異世界転生録   作:側に立つ者

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第一話

暗い。

 

意識が戻り、目を開いて見えたのは、一面闇だった。

 

何か暖かい場所にいる事が感覚で分かる。

 

出ようと体を動かそうとしてみるが、手も足も少し伸ばすと何か柔らかい物にぶつかり、それ以上進む事ができない。

 

「...れ!...」

 

何もできないので、じっとしていると下の方から声が聞こえた。

 

うっすら光が射し込む。

 

「頑張れ、マリア!」

 

次の声は正確に聞こえた。

 

同時に暗いその場所から俺は引きずり出された。

 

人の喧騒が伝わり、誰かが覗き込むように俺を見た。

 

「よく生まれてくれたな。

父さんだぞー。」

 

そう言って、微笑みを浮かべながら、頬に触れてくるイケメン。

 

歳は見た目20前半くらいで黒髪碧眼で白人だ。

 

「嬉しいのは分かるけど、一度お湯で赤子を清めないとの。アラン」

 

アランと呼ばれたイケメンはそう言われると名残惜しそうに頬から指を離し、乳母であろう老婆に俺を渡す。

 

「あまり泣かないがの、問題なさそうじゃ。ほれ、ユーリ。立派な男の子じゃぞ!」

 

「お婆さん、息子の顔をよく見せて?」

 

乳母の手からベッドに寝ている女性に手に渡る。

 

こちらも端正な顔立ちをした美女だ。

 

金髪で肩まで流した長い髪、赤眼でこちらも白人だ。

 

......何となく予想していたが、0からのスタートのようだ。

 

正直、死んだ歳のまま、転生できればと思ったが、仕方ない。

 

「この子の名前は決まっているのですかね?」

 

老婆がアランに聞くと大きく頷いた。

 

「もちろんさ。

この子の名はアイル。

アイル・スーベニアだよ。」

 

『アイ』ルか.....。

 

アイルは小さく笑った。

 

☆☆☆☆☆☆

 

「アイル、ごはんよー!」

 

「ああ、今行くよ。母さん」

 

早くも俺が誕生して、三年が経った。

 

これまの経緯を簡単に説明すると

 

0歳 色々と苦痛だった。(主に食事や排泄処理)

1歳 慣れとは恐ろしい。第二子誕生(妹)

2歳 自由に動き回れる。第三子誕生(弟)

3歳 庭くらいであれば、外出可能になった。

 

大まかに言えば、これくらいだ。

 

能力についても少し触れておくと無事使えた。

 

ただ、斬魄刀は能力のみのため、使用の際は何か刃物を媒体にしか発動できないようだ。

 

「にいにー、ままよんでるよ?」

 

拙い歩き方で小さな幼女が近づいてくる。

 

アイルは苦笑して、支えるように小さな手を掴んだ。

 

「ごめんよ、ユイラ。行こうか。」

 

この幼女は妹のユイラ。

 

母親似の碧眼に金髪で端正な顔立ちだ。

 

.....言い忘れていたが、俺はあの美形の二人から生まれたにしては普通より良い程度の顔立ちだ。ちなみに髪は父親から、眼は母親のを受け継いでいる。

 

名前といい、顔も外人寄りだが、生前のに似ているので、恐らくそういう補正が効いているのかもしれないな。

 

「来たわね。

じゃあ、朝御飯にしましょうね?」

 

「はい。」「はーい!」

 

母は俺と妹を撫でると椅子に座らせ、料理が乗った皿を並べていく。

 

朝食はベーコンと卵、パンだ。

 

妹はまだ離乳食のようなものを食べている。

 

弟は母が抱きながら、哺乳瓶でミルクを飲んでいた。

 

父はいない。

 

昼間は仕事で魔物退治をしているため、家にいないのだ。

 

今頃は冒険者として、魔物相手に武器を振るっている事だろう。

 

詳しくは知らないが、それなりに腕のある人物らしく、収入もそこそこ良いようだ。

現に衣食住に不自由したことがない。

 

アイルはいつものように手際よく食器棚からスプーンとフォークを取り出して、それぞれ渡す。

 

「いつもありがとうね、アイル。」

 

母がそう言って、食事が始まった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

食事が終わると俺は日課である妹の子守りだ。

 

おもちゃとかがあるわけでもないので、適当に鬼ごっこやかくれんぼ等何も無くてもできる遊びを教えて、遊んだ。

 

「きゃー!」

 

ユイラが逃げる。

 

俺は全力でユイラを追いかける。

 

だが、すぐには捕まらない。

なぜなら魔力で身体能力を強化しているためだ。

 

妹は俗に言う天才らしい。

通常は魔法を使えるようになるのは、早くて5歳、遅くても7歳からだが、無意識とはいえ、2歳で使えるのは脅威的だと母が大喜びで喋っていた。

 

「相変わらずだな。」

 

いつまでも追い付けない妹に今日も振り回される事が確定だな、とアイルは小さくため息をついた。

 

「アイル、ユイラごはんよー!」

 

母の声でようやく鬼ごっこが終わる。

 

妹は母の声で家に駆け込むように入っていった。

 

「はぁ......」

 

結局、一度も触れなかったので、ただのおいかけっこになってしまったが、妹の子守りから解放された俺は庭に座り込み、これからは妹とは走るような遊びは絶対しないと心に誓った。

 


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