リアスside
何が起こったのか、一瞬私には理解出来なかった。
突然、昴がアーシアを突き飛ばした。それと同時に昴の胸を何かが貫いた。
「よもや、ロンギヌスで創りしものが壊されるとはな。いや、あの霧使い、手を抜いたな。これでは計画の再構築が必要だ」
聞き覚えのない声が私の耳に届く。
その声がした方角を向くと、見知らぬ男が宙に浮いていた。その男はライト・アーマーを身に着け、マントを羽織っている。
その男からは身体に寒気がするほどのオーラを放っていた。
「……誰?」
私は思わず尋ねていた。
「これはお初お目にかかる、美しくも忌々しい偽りの魔王の妹よ。私はシャルバ・ベルゼブブ。偉大にして正統なる魔王ベルゼブブの血を引く存在だ。偽りの血族とはわけが違う。ディオドラ・アスタロトよ、この私が力を貸してやったというのに何だこのザマは? オーフィスの蛇を無断で使い、計画を予見させたことといい、貴公の愚行はあまりにも過ぎた行為だ」
「っ!?」
――旧ベルゼブブ!
アザゼル先生が言っていた、今回のテロの首謀者がこんな時に…!
「シャルバ、良く来てくれたよ! アハハッ! これでお前達は終わりだ! 旧魔王と現魔王が組めばお前達ごとき――」
――ビッ!
旧魔王のシャルバが現れ、怯えきっていたディオドラが急に虎の威を借る狐の如く高笑いを上げ始めた。それと同時に先程昴の胸を貫いたものと同様のものがディオドラの胸を貫いた。
「偽りの魔王の血筋ごときに、『旧』などと呼称されるのは不快極まりない。おまけにあの娘の神器の力まで教えてやったというのにこの体たらくだ。もはや貴様は用済みだ」
シャルバは嘲笑を浮かべながら吐き捨てるように言った。
ディオドラは床に突っ伏すこともなく塵と化して霧散していった。
今のは何? 光……堕天使の力に等しいもの? ……っ!? では、同じもので貫かれた昴は!
「スバル……さん…?」
アーシアが茫然と、尻餅を着いたまま昴を見つめている。
昴はピクリとも動かず、倒れ伏している。貫かれた胸から煙が上がり、さらには血が広がり、そこから徐々に身体が塵と化そうとしている。
「アーシア! 急いで昴の治療を!」
私が慌ててアーシアに指示を出した。
「スバルさん……スバルさん…」
「アーシア! 急ぎなさい!」
私の檄にアーシアはハッと正気に戻り、昴の胸にトワイライト・ヒーリングを当て始めた。
「無駄だ。そやつの胸を貫いたのは悪魔には猛毒の光だ」
やはりそうなのね…。さっきからアーシアが治療を施してはいるけど依然として傷が塞がる気配がない。
「貴様程度の神器では、精々身体の崩壊を防ぐことくらいしか出来まい」
「っ!」
それを聞いても尚、アーシアは神器を当て続ける。
「その男は直に死ぬ。…まあよい、貴様らの中で一番厄介な赤龍帝を葬り去ることが出来た。我が計画の役に立たなかったせめてもの報いとして真っ先にその女を葬るつもりではあったが、ある意味では役に立ったよ」
シャルバの冷淡な声から発せられる言葉に私は昴を傷つけたことと同じくらいに怒りがふつふつと溢れてきた。
「今回の作戦は失敗だ。私の負けだよ。まさか、中堅クラスのロンギヌスであるブーステッド・ギアで上位クラスのディメンション・ロストを打ち破るとはな。だが、退却する前にサーゼクスに一泡吹かせたいところだ。サーゼクスの妹よ、現魔王の血筋である貴様をこの場で滅ぼしてくれよう」
「許さない……許さないわ! よくも、昴を! 絶対に許さないわ!」
私は全身に赤いオーラを張り巡らせた。
「昴君を……あなたを許しませんわ!」
朱乃も激昂し、雷光を身に纏い始めた。
絶対に許さないわ! 私の可愛い眷属を! 私の大切な眷属を! 私の……最愛のヒトを…!
「スバルさん! スバルさん!」
アーシアが涙を流しながら昴の胸に神器を当てている。
「どうして……どうして傷が塞がらないんですか! どうして…」
昴の傷は一向に治る気配がない。このままでは身体が崩壊は防げても出血で…。
その時、私の傍から1人、飛び出していった。
「よくもスバルを! 斬るっ! 斬り殺してやるっ!」
ゼノヴィアが激高しながらデュランダルとアスカロンを構えてシャルバに斬りかかっていった。
「無駄だ」
しかし、2本の聖剣はシャルバの防御障壁に阻まれてしまった。
そこから右手を前に出し、ゼノヴィアの腹部に魔力の弾を撃ち込まれた。
「がっ!」
直撃と共に苦悶の声を上げ、地へと落下していった。
「………よくもスバルを…。初めて、心から好きになれた男だったんだ…。絶対に許さないぞ!」
ゼノヴィアはデュランダルとアスカロンを拾い、ヨロヨロと立ち上がった。
「彼は、僕の尊敬できるヒトだった。僕の目標だった。いつか、彼みたいになりたいと思っていた。その彼を奪ったあなたを僕は許さない!」
裕斗も険しい表情で聖魔剣を発現させ、ゼノヴィアに並んだ。
「グレモリーの姫君は随分と趣味が悪い。下劣なる転生悪魔に汚物同然のドラゴン。思わず目を覆いたくなる。その汚物は我が力と禍の団(カオス・ブリゲード)の研究者達が作ったこの機械、魔力を光を精製するこの機械で心臓を貫いたのだ。――程なくしてその命は尽きる。もう諦めるのだな」
『っ!?』
その言葉を聞き、私達はさらに激昂した。
昴は死なないわ! 彼はとても強く、気高い悪魔よ! こんなところで……あなたなんかに殺されはしないわ!
だから、昴。目を覚まして! お願い、目を覚ましてっ!
※ ※ ※
昴side
身体が動かない…。
アーシアは守れた。だが、その代わりに俺が致命の一撃を胸に食らってしまった。
皆が俺に声をかけているみたいだが、俺にはその声が聞こえない。
アーシアが必死に治療を施してくれている。だが、俺の身体は一向に治癒せず、身体は一向に動かす事ができない。
俺は……死ぬのか?
俺の感覚がどんどん失っていく。まるで、どんどん深い海の底にでも沈んでいくみたいだ。
部長達はきっと、あの現れた男と戦っている。
皆を……守らないと…。
だが、身体は全く言う事を聞いてくれない。
くそっ……こんなところで俺は…!
俺は――!
――情けないねぇ。
っ!? 誰だ!?
俺以外の誰かの声が突如、俺の耳に届いた。
誰だ……この声、ドライグじゃない!
――誰? つれないなぁ、君は俺のことをよく知っているはずなのになぁ…。
ふざけるな! 俺はお前の事なんか…!
――君が前世で縁を結んだ戦友達の魂の欠片が君の魂に絡みつき、君と共にこの世界にやってきて、その魂達はこの世界で神器という物にその姿を変えた。けどね、君と共にこの世界に来たのは戦友達だけじゃなかったのさ。
こいつ、何を言って…。
――他にも混じっていたのさ。俺のような悪霊がね。
っ!? お前、まさか!
――君の身体、しばらくの間堪能させてもらうよ。
くそっ! てめっ――。
俺はとても濃い闇に飲み込まれていった。
side out
※ ※ ※
NOside
「はぁぁぁぁっ!」
「おぉぉぉぉっ!」
裕斗は聖魔剣で、ゼノヴィアはデュランダルでシャルバに左右から斬り付けていく。だが、その剣はシャルバが展開させた防御障壁で阻まれてしまう。
シャルバは光を2人に飛ばす。裕斗とゼノヴィアはそれを辛うじてかわし、距離を取る。
「雷光よ!」
朱乃が雷光を落とす。
「くだらん」
シャルバは手を上へ向け、防御魔方陣を展開させ、雷光を防ぐ。
そしてすぐさま朱乃に魔力を飛ばす。
「っ!」
雷光に力を回していた朱乃は回避行動が取れていない。
そこに、影が1つ割り込むと、その影と魔力が着弾。同時に爆発する。
「させません」
煙がはれると、そこには小猫が朱乃を守るために両腕をクロスさせながら朱乃の前に立っていた。
「小猫!」
部長が声を上げるが…。
「大丈夫です」
小猫は部長に心配かけないよう声を発する。
「まだだ!」
「行くぞ!」
再び裕斗とゼノヴィアがシャルバに向かっていく。
「スバルさん! スバルさん!」
アーシアは昴に神器を当て続けている。だが、未だに昴は快方に向かう様子はない。
「お兄ちゃん! 目を覚ましてくださいぃぃっ!」
ギャスパーが涙を流しながら昴の身体にすがりついている。
「(お願いです! スバルさんを助けてください! 主よ、お願いします! スバルさんを……スバルさんを助けてください!)」
アーシアは渾身の力を込めて神器を発動させて続けている。
「ふん!」
その時、シャルバが魔力を撃った。それは裕斗やゼノヴィア、朱乃ではなく、昴に向かっていた。
「っ!? 昴君」
「スバル!」
裕斗とゼノヴィアが振り返り、叫ぶ。
朱乃と小猫は逆方向にいたため、対応ができない。
「昴!」
リアスも不意を突かれ、対応が遅れた。
「スバルさん!」
「させませぇぇぇん!」
アーシアとギャスパーが昴の前に両腕を広げ、昴を守るように立ちはだかった。
「アーシアーーーッ!!! ギャスパーーーッ!!!」
リアスが2人の下に駆け寄る。
光のビームはどんどんアーシアとギャスパーに迫っていく。
「(ダメ……間に合わない!)」
必死に駆け寄るリアスを嘲笑うように光は2人に向かっていく。
そして、光は2人のところに到着する。
――バチィィィィッ!!! パシュン…。
『っ!?』
光はアーシアとギャスパーを貫くことはなかった。2人を貫く直前でそれは阻まれたからだ。
突然のことでアーシアとギャスパーは茫然としている。
光を受け止め、かき消したのは昴だった。昴は右手を前に差し出し、光を受け止め、光を霧散させた。
「お兄ちゃん! よかった……よかったですぅ!」
ギャスパーが昴の足に抱きつく。
「…」
当の昴はそんなギャスパーを気にもせず、右手を開いたり閉じたりしている。
「ふむ……総魔力は前の半分……いや、3分の1程度か。少々気がかりだが、氣の総量と身体能力は前より優れているからよしとするか」
昴(?)はひとりでにぶつぶつと呟いている。
「スバル……さん?」
そんな昴をアーシアは不安げな瞳で見つめる。
昴(?)はスッと歩き出した。アーシアとギャスパーはそんな昴(?)をただただ黙って見送った。
今、この瞬間も、激しい戦闘の轟音が鳴り響く。昴(?)の向かう先ではグレモリー眷属達とシャルバが激しい戦いを繰り広げている。
「昴! 治ったのね!」
リアスの横に並んだ昴(?)に嬉々とした表情で声をかける。
だが、そんなリアスを無視するように昴(?)は抜け、激戦を繰り広げているところへ歩いて行く。
「昴?」
リアスもまた、先程のアーシア同様の表情をしながら昴(?)を見送った。
シャルバの近くにまで歩いて行くと、そこで足を止めた。
その横にシャルバの展開した障壁で弾かれた裕斗とゼノヴィアが並ぶように着地した。
「昴君! 無事だったんだね!」
「私は信じていたぞ! お前がこんなところで死ぬわけがないってね!」
昴の復帰に裕斗とゼノヴィアは喜びを露わにする。
「お前ら邪魔だ、ひっこんでろ…」
「えっ?」
昴(?)がボソリと呟くように2人告げる。
「邪魔なんだよ。……とっとと下がれ」
昴(?)が右手を前に出し、指を鳴らした。
「ぐっ!」
「なっ!?」
すると裕斗とゼノヴィアはバチン! と、何かに弾かれるように後方へと吹っ飛んでいった。2人はリアスのいるところまで転がり、そこで止まった。
『…』
その光景をリアスを始め、他の眷属達は茫然と眺めている。
「クククッ、アハハハハハッ!」
昴(?)は突如、高笑いを上げ始めた。
「悪魔! 天使! 堕天使! この世界は最高だ! ここは最高に俺好みの世界じゃないか!」
昴(?)は高笑いを上げながら悦びを露わにする。
「すば……る?」
突然人が変わったように豹変した昴にリアスは戸惑いと恐れを抱き始めた。
そして、昴(?)は顔を上げ、空中で浮いているシャルバに視線を向けた。
「そして魔王か。なるほど、楽しくてしかたないねぇ」
シャルバを見ながら昴(?)は嗤う。
「こやつ、いったい何が――」
その時、シャルバの周囲に魔方陣が数個現れた。その魔方陣から新たにテロリストの悪魔が数人現れた。
「シャルバ様、お話が」
現れた悪魔の1人がシャルバの耳元に寄り、何かを話しはじめた。
「……なに? クルズレイが?」
受けた報告にシャルバが眉を顰める。
「…なるほど、サーゼクスの奴にか。…クルズレイめ、蛇で強化したというのに、それを全く生かせなかったか」
シャルバは全ての報告を受け、鼻を鳴らした。
「いよいよもってグレモリーは不愉快だ。このままおめおめ撤退してはますます癪だ。やはり、ここでサーゼクスの妹とその下僕共は消しておかねばな」
シャルバは手を前に翳した。すると、先程現れた悪魔達がシャルバの前に立った。
「ここは我らが…」
「こ奴等ごとき、シャルバ様のお手を煩わせるほどの者どもではありません」
悪魔達は地に足を降ろすと、リアス達がいる方へ近づいていった。
「三下に用はないんだがねぇ」
昴(?)はうっとうしげに言う。
「黙れ、薄汚いドラゴンが――」
「下級の転生悪魔風情が! 貴様など一瞬で――」
昴(?)は言い終える前に言葉を発した2人の悪魔の顔を鷲掴みした。
――グショォォォォッ!!!
その2人の悪魔の身体は、まるで血の入った水風船が爆発するが如く弾け飛んだ。
「薄汚い血だ」
辺りは大量に血液と肉片が飛び散った。
「おのれ!」
「よくも!」
新たに悪魔3人が昴(?)に向かっていった。
「また三下かい?」
昴(?)は嘆息するように手を前に出し、手を振るように指を鳴らす。
すると、3人の悪魔の目の前で突如、大きな爆発が起こった。
「「「がっ……ぐっ…」」」
悪魔達は黒焦げになり、プスプスと音を立てながら地面に落下していった。
「っ!? 貴様ーーーーーーっ!!!」
残りの悪魔が昴(?)に向かって炎を放った。
炎は昴(?)に直撃し、周辺に大きな火柱が立ち上った。
「!? 昴ぅぅぅぅーーーっ!!!」
それを目の当たりにしたリアスは悲痛な表情で昴を呼んだ。
「ふん、手こずらせやがって」
勝利を確信した炎を放った悪魔がその火柱の横に立った。
「さあ、次は貴様ら――」
――ガシッ!!!
リアスの方へ向いた直後、胸倉を掴まれた。
「なんだこりゃ? 火遊びでもしてんのか?」
「ぐっ!?」
ゴーゴーと燃えながら昴(?)が何事もないように悪魔の胸倉を掴む上げる。
昴(?)を包んでいた炎は、ボォン! という音と共に弾けるように消えていった。
「どうせやんなら、このぐらいやれよ」
胸倉を掴んだ手から黒い炎が現れ、悪魔を燃やしていく。
「ぐあっ! …くっ、これしきの炎――!? なんだこれは!? 消えない!」
悪魔は炎を消そうとするが、黒い炎は全く消える気配がない。それどころか悪魔をどんどん飲み込んでいく。
「その黒い炎は生きた炎。対象物を燃やし尽くすまでは絶対に消えることはない」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
悪魔はその黒い炎の圧倒的な熱量で地面でしばらくのたうちまわると、黒い燃えカスとなり、黒い炎も消えていった。
「ほう? 中級上級相当の悪魔相手になかなかやるではないか」
シャルバは賛辞の言葉を贈る。
「この程度で中級上級悪魔? やれやれ、これでは、魔王と言えど、期待外れになりそうだねぇ」
そのシャルバに昴(?)は嘲笑交じりに言った。
「口を慎め、下劣なドラゴン……まあいい、その意気に免じ、名だけでも覚えておいてやろう」
「名か? 生憎と、俺にはそんな大層なものは持ち合わせていなくてねぇ、しかしまあ、お前に『貴様』や『お前』呼ばわりされるのも不愉快だ。そうだな、あえて名乗るなら、俺は――」
――刃……破壊者だ。
続く