万屋鎮守府   作:鬼狐

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プロットなし査読もほぼなしで短いのをどんどこ投下していくよ。


番外編2 リバティスティールシティ
プロローグ『艦娘には向かない職業』


 自由を掲げる大国、A合衆国。その州にあるそこそこ大きな街……『自由と鉄の都市(リバティスティールシティ)』。歴史を感じる古い建物と、大企業が実験的に建てた最新鋭のビルが混在した、どこにでもあるような街だ。他の街と違う点は、前者の大半がスラムめいてギャングたちのアジトであり、後者のほぼすべてが『合法的に存在できる』非合法組織のヤサであることだろう。金属と自由を謳う楽園は、金と犯罪を尊ぶ人間たちの理想郷と化していた。

 俺――天龍型軽巡洋艦『天龍』が今いるのは、そんなクソッタレな街にすら忘れ去られた廃墟ビルで、更にいえばその地下室だ。他の艦娘も何人かが一緒にいる。もちろん、仕事……万屋鎮守府への依頼だ。

 

「ったく……臭えところに呼び出しやがって」

 

 鼻を摘みながら俺はそう呟いた。酷い悪臭だ。おそらくは部屋の隅にあるビニール袋に、生ゴミでも入っているのだろう。まるでゴミ捨て場だ。それでなくとも地下室は汚く、暗い。水廻りや空調設備のためと思われるパイプが部屋中に張り巡らされているが、埃を被ったその姿はもう何年も使われていないと泣き叫んでいるように思える。

 部屋の中には更にチェーン店のロゴが入った紙や汚い鍋、血の付いた注射器や新聞紙とダンボールが落ちていて、これらのせいでこの部屋の歴史がよぉくわかる。おそらくは、不良少年や浮浪者たちの憩いの場、あるいは我が家だったんだろう。壁にべっとり付いた血の跡からは、そいつらが既にこの部屋……あるいはこの世からいないであろうことも推測できる。実際、この部屋にはいま俺達を除いては一人の男しかいない。

 

「よく来てくれた、万屋鎮守府。悪臭は我慢してくれ、他に場所がねぇんだよ。ここぐらいしか拠点にできる場所を知らん」

 

 大げさに腕を広げながら、男はそう言った。スキンヘッドに黒いバイカースーツ、そして大きめのサングラス。コイツが今日の仕事の依頼人だ。名前は知らん。ベインが忘れやがったからな。まぁ、心の中で『グラハゲ』とでも呼んでおくか。

 依頼人の名前どころか、俺達は仕事の内容すらまだ把握していない。そこそこ高額な報酬を提示されたベインが内容を聞く前に請け負いやがったからだ。この街での仕事であることだけは聞いていたので、とりあえず荒事に向いている奴らを集めたが……ドンパチじゃなかったらどーすっかな。

 ま、ベインのせいにしときゃいいか。実際アイツが悪いしな。とはいえそう外れているということも無いだろう。仕事の期間は二週間。内容は知らないが、そこそこの時間をまさかゴミ拾いに使うわけでもあるまい。

 

「正直、請けてくれるとは思わなんだ。まだどんな内容かも言ってないし、前金無しの成功報酬のみの仕事なのにな。懐が広いぜ、提督アニキはよ」

 

 成功報酬のみなんざ聞いてねぇぞクソが。最悪タダ働きで終わるじゃねーか。ホントどうしようもねぇなクソッタレベインめ。出来高じゃなく給料制だからいいけどよ。

 

「さて、まずはこの街の状況を説明すんぜ。仕事の内容にも関わってくる」

 

 先に内容を話して貰いたいモンだが、グラハゲのペースに任せるとしよう。そのほうが話が短くて済むし、ベインよりクソみたいな話運びをするヤツでも無さそうだしな。というかアイツが最底辺だ。それに慣れてるから、だいたいの奴の話は聞いていられる。会話ができない奴じゃなけりゃあな。

 

「この街には犯罪者や非合法組織が集まってやがる。小さな組織やギャング、不良少年のチームが多数あるが……それらは漏れなく三つのデカい組織の傘下だ。どれかの庇護が無けりゃあすぐ潰される」

 

 束縛を嫌うアウトローたちはすぐに消える街、って訳か。よほどの力が無けりゃあ一匹狼も撃ち殺されるんだろうな。

 

「そして三つの組織は別に仲が良いわけじゃねえ。ギリッギリのバランスで拮抗してるだけだ。傘下たちの小競り合いで崩れたバランスを小競り合いで押し戻すぐらいにな。広げることは出来んが狭まることもない。だからと言って現状維持に甘んじる気はどこもない。そんな状態だ」

 

 三匹の猿山の大将が、山の天辺を狙って殴り合ってるらしい。殴り殴られ痛み分け、って状況を繰り返してるんだろう。殴ってんのも殴られてんのも、小猿たちだが。

 

「もしどこかの組織が弱体化しようモンなら、残り二つに潰される。確実にな。そんで、ソイツらが持ってた利権を巡って大戦争だろうな……と、言うわけでだ。ソレを狙う」

 

 にやり、とグラハゲが笑う。その笑みから感じるのは……そういうことか。仕事の内容が見えてきた。ざっくりいうなら、そうだな……『俺の野心を満たせ』、といったところだろう。

 

「なるほど。一つを崩して、お前がそこに入ることになるわけか? そのためにどこか一つの組織への弱体化工作(嫌がらせ)が仕事か」

「いいや武蔵。それだけじゃねぇだろうよ。残った二つに戦争させて、弱ったところを飲み込みたいんだろ?」

 

 グラハゲの強い野心を感じ取った俺は、武蔵――大和型戦艦『武蔵』のセリフに訂正を入れた……だが、グラハゲは自分の顔に前に指をやり、チッチッチッ、と舌を鳴らしながら振った。

 

「それもちょぉーっとちげぇな。二つの組織が戦争で弱るまで、俺の中の野心は待ってくれねぇ。街もボロボロになっちまうだろうしよ」

 

 どろり。男がさきほどよりも口角を上げて笑った瞬間、そんな音が聞こえた気がした。それほどまでに、強く、濁った、ドス黒い欲望がグラハゲから漏れ出たように見えたからだ。グラハゲは暗にこう言っているのだ。『この街の全てを手に入れる。それも出来るだけ迅速に』、と。ハハ、ハハハハハハ。……面白え。面白えな、コイツ。これだけ強い欲望なら、『どんな無茶』でも笑ってくれるだろう。やりたい放題できそうだ。

 仕事をするのは嫌いじゃねえ。やりたいようにやれるんなら尚更だ。暇が嫌いと言ったほうが正しいか? 前に俺以外出払って数日間暇になったときは最悪だった。やりてえFPSも無かったし、ベッドに誘う相手もベインしかいなかったからな。あの野郎、なんでああも下手なんだ?ハニトラだのなんだので相当抱いてるはずだが。わざとやってんのか?

 ま、とはいえ適度な休暇はもらうがな。仕事で中毒死(あきつ丸)にはなりたくないんだ。

 

「全部だ。『三つ』全部に嫌がらせをする。洗いざらい。徹底的に。余すところなく。満遍なく。骨の髄まで。とことんやる。『ウチも弱ったがアイツらも弱ってるはずだ』と思い込んでくれるまでな。そんで、三つ巴のまま戦争が始まったらそこでまとめてぶっ潰す……そのあとはまぁ、俺が適当にやるさ。ドンパチはそこまで、つまりそこまでがお前らの仕事だ」

 

 分かりやすい仕事だ。分かりやすいのはいい。俺みたいな学のない元不良、そこから流れて元カジノの用心棒になった女にはぴったりだ。ベインの野郎は無駄に捏ねくり回すことがあるから、こういうシンプルなのは逆に珍しい。

 

「さて、それじゃそれぞれの組織について説明すんぞ。まずはこの街の西と北を仕切ってるのがR連邦マフィア、『ケビンファミリー』だ。兵器の密輸ビジネスが財源で、構成員の質も高い。護衛兼用心棒兼抑止力に艦娘も何人か飼ってる。まともにぶつかるのは得策じゃないな」

 

 兵器か。あとでどの程度のモンまで扱ってるかは聞いといたほうがいいな。ロケランだの戦車だのならともかく、黄色のケーキまで扱ってたりしたら、下手に暴れるとめんどくせえことになりそうだしな……艦娘って放射能の影響あんのかねえ。

 ……しかし、ケビンファミリーか。妙な組織名だな。ロシア人の名前じゃねえよな?

 

「ケビンってのはなんだ。ボスがR連邦の人間じゃねーのか?」

 

 というか、そもそもなんたらファミリーっつーのはR連邦のマフィアが使うようなモノだったか?

 

「いやそういうんじゃない。ボスがホームアローン好きらしい」

「ふざけてんのか?」

 

 さきほどまで満ち溢れていたやる気が一気に削がれた。アレか。ホームとファミリーを掛けてやがんのか。何も掛かってねえ。敵からクソの臭いがする。……まぁ、まだ一つ目だ。他の組織はきっと……。

 

「次に堂島組。日本のヤクザだな。使い捨て人的資源の売買が主な収入らしいが、上納金システムで下が細かい犯罪をして稼いだ金を吸い上げてる分もデカい。財力だけならトップクラスだ。その金で艦娘も雇ってるぜ。まともにぶつかるのは得策じゃないな」

 

 つまり人身売買か。どこで仕入れてんのかねえ。アジアとか中東の難民とかあたりか? 安いって聞くしな。

 にしても堂島組か。……気になるな。嫌な予感もするしよ。

 

「なんかのゲームで聞いたな、そういう組名。まさかそこからじゃねーだろうな」

「龍が如くじゃなくて侍道から取ったらしいぞ。ルーツを辿ると元は鍛冶屋だったとかで」

「ふざけてんのか?」

 

 映画の次はゲームか。非合法組織がサブカルチャーから組織名を引用すんじゃねえよ。クソ、やる気がさらになくなって来たぞ。

 

「最後はなんと宗教団体だ。独自のクスリを開発し、それをばら撒いて稼いでいる。ここの教祖は艦娘だ。他組織が艦娘を所持してんのはそれが理由なんだぜ。文月って名前らしい……厄介さで言えばここが一番だ。全員が純度の高い教祖の狂信奉者だ。まともにぶつかるのは得策じゃないな」

 

 このグラハゲ、さっきから同じまとめしかしてねえな。コイツもふざけてんのか?

 

「コイツら……文月教はマジにヤバい。元はただのドラッグギャングだったが、いつの間にか宗教になっちまった。文月が乗っ取ったんだ。クスリの使い方もヤバい。最初は無料で、後々有料で……っつーのはよくある手段だが、入信すれば格安になるっー触れ込みがミソだ。教祖のカリスマなのか、クスリのために入信したはずがいつの間にか平気で『文月様のために』と叫ぶようになる。そして売る側……つまり勧誘する側になっちまうんだよ」

 

 おっそろしいな。どんな艦娘なんだ、文月ってのは。

 

「信者になった知り合いがいたが、血走った目で『お前も入れ! 文月教に! 文月様は、文月様は幸福な自殺を望んでいる! あの方は優しい! 世界も一緒に幸せにしようとしている! それもクスリで! 時がくれば全ての信者はクスリを打って、そのあと訪れる幸福感の中できっちりと自殺する。そう。そうだ。そうなんだよ。だから俺たちは全人類を信者にしなきゃいけない! そうしなきゃ、すべての人間の幸福を願う優しい文月様が、幸福に死ねないからな!』と俺に叫んでいたよ。正直、恐怖しかなかった。……絶対に入信するなよ? 信者との会話も避けろ。口を開く前に撃ち殺したほうがいい」

 

 聞けば聞くほどロクでもねえ宗教だな。人類総自殺を願うなんてよ。死んでも入りたくねえわ。

 

「……ちなみに聖句は『世に文月様のあらんことを』だ」

「ふざけてんのか?」

 

 そんだけイカれた理念と信者を持ってんのになんで聖句はパクリなんだよ。またゲームだしよ。誰が考えたんだ? ホントは新作が欲しくて暴れてるだけじゃねーのか?

 

「さて、仕事と組織の説明は以上だ。質問は?」

「ふざけてんのか?」

 

 正直、それ以外に言いようがなかった。

 

→第一話『ナイフとかが街に降ってくる』に続く




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