「この先か?」
「ああ、間違いないね」
額に十字の入れ墨をいれた青年に、黒いローブの襟で口まで隠した小柄な男が応えた。
無機質な蛍光灯に照らされた、コンクリートがむき出しの飾り気のない部屋の奥に、特に何の変哲もない金属製のドアがある。
この先に彼ら、能力者による犯罪集団『幻影旅団』が今回狙う《獲物》がある。
「じゃあ、先に行くぜ」
「フィンクス、油断するな」
目つきの悪い長身の男が扉を開け、部屋を《凝》にて注意深く観察する。一見して何かがあるようには見えない。
何の特徴もない白と黒マス目のフローリング。その奥の壁にかけられた気味の悪いデフォルメされた猫?の絵。フィンクスと呼ばれた男は慎重に部屋の中へ踏み出し―
「っ!?」
「どうしたフィンクス!?」
目つきの悪い長身の男が床を踏んだ瞬間、異変は起こった。男は一瞬凍り付いたように固まり、そしてフローリングの真ん中を凝視し始める。
「罠か!?」
「いや、その、違う。ああ、そこのお前だ、お前、誰だ?」
「フィンクス? 何を言っている?」
男はそのままフラフラと部屋の真ん中まで歩き出す。それを見ていた彼の仲間たちは、これが何らかの念能力による攻撃と判断し警戒心を高める。
「お前の名前は…?」
「皆、迂闊に中に入るな」「フィンクスの奴には何が見えてるんだ?」「マチ」「いや、この部屋の中には誰もいないよ」
彼らの仲間の、ジャポン風の上着にスパッツという出で立ちの少女が、念で作られた糸によって部屋の中を丹念に調べるが、どうやら部屋の中にはフィンクスと呼ばれた男以外には誰もいないらしい。います。
しかし、フィンクスと呼ばれた男はそのままフローリングにうつ伏せになると、誰もいない床に向かって、いつもの彼からは想像できないような、ねこなで声で囁き始める。
「お前、ユカっていうのか。ユカ、ああ、いい名前だ、とても似合っている。ユカ、可愛いぜ。最高だ。分かっている、お前の事は俺が守ってやる」
「うわ」
床に向かって、ねこ撫で声で愛を囁く目つきの悪い男。そして、彼は、おもむろにズボンを下げて、腰を上下にカクカクと運動させて[削除済み]を始めた。
「マチっ、あいつをこっちまで連れ出せ!」「わ、わかった」
少女がオーラで生み出された糸が絡みつかせ、これはねこ撫で声で愛を囁く目つきの悪い男を部屋から連れ出そうと引っ張る。しかし、
「俺とユカの時間を邪魔するんじゃねぇ!!」
物凄い力で抵抗される。生粋の強化系である彼に、少女の力は敵わない。
「ああ、ユカ、すまないな、怖がらせたか? 大丈夫だ、俺が付いている。俺がお前を包み込んでやる。ああ、可愛いな。ぐふふ」
「う…わ」
そうして目つきの悪い男は、再び床にうつ伏せになりながら床[削除済み]を再開する。仲間の[削除済み]ナを見せられ、幻影旅団の面々はドン引きである。
「ユカっ、ユカっ、ああっ、いいよ、すごく素敵だ。とてもかわいいぞ。淑やかで、清楚で、美しい。頭のてっぺんから指先、つま先まで、全部が全部本当に美しく整ってる。ああ、ユカ。恥ずかしがらないでくれ。俺は思ったことを言っただけなんだ。ああ、ユカっ、ユカっ、ユカぁああああああああああああああああああああああん!!! …ふぅ」
激しく打ちつけるリズミカルな音響、ほとばしるライフエッセンス。団員は目を背けた。
「……そうか、これがうわさに聞く、《ユカ》か」
「知ってるのか団長?」
「ああ、話だけはな。男が踏み入れた時のみに、その異常性を発揮するという床だ。謎の製作集団『ソレナンテ・エ・ロゲ』の手による防犯装置…らしいが、まさか実在するとはな」
説明しよう。
『ソレナンテ・エ・ロゲ』。それはハンター協会が指定する要注意団体のことである。
彼らは特異な能力を発揮する様々なエクスタシー・アイテムを生み出しては市場に流通させ、悲喜こもごもな事態を演出する謎の団体だ。
その歴史は古く、ハンター協会が成立した数年後にはその存在が確認されており、既に各国の指導者層に強いコネクションを築いているとされる。
彼らの製作したエクスタシー・アイテムは、その大半が無害かつ無意味なものであるが、中には暗黒大陸に関わる悍ましい伝染病を完治させるものも存在する。
そういった、人類の存亡にかかわる重要な技術を擁した唯一の団体でもあるが故に、ハンター協会ですら迂闊に手を出せないという。
民明書房刊『世界の十大秘密結社』より
「また連中か」「ああ、またなんだすまない」
かくいう幻影旅団も、過去、この団体をターゲットとしたことがあった。知り合いが止めておけと忠告してきたのも聞かないで。
聞いていますか、碌な目にあわなかったので、一方的な苦手意識を持っている。
少なくとも彼らのリーダーである男は、もう二度と女性用下着を顔に被り続ける状態となり、それを外すためにオナホールで自家発電する羽目に陥りたくはなかった。
個人的に考えても、あれは酷い絵面だった。
「というわけで、マチ、あいつをこっちまで蹴とばしてくれ」
「……それ以上はしたくないよ」
「分かっている、その後は……こいつらがやる」
「はぁっ!?」「ふざけんなよ団長!」「なんで俺らがフィンクスを抜かなきゃならないんだよ!!」
「仲間だろう?」
さて、その後である。部屋に入った少女が目つき悪い、[削除済み]ナに夢中な男を入り口に向かって蹴とばし、
屈強な男たちがケツ丸出しの目つき悪い男を、床に横たわらないように押さえつけ、そして魔法のオナホールを男の[削除済み]にあてがい、
「止めろっ! 俺にはユカという心に決めた女性がっ!」
「うっさい黙るね!」「ズボン脱がせ早く!」「じゃあ、始めるよ」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
Shake! Shake! Shake! HOOOOOOOO!
目つき悪い男は賢者タイムに入り、異常性は失われた。それを見ていた念糸使いの少女は呟いた。
「酷い絵面だね」
◆ これはねこです ◆
「天牙先生」
「なんだ、ユキカゼ?」
褐色の肌に際どいハイレグのレオタードのような衣装の少女が、弾力のある中空の細長い物体に中指を突き入れたりしている男に尋ねた。
「みなさんが作っておられる素晴らしい作品について教えていただきたいことがあります」
「…いいだろう」
「あの《ユカ》についてです。踏み入れた男性が、華美なドレスを着た女性が床に横たわっている姿が見えるようになるという…」
「ああ、あれか」
います。先生と呼ばれた男はその詳細を頭の中に猫がいます思い浮かべる様に中空を見上げて、頷く。
「なぜ、男性、しかも異性愛者のみを対象にしているのでしょう? 制約の関係でしょうか?」
「え、いや、だって、床[削除済み]は男しかしないだろう。女なら角[削除済み]じゃないか」
「そういえばそうですね。では、異性愛者のみというのは?」
「床の上に投影する人物像を、野郎にしたくなかっただけだな」
「なるほど、そういう強い執着、拘りが作品に命を与えるんですね!」
ユキカゼと呼ばれた痴女は感心したように目を輝かせた。
ねこはいます。
聞いていますか、今回は最近嵌っているネタとクロスオーバーさせました。ナイスタイマニンのことではありません。ねこです。
以下、ご紹介させて頂いたSCPでした。よろしくおねがいします。
http://ja.scp-wiki.net/scp-272-jp
http://ja.scp-wiki.net/scp-040-jp