灰色の狼と小さな白猫 作:鯵開き
まさかの参加依頼から数日。
炎天下の中、曹操にもらったバイクを走らせる。
風を切ると僅かな涼しさを感じる前面とは裏腹に、背中から温もりを感じるのは後ろに乗っている塔城によるものだろう。
いつだったか遅刻ギリギリに家を出た時、監視役である塔城を後ろに乗せて登校したのだが、それ以来風を切る感触が好きになったらしく主に休みの日に乗せてやっている。
「先輩は泳げるんですか?」
信号待ちの最中に塔城が話しかけてきた。今日俺を含むオカ研のメンバーはプール掃除を兼ねた一足早いプール開き行うらしい。
「まあな」
「そう、ですか。……よかった」
風防を上げてそう答えると塔城はどことなくホッとしたように呟く。
信号が青に変わった。
「しっかり捕まれよ」
「はい」
塔城の腕がしっかりと俺の胴に回されるのを確認してバイクを発進させた。
「1、2のテンポで足を動かせ。1、2、1、2……」
俺の声に合わせて塔城が足を動かす、所謂ばた足の動きだ。これで腕も動かせばクロールだがその腕は俺がつかんで引いていた。
まあ、要するに塔城に泳ぎを教えていた。
事の発端は数分前のリアス・グ……部長の一言だった。
「さて巧真、悪いのだけど小猫に泳ぎを教えてくれないかしら」
軽く体操を終えた俺にリアス・グレ……部長が言う。
苦手なんだが。
「なんで俺が」
「泳げるのでしょう?」
拒否の色を混ぜつつ言うがリアス部長には通じていない。
だから苦手なんだよ。
「泳げるが。兵藤がいるだろ」
兵藤ならば変態なのは置いておくとして面倒見は良さそうだが。
「あら、小猫は巧真の方がいいみたいだけど」
「…だめ、ですか?」
リアス部長の言葉に追従するように塔城が言う。
教えるのは苦手なんだよ。
そう、言おうとしたが、続いた部長の一言によって飲み込まざるを得なかった。
「まさか、教えることもできない程下手な泳ぎしかできないのかしら」
教えるのは苦手だが、そこまでバカにされて堪るか。
「やってやるよ」
「あら?無理しなくていいのよ?」
「無理じゃねえ。完璧な泳ぎを教えてやる」
「そう、よかったわね小猫」
「はい。よろしくお願いします巧真先輩」
口車にのせられた気がする。
「すみません、先輩。せっかくのプールなのに」
そんなことを考えていると25メートルが終わり、塔城がすまなそうにしていた。
「気にすんな。どうせプールに来てもそんなにすることもねえしな」
「……そうですか。じゃあもう少し教えてください」
再びばた足の練習が始まった。
塔城は飲み込みが早く、ばた足を覚えると数分でクロールまで覚えた。
「なあ、乾」
「なんだよ」
部長と副部長による兵藤争奪戦が痛み分けで終わった直後。
用を足し、トイレを出てすぐのところで手を洗っていると、一緒にトイレに立った兵藤がいつになく真剣な顔で声をかけてきた。
「お前に、聞きたいことがあるんだ」
「なんだよ」
珍しく思い詰めた顔だ。気になったので先を促す。
「あの、さ。もしもの話なんだけどよ……」
「ああ」
含みを持たせて溜める兵藤。
「もしも、赤龍帝の籠手で倍加した力をさ。部長のおっぱいに譲渡したらどうなると思う?」
「知るか」
頭が痛くなってきた。散々溜めてなにいってんだよ。
「待てってくれ。頼む。俺一人じゃ想像できねえんだよ!」
放置して出ようとすると兵藤がすさまじい力ですがり付いてきた。
「離せ!知ったことかよ!」
「頼む。頼むよ!この数日それのせいであんま寝れてねえんだよ!」
「離せって!」
「イッセー、巧真、そろそろ帰るわよ」
腰にすがり付く兵藤に苦戦していると洗い場に部長と他のメンバーが現れた。
時が止まる。
「「「「「「「あ」」」」」」」
俺と部長達の声が重なった。
「頼むよ~。一生のお願いだって……ぶ、部長!」
やっと気づいたか。
「そう、そう言うことだったの、道理で私やアーシアに手を出さない訳ね」
部長が絞り出すように言う。
「ち、違いますよ!俺は普通におっぱいが大好きですって!」
俺から慌てて離れつつ兵藤が叫ぶ。兵藤、叫ぶにしてもおっぱいって、女ですらないのか。最低だな。
「最低です」
「ぶべら!」
塔城が兵藤を殴り飛ばした。妙に力の籠った一撃だった。
「塔城、悪いな。買い物まで付き合わせちまって」
「……いえ、監視なので。それにイッセー先輩が迷惑をかけたお詫びです」
プールの帰りに二人で買い物を済ませて帰る。
兵藤の件はなんとか誤解も解け、質問についても適当に誤魔化した。
塔城を乗せたうえで食材も乗せるスペースがなかったためバイクを押しつつ歩く。
「やあ、ファイズ。あの夜ぶりだな」
「お前は」
談笑しつつ歩いていると声をかけられた。
銀髪で整った顔立ちの男だ。
見たことのない顔だが、その滲み出る威圧感と龍の気配で検討がついた。
「白龍皇、か」
「その通り、白龍皇のヴァーリだ」
白龍皇の言葉に塔城の雰囲気が強ばるのを感じる。
「白龍皇が俺になんの用だ」
睨み付けながら言う。
「用はない、ただ、コカビエルを追い詰めたファイズの顔を見に来たんだ」
「用が済んだらとっとと帰れ」
「ああ、失礼する」
そう言った白龍皇が俺の横を通り抜けようとした瞬間に耳元で囁いた言葉に思わず顔が強ばる。
「君ほどの男が何に怯えているんだ」
慌てて振り返るが白龍皇は振り返ることなく去っていった。
「先輩?」
「ッ!いや、なんでもない」
塔城の声に正気に戻った俺はチラリと白龍皇の背中を見ると家路を急いだ。