッとした表情を浮かべ…。
「え、ええ、そうね。最初に、昨夜あなたを襲ったのは堕天使よ」
堕天使…ね。
「元々は神に仕えていた天使だったんだけれど、邪な感情を持っていため、地獄に落ちてしまった存在。私達、悪魔の敵でもあるわ」
「…なるほど」
そしてリアス・グレモリーから説明がされた。
悪魔は堕天使と太古の昔から争っており、冥界、人間界の言う所の地獄の覇権を巡って争っており、現在では地獄は悪魔と堕天使とで二分化しているのだという。
次にそれぞれの種族について、悪魔は人間と契約して代価をもらい、力を蓄える。一方、堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとしているのだと。
ここに神の命を受けて悪魔と堕天使を問答無用で倒しに来る天使を含めて三すくみの状態で、それを大昔から現在まで繰り広げているらしい。
「…」
とても壮大な話だった。悪魔に堕天使に天使。創造主が言ってたとおり、この世界はスケールが大きかった。
「なるほど…、あなた達の事と昨夜のその堕天使。そしてその関係についても…。次に、俺の身に起こった事を聞きたいんですが」
今までのは半分。もう半分の俺自身の事を尋ねた。
「俺は2日前、確かに死んだ。心臓を貫かれて…。即死でこそなかったが、あの傷、あの出血ではどのみち助からなかったはずだ。なのに生きている。おまけに身体能力から五感までもが向上して…」
「それについてだけど、あの日、私はあの公園で何やら結界が張られた気配を探知したから公園に向かった。けれど、私が公園に着いた時には結界は無く、結界を張った者もいなかった。いたのは心臓を貫かれて倒れていたあなただけ」
「…」
「あの時、昴の言うように、もう死ぬ寸前だった。心臓を貫かれ、あんなにも出血をしていたのだもの。そこで私はあなたの命を救う事を選んだ」
命を救う? 俺はつまりリアス・グレモリーのおかげで生き長らえているのか?
「悪魔としてね。昴、あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。私の下僕として」
……WHAT? いったいどういう…。
――バッ!!!
その瞬間、リアス・グレモリーの背中から黒いコウモリのような翼が生えた。
――バッ!!!
それにつられるように俺の背中から何かが生えた感触が現れた。それはリアス・グレモリーと同じ黒い翼だった。
「…要するに、俺は悪魔となる事で命を救われたという訳ですか?」
「そういう事よ」
「俺の身体の変化も悪魔になった影響という事ですね?」
「そういう事よ」
…なるほど。俺、悪魔になっちゃったわけね。
「改めて紹介するわね。祐斗」
「前にも自己紹介したけど、改めて、僕は木場祐斗、悪魔です。よろしく」
「…1年生。塔城小猫です。よろしくお願いします。…悪魔です」
「3年生、姫島朱乃ですわ。いちおう、研究部の副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」
それぞれが自己紹介をすると、背中からリアス・グレモリー同様、黒い翼が現れた。
「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、昴」
……ははは、俺は非日常に完全に足突っ込んじまったよ。
にしても俺はリアス・グレモリーの眷属、下僕になるわけか。
俺は、リアス・グレモリーに視線を向ける。
見たところ、主としては、まだ、未熟な面はある。前世の俺なら、もう少し、見定めてから判断しただろうが…。
俺がジーッと見つめていると、リアス・グレモリーはニコリと笑みを浮かべる。
…まあいいか、なし崩しになった事だが、彼女には命を救ってもらった恩義もあるし、…何より、彼女の主としての器にも興味がある。悪魔の王の器に…。
俺は右拳を左手で包み込み、片膝を着き…。
「姓は御剣、名は昴。今後ともよろしくお願いします」
俺は臣下の礼を取った。
「あら? それ、確か昔の中国…、確か、三国志の臣下の礼ね。…ふふっ、そう改まらなくてもいいわ。よろしくね」
おっと、昔の癖が…。今は平成だった。
俺は立ち上がり、最後の質問を尋ねた。
「あと最後に、さっきの、結界を張った…俺を殺した奴の正体は分かったんですか?」
俺がそう尋ねるとリアス・グレモリーは顔を曇らせ…。
「それなのだけど、あの後私達であの辺りを一帯を調べたのだけど、何の痕跡も出なかったの」
「つまり何も分からないっていう事ですか?」
「ええ、ごめんなさいね」
「…そうですか」
…まあ仕方ない。俺の死体が見つからない事はあの仮面の奴にもすぐに知られる事だ。そのうちにまた会い見える事になるだろう。その時までじっくり待つか。
俺はもう1度、背中に生えた翼に目をやり…。
――非日常よこんばんわ。また慌ただしい人生(悪魔だから人生はおかしいか?)を駆けますかね。
俺の人間としての道は終点を迎え、新たに悪魔としての道が目の前に広がったのだった。
続く