万屋鎮守府   作:鬼狐

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アズールレーンはじめました


第三話『生贄を抱く昼』

「うげっ」

 

 レースでの妨害が終わり、拠点に戻っきて早々、俺は思わず嫌な声を出した。夕立

と大鳳が、二人並んで楽しそうに立っている。

 二人の目の前にいるのは一人の男だ。椅子に座らされた状態で手足を縛られ、ぐったりとしている。昨日の武器強奪の際に攫ってきた男だ。夕立と大鳳が側にいるってことは……尋問、いや拷問中だろう。今までやらなかったのは飲食を奪うためか?

 どーすっかな。監視しておくか? この二人に任せっきりなのは少々問題がある。たまにマトモになる夕立はともかく、ネクロフィリア(死体愛好家)の大鳳は積極的に男を死なせて抱こうとするだろう。このクソビッチ(死体なら誰でもいい)にむざむざ情報源を殺させるぐらいなら、俺がやったほうがマシな気もする。

 

「あー、大鳳、夕立。拷問するところか? どうやって吐かせる気だ?」

「とりあえずガソリンを使おうと思っているところです」

 

 大鳳がにこりと笑いながら言った。……いきなりハードだな。強情なヤツなのか?

 

「起きた瞬間にペラペラと知ってること全部話しちゃったの、この人。だから炎で根性を入れてあげようとしてるっぽい!」

「大きなお世話ってレベルじゃねーな」

 

 どうやら既に、男の情報源としての価値は無くなっているらしい。それが本当なら、夕立がオモチャにしようと大鳳が電池切れのバイブにしようが勝手にしてくれ、という感じではあるが………ん?

 

「オイ、コラ」

 

 威圧的な声を出しつつ――俺は手を伸ばして、男の口の中に突っ込んだ。ガリ、という鋭い感触が手の先に刺さる。痛みはないが。……コイツいま、舌噛んで死のうとしやがったな。 

 

「情報を吐く前に忠誠心で死のうとするならわかるが、情報を吐いてから死のうとするのは道理が合わねえ」

 

 考えられるのは……なるほど。ハゲが言ってたな。各組織が別組織にスパイを送り込んでるって。つまりコイツはケビンファミリーの情報だけ吐いて死ぬつもりだったわけだ。弱体化させるために。そしてこの死に対する躊躇いのなさは狂人のものだ。つまりは……。

 

「さては文月教から来たスパイだな、お前」

「ぐ……」

 

 たらり、と男が冷や汗をかいた。確定か。……さて、どーすっかな。情報の少ない文月教の貴重な情報源ではあるが、この手の狂信者に吐かせるのはなかなか難しい。死に向かう宗教なら尚更だ。

 

「コンスタンティン方式で吐かせればいいっぽい!」

「あぁ? あぁ。そういうことか」

「じゃあ私、聖書取ってきますね。十字架もあります」

「要らねぇよ大鳳。そういうことじゃねえ。相手の一番嫌がることをしろってことだボケ」

 

 悪魔を天国に送る、とかな。さて、何を嫌がるかねえ?

 

「文月とやらの写真を踏ませるか?」

 

 たしかハゲが寄越した資料に写真もあったはずだ。

 

「ハッ、無駄だ。我らは自らと世界の死を、引いては文月様の死を願っている。間接的な陵辱など、何の痛みもない」

 

 ニヤニヤとしながら男が言った。嘘ではないらしい。踏み絵は無理か。嫌がらせ、嫌がらせねえ。組織に対してならともかく、個人に対してはなかなか思いつかねえな。

 

「……ねえ、信者さん。文月ちゃんにどんな死を願ってるっぽい?」

「もちろん幸福な死だ。あのお方は世界のすべての人間が幸せになることを願っている。だからすべての人間と共に死にたがるんだ。そのためなら、我々は無残に死ねる。いつかあのお方が死ぬ時、我々の死を喜びながら死んでくれると信じているからな。お前も入るか? 縄を解いて解放するなら、いくらでも……」

 

 男が光悦の表情で淡々と語る内容を、夕立はニコニコと笑いながら聞いている。何か考えでもあんのか?

 

「天龍さん。万屋鎮守府の同人担当、秋雲ちゃんに連絡を取ってほしいっぽい!」

 

 ………あぁ?

 

 

「やめろおおおおおお!! があああああああああああ!!」

 

 男が苦悶の表情をしながら絶叫している。目を充血させて見開き、口からは泡も出ている……マジか。こんなに効果あんのか。

 

『うん……文月、司令官のためならなんだってするよ……だって、司令官のこと大好きだもん……』

「はぁ……はぁ……結ばれた……結ばれたんだな……ようやく、ようやく幸せに……」

「はい、次のページ」

『え……? 提督が、し、死んだ? あた、あたしのせいで……?』

「うわあああああああ!! もうやめろおおおおおおお!!」

 

 大鳳は男の背後に立ってその目を無理矢理開かせ、夕立は片手にタブレットを持って男に見せている。

 

「あ、ここまでっぽい。続きは十分後だって。で、話す気になった?」

「はぁ……はぁ……誰が……!」

「秋雲ちゃん。次は幸せな展開にしてあげて。望月ちゃんは声のトーン落として」

「やめ……やめろぉ! 幸せなシーンなのに声を暗くしたら、どうしたって過去の出来事を引き摺ってるようにしか思えないだろうがぁ! クソォ! 殺してやるぅ!」

 

 タブレットに写っているのは絵……いや、マンガだ。秋雲が万屋鎮守府でいままさに描いているモンがリアルタイムで送られている。……内容は、文月を主人公にしたラブコメだ。ラブコメだった、と言ったほうが正しいか。最初はほのぼのとしていたが、段々と不穏な空気が混じり出し、いつのまにか文月が胸糞悪い目に合っている。そんな内容だ。そんなバッドエンドな展開のあとは幸せそうな文月が描かれ、また再び奈落のそこに落とされる。その繰り返しだ。

 ちなみにさっきからタブレットごしに読み上げてんのは秋雲の隣で待機しているらしい望月。なんか声が似てるとかだそうだ。なんで夕立は文月の声知ってんだ?

 

『しれーかぁん……信じてたよ、生きてたって。行方不明、だもんね。しれーかんがあたしを残して死ぬはずないって、絶対信じてた!』

「わかった! なんでも話す! なんでも話すから、このままハッピーエンドにしてくれえ!」 

「まだ余裕があるっぽい。嘘吐かれるの嫌だなー。はい、次のページ」

『夢……そう。そうだよね。夢に決まってるよね。あたしの前で、あたしの艤装で、バラバラになったんだもんね……』

「うわあああああああああああああああああ!!」

 

 文月の死を願うのは、文月の幸福のためだ。それゆえ、文月が悲惨な目に会う物語は堪え難いものらしい。この全員ふざけているとしか思えない状況は、効果覿面なわけだ。

 

『うん。そうだよね。ありがとう、おじさん。あの人が私を恨んでるはずないもん。だって、そういう人だったから。……あたしも前を向こうかな。本当にありがとう、おじさん……ううん。司令官!』

「目にハイライトが戻った! 声の調子も! このまま! このまま彼と! 幸せに! なってください! 文月様!」

「次のページっぽーい」

『そんな……信じてた……のに……司令官……』

「ぐあああああああああああ!!」

 

 男が再び、絶叫した。この様子なら、なんでもペラペラと話してくれることだろう。拷問は大成功、ってわけだ。

 ………………。

 釈然としないモノを感じ、俺はとりあえず大きなため息を吐いた。

 




間違えた!これアズールレーンじゃなくてFromTheDepthsだ!
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