「はぁ‥‥何か疲れた」
数える事おそらく239回目のため息だ。こんなにもくたびれたのは久しぶりだろうか。あの後「用がないならカエレ!」とスヴェンを追い出したのだが、その後も休憩時間や授業をサボる度にスヴェンがどこからともなく現れてセロリを使って嫌がらせをし続けてきやがった。
教室の俺の机にセロリの生け花は置かれたままだし、セロリの着ぐるみを着て教室に入り込んだり、セロリを振り回して追いかけてくるし、下校するまでの間あいつは何度も俺にセロリを食わせようとしてきた。
漸く学生寮へと辿り着くとどっと疲れがのしかかってきた。もうあれだ、セロリとあのクソ野郎のせいだ。部屋に着いたらレキに抱き着いてレキレキ成分を補充しよう。ぎゅっと抱きしめて、スンスンして‥‥ほ、ほらスキンシップって大事だからな!
鍵で開錠しドアを開けて部屋へと戻る。あれ?おかしいな、部屋が明るい。部屋の電気はつけっぱなしにしてたっけか?
「おうおかえり!一日中雨で少し冷えたろ。コーヒー作っておいてやったぜ!」
リビングにはスヴェンがコーヒーを飲みながら寛いでいた。
「えーと、レキだっけか、お前さんはミルクか?それともブラック?」
「‥‥私はブラックでかまいません」
「そうかそうか!ほんとノブツナにはもったいねえ女だなぁ!」
スヴェンはゲラゲラと笑いながらレキにコーヒーを渡す。そして俺にはいたずらっぽくギザギザの歯を見せて嘲笑う。
「残念だったなノブツナ!てめえのコーヒーはねえ!お前にはこの特性セロリジュースをry」
「どっから湧いてきた」
セロリジュースを飲まそうとしてきたスヴェンの攻撃を躱して容赦なくアイアンクローをお見舞いする。
「つか、なんでお前がこの部屋にいるんだ!?」
「あだだだ、そんなこと言うなよ。俺達ソウルメイトじゃねえか」
「てめえのようなソウルメイトいらねえよ‼」
とりあえず俺に飲ませようとしてきたセロリジュースを此奴の口の中へと流し込ませる。スヴェンは「まずっ!?」と叫んでしばらく咽た。
「ふっ‥‥さ、さすが俺のら、ライバル‥‥」
「だから何でお前がこの部屋にいる。正直に答えろ」
またふざけて話を逸らせないようにいつでも〆れるよう組み伏せておく。するとスヴェンはもじもじしだした、なんかキモイ。
「そりゃぁお前‥‥こんな可愛い子と一緒に住んでてさぁ‥‥俺にヤラシイもん見せようとしてんだろ!?」
「逆切れかよ!?」
「当たり前だ!俺の前でイチャイチャしやがって‼しかも、ホテルとか滞在する場所を取り忘れてしまって野宿になるからどうしようかと迷ってたから仕方なーしにノブツナの所にいさせてもらおうとついでに思ってた俺にこんな仕打ちとか鬼畜だなお前‼」
「理由!理由をついでにするな!」
ホテルの予約をとっていなかったお前が悪い。もうこれ完全に俺に対する八つ当たりじゃねえか。やはり強制退去させようかな‥‥
「まあそれもあるが‥‥ブラドの件でな、色々と話しておこうかと訪ねてきたまでだ。あとついでに居候させて」
やっと真面目に理由を話す気になったか。イ・ウーのNO.2『無限罪のブラド』、吸血鬼とかいうファンタジー野郎のようだが詳しい事は聞いていない。スヴェンはバチカンの指令でブラドを捕えに日本まで来て、俺達に協力を依頼してきた、吸血鬼がどういうものか知っておく必要があったし今後の作戦も決めておく必要もあったから丁度いい。居候は余計だが
「まあ、俺とレキに話しておく必要があるが‥‥あと鳰やジークらにも伝えるべきじゃねえのか?」
「ああ、それなら問題ねえぞ?」
「は?」
どういうことかとキョトンとしていたが、突然別の部屋と洗面所の扉が開きジークと鳰がウキウキしながら出てきた。
「ノブツナ、レキ!今日はお泊り会らしいな!もうワクワクしてUNOとかトランプとか持ってきたぞ‼」
「ノブちゃん、洗濯物畳んでおいたッスよ。自分の下着とレキレキの下着を一緒に洗濯してたとか変態っスね!」
「お前ら‥‥」
俺はがくりと膝をついた。なんでお前らまでいるんだよ、もうツッコミ切れません‥‥
___
「っしゃあ‼ウノっ!」
スヴェンは叫んでカードを置いて俺に向けて勝ち誇った顔を見せてきた。俺は無視してカードを置きウノと呟く。
「ドローツーっす」
鳰がゲスな笑みを浮かべてドローツーを置く。
「ふははは‼ドローフォーだ!」
ジークはやかましくドローフォーを置いた。
「‥‥」
そしてレキが静かにドローフォーを置き、スヴェンはがくりと膝をついた。
「くそおおっ!せっかく上がれると思ったのに‼流石はノブツナの新しい相棒だな!だが、次こそは負けんぞ‼」
スヴェンは悔しそうに合計8枚のカードを引いていく。どちらにしろ俺の上がりなんだけど‥‥って
「違ああああうっ‼」
俺は思い切り手札を机に叩き付ける。のんびりウノをしている場合じゃねえだろ!?スヴェンは呆れた様な顔をして俺を見てきた。
「なんだなんだノブツナ、俺に勝てないからってヤッケになるのはよくねえぜ?」
「違うだろ!?作戦とかブラドの情報とか話すんじゃないのかいな!?」
「ノブちゃん、そう焦んなくていいっすよー。あ、コーヒーおかわり欲しいっす」
「ノブツナ!あとお煎餅欲しい」
「お前らは人んちで寛ぎすぎだよ!?」
そしてお前ら二人は勝手に人んちで寛いでんじゃねえって。しかもジークにいたっては人のお菓子を食うんじゃない。ようやく観念したのかスヴェンはやれやれとため息をついた。
「仕方ない、嫌がらせはここまでにして‥‥そろそろ話をしないとな。まずノブツナ、吸血鬼についてだが‥‥」
漸く真面目に話す気になったかとほっとひと息つく。真剣な眼差しになったスヴェンは俺にある物を渡した。
「‥‥ナニコレ?『吸血鬼ドラキュラ伝説』?」
「年代物の映画だ、詳しくはこれを見て学ぼう。DVDプレイヤーとポップコーンの用意をしてくれ」
「殴るぞ?」
そろそろふざけないで欲しい。もうこいつ追い出していいよね?
「ノブツナ!コーラは何処に入っている!?」
「お前は人んちの冷蔵庫を漁るんじゃない‼てかなんでワクワクしてんだよ!?」
「まあ彼のやる事は分からんでもないっすけど‥‥ノブちゃん、ブラドら吸血鬼はよくイメージされてる普段の吸血鬼とは違うっすよ」
普段の吸血鬼とは違う?それはどういうことだ?とりあえずコーラをラッパ飲みしようとしているジークを蹴とばして尋ねた。鳰の答えにスヴェンは頷いて口を開く。
「吸血鬼は血を吸うことで食事をすると言われているが、本来の吸血鬼は吸血をすることによって血を吸った対象の遺伝子を取り組み、自分の遺伝子を上書きをする。要は種の生存するために血を吸って進化をするようなもんだ」
主としての生存する手段が変わっている種族だな。上書きできるということは優れた遺伝子を上書きすることで己がより高位な主として進化し続けることが可能だということだ、だが遺伝子の上書きを計画的に組まないと…
「ノブツナお前の察しの通りだ、自分は上位種だと自惚れた吸血鬼たちは無計画に吸血をし続けて滅んだ。その中でもブラドは優れた遺伝子を計画的に組み込み生き延びた。今世界中に生存している吸血鬼はブラドとその娘、そして俺の母ちゃんだ」
自分は人間との混血種だから数は入れないとスヴェンは述べた。ファンタジックな種族が本当の意味でファンタジックになりそうになるとは、なんとも皮肉な話だ。
「あと、奴らが違う所は対処法だ。ニンニクとか十字架とかはほぼほぼ無意味だ。吸血鬼には『魔臓』という4つの急所があってな、そこを同時に潰さねえ限り何度も体を再生できる。だが個体によって箇所が異なっているから何処を狙えばいいか分かりにくい」
「ずいぶんとせこい体質だな」
「そうでもねえぞ?ブラドとその娘は過去にバチカンの聖騎士との戦いで魔臓が何処にあるか分かるように目玉の紋章をつけられた。ある程度戦って苦にはなねえだろう」
ある程度ってどの程度だ。スヴェンは気楽にわらっているようだが、話から聞いて爆弾とか機関銃とか用意しないと苦戦を強いられるのではないかと思えるのだが。
「それにあいつは取りんだ遺伝子を利用して吸血鬼の姿をくらましている」
「となると更に見つけるのが面倒くさいじゃないか」
「そう焦んな、ダンピールである俺には姿をくらましても何処に吸血鬼がいるか、変装してるのか臭いで分かる。というか武偵校内にブラドが潜んでる臭いがしたぞ。ここの武偵校の警備はどうなってんだ、ザルすぎるじゃねえか」
まじか!?ブラド、うちの学校内に潜んでたのかよ!?ジャンヌダルクの件やドリアンの件といい、どうしてうちの学校は対犯罪の学校のくせに犯罪者をすんなり校内に潜入されてるのか。
「スヴェン、校内を散策すれば誰がブラドか分かるのか?」
「難しいな。相手の正体を分かるってことは相手も分かってるってことだ。奴はバレないように慎重に行動するようになるだろう。たぶん、刺客を放ってくるな」
刺客か‥‥その時は返り討ちしてやる。でもドリアンの時みたいにドッキリお宅訪問はやめて欲しい。だが相手が隠れるのなら見つけるのがより困難になりそうだ。
「少し気になってんだが、なんでブラドは日本にいるんだ?」
いの一番に気になっていたのがイ・ウーのNo2の吸血鬼が何故日本にいるのか、そしてなぜわざわざ変装してまで武偵校にいるのか。遺伝子の上書きが目的ならこんなところいないで世界中でも回っとけと疑問に思っていた。
「それはたぶん、自分の奴隷を見張っているからだ」
「奴隷‥‥?」
吸血鬼のくせに奴隷を持っているのか。まあ考えられるとすれば自分に相応しい優れた遺伝子を手に入れるための育成だろう。
「ブラドは過去にフランスで初代怪盗リュパンと3代前の双子のジャンヌ・ダルクの子孫との戦いで引き分けたその後、現代のリュパンの曾孫を拉致し奴隷にした」
リュパン?もしかしてフランスの大怪盗といわれたアルセーヌ・リュパンか。ジャンヌ・ダルクは‥‥確かあいつは30世と名乗ってたよな、同じイ・ウーだしもしかするとブラドの事を知っているだろうな。スヴェンは煎餅をかじりながら話を続けた。
「上司から聞いたのだがブラドがイ・ウーに入る前の話だ、リュパンの曾孫は隙を狙って脱走しイ・ウーへ辿り着きイ・ウーのリーダーに匿ってもらった。無論、己の奴隷が奪われたのだから当然怒りイ・ウーのリーダーに勝負を挑むが敗北。以後はリュパンの曾孫を監視を含め身を置いてリュパンの曾孫諸共イ・ウーの一員になったわけだ」
結局はどちらのしてもブラドの奴隷の首輪から逃げられなかったという訳か。どちらにしろイ・ウーだから哀れと思わねえがな。
「うちの学校にリュパンの曾孫がいて、そいつを逃がさねえように監視してるってわけか」
「まあな、弱みを握ってる可能性もあるし意のままに操れる駒でもあっから面倒だ」
「つまり‥‥どういうことだってばよ」
『吸血鬼ドラキュラ伝説』を見ながらポップコーンを頬張りキョトンとしているジークにげんこつを入れる。もう最初から聞くのは面倒なんだからな。というかレキ、お前もポップコーンを食べながら映画を鑑賞してたのかいな‥‥すると鳰が何か閃いたかゲスな笑みを浮かべた。
「ブラドにとってリュパンの曾孫は至高の餌‥‥ということは、そいつ逆に利用すれば出てくるんじゃないっすかね?」
「なるほど、餌を横取りすれば怒って化けの皮を剥がすかもな。お前考えることゲスいな!」
鳰の提案にスヴェンもニヤリと笑った。気が合いそうで何よりです、でも俺に嫌がらせしたら容赦しないが。ジークはポップコーンを頬張りながらワクワクしていた。
「よく分からんが楽しそうだな!俺も賛成だぞ‼で、ノブツナとレキはどうする?」
「‥‥私はノブツナさんに従います」
「別に反対意見も反対する理由もねえし‥‥のるぜ。さっさと済ましてお前を追い出したいからな」
早くこの一件を片付けないとこのおバカ二人も居候しだしそうで怖いし。そうと決まればさっそく作戦を練らねば。まずはブラドの奴隷であるリュパンの曾孫が誰なのかを見つける必要があるな。
「それでスヴェン、今後の対象であるリュパンの曾孫の本名は分かってんのか?」
「それなら問題ない。リュパンの曾孫‥‥リュパン4世の名前は峰・理子・リュパン4世だ」
それを聞いて俺は盛大にズッコケた。どうしよう、そいつクラスメイトです。
マイペースでひっそりと進めていきます‥‥