昴side
「うっ…」
俺の意識が覚醒し、目を開ける。
「「昴(君)!」」
目を開けると、部長と朱乃さんが涙を流しながら俺に抱きついた。辺りを見渡すと他の眷属達の他、イリナの姿もあった。
「スバル……さん…」
ふと前を見ると、両目から溢れる程の涙を流しているアーシアの姿があった。
「良かった……良かったです…」
アーシアはただそう言いながら俺に抱きついた。
俺は、どうなったんだ? …突然現れた奴がアーシアを狙おうとして、俺が庇って胸を貫かれて…。
咄嗟に胸の辺りを確認したが、制服の胸のところに丸く穴が空いてこそいるが、傷は綺麗なくなっていた。
確かに貫かれたはずなのに――はっ! そうだ!
「部長! 無事ですか!? あいつが…!」
俺は抱きつく部長を引き離し、安否の確認をした。
「昴……覚えていないの?」
「胸を貫かれて、それからのことは……意識下の中であいつが俺の身体を乗っ取って、あいつが部長に手をかけるみたいな言葉が聞こえて…、無事、みたいですね」
俺はひとまず胸を撫で下ろした。
「あいつ……刃とか名乗った奴のことね? その刃とは何者なの?」
「…」
部長に尋ねられ、俺はどう説明するか悩んだ。前世のことを話してもいいものなのか? とりあえず俺はその辺はぼやかしながら説明をした。
「あいつは、昔に俺が戦って、俺が倒した相手です」
「昔、と言うと、私達と出会う前のこと?」
「そう……ですね」
こういう説明しか出来なくて心苦しいが、少なくとも嘘は言っていない。
「あいつは、かつて悪逆非道を繰り返していた奴で、俺が倒した……はずなんですが…」
どうなってるんだ? あの刃という名は確か仮の名で、本当の名は……なら、あの刃は奴なのか? …だが、あの禍々しい感じは初めて奴と会った時と同じだった。奴の最後を見届けた時はもっと違っていたんだが…。
「…すいません、俺もあいつのことは詳しくは知らないんです。ただ、胸を貫かれて意識が昏倒した時、あいつは俺の身体を乗っ取るように身体を支配していきました。あいつの言葉通り、悪霊なのかもしれません」
刃とあいつは別人だったのか? 例えるなら、二重人格だったとか…。
直接奴に確認できないことには俺も憶測でしか言えない。
「シャルバを倒したようだな」
その時、見知った声が俺達の耳に聞こえてきた。
「ヴァーリか…」
「っ!? ヴァーリ!?」
俺がポツリと呟くと、皆が臨戦態勢を取った。そこにはヴァーリと美猴と、以前に冥界でのパーティーに現れた聖王剣コールブランドの使い手の青年がいた。
「そう構えないでください。本日は戦いに来たわけではありません。もちろん、テロでもありません」
聖王剣の使い手が手で制しながら言った。
「俺達の目当てが別にある。あれを見てみろ」
ヴァーリがフィールドの空を指差した。それにつられて空を見たがそこには何もない白い空……と思っていたその時!
ヴァーリが指差した方向から突如、空間に巨大な穴が開き、そこから巨大な何かが姿を現した。
――でかい! なんてでかさだ!
現れたのは一見して真紅のドラゴンだ。だが、以前に修行相手をしてもらったタンニーンとは比べ物にならないほどの大きさだ。全長は軽く100メートルを超えている。
部長や他の眷属も驚愕していた。
「『赤い龍』と呼ばれるドラゴンは2種類存在する。1つはキミの左手に宿るウェールズの古のドラゴン、ウェルシュ・ドラゴン。赤龍帝だ。白龍皇もその同じ伝承に出てくる同じ出自のものだ。だが、『赤い龍』はもう1体存在する。それが奴、『黙示録』に記されし赤いドラゴン、真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドだ。奴は真龍と称されるほどの偉大なドラゴンだ」
「真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)、グレードレッド…」
称される名から察するに、ドライグより上の存在のドラゴンというわけか。
ヴァーリによると、グレートレッドは自ら次元の狭間に住み、そこを永遠に飛び続けているという。レーティングゲームのフィールドは次元の狭間の一角に結界を張ってその中で展開しているため、今回、あれが現れたらしい。ヴァーリはあれを確認するためにここへ来たようだ。
「奴がどうしてこんなところに飛んでいるかはまだわかっていない。様々な説はあるがな。あれがオーフィスの目的であり、俺が倒したい目標でもある」
「あれがお前の…」
「赤に最上位がいるのに白だけ一歩手前止まりでは格好がつかないだろう? だから、俺はグレートレッドを倒して『真なる白龍神皇』になるんだ」
なるほどね。だからヴァーリはテロリストに与したわけか。
オーフィス。禍の団(カオス・ブリゲード)の親玉の目的がグレードレッドなら、堂々と狙うことができるからな。
「…だが、それは後回しだ。今はそれよりも先に倒したい相手がいる」
ヴァーリはこちらを向き、俺を指差した。
「御剣昴、お前だ。『赤龍帝』に敵わない奴が『真なる赤龍神帝』に敵うはずがないしその資格もないからな。俺はもっと力をつけ、いずれお前を倒す。お前を倒して『真なる赤龍神帝』への挑戦権を手に入れる」
それがヴァーリの夢というわけか。テロリストの与するあたりはいただけないが、強い奴に挑戦し、倒したいというヴァーリの夢は俺にもわかる。
「上等だ。やれるものならやってみろ。お前は永久に挑戦権を手に入れることは出来ないだろうがな」
俺はニヤリと笑みを浮かべながら言い返した。
「ふっ、すぐに手に入れてやるさ」
ヴァーリも同様に笑みを浮かべた。
「グレートレッド、久しい」
その時、俺達のすぐ横にいつのまにか黒髪で黒いワンピースを着た少女が立っていた。
――ドクン!!!
その時、俺の心臓が跳ねた。
この少女が特に俺に向けて殺気や敵意を放ったわけではない。だが、この少女からは底が知れない何かを感じ取った。とても深い……いや、深すぎる。それこそ無限に感じるほどに。俺はこの少女を推し量ることがまったく出来なかった。
「何者だ?」
俺がポツリと呟いた問いにヴァーリが答えた。
「オーフィス。ウロボロスだ。禍の団(カオス・ブリゲード)のトップでもある」
っ! ……薄々予感はしていたが、やっぱりそうなのか…。
オーフィスは指をピストルのように構えると、その指をグレートレッドへと向けた。
「我は、いつか必ず静寂を手にする」
バンッっと撃ち出すようなしぐさをした。
――バサッ!!! ドスンッ!!!
今度は羽ばたきと巨大なものが舞い降り、地面を揺らした。
「アザゼル先生、タンニーン…」
現れたのはアザゼル先生とタンニーンだった。
「よう。どうやら無事だったみたいだな。オーフィスを追ってきたらとんでもないものが姿を現しやがったな」
アザゼル先生とタンニーンがグレートレッドを見上げる。
「グレートレッドか、懐かしい限りだな」
「戦ったことがあるのか?」
アザゼル先生の問いに…。
「歯牙にもかけてもらえなかったよ」
首を横に振りながら答えた。
あのタンニーンでもか…。
「アザゼル、久しいな。クルズレイ・アスモデウスの反応がない。倒したのか?」
「ああ。サーゼクスの奴がな。親玉がやられれば配下も逃げ出す。シャルバの方も……どうやら昴が片付けたようだしな」
「…」
俺はアザゼル先生の視線と言葉を俺は視線に思わず視線を逸らす。厳密には俺が倒したわけではないからな。
「お兄様?」
「観戦ルームだ。結界が崩壊したからな」
部長の問いにアザゼル先生はそう答えた。アザゼル先生は視線をオーフィスに向けた。
「さてと…、オーフィス。各地で暴れてた旧魔王派の連中は退却及び降伏した。奴等をまとめていた末裔共を失った旧魔王派は事実上の壊滅状態だ」
「そう。それもまた1つの結末」
オーフィスは特に動揺する様子はなかった。その程度、痛くも痒くもないということなのか、それとも興味が全くないのか…。
「残りのでかい派閥は、ヴァーリを除けば、人間の英雄や勇者達の末裔、神器所有者が集った『英雄派』だけか?」
英雄派…。至るところの危険分子が集まったと聞いていたが、そんな派閥まであるのか…。
「そんじゃ、オーフィス。やるか?」
アザゼル先生が光の槍を発現させ、その穂先をオーフィスに向けた。
ここでやり合う気か? アザゼル先生の強さは知っているが、正直、勝機があるとは思えないが…。
「我は帰る」
とうのオーフィスはやり合う気はないようだ。正直、助かったと言いたいところだな。ここであのオーフィスを討てればかなり優位を立てるんだろうが、アザゼル先生にタンニーン、俺と部長と眷属達。仮にヴァーリが加わったとしてもオーフィスには勝てないだろう。俺にはそんな予感がした。
オーフィスは踵を返し、立ち去ろうとした。
「待て! オーフィス」
タンニーンはそんなオーフィスを呼び止める。オーフィスは不気味な笑みを浮かべ…。
「タンニーン。龍王が再び集結しつつある。楽しくなるぞ」
そう告げた。そして、一度こちらを振り返ると、オーフィスの姿がフッと消え…。
『!?』
俺の眼前、顔まで数センチのところにまで接近した。あまりに突然のことにヴァーリを除く全員が言葉を失っている。
…転移したのか、それとも目にも止まらないスピードで距離を詰めたのか…、どちらにしろ、俺にはまったく知覚出来なかった。
「…二天龍。我、此度の二天龍に興味がある。いずれまた会おう」
オーフィスは俺の顔の目の前でそれを告げ、再び距離を取った。そして、空気が振動し始め、オーフィスは消えていった。
「…」
俺はオーフィスの思っていない行動と言葉に言葉を失っていた。
「昴! 大丈夫!? 何もされてない!?」
ハッと正気に戻った部長が俺の頬に両手で触れながら尋ねる。
「大丈夫…です。何かされたとかそういうのはない……はずです」
差しあたって俺の身体に異常はない。多分大丈夫だろう。
「そう…、なら良かったわ…」
部長はひとまずホッとした様相だった。
「俺達も退散しよう」
ヴァーリのそんな声が聞こえ、視線を向けると、聖王剣の使い手が作りだした次元の裂け目に足を踏み入れるところだった。
「御剣昴。次に戦うことがあったなら、今度こそお前を超えさせてもらう」
俺はそんなことを言うヴァーリに…。
「もう超えてるだろ。以前にしても、単純な実力はお前の方が強いと思うが?」
俺は笑みを浮かべながら言った。初めて戦った時より俺は強くなってる。だが、それはヴァーリも同じことだ。
「……フッ、そうだな。今の俺はお前より強い。…だが、もし戦えば、以前の同じ結果になる気がしてならない。キミにはそれだけの凄みがある」
ヴァーリも笑いながら答えた。
「いずれ雌雄を決しようぜ。だが、その時は世界の命運だのテロだの抜きだ。純粋に俺とお前のどちらが強いかの真剣勝負で決めようじゃないか」
俺はヴァーリに拳を突きだす。
「ああ。俺はもっと強くなる。キミももっと強くなってくれ、御剣昴」
「それじゃあな、赤龍帝! 紅姫(べにひめ)!」
美猴も笑顔で言う。紅姫ってのは部長のことか?
「木場裕斗君、ゼノヴィアさん」
聖王剣の使い手が口を開く。
「私は聖王剣の所持者である、アーサー・ペンドラゴンの末裔です。アーサーと呼んで下さい。いつか、聖剣を巡る戦いをしましょう。…御剣昴君とも戦ってみたかったですが、それはヴァーリにお任せすることにします。では」
そう言って、ヴァーリ達は消えていった。不思議と、後を追う気にはならなかったな…。
俺はヴァーリ達を見送ると、俺はその場で横になった。
「スバルさん!?」
アーシアが心配そうな面持ちで俺に駆け寄った。
「大丈夫。少し……疲れただけだ。…帰ろうか。俺達の家に」
「はい。私達の家に帰りましょう」
俺はアーシアの笑顔を見届け、眠りについた……。
続く