昴side
ディオドラの眷属、計10名を倒し、次の神殿に向かう部長と眷属達。
初戦は見事に完勝。ゼノヴィアが少々疲弊した程度で目立った被害はなしだ。相手の戦車『ルーク』2名は消し飛び、兵士『ポーン』8名は全員重症を負ったため、しばらくは戦えないだろう。
「…」
少々気になるのが、次の神殿へと向かいながら部長が俺をチラチラと覗くように見てくることだ。
「っ!」
確認してみたいが、部長は俺と目が合うと慌てて違う方向へと視線を向けてしまう。これでは聞いてみても無駄だろう。
やがて、次の神殿に辿り着いた。そこには3名の敵の姿が確認できた。
「…僕の記憶が正しければ、あの2人は僧侶『ビショップ』で、あっちは女王『クイーン』です」
木場が言う。俺も同意見だ。
「お待ちしておりました、リアス・グレモリー様」
ディオドラの女王『クイーン』は被っていたフードを取り払い、素顔を露わにした。ブロンドの碧眼の女性だった。僧侶『ビショップ』2人は相変わらずフードを被ったままだ。確か、片方が男でもう片方が女だったな。両方ともなかなかの魔力を有したサポートタイプだ。
僧侶『ビショップ』2人はともかく、用心すべきは女王『クイーン』の方だ。記録映像では大公アガレスの女王『クイーン』と戦い、勝利していた。
「では、私が出ましょう」
朱乃さんが前に出た。それがいいだろうな。
「残りの騎士『ナイト』は裕斗だけで充分でしょう。私も出るわ」
部長もこの戦いに名乗りをあげた。
部長も出るのか…。
「あら、部長。私1人でも大丈夫ですわ」
「いくら雷光を覚えたあなたでも無茶は禁物よ。ここは確実に2人でいって事を最小限で抑えるべきよ」
部長が朱乃さんの意見に異を唱える。
率直に、朱乃さん1人でも充分勝てるだろうが、完勝とまではいかないだろう。俺としては部長と朱乃さんの2人で行くべきだと思う。
だが、2人はまだ1人で行くか2人で行くかで意見が割れている。
さて、どうしたものか……ん?
そんな2人のところに小猫がトコトコと向かっていく。2人のところに行くと、小猫は何かを喋っている。時折、こっち……ていうか俺を指差しながら何かを話している。
小猫は何を話しているんだ?
――カッ! バチッ! バチッ!
その時、小猫が何かを伝え終えると、辺り一面に電気が走り始めた。ふと見ると、朱乃さんから雷光のオーラに包まれていた。
「うふふ。うふふふふふふふふ! やったわ! 昴君とデートができるわ!」
朱乃さんから迫力のある笑みを浮かべた。
………? いったい、朱乃さんはどうしたんだ? 明らかに小猫が何かを伝えてから様子が変わった。
「昴、酷いわ! 私というものがありながらどうして朱乃だけ!」
…部長は涙目で怒っている。小猫は本当に何を言ったんだ?
小猫に視線を向けると、小猫はただただ俺にピースサインを向けるだけだ。
「うふふ、私の愛が昴君に通じたわ。リアス、残念だけど、もう諦めてもらう他ないわね」
「!? な、何を言っているの! デ、デート1回くらいで雷を迸らせる卑しいあなたにそんなこと言われたくないわ!」
…朱乃さんはやる気になったけど、部長が怒りだしたな。大丈夫なのか?
「聞き捨てならないわね? いまだに抱いてもらえないあなたに言われたくないわ。ひょっとして、リアスに魅力がないのではなくて?」
「そ、そんなことはないわ! だって――」
部長と朱乃さんが口論を始めてしまった。
――おいおい…。
「――っ!」
「――っ!」
2人の口論は一向に終わる気配がない。
「いい加減にしなさい! 私達を無視して男の取り合いなど、何を考えて――」
「「邪魔をしないで!」」
――ドッゴォォォォォォォン!!!
2人の口論に痺れを切らせた敵の女王『クイーン』が激高しながら口を挿んだ。しかし、それが2人の怒りを買い、特大の滅びと雷光を浴びせられた。僧侶『ビショップ』2人もそれに巻き込まれ、敵3人は煙を上げながら倒れ込んだ。
どうみても再起不能だ。あの3人には気の毒と言う他ないな。
「だいたい朱乃の昴の何を――」
「知っているだけで、あなたも――」
部長と朱乃さんは尚も口論を続けている。
だが、2人のアーシアを助けてからゆっくり話し合いをしましょうという事で話は落ち着き、次の神殿へと向かうことになった。
※ ※ ※
ディオドラの騎士『ナイト』が待っているはずの神殿に辿り着いた。神殿内に足を踏み入れると、そこで待っていたのが…。
「やあやあ、久しぶりだねぇ」
白髪の少年神父。
「ちっ、クソガキ神父か」
そこで待っていたのは、コカビエルが襲撃した時にも現れたクソガキ神父……フリード・セルゼンだった。
――こいつ……まだ生きてやがったのか。
「今、まだ生きてたなって感想をお持ちになりました? もちろん、僕ちん、なかなかしぶといからそう簡単には死にはしやせんぜ?」
相変わらず鬱陶しくてめんどくさい奴だ。…にしても、ここにはディオドラの騎士『ナイト』がいるはずなんだが…。
「おんや~? ひょっとして騎士『ナイト』のお二方をお捜しですか~?」
クソガキ神父が醜悪な笑みを浮かべながら言ってくる。そして、おもむろに口をもごもごさせ、ぺっと何かを吐き出した。それは……指だった。
「俺様が食ってやったよ」
クソガキ神父が信じられないことを言った。
食った? ……まさか、さっきからこいつからするこの嫌な臭いは…!
「その人はもう、人間じゃありません」
小猫が鼻を押さえ、目元を細めながら呟いた。それと同時に…。
――ボゴッ! グニュッ!
異様な音を立てながらクソガキ神父の身体の各所が盛り上がった。遂には神父服を突き破り、一見して角のようなものが身体から生え、腕や脚、そして全身が何倍にも膨れ上がっていった。
「ヒャハハハハハハハハハハッ! てめえらに斬り刻まれた後、腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉっ! 行き場を失った俺を拾ったのが禍の団(カオス・ブリゲード)の奴等さ! 連中、俺に力をくれるっていうから喜んでいただいたらよぉ! ギャハハハハハッ! 何と、合成獣(キメラ)だとよ合成獣(キメラ)! 笑いが止まんねぇよぉ!」
今度は背中の片側から蝙蝠の翼のようなものが生え、もう反対側からは巨大な腕が生えてきた。
もはや、あれが何の生き物なのか形容できない。あらゆる生き物が入り混じっている感じだ。
これが、禍の団(カオス・ブリゲード)がやることか。人をこんなおぞましい姿にしちまうなんてな。こんな姿になったクソガキ神父には同情の欠片もないが、禍の団(カオス・ブリゲード)の奴等には嫌悪感を覚えるな。他の皆も顔を顰めている。
「要するに、見てくれがお前の性根に見合った姿になったってことかよ」
「ハッハッハッ! クソ悪魔がほざくんじゃねぇよ! ……まあいいや、それよりクソ悪魔、ディオドラの素敵な趣味をご存じかい?」
クソガキ神父が突然何かを喋り始めた。
「ディオドラの女の趣味さ。あのお坊ちゃんはなんと、教会通じている女、つまりは、シスターが大好物なんだってよ!」
「!?」
クソガキ神父がケラケラ笑いながら言う。
――シスター!? それって、まさか…!
クソガキ神父は尚も話を続けていく。
「特にお好みなのが熱心な信者や教会本部に馴染みが深い女だ。お前達がぶっ倒してきた下僕の女共はみ~んな元信者ばかりなんだよ! 自分の屋敷で囲っている女共もぜーんぶ、元は有名なシスターや各地の聖女様でござんすよ! ホント、良い趣味だよなぁぁっ! まさに悪魔だ! 熱心な信者を言葉巧みに誑し込んで超絶うまいこと堕とす。これぞ悪魔の囁きだ!」
「…(ギュッ!)」
俺は歯をきつく食い縛った。俺の口の中に鉄の味が広がっていく。
「アーシアちゃんが教会から追放されるシナリオをこうだ。ある時、シスター大好きの悪魔の坊ちゃんがチョー好みの美少女聖女様を見つけました。その坊ちゃんはすぐにでもその聖女様とエッチがしたい。だが、教会から連れ出すにはちょいと骨が折れる。そこで、ある作戦を立てることにしました」
「…」
「聖女様はとってもと~ってもお優しい娘さん。聞くところによると、あの聖女様は悪魔をも癒す神器をお持ちのご様子。そこに目を付けたお坊ちゃんは『悪魔である僕を治療するところを他の聖職者の目撃されれば聖女様は教会から追放されるかも☆』と、思いつきました。傷痕が残る? ノンノン。あの聖女様とエッチができるならそれぐらいオ~ルオッケィ!」
「…」
「信じていた教会から追い出され、神を信じられなくなり、人生を狂わされれば後は僕ちゃんが一声囁けばものに出来るかも~ってねぇ! あのお坊ちゃんからすればそれすらもスパイスになっちまうからねぇ! 後は堕ちに堕ちたところを掬い上げ、心身共に凌辱の限りを尽くして自分のものにする。それはこれからも変わりましぇぇん! それがディオドラ・アスタロト君なのでした~! ギャハハハハハハッ!」
「…」
アーシアは……アーシアは俺に言った。『あの時、彼を救った事、後悔していません』と。だが、それはゲス野郎の卑劣な策謀だった。
そのせいでアーシアは教会を追放され、レイナーレに殺され、果ては悪魔になってしまった。アーシアは今の人生は満足だと言っていたが、それは結果論に過ぎない。
あいつが……あいつが……ディオドラが…! アーシアの人生を捻じ曲げ、果てはアーシアを卑劣にも攫って…!
――グシャァァァッ!!!
その瞬間、俺の頭の中が真っ白になっていた。そして、身体が本能のままに勝手に動いていた。
気が付けば、俺はクソガキ神父の頭を右手で引き千切り、心臓を左手で抉りだしていた。
「がっ! んだよ、それ……反則過ぎるだろ…」
右手で頭だけになったクソガキ神父がボソリと呟いた。
「耳障りだ……後、目障りだ…」
俺は自分でも信じられないくらいの低い声で呟いた。
「ひひひっ、ま、お前らじゃ、ディオドラの計画も、その裏で控えている奴らも倒せないさ。何より、神滅具(ロンギヌス)の真の恐ろしさを全く知らねぇんだからなぁ。…精々足掻け――」
――グショォッ!!!
俺は両手に力を込め、クソガキ神父の頭と心臓を握りつぶした。
「…」
俺の両手からは鮮血が、しぼった雑巾のように滴り落ちた。その返り血は俺の衣服や、果ては顔にまで及んだ。
――ゴォォォォッ!!!
俺は右手から氣を飛ばし、残ったクソガキ神父の身体を塵も残さず消し飛ばした。
「……行こう。アーシアが待ってる」
俺はそれだけ告げ、アーシアがいる最後の神殿に向かった。
『…』
皆の返事はなかった。
皆が今、どんな表情をしているかは俺からは見ることが出来ない。驚いているのか、怯えているのか、蔑んでいるのか、わからない。
今の俺には、アーシアを救い出し、ディオドラを粛清することしか頭になかった。
※ ※ ※
俺達は走り続け、ついに最深部の神殿に辿り着いた。内部へと入っていくと、前方の壁に、あちこちに宝玉が埋め込まれ、怪しげな紋様と文字が刻みこまれた円形の巨大な装置が姿を現した。
一見して何かの魔方陣を形作っているように見える。そして、その装置の中央には…。
「!? アーシア!」
アーシアが張りつけにされていた。
「遅かったね」
装置の横からディオドラ・アスタロトが姿を現した。相も変わらずその顔は優しげな笑顔を作っている。
「スバル……さん…」
「!?」
アーシアが俺の名を呼ぶ。俺はすぐさま気付いた。アーシアの瞳が真っ赤と、腫れ上がった目元に。
アーシアは泣いていたんだ。それも、尋常じゃない程の涙を流す程に。
「ディオドラ……お前、全てを話したのか?」
「うん。全て、包み隠さずね。キミ達にも見せたかったな。彼女が最高の表情をした瞬間を。全てが僕の描いた台本通りに進んでいたことを知ったアーシアの顔は実に最高だった。あ、記録映像も撮ってあるんだ、良ければ見せてあげるよ。教会の女が堕ちる瞬間は決して飽きることのない悦楽だよ」
ニンマリと笑いながら喋るディオドラの言葉を聞いてアーシアはすすり泣き始めた。
「でも、足りないんだ。だって、アーシアにはまだ希望があるからだ。そう、キミ達のことだ。特に、薄汚い下級ドラゴン、赤龍帝。キミが僕の計画を台無しにしてしまったんだよ。レイナーレが一度アーシアを殺した後、僕がレイナーレを殺し、アーシアに駒を与える計画を。おかげで、計画の達成がだいぶ遅れてしまったよ。けど、ようやくアーシアを手に入れることができた。これでアーシアを楽しめる」
「…」
――カッ!
俺は左手にブーステッドギアを発現させた。
「そうだな。こうしようか? キミを死ぬ寸前にして、キミの目の前でアーシアを犯す。キミの名を呼ぶアーシアとアーシアの名を呼ぶキミの声をBGMにしながら犯したらもっと楽しめるかも――」
「――お前もう、喋るな」
『Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!! 』
俺はディオドラを遮るように言った。そして、禁手を行い、俺の身体がブーステッド・ギア・ライトアーマーに包まれた。そして、後ろの皆に告げる。
「…邪魔立てはしないでください。今の俺は感情を抑えらない。邪魔をされたら、敵も味方も、無事に済ませられる自信がありません」
「始めからそのつもりはないわ。私達の分まで全力で叩きのめしなさい」
部長が今の俺にとって最高の言葉をくれた。
俺はゆっくりとディオドラへ向かって歩いていった。
「へぇー、それが赤龍帝か! すごいね! でも、僕もパワーアップしているんだ! オーフィスにもらった『蛇』でね! この力があればキミごとき――」
――ガシッ!!!
「むぐっ!」
俺は一気にディオドラとの距離を詰め、左手でディオドラの口元を掴んだ。
「さっき喋るなって言ったの、聞こえなかったのか? 口から出していいのは、血反吐と悲鳴だけだ」
――スッ…。
俺は左手をディオドラの口元から放し…。
――ドグォッ!!!
「ゲホォッ!」
空いてる右手をディオドラの腹にぶち込んだ。ディオドラは悶絶し、腹を押さえながら膝を着いた。
「せめてもの慈悲だ。死ぬまでに少し時間をくれてやる。ゆっくりゆっくり、アーシアにした罪をお前の身体に刻み付けてやる。死ぬまでに考えておけ、てめぇの遺言を」
膝を付いて悶絶するディオドラを見下ろしながら告げる。。
「てめぇがしてきた行いを後悔しながら死ね」
俺は、ディオドラに死刑宣告をした……。
続く