昴side
俺はカッシュさんの屋敷に引き返している。
話しはカッシュさんから全て聞いた。セラフォルー様とカテレアのことを…。
両者はかつては親友同士であり、四大魔王が死んだのと同時に敵同士になった。そして奸計によりカテレアの妹が死に、両者の絆は引き裂かれた。
セラフォルー様は今でもカテレアのことを想っており、償いをしたがっている。
セラフォルー様とカテレアは、共にカッシュさんと親交が深く、カテレアの妹を交えてよくここに来ていたらしい。
カッシュさんの屋敷を覆うこの結界は、旧四大魔王が張った強固の結界で、もともとはカッシュさんを幽閉するために張ったらしく、俺達が通った入り口以外の場所から侵入することは困難。だが1ケ所、結界の開閉同時に結界が薄くなる場所があるらしく、そこから侵入可能らしい。
そのことを知っているのは、カッシュさんとバロウズさん。それとセラフォルー様とカテレアだけ。
だから2人は入ってこれたらしい。カテレアはそれを利用して陽動を交えて侵入し、セラフォルー様もカテレアがそこを通ってくることを想定し、カテレアと2人きりで話し合うためにアザゼル先生をも欺いて後を追って侵入したらしい。
これが、カッシュさんから聞いた全てだ。
話しを聞いて、俺が引っかかっていたものの正体がわかった。
カテレアと対峙した時のセラフォルー様の目は、これから戦いを臨むもののそれではなかった。
ハナからカテレアと戦うつもりはなかったのだろう。説得をするか、それができなければ…。
「…」
つい先ほど、何かが爆ぜる音がした。一方が攻撃を仕掛けたのだろう。急がないとまずい。
俺は左手にブーステッド・ギアを発現させた。
「禁手化(バランス・ブレイク)!」
『Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!! 』
――カッ!!!
俺がそう唱えるのと同時に俺の身体を赤いオーラが覆い、赤龍帝の軽鎧(ブーステッド・ギア・ライトアーマー)が装着された。
相手は前魔王の末裔。手札を伏せて倒せる相手ではないだろう。ハナから全力で対峙した方が賢明だ。
――ドォン!!!
俺は地を蹴り、一気に加速して進む。
「!?」
先程の音がした場所に到着すると、セラフォルー様は地に伏せ、カテレアが手のひらを向け、大量に魔力を集め始めていた。
「ちっ!」
俺は縮地で飛び込み、セラフォルー様を抱え、カテレアから距離を取った。
「あっ…」
セラフォルー様が目を開ける。
「勝手ながら、救援に来させていただきました」
俺はセラフォルー様に告げ、カテレアに視線を移す。
「赤龍帝。何をしに戻ってきたのですか?」
「いちいち言わなくてもわかるだろう?」
俺は皮肉気に言葉を返した。
「カテレア・レヴィアタン。ここであなたを討たせてもらう」
俺の言葉にカテレアは嘲笑を浮かべた。
「私を討つ? ふふふっ、随分と面白い冗談を言うのですね。愚か者のヴァーリと私は違いますよ?」
「ヴァーリを愚か者と言える程、あなたが優れているとも思えないが?」
「相手を侮り、自身に驕り、その結果、格下のあなたに敗北した。これが愚かでなくて何というのですか?」
「ヴァーリは全力で俺に向かってきた。手札はいくつか伏せていたみたいだがな。あいつは、お前が思っている以上に強いよ」
実際、次やり合うことがあったなら、勝敗がどう転ぶか分からない。
「お喋りはこのくらいでいいだろう? そろそろ始め――」
その時、俺の腕をセラフォルー様が掴んだ。
「ダ……メ…、カテレアちゃんと……戦っちゃ…」
腕を掴んだセラフォルー様が俺の腕から降りた。
「赤龍帝ちゃんは、逃げて…、これは……命令…なんだから…」
そのままヨロヨロとさせながらカテレアに歩み寄っていった。
「カテレアちゃん……償いができるなら、私の――」
――トン…。
「あっ――」
俺はセラフォルー様の首筋に手刀を当て、意識を断った。
「悪いですが、たとえ魔王の命令でもそれは聞けません。あなたの命はあなただけのものではないのですから」
俺は再度セラフォルー様を抱き上げた。
「匙!」
俺は後方から走ってきた匙を呼んだ。
「ハァ……ハァ……おう!」
息絶え絶えの匙に、気絶したセラフォルー様を預けた。
「セラフォルー様を連れて遠くに離れろ」
「お前はどうすんだ?」
セラフォルー様を受け取りながら匙が聞いてくる。
「俺は、ここでカテレアと戦う」
「!? 何言ってんだよ! 相手は旧魔王の末裔なんだぞ!? お前も一緒に――」
「――向こうが大人しく逃がしてくれるわけがないだろ。誰かが殿をしなくちゃならないんだよ。お前じゃ、カテレア相手に1分ともたない。俺がやるしかないんだよ」
「…くそ! 俺はアザゼル先生を連れてくるからよ、何とか生き延びろよ!」
「あぁ。お前も、セラフォルー様が目を覚ましても、絶対引き返してくるなよ」
「分かってるよ!」
匙は一瞬悔しげな表情をしたが、すぐさま状況を受け入れ、来た道を駆け戻っていった。
匙が見えなくなるまで見届けると、再度カテレアに振り返った。
「随分と気前が良いんだな。いいのか? 追わなくて」
俺の問いにカテレアが鼻を鳴らす。
「ノコノコ追撃をすれば後ろから仕掛けるつもりだったのでしょう? 後を追わずとも、しばらくはこの結界の中からは出られません。あなたを殺した後にゆっくり殺せばいいだけのことです」
さすがは旧魔王の末裔、冷静だな。わざと隙を見せて追撃を促してはみたんだがな。
「とはいえ、あまり時間を掛けれないのも事実です。早々に終わらせていただきますよ!」
――ドォン!!!
カテレアがこちらに魔力の弾を撃ちだした。
俺は跳躍してそれを避けた。
村雨を発現させ、その切っ先をカテレアに向け…。
――ドォォォォォォォン!!!
赤龍砲を発射した。
――バチィィィィッ!!!
カテレアは前方に魔方陣を展開し、それを防いだ。
そこそこ力を込めて撃ったんだが、この程度じゃ貫けないか。
――ドォン! ドォン! ドォン…!!!
間髪入れず、カテレアは魔力の弾を連射してきた。
――ドォン! ドォン! ドォン…!!!
俺はそれを赤龍砲で撃ち落とした。赤龍砲と魔力の弾が直撃したことにより、煙が立ち上り、両者共に姿が見えなくなる。
『JET(ジェット)!!』
俺は気配でカテレアの位置を探り、背後からカテレアに村雨を振るった。
――バチィィィィッ!!!
すぐさま俺に気付いたカテレアが防御魔方陣を展開し、斬撃を防いだ。
この程度じゃ、虚を突けないか。視界を奪ってからの背後からに一撃…あまりにもセオリー過ぎたか…。だったら、今度はその魔方陣ごとぶった切ってやる!
俺が村雨に力を込め、魔方陣ごと斬りぬこうとした時!
『上だ!』
俺はドライグの声に反応し、後ろへと飛んだ。
――ドォン!!!
すると、先程俺がいた場所に魔力の弾が降ってきた。
あれは……最初に俺に向けて撃ったやつか?
『気を付けろ。旧魔王レヴィアタンは四大魔王の中でも特に魔力の扱い優れていた。魔力を手足の如く操れるほどの使い手だった。奴も同様だろう』
ドライグから警告が飛ぶ。
「芸術とまで謳われたレヴィアタンの技巧。特別にあなたのお見せしましょう」
カテレアがそう宣言すると同時にカテレアの周囲にソフトボールサイズの魔力の塊が現れた。それはどんどん数が増えていき、100を優に超える程の数まで増えていった。
「1つ1つは大した大きさではありません、ですが…」
魔力の弾の1つが俺に向かってきた。俺は身体を半身にしてそれを避けた。
――ボォン!!!
俺の後方にある大きな木の幹が爆発し、木が転倒した。
「威力はこのとおりです。赤龍帝といえど、連続して喰らったなら、ただではすみませんよ」
カテレアがフッと笑みを浮かべた。
あれ程の威力の魔力の弾をあれだけの数……確かに、まともに喰らったら死ぬな…。
「さあ、踊りなさい! 我が芸術の技で!」
カテレアが指令を出すと、魔力の弾の群れが俺へと襲いかかってきた。
俺は跳躍し、それをかわす。
「その程度で逃げられるとは思わないことね」
カテレアが手を上に翳すと、魔力の弾が俺を追尾するように方向転換した。
「ちっ!」
俺は軽く舌打ちすると、宙に足場を創り、右へと方向転換する。それに合わせて魔力の弾も方向転換する。
「っ!」
左から俺を挟み込むように魔力の弾の群れがやってきた。
くそ! 回避は間に合わねぇ…。
――ボォン!!!
「ぐっ!」
俺は咄嗟に腕をクロスさせ、それを防ぐ。その威力で俺の右腕の籠手が崩壊した。魔力の弾は尚も間髪入れずに襲いかかってくる。
俺は大剣の靖王伝家を発現させ、それを逆手に持って構え、楯替わりにした。
――ボン! ボン! ボン! ボン…!!!
大剣に次々と魔力の弾が直撃していく。
――ドォン!!!
「がっ!」
俺は威力に押され、地面に叩き付けられた。
――ボン! ボン! ボン! ボン…!!!
その後もさらに追い打ちをかけるように魔力の弾が降り注いでくる。10秒ほど降り注いだところでようやくおさまった。
「つぅ…」
俺は靖王伝家を杖替わりにして立ち上がる。
「あれだけの数の魔力を浴びてまだ立ち上がるとは、赤龍帝の名は伊達ではないようですね」
「はっ! この程度、屁でもねぇよ」
と、強がってはみたが、正直余裕ってわけでもない。靖王伝家のおかげでまともな直撃は何とか避けたが、それでも余波で結構削られた。
「…」
カテレア・レヴィアタン……前魔王の末裔ってのは伊達ではないな。俺では相性が悪い。近接戦闘を主とする俺では、この距離はまずい。
近づこうにも、あの魔力の弾のスピードと威力がありすぎて容易に近付けない。仮に近づいても…。
「ふふふっ」
さっきから、カテレアの周囲を魔力の弾がカテレアを守るように高速で旋回している。縮地では大雑把な移動しかできないからあれをかわしながら飛び込むことは困難。かといって、プロモーションできない状態での俺のナチュラルスピードでは掻い潜れない。
赤龍砲を遠距離からぶっ放しても、障壁で防がれるだけだろう。目一杯倍化させれば貫けるだろうが、その隙を与えてくれない。
『八方塞だな』
ドライグから嘆息まじりの声が聞こえてくる。
「んなことはわかってる。…だが、遠は論外、近もダメ。だが、飛び込めなければ勝機はない」
俺は元来近距離を主体とする近中距離戦闘型だ。敵に手が届く距離まで行かなければ真価を発揮できない。
「再アタックだ」
――ドン!!!
俺は右手の籠手を修復すると、腰を落とし、カテレア目掛けて突進した。
「無駄なことを」
カテレアの周囲に再び魔力の弾の群れが現れ、俺に向かってきた。
俺は急停止をし…。
――ドン!!!
大きくバックステップをした。
「アハハッ! 滑稽ですね!」
カテレアは俺の後を追うように魔力の弾に指令を出してきた。
――ザシュッ、ザシュッ…!!!
俺は後退しながら左右の木々を切り倒していった。
――ドトォォォォン!!!
木々は俺の姿を隠すように倒れた。
「鬼ごっこの次はかくれんぼですか? 随分と愉快なことね」
俺は気配を極限までに消し、様子を窺った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
俺は、あらかじめ発現させ、設置しておいた、ブレイブ・ハートの多幻双弓を遠隔操作でオーラの矢を発射した。
基本、俺の周囲5~6メートル以上離れると操作はほとんどできないが、弓の弦を引くだけなら多少距離があっても可能だ。
――バチィィィィッ!!!
「そこですか!」
――ドォン!!!
カテレアはオーラの矢が発射された方向に魔力を撃った。当然、そこには俺はいないため、周辺の木々が吹き飛ぶだけだ。
1~2分程様子を窺ってみたが、カテレアはところ構わず魔力を振りまくばかりだった。
どうやら、美猴や黒歌のような高性能レーダーは持ち合わせていないようだな。なら、やりようはある。
俺は再び発現させ、設置しておいた武器に指令を出す。すると…。
――ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン…!!!
カテレアの上空から無数のオーラの矢が降り注いだ。
「ちぃ、うっとうしい」
空に手を掲げ、その矢を防いだ。
――よし、意識が上を向いた!
俺は両手を地に付け、クラウチングスタートような体勢を取り…。
――ドン!!!
両手足に氣を集め、普段の足に加え、両手も追加し、いつものさらに倍速で縮地を行ってカテレアの懐に飛び込んだ。
「っ!?」
カテレアは俺に気付くも、不意を突かれ、懐への侵入を許した。
「ふっ!」
俺は右拳を握り、一気にカテレアの顔面目掛けて振り抜いた。その拳が当たる……と思ったのだが…。
――バチン…。
「っ!」
カテレアは上体を右に傾け、左手の甲で俺の拳を払った。払ってを今度は俺に向けて振り抜いてきた。
――ドスッ!!!
俺は腕を前でクロスさせて受けた。その手に魔力が込められているのか、かなりの威力が腕越しに伝わってきた。カテレアはさらに身体を回転させ、回し蹴りを繰り出した。
――ゴッ!!!
再度腕に衝撃が伝わり、俺は後方へと弾かれた。
「浅はかですね。魔力を巧みに操る私に接近戦で挑めば活路を見いだせるとでも考えたのでしょうが、私はそんなに甘くはありませんよ? この通り、接近戦も行えます」
「…」
「離れてもダメ、策を巡らせて近づいてもダメ。もう、あなたに勝ち目はありません」
カテレアは勝ち誇ったかのような表情をした。
――ドン!!!
俺は無言で構えると、再度飛び込んだ。
「無駄です!」
カテレアが周囲の魔力を俺に向けた。
俺は槍の龍牙を発現させ、カテレアに投擲し、上空に飛んだ。
「足掻きを!」
カテレアは槍をかわし、視線で俺を追った。
俺は上空で止まると、周囲に武器を4つ発現させた。発現させた武器にオーラを注ぎ込み…。
――ゴォォォォォォッ!!!!!!
カテレアのいる場所目掛けて赤龍砲を4連射した。
――ドゴォォォォォン!!!
赤龍砲はカテレアの周囲に着弾し、大規模な爆発が起こった。
「小癪な…!」
爆炎や煙を嫌ったカテレアが上空へとその身を逃がした。
やはり上空に逃げたな。さっきの赤龍砲でカテレアの周囲を守る魔力の弾も消し飛んだ。
俺はすぐさまカテレアに飛び込んだ。
「無駄だと言ったはずです!」
カテレアが蹴りで俺の首を刈り取りにきた。
――ブォン!!!
俺はそれを身体を倒してかわした。
「おっしゃるとおり、接近戦が『出来る』みたいだな。だが、あくまでも『出来る』程度だ。その程度なら脅威でも何でもない」
俺は右拳を握り、カテレアに頬を狙った。
「くっ!」
カテレアがその拳を手で払おうと試みる。
――カン!!!
俺は拳を払われる直前で空中縮地でカテレアの背後に回り込み…。
「っ!」
――バキィッ!!!
「ぐぅっ!」
カテレアの頬を殴りつけた。カテレアは地に落下していくも、すぐさま体勢を整え、着地した。
「あなたのその芸術とやらも、だんだん慣れてきた。どんどん行かせてもらうぜ」
俺はニヤリと笑みを浮かべた。その笑みが気に食わなかったのか、カテレアの表情が一気に曇った。
「慣れた? 本当の芸術はこれからよ!」
カテレアが両手を広げると、魔力の弾の数がさらに増えていった。サイズこそピンポン玉サイズのまで縮んだが、その数は軽く千を超える程だ。
「これが私の全力です。もちろん、1つ1つの威力もそのままです。抗えるものなら抗ってみなさい!」
「さすが旧魔王の末裔。そのくらいでなければ張り合いがない!」
――ドォン!!!
俺はカテレアに攻撃を仕掛け、カテレアは大量の魔力の弾を巧みに操って迎撃をする。
――俺の近とカテレアの遠。
これが互いに実力を発揮できる距離。
カテレアは如何に俺から引き離せるか…。
俺は如何に空間を制圧し、カテレアに近づけるか…。
俺は前世を含め、戦闘経験のほとんどが近距離を主とした相手ばかりだった。
カテレアも、魔力合戦が主の悪魔であるため、自分に積極的に飛び込んでくる強者との経験はそこまで多くはないだろう。
――条件はほとんど同じ…。
激闘は、佳境へと突入する……。
続く