「着いたのか?」
魔方陣によってバトルフィールドに移動した部長とグレモリー眷属。
そこはだだっ広い空間で、要所要所に石造りの太い柱が並んでいる。他にもギリシャ風の巨大な神殿がそびえ立っている。
「……妙ね」
部長が訝しげな表情で呟く。
俺も同感だ。
いつまで待っても審判役のアナウンスが一向に入らない。他の皆も同じ感想を抱いているようだ。
すると、神殿とは逆方向から魔方陣が出現した。
一瞬、ディオドラかその眷属によるものかと思ったが、この紋様は以前に見たアスタロトの紋様ではなかった。グレモリー家のものではない。もちろん、フェニックス家のものでもない。
「アスタロト家の紋様じゃない!」
木場が剣を構える。
現れた魔方陣はどんどん数を増やしていく。魔方陣の1つ1つが違う紋様を描いている。
朱乃さんがその手に雷を走らせる。
「全て悪魔の紋様……しかもこれは、私の記憶が確かなら――」
部長も紅いオーラを纏い、厳しい視線を辺りに走らせる。
魔方陣からどんどん悪魔が現れてくる。数はどんどん増えていき、その数は数百、千にも届くほどまでに増えていった。
現れた悪魔の全員が一様に敵意、殺意をこちらに向けてきている。
「魔方陣から察するに、禍の団『カオス・ブリゲード』の旧魔王派に傾倒した者達よ」
「ちっ!」
予想はできていたが、案の定そうか…。ということはつまり、このバトルフィールドはテロリストの襲撃を受けたということだな。
「忌々しき偽りの魔王の血族のグレモリーよ。ここで散ってもらおう」
出現した悪魔の1人が部長に宣言する。現魔王を目の敵にする旧魔王に支持する悪魔らしい物言いだな。
俺が部長を守るべく、部長の前に立って構えを取る。その時…。
「キャッ!」
「っ!」
俺の後方から悲鳴が聞こえた。振り向くと、アーシアの姿がなく、上を見上げると、そこにはアーシアを捕えたディオドラの姿があった。
「アーシア!」
「スバルさん!」
空からアーシアがこちらに手を伸ばしながら俺を呼ぶ。
「やあ、リアス・グレモリーと赤龍帝。アーシア・アルジェントはいただいていくよ」
以前と変わらずの笑顔で言ってくる。
「ディオドラ! やっぱりお前、禍の団(カオス・ブリゲード)に通じていたのか!」
俺は声を荒げながらディオドラに追及した。
「そうだよ。彼らと行動した方が、僕の好きなことが好きなだけできると思ったからね」
ディオドラは全く悪びれることなく言ってのける。
ちっ、やっぱりかよ。
薄々、そんな予感がしていた。
前に見たディオドラ・アスタロトとシーグヴァイラ・アガレスの一戦でのディオドラの急激なパワーアップ。あれに俺は1つの懸念を感じていた。ディオドラが修行に励むタイプには見えない。ならば、短期間であれだけパワーアップできたのは何故なのか。
――例の蛇だ。
カテレア・レヴィアタンの力を増大させた例の蛇。あれなら短期間で急激にパワーアップができる。
それを手に入れたというなら、それはつまり、禍の団(カオス・ブリゲード)に通じているということだ。
そして何より、新学期前にディオドラに会った時から感じていたことなのだが、あいつからはクズ独特の臭いがしてならなかった。俺の悪い予感は当たってしまった。
「堕ちるとこまで堕ちたか、ディオドラ。俺と勝負するんじゃなかったのか?」
俺の言葉に爽やかな笑みが一転し、醜悪の笑顔へと変貌した。
「バカじゃないの? 何でこの僕が薄汚い下級のドラゴンなんかと戦わなくちゃならないのさ? キミなんて僕が手を降すまでもない、ここで禍の団(カオス・ブリゲード)のエージェント達に殺されればいいさ」
「っ! てめぇ…」
ディオドラのバカにしたかのような物言いに俺の怒りが溢れていく。
「では、僕はここで失敬させてもらうよ。ここに集まっているのは上級悪魔と中級悪魔。キミ達が彼ら相手にどれだけ足掻けるか楽しみだよ。その間に僕はアーシアと契らせてもらうよ。アーシアが僕のものになる瞬間を見たかったから神殿の奥まで来るといいよ」
――ドォン!!!
その言葉を聞いて俺の頭の何かがキレた。
俺はすかさずディオドラへと飛び込んでいた。
すると、『ぶぅぅん』と空気が震え、空間が歪みだした。それと同時にディオドラとアーシアの身体がブレ始め、徐々に消えていった。
――ブォン!!!
俺は村雨を発現させ、ディオドラの眼前まで飛び込むと、村雨をディオドラの脳天に振り下した。だが、その一撃がディオドラに直撃することはなかった。当たる直前にディオドラとアーシアは姿を消した。
「アーシアァァァァァァァッ! くっそぉぉぉぉぉぉっ!」
俺は天を仰ぎながら叫んだ。
――絶対に守ると約束したのに、誓ったのに、俺は……俺は…!
「昴君! 後ろ!」
「まずはお前から死ね!」
木場から声がかかる。
俺の後方からテロリストの悪魔の1人が俺に魔力を向けていた。
――ズシャッ!!!
俺は村雨を発現させ、すかさずその悪魔の胴を真っ二つにした。
「邪魔だ…」
俺は静かに言った。
「おのれ!」
「グレモリーの下僕風情が!」
周辺のテロリスト達が激昂し、次々と俺に魔力を向けてきた。
――ドン! ドン!
次々と俺に向けて発射される魔力の弾。俺はその魔力の弾を掻い潜り…。
――シュッ…ザシュッ…。
テロリストの首を2つ、村雨一振りで飛ばす。
――ドン! ドン! ドン! ドン…!
大量の魔力の弾が俺に向けて飛んでくる。
――ドォォォォォォン!!!
魔力の弾が直撃をし、大きな爆発が起こる。
「昴!」
「昴君!」
部長や皆が悲鳴のように俺の名を呼ぶ。
「ぐっ……が…」
爆煙がはれると、そこにはボロボロになった2人のテロリストの姿があった。
俺はこちらに発射される魔力の弾の一部を避け、避け切れない分は途中で捕まえたテロリスト2人を楯替わりにしてやり過ごした。
――ドォン!!!
俺はその2人をゴミを捨てるように放り投げ、再びテロリストに向けて飛び込んだ。
――ブシュッ!!!
敵の1人を村雨で心臓を貫き…。
――ゴッ!!!
素早く縮地で移動し、別のテロリストを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたテロリストは飛ばされた先にいたテロリストと激突して止まった。
「龍牙…旋迅突!」
――ドォン!!!
空中縮地で落下し、村雨を持った右腕を内側にねじり込みながらそのテロリストに突進していく。
――ザバッ!!!
猛スピードで突進し、その2人のテロリストは胴をポッカリ抉り取られた。
俺は地面スレスレで減速し、地に着地した。
※ ※ ※
リアスside
昴が近くに集まったテロリスト数人を屠っていった。
私は驚きを隠せなかった。
あのテロリストの悪魔達は上級悪魔と中級悪魔。かなりの力を有している。にもかかわらず、昴はあっさり屠っている。
でも、私がそれ以上に気がかりなのは…。
「っ!」
昴の表情……私には読み取ることができない。
以前にも昴の表情が劇的に変わってことはあった。それはコカビエルがやってきた時のこと。あの時の昴は今まで見たことないくらいに激昂していた。聖剣を憎んでいた時の祐斗ように…。
でも、今回はまた少し違う。今回の昴の表情は全くわからない。怒りでも悲しみでも、ましてや憎しみでもない。全く表情がない。
――ザバッ!!!
昴がテロリスト2人を同時に屠り、地に着地した。
昴が立ちあがり、テロリスト達に向き合うと…。
「道を空けろ、邪魔をする奴、道を阻む奴は皆殺す…」
静かで、かつよく通る声でテロリスト達に言う。テロリスト達は昴の迫力に押され、一瞬息を飲みながらたじろぐ。
「…」
昴とテロリスト達が睨み合っている。再び一触即発の空気の中…。
「ほっほっほっ! 勇ましいのう」
その空気を緩和させるかのような声がその場に響いた。
振り向くと、そこには隻眼でローブを纏った1人のご老体が…。
「オ、オーディン様! どうしてここへ?」
それは北欧の主神であるオーディン様だった。
「うむ、簡潔に説明するとじゃ、禍の団(カオス・ブリゲード)にゲームを乗っ取られたんじゃよ」
…予想はしていたけど、やっぱりそうなのね。
「今、運営側と各勢力の面々が協力体勢を布いて迎え撃っておる。ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派を手引きしたのも判明しとる。先日の試合での急激なパワー向上はオーフィスに『蛇』でももらい受けたのじゃろう。だがの、このままじゃとお主らが危険じゃ。故に、救援が必要だったわけじゃ。ところがじゃ、このバトルフィールドごと結界で覆われてしまってのう、そこらの者では突破も破壊も難しい。内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならん現状じゃ」
この手の魔術に詳しいオーディン様にそこまで言わせるほど、この結界は厄介な代物なのね。
「儂の力を持ってすれば結界も打ち破れるはずなんじゃがここに入るだけで精一杯とはの…。相手はどれほどの使い手か……ま、とりあえずこれを渡すようにアザゼルの小僧から言われておる。全く、年寄りを使いに出すとは、あの若造はどうしてくれるものか…」
小言を言いながら、オーディン様が私と眷属の人数分の小型通信機を渡してくれた。
「ここはジジイに任せて神殿まで急ぐがよい。このジジイの援護を受けられるなど幸運なことだと思うがよいぞ」
オーディン様がテロリスト達に振り返った。
北欧の主神であるオーディン様を1人残して行くなんて、本来はとんでもないことなのだけれど…。
「皆、行くわよ。申し訳ありません、ここをお願いします」
私の指示に応じて眷属の皆が神殿に向かって走っていった。
途中、後方から膨大の質量のオーラが放出されたのを感知した。オーディン様が力を振るったのでしょう。
やはり、主神の名は伊達ではないわね。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
神殿の入り口に入ると、私達はオーディン様から譲り受けた通信機を取り付けた。
『お前ら無事か? アザゼルだ。オーディンの爺さんからしっかり受け取ったみたいだな』
通信機からアザゼル先生の声が聞こえてくる。
『言いたいことはあるだろうが、まずは話を聞け。このレーティングゲームは禍の団(カオス・ブリゲード)旧魔王派の襲撃を受けている。そのフィールドも、VIPルーム付近も旧魔王派の悪魔だらけだ。だが、これは予想はできていた。現在、各勢力が協力して迎撃に当たっている』
さらにアザゼルが言葉を続ける。
ここ最近の現魔王に関与する者達の不審死。裏で躍動していたのが禍の団(カオス・ブリゲード)旧魔王派であり、グラシャラボラス家の次期当主の不慮の事故も、旧魔王派の手によるものだったという。
首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫であり、このゲームにテロを仕掛けることで世界転覆の前哨戦とし、現魔王派の関係者をここで駆逐するつもりなのだという。今回のゲームには魔王様ももちろん、他の勢力の幹部を来ているので襲撃するには好都合だったのね。
これは、先日のアスタロト家とアガレス家の一戦で疑惑を生じていたとアザゼルは説明した。
ディオドラがアガレスとの一戦で急激に力を増したのはオーフィスの力を借りたかららしい。昴からも話を聞いていたけど、これはカテレア・レヴィアタンが使用した物のと同じようね。
今回のテロをあえて起こさせ、そこで現魔王様、天界のセラフ達、オーディン様、ギリシャの神、帝釈天でテロリスト達を一網打尽にする。そういう作戦を取った。現在、各勢力のトップ達が旧魔王派を相手に暴れているとアザゼルは続けた。
なるほど、そういうことなのね。
アザゼルの説明で事情を全て理解した。
「このゲームはもうご破算ということになるのね」
『悪かったな、リアス。お前達を危険な目に合わせたくはなかったんだが、奴等はゲーム開始と同時に仕掛けてくるだろうと踏んでいたからそこまでは事を進めておきたかったんだ。今回の作戦を立案したのは俺だ。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出しておきたかったからな』
「無茶をしましたね。万が一、俺達の身に何かあったら、その時は責任を取るつもりだったのでしょう? それこそ、自身の命をもってして…」
『…』
昴の言葉にアザゼルは口をつぐむ。アザゼルは今回の作戦の結果次第では死ぬつもりだったのね。
「状況はわかったわ。…次はこっちの状況を説明するわ。アザゼル、緊急事態が起きたわ。アーシアがディオドラに連れ去れてしまったの」
『っ! そうか…。どちらにしろ、これ以上お前達を危険に晒すわけにはいかない。アーシアは俺達に任せてお前達は避難しろ。旧魔王派の連中が転送されているからそこも時期に戦場になる。その神殿には隠し地下室が設けられてる。戦闘が終わるまでそこで隠れてろ。後は俺達でテロリストを始末する。このフィールドは神滅具(ロンギヌス)の1つ、絶霧(ディメンション・ロスト)、結界、空間に抜きん出た神器のせいで入ることは出来ても出ることが不可能だ。術に長けたオーディンのクソジジイでも破壊できない代物だ』
「あなたもこのフィールドに来ているのね?」
『ああ。もっとも、広大なフィールドだから、少々離れてはいるがな』
「なら、アーシアは俺達で助け出します。アザゼル先生はテロリストの駆逐に専念してください」
昴がアザゼル先生に言った。私も同意見だわ。
『お前、今の状況を理解してるんだろ?』
「もちろんです」
『だったら…!』
「悪いですが。誰にもこの役を譲るつもりはありません。…アーシアを救う役も――」
昴が閉じていた目を開ける。
「――ディオドラをぶち殺す役も…」
『!?』
昴は静かに言った。表情は先程と同様に読み取ることができない。明らかにいつもと違う昴に私や皆も動揺している。
いつもと違う昴に少々不安を覚えたけれど、今はそれよりもアーシアを…。
「私達はこのまま神殿に突入してアーシアの救出に向かうわ。ゲームは破綻になってしまったけれど、ディオドラとは決着をつけなければ納得出来ない。私の眷属を卑劣な手段で奪うことがどれだけ愚かなことか、教え込まなければ気がすまないわ!」
私の言葉に皆が頷いてくれた。
「アザゼル先生、俺達には三大勢力で不審な行為を行う者に実力行使ができる権限があったはずです。これをディオドラに行使します。奴が現魔王勢力に反政府的行動している以上、この権限を使用できるはずです」
その通りだわ。私達は今、それを行使できる状況にあるわ。
昴の言葉にアザゼルが通信機越しに嘆息をした。
『ったく…、どうせ止めても聞かねぇだろうから……わかった。今回はお前達を縛るルールはない。だからこそ、お前達の力が存分に振える。――大暴れしてこい! 特に昴! この中じゃお前が一番、鬱憤を溜めこんでいることだろう。お前の力、裏切り小僧のディオドラにぶちかましてこい!』
「おう!」
昴はパチン! と右拳で左の手のひらを叩きながら返事をした。
『最後に1つ言っておく。いいか? 奴等は今回の襲撃が予見されているにも関わらず強行してきた。つまりは、多少勘付かれても問題ない作戦でもあるということだ。それが何かはまだわかっていないが、このフィールドが危険であることには変わりない。後、ゲームが停止しているからリタイヤ転送は無い。危なくなっても助ける手段はない。肝に命じておけ』
アザゼル先生の懸念はもっともだわ。確実に何かの隠し玉があるはずだわ。充分に用心が必要だわ。
「小猫、アーシアは?」
私が小猫にアーシアの探索をお願いした。小猫は頭部から猫耳を出した。
――スッ…。
小猫は神殿の奥を指差した。それと同時に昴も同じ方向を指差した。
「あっちだな。向こうからアーシアと、あのクズ野郎の気配がする」
そう呟いて昴は神殿の奥へと走っていった。
私が小猫に視線を向けると小猫は無言で頷いた。
昴、大丈夫かしら…。さっきのアザゼル先生とのやりとりを見ていると、冷静さは欠いてはいないみたいだけれど…。
私は不安を抱えながらも、昴の後を追って神殿の奥に走っていった……。
続く