アザゼル先生の実験によって現れた俺の分身体の捜索及び討滅が始まった。
俺自身も出向きたいのだが、相手が姿形が俺と瓜二つ…というか同じ。俺が出向くと区別が付かなくなる恐れがあるため、俺は部長の横に待機している。
俺の偽物は、スペックは俺と同等だが、ブーステッド・ギアとブレイブ・ハートは使えないらしい。あと、普段の俺より欲望に忠実な性格になっているとのこと。
自分自身と戦うことってないからちょっと戦ってみたかったけど……仕方ないか…。
俺の分身体なら皆に無茶なことはしないだろう。
ここは任せるしかないな。
※ ※ ※
木場side
……………見つけた!
一度は見失ったけど、昴君の分身体を再度発見することができた。
「もう見つかったか。さすが木場だな」
(偽)昴君も僕に気付いて踵を返して逃げ出した。
残念だけど、逃がすつもりはないよ。瞬間的なスピードはともかく、プロモーション出来ない(偽)昴君なら、単純なスピードは騎士『ナイト』である僕の方が早い。
小猫ちゃんは来ていない。戦車『ルーク』である彼女では昴君を追うのは辛いみたいだ。小猫ちゃんを待っていたらまた(偽)昴君を見失ってしまう。ここは僕1人で行こう。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
(偽)昴君は新校舎裏へと逃げていく。
――しめた!
あの先は行き止まりだ。そこで彼を追いつめることができる!
(偽)昴君が角を曲がる。僕もそのすぐ後を追いかける。僕が角を曲がると、その先の行き止まりで(偽)昴君が佇んでいた。
「もう逃げられないよ。この辺りで観念してくれないかな?」
僕は魔剣を創造し、彼に勧告をした。
こちらに背を向けていた(偽)昴君がクルっと振り返る。こちらを向いた彼からは特に感情は読み取れない。
このまま彼が大人しく従ってくれればいいけど…。
一定の距離を保って睨みあう。
プロモーションが出来ない彼ならスピードは僕の方が上。だけど、これ以上距離を詰められたらあの縮地で一瞬で距離を詰められてしまう。
ゴクリと僕の喉が鳴り、額から汗が滴る。
この辺一帯を静寂が支配し、心臓が鳴る音だけが響き渡る。
彼は特に殺気を醸し出しているわけじゃない。なのにさっきから緊張感が僕の心を支配する。こうやって対峙しているだけで体力が削られてしまう。
睨みあって約1分程…。僕に1時間にも感じられた時間が過ぎ去った時…。
「…………フッ」
彼の口から笑みがこぼれた。そして両手を上にあげた。
「さすが木場だ。まさかこうも容易く追いつめられるとはな。お前とは戦いたくはないからな。ここは大人しくするよ」
まさかの彼からの降伏宣言だ。
――良かった…。
その言葉を聞いて僕の中の緊張感がなくなった。
彼は何者かが化けた昴君ではなく、本物から生まれた分身体なんだ。僕と本気で戦うつもりはなかったみたいだ。
僕は魔剣を下ろし、彼に歩み寄っていく。
「ちょいとイタズラ過ぎたみたいだ。悪かったな」
彼の口から謝罪の言葉が出る。
これでこの騒動にも終止符が…。
そう思った時…。
「……でも、良かったのか? こんなところにホイホイ付いてきて…」
彼の口の端の口角が上がり、ニヤリと笑みを浮かべた。
「っ!?」
僕はそれを見逃さなかった。
しまった! どうして気付かなかったんだ! 彼は何者かが昴君に化けたのではなく、本体から生まれた分身体…。つまりは、彼そのものでもあるということだ。そんな彼が学校の地理を把握していないわけがないんだ!
つまり彼はこの袋小路に追い込まれたわけではなく、わざとここに僕を連れてきたんだ。ということは、ここになんらかの罠が…!
僕は慌てて魔剣を構えなおした。だが…。
――パシッ!
魔剣を持った手を彼に掴まれた。
――くっ! 彼に近づきすぎた…!
スピードは僕の方が上でも、力は彼の方が上だ。振りほどこうにもビクともしない。
彼は僕の手を押さえると、空いている手で僕の頬を撫でた。
――ゾクッ…。
僕の全身に鳥肌が立つ。
か、彼はいったい何を…!?
(偽)昴君は顔を僕の耳元に近づけ、そっと囁いた。
「俺はノンケでも平気で喰っちまえる男なんだぜ?」
っ!? か、彼は何を言っているんだ!?
(偽)昴君は僕の耳元から顔を離すと、指をそっと口元に持ってきた。
「す、昴君? ぼ、僕達は男同士なんだよ?」
僕の頭の中がパニックになる。
アザゼル先生は言っていた。分身体の彼は欲望に忠実になっていると。ということは、昴君は普段から僕の事をそんな風に――
――ガスッ!
「うっ…」
僕の腹に鈍い衝撃が走った。それと同時に僕の意識は途切れていった…。
※ ※ ※
(偽)昴side
「ハッハッハッ! や ら な い か? ってな。冥界で修行して力を付けたといっても、この手の駆け引きはからっきしだな」
意識を刈り取られた木場がその場で倒れ伏す。
「俺(本体)を除けば、お前が一番厄介だったんでな、てっとり早く片付けさせてもらったぜ」
とりあえず、木場はしばらくは目を覚まさないだろう。
「それじゃ、残りの邪魔者を1人ずつ片付けていくとするかな…」
俺は歩き出した。
「あっ、それと、俺は至ってノーマルだからな」
俺は誰かに囁き、その場を後にした。
※ ※ ※
小猫side
裕斗先輩が(偽)昴先輩を発見して追いかけていきました。私も後を追ったのですが、2人の速さについていけず、遅れを取ってしまいました。
――ピリリリリッ!
私の携帯電話が鳴った。
「はい」
「小猫、私よ」
電話の相手は部長でした。
「裕斗が偽物を追いつめたわ。新校舎の保険室よ。昴もそっちに向かわすから一緒に片付けなさい」
「了解です」
私は携帯電話を切り、指示された新校舎裏へと向かいました。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
新校舎の中に入ると…。
「小猫!」
ちょうど同じタイミングで先輩が来ました。
「この先だ。急ぐぞ」
「わかりました」
一緒に現場へと急ぎました。保健室の中に入ると…。
「?」
そこには誰の姿もありませんでした。
「誰もいません…」
「どこかに移動したのか……小猫、仕切りがかかってるベッドの方を調べてくれ」
「はい」
――シャッ!
仕切りをめくると、ベッドが3つありますが、やはり誰の姿もありません。誰かいた形跡も…。
「小猫……あなたの悪い癖よ。電話に出る際に着信相手を見ないのは…。あと、姿が見えない、声だけの携帯電話をあまり信用しちゃダメよ?」
後ろから部長の声が…。振り返ると…。
――ガシッ!
私は手を押さえれ、ベッドへと押し倒されました。
「くっ! 偽物…!」
押し倒したのは先程の先輩!
「部長にそっくりの声だから油断したみたいだな」
ニヤリと笑みを浮かべた先輩が私を組み伏せました。
「……どうやって」
「皆に話したことなかったが、俺の特技の1つで、声真似があるんだよ。――こんな風にね」
「っ!」
今度は裕斗先輩の声! そういえば、さっきの電話の通知を見ていません。謀られました。
ですが、このまま偽物の先輩に良いようにされるつもりもありません。
私は力を込めて(偽)先輩を引き剥がそうとしました。
「ひゃう!」
その時、先輩が私の首筋に舌を這わせました。
「な、何を――ぃ!」
今度は内腿に手を…!
私の身体全体に言いようがない快感が襲いました。そのせいで私の身体から力が抜けていきました。
「…ん//」
さらに先輩は私の胸に手を触れました。
「ふふっ、この膨らみかけの胸がたまらないよ……ペロッ」
(偽)先輩が私の耳元で囁き、さらに耳に舌を這わせました。
この……先輩は、欲望に忠実な先輩だと…先生は言ってました。なら、先輩は普段私のことを……ん…そんな風に思って…。
「…ふにゃあ//」
私は脳が蕩けたように沸騰し、意識を失ってしまいました…。
※ ※ ※
(偽)昴side
顔を真っ赤にし、目をグルグル回しながら意識を失う小猫。
「ふふっ、このままの小猫も魅力的だが、開花する前の蕾の花を摘むのは無粋だよな」
俺は冥界に現れた小猫の姉、黒歌の姿を思い出す。
「小猫の姉って言ってたあの黒歌があそこまで育ったんなら、小猫も将来有望だろう」
俺は踵を返した。
「じゃあな、小猫。甘くていい夢を見ろよ」
「……うにゃあ」
俺の言葉に返事でも返すかのような小猫の声を聞き、俺は保健室を後にした。
※ ※ ※
昴side
――プルルルルル…。
「……ダメだ、電話に出ない…」
俺は携帯で木場に電話を掛けたんだが、何度コールしても一向に出る気配がない。
「……ダメだわ。小猫も出ないわ」
部長も小猫に電話を掛けるも、繋がらなかったようだ。
「木場も小猫も、電話に出られない状況に陥っているようですね」
「……みたいね」
「俺の分身体なら、手荒なことはしないとは思いますが…」
「このまま分散して探すのは危険ね。一度旧校舎前に全員を集合させましょう」
「その方がよさそうですね」
部長が携帯電話を操作し、電話を掛けはじめる。
「……朱乃? 偽物の昴は……そう。一度旧校舎前に戻ってきて。作戦を練り直すわ」
朱乃さんとは電話が繋がったようだ。ゼノヴィアも呼び寄せたかったのだが、生憎と、あいつは携帯電話を持ってない。朱乃さんと合流した後に偽物を探しながら合流しよう。
5分程待っていると…。
「お待たせしましたわ」
朱乃さんが旧校舎前にやってきた。
現れた朱乃さんだが、表情が若干険しい。
「どうかしたの?」
俺と同じく異変を感じ取った部長が事情を尋ねる。
「ここに戻ってくる途中でゼノヴィアちゃんを見つけたのですけど……」
「ゼノヴィアがどうかしたの?」
「……すでに手遅れでしたわ」
手遅れ? ……いったい何が…。
「外傷は1つもありませんでしたが、その……幸せそうな顔で眠っていましたわ」
「…何があったんだろう」
とりあえず分かることは、偽物の俺の罠にまんまと引っかかったっていうことだけだ。
「裕斗と小猫とも連絡が取れないわ。同じようにやられたと考えていいわね」
部長が腕を組んで思案する。
「このままではジリ貧ね。このまま3人で探しに行った方がいいかもしれないわね」
「ただ、それだと偽物は確実に俺達の前に姿を現さないでしょうね」
自分が偽物だと確実に認識されてしまう状況で偽物がノコノコ出てくるとは思えない。まず間違いなく姿と気配を消しながら逃げ回るだろう。
「…まずいですね。本気で気配を消した俺を感知できる奴なんて小猫ぐらいでしょう。でも、その小猫がいない」
「結界を張っていられる時間にも限りがあるわ。急がないと…」
俺達の間にも焦りが生まれる。
何か突破口は……そう考えていたその時!
「んーんー!」
俺達の耳に籠った叫び声が聞こえてくる。
その声は旧校舎から聞こえてくる。声の元を追ってみると…。
「ギャスパー!」
そこには縄でグルグル巻きにされ、目隠しとアイマスクとさるぐつわをされたギャスパーの姿があった。
「どうした! 何があった!?」
俺は縄を解き、アイマスクとさるぐつわを外しながら尋ねる。
「ぷはぁ! …うぅ、お兄ちゃんが帰ってきたと思ったら縛られて、アーシア先輩を連れていってしまいました…」
ギャスパーは涙目で自分の身に起こったことを説明した。
「くそっ……先手を打たれた…」
よくよく考えたら、ジッとしていても状況が悪くなる状況で俺が何もしないわけがないよな…。
「……ん?」
俺はギャスパーの服のポケットに手紙が入っていることに気付いた。
「これは?」
手紙を抜き取ってギャスパーに聞いてみると、ギャスパーは身に覚えがないとばかりに首を横に振った。
手紙を開いてみると…。
『校庭で待っているよ 俺より』
と書いてあった。筆跡は見間違えることなく俺のものだ。
その手紙を部長達に見せた。
「罠かしら?」
「あり得ない……とも言い切れませんね」
普段の俺ならあまりしないことだ。よっぽど手段を選ばない限り…。
「とはいえ、向こうがアーシアを連れている以上、行かないわけにはいきません」
「…それもそうね」
俺と部長と朱乃さんは頷き合い、ギャスパーを連れて校庭へと向かった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
校庭に行ってみると、その中央で何処からか持ってきた椅子に腰掛け、アーシアを抱きかかえた俺(偽物)がいた。
「よう、遅かったじゃないか、俺」
俺(偽物)がニヤリと笑みを浮かべながら言う。
「…アーシアに変なことしてないだろうな?」
俺(偽物)に抱きかかえられているアーシアはさっきから成すがままになっている。
「心配すんな。何もしてない。…ただ、アーシアがあまりにも初心過ぎて、ちょっとからかったら、こうなっちまってな」
「うにゃぁ~……ふにゅぅ~…」
アーシアは気絶……というよりも、顔を真っ赤にしながら目を回していた。
「木場と小猫はどうしたんだ?」
「心配すんな。俺が仲間に手傷を負わせるわけがないだろ? 木場は新校舎裏、小猫は保健室でグッスリしてるぜ」
やっぱり俺(偽物)の手にかかってたか…。
「さてと、役者が揃ったところで……なあ、俺。俺と戦わないか?」
「…」
俺(偽物)からこのような提案が飛び出した。
「俺はいろんな奴と戦ってきた。力が強い奴、技に長けた奴、魔力に長けた奴、俺より強い奴とかな。だが、俺自身とは戦ったことはない。一度くらいは思ったことがあるだろ? 自分と戦いたいって」
「……まあな」
強者とは幾度となくやりあってきたが、自分とはやりたくてもやれないからな。
「アザゼル先生の不運に巻き込まれて起こったこととはいえ、これは絶好の機会だ。夢……いや、願望か、ここで叶えようぜ」
「…いいだろう」
俺はその提案を承諾した。
「よし、決まりだ!」
俺(偽物)は椅子から立ち上がり、抱えていたアーシアを椅子に座らせ、俺に歩み寄ってきた。
「始めようぜ、俺(偽物)」
「いいぜ、楽しませろよ、俺」
俺と俺(偽物)は全く同時に手を組んで指を鳴らした。
「もし、俺が勝ったら…」
俺(偽物)が部長達を指差し…。
「部長達を可愛がらせてもらうぜ」
「あっ?」
「やっぱよ、賞品があった方が盛り上がるだろ? まっ、自信がないなら無理にとは言わないけどな」
ちっ、こいつやっぱ俺だな。こんなん言われて断れるわけがない。何てったって、実力も条件も同じなんだからな。
俺は部長と朱乃さんの方を見る。
「私は構いませんわ。昴君を信じます」
朱乃さんは二つ返事で条件を飲んだ。
「私も構わないわ。本物が偽物に負けるはずないもの。存分にやりなさい」
部長も了承をした。
「…いいだろう。その条件飲んでやる」
――上等だ、やってやるよ!
俺対俺、己との戦いが始まった……。
続く