ハイスクールD×D~転生せし守り手~   作:bridge

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Life.69~2人のレヴィアタンの想い、捨てる名と立場~

 

 

 

――ガギィン!!!

 

 

「っ!」

 

振り下した南海覇王は、突如カテレアの前に現れた氷の氷柱のようなものに阻まれた。

 

それは、カテレアの手によるものではなく…。

 

「セラフォルー様…」

 

俺の後方には、カテレアを守るために咄嗟に氷柱を発現させたセラフォルー様。その横に匙と小猫と由良さん。その後ろにアーシアとカッシュさんが控えていた。

 

「匙…」

 

どうして戻ってきた……いや、どうしてセラフォルー様を連れてきたんだ。

 

俺が向けた視線を受けて匙は気まずそうな表情をした。

 

「わりぃ、アーシアさんが治療している途中で目を覚まされて、必死にお止したんだが、行くって聞かなくて…」

 

そこは意地でも止めろよ……と、言いたかったが、顔の至る所にひっかき傷を見て言葉を引っ込めた。ホントに必死に止めたんだな。

 

当のセラフォルー様に視線を移すと、いつもの衣服である魔女っ子の衣装のところどころに穴があいているものの、アーシアの治療のおかげで傷はほとんど全快しているようだ。

 

「赤龍帝ちゃん、もうやめて」

 

セラフォルー様が翳していた手を下ろし、懇願するように呟いた。

 

「…カテレア・レヴィアタンは現勢力に反旗を翻したテロリストです。ここで手を打たなければ確実に三大勢力は痛手を被ることになります」

 

「お願い……カテレアちゃんはホントは優しいヒトなの。だから――」

 

「そうだったのかもしれませんが、それは聞けません」

 

あの時、カテレアは確実にセラフォルー様を殺そうとした。その理由が悲しい行き違いなのだとしても、セラフォルー様の言葉はカテレアに届かなかった。

 

「セラフォルー様とカテレアの関係は察します。私自身は一介の転生悪魔に過ぎませんが、その命令だけは聞けません」

 

「お願いだよぉ…」

 

セラフォルー様の瞳にみるみる涙がこみ上げてきた。

 

……………。

 

俺は南海覇王を引き、肩にかけると、カテレアから距離を取った。

 

「ありがとね、赤龍帝ちゃん」

 

セラフォルー様は俺と入れ替わるようにカテレアに歩み寄っていった。

 

「セラフォルー……いったい何の真似を――」

 

睨みつけるような表情を取ったカテレアをセラフォルー様はそっと抱きしめた。

 

「ごめんね、カテレアちゃん」

 

「っ!?」

 

抱きしめられたカテレアは身体をビクッとさせた。

 

「ずっと謝りたかった。メリーナちゃんが死んじゃったのは私のせい。でも、怖かった。大好きなカテレアちゃんにまた憎しみをぶつけられることが…」

 

「…」

 

「こんなこと言ったって許されるはずがないことはわかってる。だから――」

 

セラフォルー様はカテレアから離れ、立ち上がると泣き笑いのような表情を浮かべ…。

 

「私の命をカテレアちゃんにあげる。だから、もうテロなんてやめて?」

 

そう言い放った。

 

『!?』

 

その言葉にカッシュさんを除く全て者が驚愕した。

 

「セラフォルー様!」

 

「何を仰っているのですか!?」

 

匙と由良さんが目を見開きながら問いかける。そして、制止しようと詰め寄ろうとしたが、セラフォルー様は首を横に振ってそれを制した。

 

「これは私とカテレアちゃんの問題。だから黙って見届けて。お願い…」

 

セラフォルー様のこの言葉に匙と由良さん共々言葉を失い、動きを止めた。そして、再びカテレアに視線を向けた。

 

「それがあなたの望みと言うのなら…!」

 

カテレアは傷ついた身体を鞭打ち、震えながら手のひらをセラフォルー様に向けた。

 

手のひらに魔力が集まる。至近距離で喰らえば死に至る程の量に膨れ上がっていく。

 

「………ふっ、くだらない」

 

カテレアはフッと笑みを浮かべると、魔力を霧散させ、手を下ろした。

 

「もはやあなたを殺しても何の意味も――ゴホッ!」

 

突如、カテレアが吐血し、口元を押さえた。

 

「カテレアちゃん!」

 

セラフォルー様が慌ててカテレアを抱き寄せた。

 

「ハァ……ハァ…」

 

カテレアはただただ苦しそうに呼吸をしている。

 

「アーシアちゃん!」

 

「は、はい!」

 

 

――パァッ…。

 

 

アーシアがトワイライト・ヒーリングで治療を施した。カテレアの身体から傷がみるみる消えていく、が…。

 

「無駄……です…」

 

カテレアが肩で大きく息をしながら懸命に言葉を搾りだす。俺が与えた傷は癒えたものの、未だに苦悶の表情はしている。

 

「これは……傷によるものでは…ありません…。身の内に入れた……蛇によるものです」

 

「蛇?」

 

「飲み込めば……たちまち力を得られる蛇…。私が疲弊したことで制御ができなくなり……蛇が暴走し始めたのでしょう…。一度暴走を始めてしまえば……私でもどうしようもありません…。もともと、自身のキャパシティを超えた力を得られること自体異常なことなのです。覚悟は……してました…。もうまもなく、蛇が私の身体を食い破るでしょう…」

 

カテレアは必死に言葉を紡いでいく。

 

「どうしてそんな物を!?」

 

「……あなたを始めとする、魔王を名乗る者達に……対抗するためですよ」

 

カテレアが閉じていた目を開け、セラフォルー様に視線を向けた。

 

「あなた達、現魔王の強さは身を持って知っています。私やクルズレイ、シャルバでは歯が立たない程の力を有していることを…。対抗するには……必要でした」

 

「そんなこと…」

 

「あなたがその気なら、私を屠ることぐらいわけがないことは……よく理解しています――ゴホッ!」

 

カテレアが再び吐血するも、震える手を動かし、セラフォルー様に頬に触れた。

 

「ふふっ、テロリストに与した者の末路など……こんなものでしょう」

 

「ダメ! そんなこと言わないで!」

 

セラフォルー様の瞳からとめどない程の涙が溢れ、カテレアの手を濡らしていく。

 

「セラ……あなたが私を裏切ったわけではない……ことは、わかっていました…」

 

「えっ?」

 

「あなたは……誰もが畏怖する魔王の末裔たる私をただ1人分け隔てなく接してくれた唯一の悪魔。私にとって……かけがえのない友……ですが、メリーナを失った悲しみと苦しみをあなたのせいにすることでしか……私は心の均衡を保てなかった…。世界の変革も、メリーナがいない、あなたとも相容れない世界をただ変えたかった…」

 

「カテ……レアちゃん…!」

 

「わた…しは、メリーナのところに……行きます…。セラ、あなたは私の分まで――」

 

「――ダメ! 死んじゃダメ! せっかく仲直りできたのに……お別れなんて嫌ァッ!!!」

 

セラフォルー様がカテレアの身体にすがりつく。

 

「あり……がと…セ……ラ…」

 

頬を触れていたカテレアの手が、そっと力なく落ちた。

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!! カテレアちゃぁぁぁぁぁん!!!」

 

かつての無二の親友のカテレアに子供ように泣きじゃくるセラフォルー様。匙は歯を食い縛って視線を逸らし、小猫はきつく拳を握っている。アーシアと由良さんは涙を流し、カッシュさんは深く目を瞑っている。

 

俺はカテレアにすがりつき、泣きじゃくるセラフォルー様の肩に手を置いた。

 

「ぜぎりゅうていちゃん…?」

 

セラフォルー様が涙でくしゃくしゃの顔をこちらに向けた。

 

「やれやれ、敵に情けをかけることになるとはな……要は、カテレアの身の内に巣食うその蛇とやらをどうにかすればいいのでしょう?」

 

「出来るのか?」

 

由良さんが涙を拭いながら尋ねてくる。

 

「成功するかはわからない。…だが、1つ、方法がある」

 

俺は懐から1本の金の鍼を取り出した。

 

あの医術を応用すれば、もしかしたら…。

 

俺はカテレアの身体に視線を移す。

 

…………見えた! だが、面倒だな。通常の病魔と違って生き物ような蛇だ。コロコロ場所が変わっている。しかもこの蛇、並大抵の氣の量では除去できない。

 

 

――それでもやるしかない!

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

俺の氣をブーステッド・ギアの能力で一気に倍増させていく。

 

倍増させた氣を金の鍼に込めた。

 

 

――カァァァァァァッ!!!

 

 

氣を込められた鍼が眩い程の光を発した。

 

『っ!?』

 

その光景を見て周りの者が驚愕する。

 

「我が身、我が鍼と1つ也。全力全快、必察必癒…」

 

ここでスゥッと息を吸った。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!!」

 

俺はカテレアの胸元目掛けて一気に鍼を突き立てた。

 

 

 

――ビカァァァァァァァッ!!!

 

 

 

その瞬間、先程とは比べ物にならない程の光が周辺を照らした。もはや目を開けていられないほどに。

 

数秒程光が発せられた後、収まった。

 

「病魔退散」

 

俺は鍼を懐に引っ込めた。

 

「うっ……これは…?」

 

カテレアがゆっくりと瞳を開けた。

 

「カテレア…ちゃん?」

 

セラフォルー様は茫然とした表情でカテレアを見つめている。

 

「いったい何が――!? 蛇が……消えてる?」

 

カテレアが自分の胸に手を当て、驚愕する。

 

「あなたの中の蛇は消し飛ばしました」

 

「えっ? それじゃあ…」

 

「これでもう大丈夫です」

 

俺はニコリとセラフォルー様に笑いかけた。

 

「グスッ……カテレアちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

セラフォルー様が再度カテレアに泣きついた。

 

「セラ…」

 

カテレアは抱きつかれたことに一瞬動揺する素振りを見せたが、すぐに薄く笑みを浮かべ、セラフォルー様の頭を撫でた。

 

「お前ら、無事か!?」

 

それと同時に新たに来訪者が現れた。この地に一緒に同行したアザゼル先生だった。

 

「……って、なんだこの状況は?」

 

俺達の目の前に降り立つと、状況を掴めずにキョトンとした表情を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

泣きじゃくって要領を得ないセラフォルー様の代わりに俺がアザゼル先生に事の顛末を説明した。

 

「なるほどな」

 

俺の説明を受けてアザゼル先生が頷いた。

 

「この俺が多少手を焼いたカテレアを倒すなんざ、やるじゃねぇか」

 

アザゼル先生が俺の頭をグシャグシャとした。

 

俺はうっとうし気にその手を払った。

 

「まっ、それはさておいてだ。カテレア、お前は禍の団(カオス・ブリゲード)に身を置き、悪魔の現政府に反旗を翻し、三大勢力に敵対した悪魔だ。身柄を拘束させてもらうぞ」

 

「拘束……ですか」

 

カテレアが俯きながら呟いた。

 

 

――拘束…。

 

 

それは当然で仕方がない処置だな。

 

アザゼル先生が捕縛の術式をかけようとしたその時!

 

 

――バッ!!!

 

 

「ぐぉっ!」

 

カテレアが魔力を振りまき、アザゼル先生を吹き飛ばし、空中へと身を逃がした。

 

「くそっ! てめぇ、何しやがる!」

 

アザゼル先生はすぐさま体勢を立て直すと、カテレアを睨みつけた。ただ単に弾かれただけで別段手傷を負ってはいないようだ。

 

「拘束? あいにくと、私はあなた方に捕まる気は毛頭ありません」

 

カテレアは微笑を浮かべながら言い放った。

 

「カテレア、禍の団(カオス・ブリゲード)に戻るのか?」

 

俺がそう尋ねると、カテレアは哀愁がこもった表情を取ると、首を横に振った。

 

「……もはや禍の団(カオス・ブリゲード)にも、世界の変革にも興味はありません。私は名も立場も捨てて、世界の行く末を見届けるつもりです」

 

カテレアからのまさかの宣言。

 

それはつまり、捕まらない代わりに禍の団(カオス・ブリゲード)にも戻らない、ということだ。

 

「悪いが、そういう訳にはいかないな。お前の名と力は放置するにはあまりにも危険すぎる。大人しく捕まらないなら、死んでもらうぜ」

 

アザゼル先生が光の槍をその手に発現させた。

 

「ダメ! カテレアちゃんに手を出したら許さないんだからね!」

 

セラフォルー様はアザゼル先生とカテレアの間に両手を広げて入っていった。

 

「自分が何をしているのかわかってるのか? あいつは旧魔王の末裔なんだぞ。ここで見逃して万が一もう1度敵として現れてみろ。俺もお前もただではすまねぇんだぞ?」

 

このままカテレアを逃がし、再度的として現れたなら、みすみすこの場でカテレアを見逃したセラフォルー様やアザゼル先生は責任を取らされることになることは間違いない。

 

「大丈夫。カテレアちゃんはもう現れない。そうでしょ? ね、カテレアちゃん☆」

 

セラフォルー様はカテレアにウインクをしながらいつもの口調で言った。

 

「吐いた言葉を違えるつもりはありません」

 

「……信用できんのか?」

 

アザゼル先生は怪訝そうな表情で問いかける。

 

「私は魔王の末裔です。虚言を吐いて生き永らえるくらいなら死んだ方がマシです」

 

「………ちっ!」

 

アザゼル先生は渋々光の槍を引っ込めた。

 

「ありがと、アザゼルちゃん☆」

 

「……何かあったらお前が責任取れよ」

 

苦々しげな顔をするアザゼル先生。

 

「セラ、仮にもレヴィアタンの名を名乗ったのなら、無様な姿を晒さないようにしなさい。その名を貶めるような真似をすれば、私は再度あなたの禍となりますよ」

 

「うん☆ カテレアちゃんの分まで頑張るんだから☆」

 

それを聞き、カテレアはフッと笑みを浮かべた。

 

「あなた達も知っての通り、魔王の末裔は私の他にクルズレイ・アスモデウスとシャルバ・ベルゼブブがいます。その中でもシャルバには気を付けなさい。彼は目的の為なら手段を選びません。非道な策すら平気で使ってくるでしょう」

 

カテレアはそれだけ告げると、この場を去っていった。

 

「全く、現魔王様共はどうにも甘ちゃんばかりだな」

 

去っていったカテレアを見送りながらアザゼル先生は皮肉気に呟いた。

 

「とはいえ、結果として全員無事なわけだが……カッシュ、お前はこの結果を見ていたのか?」

 

アザゼル先生がカッシュさんに問いかける。

 

そういえば、カッシュさんはセラフォルー様の死を見たと言っていた。確か、カッシュさんの予言は絶対に当たるんじゃなかったのか?

 

「いえ、私が見たものはカテレアがセラフォルーを殺し、そのカテレアを御剣昴君が殺すものでした」

 

「どういうことだ? お前が見た未来は百発百中だったはずだ」

 

アザゼル先生の言葉を聞いて含みのある笑みを浮かべた。

 

「アザゼルは、少し思い違いをしているようですが、私の予言とは、正しくは、『視る』ことです。それは、心であったり、過去であったり…。アザゼルが言うところの予知は、『未来』と『運命』に分類されるのですが、この2つは、似て非なるものなのですよ」

 

「? …どういうことですか?」

 

俺は話の本質が理解出来ず、聞き返した。

 

「私の視る未来は、少し先に出来事であり、その未来は全く別のものに変えることも出来ます。ですが、『運命』は……運命だけは、如何なる者如何なる術を以ってしても、変える事は出来ません。そして今回視た運命は、セラフォルーとカテレアの死でした」

 

「おいおい、言ってることが違うじゃねぇかよ」

 

アザゼルがしかめっ面で言う。すると、カッシュさんが俺の元まで歩み寄り、俺の眼を見据えた。

 

「赤龍帝、御剣昴君。あなたは、私が追い求めた存在だったようです」

 

「どういうことですか?」

 

キョトンとした表情で聞き返す。

 

「私は長年現れるのを待っていました。自分はおろか、他者の運命さえも変えてしまう存在を…」

 

カッシュさんが天を仰いだ。

 

「私の視たものは絶対でした。あの魔王様でさえも逆らうことはできませんでした。視た通りに起こる結末。私にとって、これは苦痛でしかありませんでした。故に私はこの辺境に移り住みました。ですが、セラフォルーより戴いた先日のレーティング・ゲームの試合を拝見した時、私には彼の運命が視えませんでした」

 

「おいおい、マジかよ」

 

「無理を言って御剣昴君と面談をして、確信に変わりました。彼は『運命を変える存在(デスティニー・ブレイカー)』だと」

 

「運命を変える存在(デスティニー・ブレイカー)…」

 

壮大な名だな…。

 

「デスティニー・ブレイカー、これは今名付けたのですが、昔からマルバス家の予言を超える者が存在すると言われているのですよ」

 

「予言を……超える?」

 

匙が頭を捻りながら聞き返す。

 

「マルバス家の予言……決して万能ではありませんが、視た運命は絶対でした。望むとも望まなくともそれは事実です。ですが…」

 

カッシュさんは俺の目を再度見据えた。

 

「あなたはセラフォルーとカテレアの運命を変え、私の予言を捻じ曲げました。私にとって、こんなに嬉しいことはありません」

 

カッシュさんが俺の肩をポンと置いた。

 

「御剣昴君。この後、私が後どのくらい生きられるかはわかりませんが、残りの余生、あなたがこの世界でどのような未来を紡ぐか、見届けさせていただきます」

 

「えっ? それじゃあ…!」

 

セラフォルー様が目を輝かせる。

 

「このとおり、私の屋敷は壊れてしまいましたので、お引越しをしなければなりません。辺境の地も少々飽きが入ってきたので、今度は都会にでも移り住むとしましょうか」

 

カッシュさんがニコッと笑みを浮かべながら言った。

 

「うんうん! カッシュ様なら大歓迎だよ☆」

 

セラフォルー様がカッシュさんに抱きついた。

 

「とは言っても、私も歳のせいで予言……その中でも、未来と運命は年に1~2回見れればいい方ですし、近くにデスティニー・ブレイカーがいる以上、その精度もアテになりませんので、あくまでも以前と同様に相談役程度にしか協力はできませんけどね」

 

「構わねぇさ。お前さんが現政府に参加する、ということに意味があるんだからな」

 

アザゼル先生の言うとおりだと思う。悪魔の生き字引が傍にいてくれればこれほど心強い者はないだろう。

 

「まっ、禍の団(カオス・ブリゲード)が来る度にこんな辺境に来るのも面倒だからな。近いところに来る分には助かるわな」

 

アザゼル先生も肩の荷が下りたので、その表情は少々すっきりしていた。

 

「カテレアがこの結界に突入した時点で他の悪魔の連中は撤退していったからよ、後始末が済んだら帰るぞ」

 

『はい!!!』

 

こうして、辺境の地への面談での騒動は終わった。

 

カテレアは禍の団(カオス・ブリゲード)への離脱を宣言し、姿を消した。

 

俺とアーシアと小猫は部長の下へ、匙と由良さんは会長の下へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「昴! アーシア! 小猫!」

 

翌日、部長の家である、グレモリー家の本邸に戻ってきた俺達3人。事の顛末を伝え聞いたと思われる部長が俺達の姿を確認すると駆け足で駆け寄ってきた。

 

「無事で何よりだわ。昴も、旧魔王の末裔のカテレアを退けるなんて、主として誇らしい限りだわ」

 

部長が俺の胸に飛び込み、背中に手を回しながら功を労ってくれた。

 

「お疲れ。カテレア・レヴィアタンを倒しちゃうなんてすごいね」

 

「うむ。さすが赤龍帝だ」

 

「お゛に゛ぃぃぃちゃぁぁぁん!!! 無事でよがっだですぅぅぅぅ!!!」

 

木場、ゼノヴィア、そして涙を流したギャスパーが俺に詰め寄る。

 

ギャスパー、お前はとりあえず鼻水を拭け。

 

あれ? 朱乃さんはどこに…。

 

 

――パン!

 

 

朱乃さんの姿を探していると、何かを叩く、乾いた音が耳に響いた。音の方に視線を向けると、アザゼル先生の頬叩く朱乃さんの姿があった。

 

「あなたは……また同じことを繰り返すつもりだったの…!」

 

怒りの形相でアザゼル先生を睨みつける朱乃さん。

 

同じこと? いったい何の話だ?

 

「っ! …今回の件も俺の責任だ。すまない」

 

苦痛に満ちた表情で頭を下げるアザゼル先生。2人の間にいったい何が…。

 

「落ち着きなさい、朱乃。…でも、朱乃の怒りも尤もよ。私も同様に怒っているわ。禍の団(カオス・ブリゲード)の襲来の件を私に黙っていたことを…」

 

部長の表情にも怒りの色が浮かんでいた。

 

正直無理もない話ではある。自分の知らないところで自分の眷属が危険な目にあっていたのだから。

 

だが、アザゼル先生にしても話すわけにはいかなかった。知られれば反対されるのは確実だし俺が行かなければ面談は実現せず、カッシュさんを現政府の庇護下に置く説得もできなかった。

 

「リアスちゃん、朱乃ちゃん!、悪いのは私なの! 私のせいで赤龍帝ちゃん達を危険に晒しちゃったの。だから責めるなら私を責めて!」

 

3人の間にセラフォルー様が割って入り、涙目で懇願する。

 

当初はアザゼル先生達が結界の外でカテレアを迎え撃ち、捕縛及び討滅し、俺達は何事もなくカッシュさんと面談する予定だった。だが、セラフォルー様がカテレアの説得及び罪滅ぼしをするために結界の侵入方法を秘密にし、みすみすカテレアを結界内に侵入させたことが俺達に火種が及ぶ原因となった。

 

非、という意味では、セラフォルー様にもある。

 

セラフォルー様が間に入った来たことで部長と朱乃さんも困惑している。

 

……やれやれ、このままじゃ埒が明かないな。

 

「部長、朱乃さん。今回の件、皆に内緒にしようと言ったのは俺です」

 

『!?』

 

俺の言葉に部長や朱乃さんはもちろん、アザゼル先生とセラフォルー様も驚いていた。

 

「話せば反対されることが目に見えていました。禍の団(カオス・ブリゲード)の戦力を削るために一役買いたくて協力を願い出たんです。ですから、お2人を責めないで下さい」

 

「……それは本当なの?」

 

「はい。本当です」

 

「…」

 

「…」

 

俺と部長の視線が交差する。

 

「……ふぅ。わかったわ。私も同じ立場だったら同じことをしていたかもしれない。今回は皆無事に帰り、カッシュ様の説得も成功したことだから今回の件は水に流すわ。けれど、次はちゃんと話してもらうわ。いいわね?」

 

部長は大きく溜め息を吐き、やれやれと言った表情で俺の言葉を受け入れた。もしかしたら俺の嘘に気付いたのかもしれない。

 

なんにせよ、話が落ち着いて良かった。

 

「貸し1ですよ?(ボソッ)」

 

「恩には着てやるよ(ボソッ)」

 

アザゼル先生は皮肉気な笑みで答えた。

 

「ありがとね、赤龍帝ちゃん☆」

 

「いえいえ、礼を言われる程では――」

 

 

――チュッ…。

 

 

セラフォルー様が俺の傍に寄ると、大きく背伸びをしながら俺の頬にキスをした。

 

「えへへ! いっぱい頑張ったからそのお礼だよ☆」

 

ニコッと笑顔で俺にそう言った。

 

「あはは…」

 

俺は乾いた笑い声を上げた。

 

「うふふ、私を心配させた罰は受けてもらいますわよ?」

 

 

――ムギュッ!

 

 

「ふごっ!」

 

突如、頭を抱かれると、とても心地よく柔らかい何かに顔を押しつかれ、鼻と口を塞がれた。何とか顔を上げると、俺の眼前に朱乃さんの顔があった。

 

 

――こ、このとても柔らかいものは…。

 

 

「あん//  あらあら、そんなに動いてはくすぐったいですわ」

 

 

――やっぱり胸ですか!

 

 

「朱乃! あなただけずるいわよ! 私も同じく罰を与えるわ!」

 

「ず、ずるいです! 私も罰をお与えします!」

 

「私も…その……頑張ります」

 

「ふむ、これは私も参加した方がよさそうだな」

 

そこに更に部長、アーシア、小猫、ゼノヴィアが参戦してきた。

 

文字どおり罰だったよ。天国と言う名の地獄という罰だった…。

 

こうして、俺達の夏休みの最後のイベントが終了したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





技の紹介コーナー……。

――五斗米道…。

身体に巣食う病魔を氣の歪みを視て選別し、そこに氣を込めた鍼を相手の患部に刺し、病魔を消し飛ばす医術。これを応用すれば、脳から発する電気信号を遮断し、相手の動きを止めることも出来る。

真・恋姫†無双の華佗が使用していた医術であり、正しい発音は、ゴッドヴェイドー。
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