俺とディオドラとの戦いが始まった。
禁手を行って鎧を装着し、すかさずディオドラの眼前にまで移動し、左手で口を塞ぎ、右拳を腹にぶち込んだ。ディオドラは苦悶の声をあげながら地に膝をついた。
「立てよ。蛇で強くなったんだろ? まさか、これで終わりではないよなぁ?」
俺は上から見下ろすように言った。
「っ!? ぐっ……この…!」
ディオドラは腹を押さえながらヨロヨロと立ち上がる。その顔には先程までの笑顔と余裕はない。
「そうこなくちゃな」
俺は右拳を下げ…。
――バキャッ!!!
「ガッ!」
アッパーでディオドラの顎を打ち抜いた。打ち抜かれたディオドラは身体ごと宙に跳ね上がる。
――ガシッ!
跳ね上がったディオドラの右足首を掴み…。
――ドガッ!!! ドガッ!!!
「ぎゃは! ぐほっ!」
そのまま地面に2度顔から叩き付けた。
――ブォン!!!
その後、空へと放り投げた。そして、すぐさまディオドラに追いつき…。
――バキィィィッ!!!
「うぐぅ!」
ディオドラの背中と腹を右膝と右肘で挟み込むようにぶち込んだ。ディオドラの口から血反吐と同時に内容物が吐き出される。そして、両手を組み…。
――バコォォッ!!!
ディオドラを空から地面に叩き付けた。
――ドゴォォォォン!!!
ディオドラは落下し、地面にクレーターを作った。
俺はそれを見届けてから地面にゆっくり降り立った。
「ゴホッ! ゴホッ! どうしてこの僕が!?」
ディオドラはあちこち血を流し、ガクガクと足を震わせながら立ち上がる。
まだ立てるか…。ま、当然か、死なない程度に……起き上がれる程度に手加減してるんだからな。
「気高き上級悪魔のこの僕が、現魔王ベルゼブブを輩出した血筋たるこの僕が!」
ディオドラは手を前に突きだすと、魔力の弾を無数に発現させた。
「キミごとき薄汚い下級のドラゴンに負けるわけがないんだ!」
その発現させた魔力が雨のように俺へと襲いかかってきた。
「チャチだな…」
――バシュッバシュッ!!!
俺はその手に蒼天棍と呼ばれる全長2メートル程の棍を発現させた。蒼天棍をグルグル回し、次々に降り注ぐ魔力の弾をかき消しながら前進していく。
「威力も、スピードも、数も、精度も、カテレアに比べたらまるで大道芸だな」
カテレアの魔力の群は一発一発が恐ろしく速い上にその威力も凄まじかった。しかもそれを全て精密に操ってきた。だが、ディオドラのは蚊に刺された程の威力の魔力の弾をただただ降り注ぐだけ。
「話しにならねぇよ」
俺との距離が詰まることを目の当たりにしたディオドラは魔力の弾を降らせるのをやめ、俺から距離を取った。
――ドォン!!!
俺はすぐさまディオドラを追いかけ、距離を詰めた。あっという間に追いつかれたことに目を見開くもディオドラは防御障壁を幾重にも張り巡らせた。
「何だそりゃ? そんな障壁、俺からすれば紙と大差ないな」
――バキィッ!!!
俺が拳を振り抜くと、防御障壁を突き破り、顔面へと拳が突き刺さった。ディオドラは数メートル程弾き飛ばされていった。ディオドラの鼻や口から血を噴出させ、更には涙まで溢れ出していた。
「痛い……痛いよ…。どうして……どうして! 僕はオーフィスの力で絶大までに引き上げられているのに!」
「確かに強くなってるが…、百が千になったところで、万の前には意味がねぇんだよ」
――ガンッ!!!
俺はさらにディオドラの顎を蹴り飛ばした。更に後ろにゴロゴロと転がっていく。
「まだ終わりじゃねぇぞ? お前への罰はまだ続いている」
俺は棍を消し、腕をグルグルと回しながらディオドラに近づいていく。
「ひっ!」
ディオドラの顔が恐怖で引き攣らせると、俺に左手を向けた。
命乞いか、それとも何かするつもりかは知らないが…。
――パシッ!
俺は左手首を掴み…。
――ボキッ!!!
左腕に拳を打ち、腕をへし折ってやった。
「っ!? ギャアァァァァァァッ!!!」
ディオドラは絶叫を上げながら地をのたうちまわった。一定時間絶叫を上げると、地を這いずりながら奇声のような声を上げながら叫んだ。
「嘘だ! こんなことがあるはずない! 僕はアガレスに勝った! 無能の跡取りのバアルにも勝つ予定なんだ! 情愛が深い愚かなグレモリーなんか相手になるはずもない! 僕は、アスタロト家のディオドラなんだぞ!」
ディオドラが手を上へ翳すと、俺の周囲に魔力で創りだした鋭い円錐状の物体を幾重にも発現させた。
その円錐状の物体の切っ先が俺に向くと、ミサイルの如く俺に向かって射出された。
俺は咄嗟に間隙を縫って後ろへと後退した。だが、その物体は進行方向を変えて俺に追尾してきた。
「…」
俺はある程度下がったところで止まり、村雨を発現させ、鞘から刀を抜く。そして、村雨を力一杯振るった。
――ドンドンドンドンドン…!!!
円錐状の物体は俺が村雨を振るった剣圧により、その全てが俺に向かう途中で塵も残さずに破壊された。
「悪足掻きはこれで終わりか?」
俺は村雨を肩にかけ、ゆっくりと距離を詰めていく。
「ぐぅぅぅっ! ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ディオドラは再度絶叫すると、俺に右手を向け、魔力を集め始めた。そして、最大限までに魔力を集めると…。
――ドォォォォン!!!
俺目掛けて最大限にまで高めた魔力をぶっ放した。
「やれやれ…」
俺は嘆息すると、大きく息を吸い…。
「カッ!!!」
気合を一閃した。
――バシュン…。
その魔力は、俺の気合を受けると、俺の眼前で一瞬の内に霧散した。
「もはや、避けるのも防ぐのも面倒くさい…」
「あっ……あぁ…」
ディオドラは今目の当たりしたことが信じられないといった表情をした。そして、身体全体が恐怖で震え始めた。
「さてと…」
俺は肩にかけていた村雨の切っ先をディオドラに向けた。
「お遊びは終わりだ」
村雨の切っ先にオーラを集め始め…。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』
それをさらにブーステッド・ギアの力によって底上げしていく。
「た……助けて…!」
ディオドラはその膨大な量のオーラで怯えながら後ずさっていく。
「聞けないな」
俺は切っ先をディオドラに再修正する。
「も、もうアーシアからは手を引く! だから…!」
ディオドラは、もはや身分など関係なく、下級悪魔の俺に醜く命乞いをする。
「……それが遺言だな? んじゃ、これで幕引きだ」
――ゴォォォォォォォォォッ!!!
俺はオーラを底上げしまくった赤龍砲をぶっ放した。
――ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!!
赤龍砲はディオドラ……の僅か上を抜け、遥か後方で着弾し、大規模の大爆発を起こした。
「…」
俺はディオドラを見下ろす。ディオドラは歯をガチガチと鳴らしながら震えあがっていた。
――ブォン!!!
俺は村雨を振り、その切っ先を眼前で止めた。ディオドラの瞳は恐怖で染まりきっていた。
「…ふん。もはや、意地を張り通すことも出来ないか……くだらない」
俺は村雨を手元から消し、ディオドラに背を向け、歩き始めた。
『終わったな。そいつはもう完全にその胸に恐怖を刻み込まれた』
だろうな。そうなるようにいたぶったんだからな。
俺は構わず歩いて行く。
「スバル、トドメを刺さないのか?」
途中、アスカロンを持ったゼノヴィアが俺に言う。俺は鼻を鳴らし…。
「殺す価値もない。こんな奴の命を背負うなんざ俺はごめんだ」
相手が誰であれ、どんなクズであれ、命を摘み取る以上はその命を背負い、命を奪うことの責任を取るのが奪った者の義務だと俺は思っている。だが、俺はこんなクズ悪魔の命の責任なんざ背負いたくはない。
それを聞いたゼノヴィアはディオドラに殺気をぶつけた。
「…少なくとも私はこいつを許せない。こいつはアーシアの優しい心を踏みにじった。それを償わせるべきだ。それに、またアーシアに近づく可能性もある。ならばいっそここで――」
俺はアスカロンを振り上げようとしたゼノヴィアを止めた。
「やめておけ。こんなクズでも、こいつは現魔王の血筋の者だ。殺すと後々面倒だ。それに、まだこいつには聞かなきゃならないこともあるしな。何より…」
俺はディオドラに振り返り…。
「見解の違いだが、俺は、死とは救いだと考えている。死んじまえば、苦しみからも償いからも解放される。わざわざ殺して楽にしてやることもないだろ。テロリストに通じたこいつはもうこの先まともな生涯を迎えることはできない。死ぬより辛い目に合うだろう。それこそ、こいつには似合いの末路だとは思わないか?」
「…言われてみればそうだな。だが、これだけは言わせてもらうぞ」
ゼノヴィアはアスカロンの切っ先をディオドラに向けた。
「もう2度とアーシアに近づくな!」
それだけ告げた。
ディオドラから視線を外すと、アーシアの下に向かった。
「アーシア!」
アーシアが拘束されている装置の下には他の皆も集まっていた。
「スバルさん!」
「約束通り、守りにきたぜ」
俺はアーシアの頭を撫でた。アーシアは安堵した表情になり、嬉し涙を流した。
その時、アーシアを解放しようと装置をいじくる木場の表情が曇り始めた。
「…ダメだ、手足の枷が外れない」
っ!? 何だと。
俺が枷を力任せに外そうとしたが、ビクともしない。
皆でアーシアを繋ぐ枷を外そうとしたが、聖魔剣でも聖剣でも魔力でもビクともしなかった。
俺達が苦慮していると、ディオドラがボソリと口を開き始めた。
「無駄だよ。その装置は機能上、一度しか使用できないが、逆に一度でも使用しないと停止出来ないようになっているんだ。アーシアの能力が発動されない限りね」
「…詳しく話せ」
俺が声低く尋ねる。
ディオドラの説明によると、この装置はこのフィールドを創りだした者が創りだしたものであり、絶霧(ディメンション・ロスト)と呼ばれる結界系最強の神器らしい。
所有者を中心に無限に展開する霧。その中に入った全ての封じることも、異次元に送ることすら出来る。
それが禁手に至った時、所有者の好きな結界装置を霧から創りだす能力に変化した。霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)、創りだした結界は一度発動しないと止めることが出来ない。と、説明した。
「発動条件と、この結界の能力は?」
木場が問いただす。
「発動条件は僕か、他の関係者の起動合図。もしくは僕が倒されること。能力は、枷に繋いだアーシアの神器の能力を増幅させて反転(リバース)することだよ」
っ!? 何だと!?
アーシアの神器、それは聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)。能力は傷を癒す能力だ。
「効果範囲は?」
木場がさらに問いただす。
「…このフィールドと、観戦室にいる者達だよ」
くそ! こんな切り札があったからテロリスト達はテロを露見されてても強行したのか!
アーシアの回復能力は凄まじい。悪魔や堕天使さえも治療することもできる。それを増幅されて反転されたら最悪、各勢力のトップ陣が根こそぎ全滅する可能性もある!
その事実に気付いた全員が顔を青ざめた。
――まずい……早くなんとかしないと…。
――ガキン!!!
俺は村雨で枷を斬り付けるもビクともしない。
ちっ、ダメか。聖魔剣でもダメだったんだ。ただ頑丈なだけの何の能力もないブレイブ・ハートでは無理か。
「スバルさん、私ごと――」
「そんなこと言うな! 絶対に助けてやる! だから待ってろ!」
「でも、このままでは……私の力で皆を巻き込むくらいなら――」
「誰も失いたくないんだよ、俺は! 俺は一度アーシアを守れなかった! もう2度と失わせはしない! 俺が絶対守ってやる!」
「スバルさん…!」
アーシアが感極まって涙を流し始めた。
――ギュゥゥゥゥゥゥゥゥン…。
静かに装置が起動し始めた。
――くそっ! 動き始めた!
ドライグ、このブーステッド・ギアの能力でどうにかできないのか? ロンギヌスなんだろ?
『残念ながら、絶霧(ディメンション・ロスト)はブーステッド・ギアより高ランクのロンギヌスだ。しかも、禁手となったら無謀に等しい。覚えておいてくれ、ブーステッド・ギアより強大なロンギヌスも存在しているんだよ』
ちくしょう…、何てことだ…。そんな神器が何でよりにもよってテロリストなんかに!
考えろ…。何か手があるはずだ…。現状の俺達の手札で何か…。
俺は考えを巡らせる。
1つで無理なら組み合わせて……っ!? 待てよ…。
俺の中である考えが浮かんだ。
「ゼノヴィア。お前、シトリー眷属とのレーティングゲームで木場にデュランダルを託していたよな?」
「? …ああ」
「ということは、デュランダルはお前の許可があれば他の奴にも使えるんだな?」
「…スバル、何をするつもりなんだ?」
ゼノヴィアが眉を顰めながら聞いてくる。
「デュランダルの使用権を俺に与えてくれ!」
「っ!? なに!?」
俺の提案にゼノヴィアは目を見開いて驚愕した。
俺のブーステッド・ギアと最強の斬れ味を誇ると言われる聖剣デュランダル。この2つの組合わさせればもしかしたら…。
「いや、それは無理だ…」
ゼノヴィアは表情を曇らせながら首を横に振った。
「木場がデュランダルを扱えたのは木場に聖剣を扱える適正があったからだ。それがないスバルでは…」
「そんなの、やってみなければわからないだろ!」
俺が尚も食い下がる。
「ダメだ! 仮にエクスカリバーなら使用出来ないだけに留まるが、デュランダルの場合、それを手にした者に悪影響を与える。最悪の場合、スバルの命を――」
「これしか方法がないんだ! 早くしろ!」
「…くっ! わかった」
ゼノヴィアは渋々首を縦に振ると、亜空間からデュランダルを取り出した。
「デュランダルの使用権を一時、御剣昴に譲り受ける」
俺はゼノヴィアからデュランダルを受け取り、正眼に構えた。
「聖なる刃に宿りしセイントの御名において、解放する。デュランダ――」
――ブシュッ!!!
突如、俺の肩から何か鋭利なもので斬られたかのように傷が出来、血が吹いた。
「まずい、デュランダルの意思がスバルを拒絶し始めた。スバル! デュランダルから手を放せ! このままではお前が――」
ダメだ……これ以外、アーシアを救う手はないんだ!
――ブシュッ! ズシュッ!
更に俺の身体に傷が走った。
「スバルさん! もうやめてください!」
アーシアが涙を流しながら俺に訴える。
大丈夫だ、アーシア……俺が必ず救ってやるからな…。
――ブシュッ!!!
俺の胸に傷が走る。
そして、俺の意識は何処か別の場所へと沈んでいった。
※ ※ ※
――ここは……何処だ…。
俺は真っ暗な闇の中にいた。
何だここは……誰もいない…。俺はどうしてこんなところに…。
『触れるな…』
「!?」
その時、とても低く深く、男と女が入り混じったような声が俺の耳に届いた。
そこで俺は自分の現状に気が付いた。深い闇の中、俺は十字架のようなものに手足を鎖でくくられ、磔にされていた。
――シャンシャン!!!
「くっ!」
鎖を引き千切ろうと手足を動かしたがビクともしない。
そして、目の前がポォッと光ると、そこには白い光が現れ、それが徐々に人の輪郭になっていった。
――誰だ、お前は…。
俺が疑問を抱くと、それに答えるように光の人が答える。
『我はデュランダル』
デュランダル?
『我に触れるな。資格なき悪魔が我に触れること許さぬ』
その光の右手の部分にデュランダルが現れた。
――ザシュッ!!!
「ぐっ!」
そのデュランダルを俺の腹に突き刺した。俺の全身に激痛が走る。
『我は悪を滅し、善を救うために存在する。資格無き悪魔が我に触れること叶わぬ』
――ザシュッ! グシュッ! ブシュッ!
さらに片口、右脚、腹を切り刻んでいく。
『資格無き者には……死、あるのみ』
――ザシュゥゥッ!!!
その光は最後、俺の胸の中心にデュランダルを突き刺した。
『資格無き者は、滅せ――』
「うるせぇーよ…」
俺は顔を上げ、その光を睨みつけた。
「さっきから黙って聞いていれば、悪を滅する? 善を救う? 目の前の女の子1人救えない駄剣ごときが、偉そうに説教してんじゃねぇ…」
――ピシッ!!!
俺が腕に力を込めると、俺の自由を奪っている鎖に亀裂が入った。
「てめぇは黙って俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ! 駄剣ごときが、俺に逆らうんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!!」
――ピシッ……キシィ……ガシャァァァァァァァン!!!
俺が全身に目一杯力を込めると、俺の四肢を縛っていた鎖が千切れた。その瞬間、俺の全身から赤いオーラが発せられた。
――カァァァァァァァァァァッ!!!
その赤いオーラはその光の人を包み始めた。
『ぬぅぅぅぅっ! 何だ、この禍々しい程に強大で暴力的なオーラは!?』
俺から発せられるオーラに光の人が驚愕の声を発した。
「おぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!」
俺はさらに気合を込めた。俺の身体から更なる強烈な赤いオーラが発せられる。光の人はその赤いオーラに飲み込まれていく。
『……良いだろう。その意気に免じ、一度だけ我を使うことを許そう。ただ一度、存分に振うがよい』
その光の人は、俺の発する赤いオーラに包まれ、消えていった。
※ ※ ※
――コォォォォォォォッ…。
「…ふぅ、手間がかかったな」
意識が戻ると、俺の持つデュランダルから聖なるオーラを発していた。
「うそ……昴がデュランダルを…」
部長が驚愕している。部長は俺がデュランダルを扱えるとは思わなかったみたいだな。
「昴君には、聖剣の適正があったということなのか…」
木場も同じように驚愕している。
「いや、違う…」
「えっ?」
木場の言葉にゼノヴィアが答える。
「スバルには聖剣の適正はない。それはさっきまでのデュランダルが証明している」
「では何故?」
ゼノヴィアは引き攣ったような笑みを浮かべる。
「スバルは、デュランダルの意思を力で屈服させたんだ」
「屈服?」
「ああ。スバルはデュランダルの意思を屈服させ、無理やり力を引き出させたんだ」
「そんなことが可能なのかい?」
木場が目を見開いてゼノヴィアに聞いた。
「不可能だ。通常ならな。だが、現にスバルはデュランダルを御している。赤龍帝だから成せる業なのか…」
ゼノヴィアは苦笑を浮かべながら言った。
「不可能を押し通してしまうなんて、さすがとしか言いようがないわね」
部長も苦笑を浮かべていた。
『相棒よ、戻ってきたか』
ドライグが声を発する。
『デュランダルが創りだした深層世界にお前が引きずりこまれてしまったせいで助けることができなかった。だが、まさか、デュランダルを屈服させるとはな』
なに、あまりにもやかましかったんでな、ちょっと喝を入れてやったよ。
「何にせよ、これで手札は揃った、始めるぞ!」
俺はデュランダルを天に翳した。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』
俺はめいっぱい倍化をさせたオーラをデュランダルへと込めていく。
――ドゥォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
俺を中心に巨大な光の柱が遥か高く天を越えていく。それは先程のゼノヴィアの時のオーラの量を遥かに上回る程だ。
違う、俺が求めるのは破壊力じゃない。斬れ味だ。
俺は天に昇ったオーラを刀身へと圧縮させるイメージを頭に浮かべた。すると、デュランダルがそれに反応するように天高く立ち上った光の柱がどんどん小さくなっていく。
決してオーラが弱くなっているわけではない。先程まで天高く昇ったオーラが徐々に刀身に凝縮されていっているのだ。
どんどん光の柱が小さくなり、ついにはデュランダルの刀身のみを包む程度にまで小さくなった。
よし、だいぶ圧縮できた! 後は、そのオーラを破壊力重視ではなく、斬れ味重視に変換させる。
――ブゥゥゥゥゥゥゥン…。
デュランダルのオーラが鋭利な刃物のように鋭くなる。
初めての試みだが、氣を破壊から斬に変える要領によく似ているため、あまり苦ではなかった。
「よし、充分だ。後は…」
俺はデュランダルを脇構えに構えた。
後はこれでアーシアを救えるかどうかだ。頼む、デュランダル。俺の……いや、俺達の想いに応えてくれ!
「おぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!」
俺は気合を込め、デュランダルを振るった。
――キィィィィィィィィン!!!
辺り一帯を甲高い音が響き渡る。辺り一帯が静寂に包まれた。
――ブォン!!!
俺はデュランダルを血振りでもするように一振りさせる。
「どう……なったの?」
部長が静寂の中、ポツリと呟く。すると…。
――ピシッ!
突如、何かに亀裂が発する音が響いた。
――ピシッキシィピシィ…。
その音がさらに響き渡る。…そして。
――ガシャァァァァァァン!!!
アーシアの四肢をくくっていた枷に亀裂が走り、粉々に砕け散った。
「きゃっ!」
「アーシア!」
慌ててゼノヴィアがアーシアを抱きとめた。
――ギュゥゥゥゥゥン…。
それと同時に装置も起動を停止させた。
「アーシア……良かったわ」
部長が目に涙を浮かべながらアーシアを抱きしめた。
「昴、よくやったわ。あなたのおかげでアーシアを救い出せたわ」
部長が俺に賛辞の言葉を贈ってくれた。
「当然のことです。礼なら、デュランダルに言ってあげてください。ゼノヴィア、サンキューな」
俺はゼノヴィアにデュランダルを手渡した。
デュランダルは最高の斬れ味を持つ聖剣だと聞いた。なら、ブーステッド・ギアでその斬れ味を最大限にまで高めてやればアーシアを救えると予測を立てたんだ。結果は見事に的中だ。
――デュランダル……さっきは駄剣とか言ってごめんな。お前は最高の聖剣だ。
「礼を言われるまでもない。…だが、私よりも遥かにデュランダルを使いこなしているのを目の当たりにすると、複雑極まりないがな」
ゼノヴィアは複雑な表情をしたが、すぐにアーシアを抱きしめた。
「スバルさん!」
アーシアが俺へと駆けより、抱きついた。
「私、信じていました。スバルさんがきっと助けてくれるって」
「当たり前だ。守るって、言っただろ?」
俺はウィンクしながら言った。
「皆さんも、私なんかのために、ありがとうございます」
アーシアが皆に頭を下げながら礼を言った。
「当然よ。あなたは私の眷属で、妹みたいなものなのだから」
「私とアーシアは友なのだから当然だ」
「あらあら。お礼なんていりませんわ」
「アーシア先輩! 良かったですぅぅぅぅぅっ!」
「良かったです」
皆はそれに笑顔で、ある者(ギャスパー)は涙を流しながら応えた。
これで終わった。アーシアを救い出した。ディオドラは……この事実が信じられないのか、意気消沈していた。
とりあえず、皆無事で良かった。皆で神殿に用意されているという地下室に…。
――ドックン!!!
「っ!?」
その時、俺の心臓を鷲掴みにするかのような感覚に襲われた。それと同時に凍てつくような殺気と敵意を感じ取った。
――何だ……どこから…。
俺はその殺気と敵意の持ち主を探す。すると空に、ライトアーマーを身に着け、マントを羽織っている者がいた。
――何だ……あいつは…。
まだその存在に俺以外の誰も気付いていない。その者はこちらに手を向けている。
その手は……アーシアに向けれていた。
――っ!? アーシア!
俺はすぐさま駆け出した。
何者かはわからないが、そいつはアーシアを狙っていることだけは理解できた。
絶対に……絶対にアーシアを傷つけさせない!
俺は一切声を発せず動き出した。
その時、俺の周りがスローモーションにでもなったかのような感覚に襲われた。俺はゆっくり、ゆっくりとアーシアに駆けていく。直前でアーシアが俺に気付き、こっちを向いた。
――ドン…。
俺はアーシアを突き飛ばした。当のアーシアは突然のことで状況が理解できておらず、表情1つ変えずに突き飛ばされていく。
――ビシュッ!!!
それと同時にその者の手から放射されたものが俺の胸を容赦なく貫いた。
俺は崩れるようにゆっくり倒れていく。
――ガハッ!
俺の口から血を吐き出した。それと同時に地面へと倒れていく。
身体は感覚がなくなったかのように動かない。
そして、地面に崩れ落ちると、俺の意識は常闇の中へと沈んでいった……。
続く