「ぷわぁぁ〜……」
すっかり綺麗になった地下室の中。適当に拾ってきたソファに寝転がりながら、俺はタバコをふかしていた。あ、煙の行き場所ねえなコレ。ま、悪臭よりかはマシだろう。
汚物塗れの倉庫から奪った兵器は、既に洗浄して部屋の隅に積まれている。上からシーツを被せてそこに眠っているのは多摩と夕立。他の奴らは拾ってきた机でポーカーしたりと麻雀に興じていたりと、艦娘ほぼ全員がかなりだらだらしていた。
「ロン!
「エエエエエエエ!? 大半装備できないよネそれー!? 低速戦艦のデフォ装備だよネー!?」
なんだあの役宣言? ……上がったのはアイアンウーマン高雄で、喰らったのは北上か。ざまぁねえ。……全身パワードスーツなのによく麻雀なんざ出来るな、高雄。
何人かは買い出し兼情報収集のため外に出ていたりもするが、それ以外はぐだぐだしているだけ。といっても別に暇しているわけではない。いや暇は暇だが、待機しているだけだ。いまグラハゲは外に連絡を受けに行っている。愛人の一人からコンタクトが来たらしい。その結果待ちという状況だ。……っと、階段を駆け下りる騒がしい音が聞こえてきた。グラハゲが帰ってきたらしい。
「大変だ! レースだ! 明日、レースが始まる!」
「もっと具体的に言えクソボケ」
ドアを蹴破る勢いで入ってきたグラハゲの、あまりにも端的な言葉についつい罵倒で返してしまった。レースだと? いったい何の話だ、クソが。
「堂島組主催のカーレース……それも奥ゆかしいデスレースだ。堂島組が縄張りにしている領域を使って、街中でレースをするんだ。それが明日の午前に開催される」
街中で、ねえ。どうやらここは警察まで腐っているらしい。
「随分とのんびりしたことやってんな。敵対組織がクソまみれになったことを知らねぇのか?」
「知ってるはずだ。ケビンファミリーが突然のことに困惑しつつも戒厳令を敷いたが、当然スパイがいる。お互いにな。……だが、レースを中止なんざするはずがない。資金源のひとつだからな」
見学料……いや、
「で、俺たちにそれを
「ああ。……どうする?」
「車に爆弾を仕掛けてみてはどうだ」
武蔵が会話に参加してきた。手には武蔵製C4らしきモノを持っている。作ったのか持ち込んだのか。
「いや、観客には余興としか思われないだろう。元々、ランダムに爆弾が仕掛けられている。レースの参加者は多重債務者らしいしな。優勝すれば借金取り消しな分、優勝しなけりゃ死だ」
元取れてんのかねソレ。まぁ、返済能力ゼロのヤツをリサイクルしてるだけなのかもしれないが。あるいは八百長とか。
「誰がレース開始直後の爆発で死ぬか、なんてのも賭けの対象だ。全部の車に仕掛ければ妨害にはなるだろうが……」
「何台あるかは知らんが、流石にそこまでの量は無いな……いや、細かくしてガソリンタンクにでも仕掛ければいけるか?」
「悪くないが、盛り下がりが足りねぇ気がするぜ武蔵。……もっといい手はねぇモンか」
レースを台無しにする妨害。単なる爆破では、観客の盛り下がりが足りない。俺が出場して優勝を掻っ攫い、表彰式的なモノに出ずに帰るってのはどうだろう。適当に参加者を暗がりに引っ張り込んで入れ替われば……いや、結局優勝まで盛り上がっちまうか。
あぁ、いや。そうか。もっと単純でいいな。
「武蔵。爆弾を細かくしろ」
※
『さぁ! いよいよ登場! このデスレースに六度参加し、六度とも優勝を掻っ攫ったデスレースの覇者! キング・ジョージの登場だ!』
「「「ワァーーーーー!! キング! キング! キング!」」」
実況役の言葉に呼応して叫ぶ観客たちに手を振りながら、俺は自分の車に寄りかかり、ポーズを決めた。観客の声が更に大きくなる。この瞬間は、いつでも気分が高揚する。いまこの場にいる奴らは全員、俺に夢中だ。全能感めいた気分が心地良い。
俺の名前はジョージ。色々な所で仕事をし、毎度毎度とんでもない目に合ってきた不死身の男。その不死身さは、このデスレースでも発揮されている……まぁ、出来レースだが。
『作った借金はすべて女と酒に注ぎ込み、返済はこのデスレースで! 刹那的な生き方の素晴らしさを、彼は体現しています! デスレースは参加自体が死! だが彼は六度生き返った! さぁ、果たして七度目の死からは蘇ることができるのか!?』
実況の言葉に思わず苦笑した。蘇られるに決まっている。仕事の一環に過ぎないのだ、このレースは。他の参加者たちは多重債務で後がない奴らだが、俺は違う。堂島組からの依頼で参加している。他よりもいい機体、いい武器で、だ。全く、楽な仕事だぜ。車搭載の武器でゴミ掃除しながらかっ飛ばすだけなんだからな。
『さぁ! これで参加者が出揃いました! 堂島組デスレース、いよいよスタートの時です!』
車に乗り込んで、エンジンを吹かす。音がまず違う。他のは古臭いオンボロスポーツカーだが、俺のは最新のモノだ。無論、載せている武器も。他車は武器の発射ボタンが効かなかったりボタン自体が自爆ボタンだったりするが、俺のは違う。負けるはずがない。
くくくくく。バカな参加者と観客共だ。出来レースとも知らないで、少なくない金を賭けているんだからな。それが堂島組の金に、そして一部が俺のモノになる。実に素晴らしい金の流れだ。
ぐっ、とレバーを掴み、アクセルを踏み抜く。視線はスタートのランプだ。スタートダッシュ……いや、あえて遅れるのも盛りあがるか?
考えているうちに三つ並んだランプの一つ目が付き、続いて真ん中に変わる。さぁ、蘇りの時間だクソ共!
緑色のランプに変わったその瞬間、俺はレバーを動かした―――――――――――――――あれっ。
……あれっ。……………あれ? あれれ? お、え? あれ? ちょっと。あの。すいません。あれ? ちょ。え。あれ。おい。え。わお。ええー?
車、動かないんですけど。
※
「ブフッ……ククク……畜生、大笑いしてえ……」
「ここで大笑いしたら怪しまれるにゃあ。我慢してにゃあ」
「分かってるけどよ……ククク……」
多摩の言葉に、口元を手で隠しつつそう答えた。いまいるのは観客席だ。デスレースを直に見ている状況だが、いますぐ笑いたくて仕方がない。
「すげえなこりゃ。ククク。怖いな。怖いぐらいの沈黙だ」
多摩の言うとおり、ここで笑ったらものすごく怪しまれるだろう。なんせ、誰も彼も一言も発さずに唖然としているからな。そりゃあそうだろう、スタートの合図が出たその瞬間に――全部の車のエンジンが止まっちまったんだからな。さきほどまで五月蝿く盛り上げていた実況役すら、黙ってしまっている。
やったことは単純だ。夜中にこっそりとレース会場に忍び込み、すべてのエンジンに小さい小さい爆弾を仕掛けただけだ。エンジンに誘爆しない程度の爆発を起こすだけのモノを。それを、開始直後に遠隔で炸裂させた。その結果が、この沈黙だ。タンクに仕掛けて同時に爆破させるよりも、こっちのほうがずっと盛り下がる。あとは仕上げをして終わりだ。
「チッ。なんだよこれ! ふざけてんのか! おい、タミー。もう帰ろうぜ! 掛け金も返してもらおう!」
タミーってまさか多摩のことかにゃ? という呟きを無視して、俺は立ち上がった。笑いを堪えるのも限界に近いしな。
「そ、そうだ! ふざけやがって! 返金だ返金!」
「受付に行こうぜ!」
「「「返金! 返金! 返金!」」」
『皆様! 落ち着いて! 落ち着いてくださいいい!!』
俺の声に呼応して、他の観客たちも立ち上がって受付に殺到し始める。実況が必死に止めているが、一度出来た流れは簡単には変えられない。一丁上がりだ。
ふと、俺はスタートラインのほうをみた。キングと呼ばれていた男がいつのまにか車を出て、ぽかんとした顔で空を見ている。
ククク。残念だったな――七回目の死が迎えられなくて、よ。
→第三話『生贄を抱く昼』に続く
サブタイトルの元ネタがすでに偏り出している