緋弾のoutlaw   作:サバ缶みそ味

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28話 再会

 朝から忍者みたいな奴に襲われた。やっぱり早起きは碌な事がない。

 

 早朝から通勤通学の人々の悲鳴が電車内に喧しい程響く。乗車していた武偵の幾人かが一般人を安全な車両へと避難誘導していき、他の幾人かは銃を構えて仮面の忍者に動くなと銃口を向ける。

 

「‥‥ふん」

 

 仮面の忍者はそんな彼らを鼻で嘲笑い、ゆっくりと俺に近づいていく。あいつは俺が狙いで周りの相手は眼中にない、いや銃で撃たれるよりも早く相手を仕留めることができる自信があるのだ。

 

「銃は人の命を奪う事もできる‥‥君達は自分が死んでも構わない覚悟があるかね?」

 

 仮面の忍者は挑発しながらゆっくりと近づく。俺は絶対に誰も撃つなよと他の武偵達に睨みをきかす。

 

「ジャンヌ、お前エクスカリバーはどうした」

「エクスカリバーじゃない、デュランダルだ。生憎だが今は修理中で持っていない、だが剣以外にも銃の心得はある」

 

 ジャンヌは剣の代わりとCz・Cz100を引き抜きリロードをする。どちらかと言えば剣の方がありがたかったがないよりかはマシか。

 

「そういうお前は刀はどうした?」

「早起きしたせいで忘れた。ったく、こんなんだったら早起きすんじゃなかった」

 

 LARグリズリーを引き抜いて銃口を忍者へと向ける。仮面の忍者はゆっくりと歩んでいた足をぴたりと止めた。これ以上進んだら撃たれると悟ったのか、軽くため息を漏らした。

 

「私もこんなごっこ遊びをしている連中に舐められたものだ、死と隣り合わせだということを今一度教えなくてはな‥‥!」

 

 仮面の忍者は肩を竦めて声を低くした。あいつ怒っているのか? 

 そしてそいつは身を低くし、握っている小太刀を突きの構えのままゆっくりと手を引いていく。

 

 このまま突進して突いてくるのか?いやそれならば動いた瞬間銃を構えている此奴らのハチの巣にされる、それじゃあなぜ‥‥?考えている合間に武偵の生徒の一人が痺れを切らして構えている銃の引き金を引こうとした。

 仮面の忍者は瞬時に小太刀の後ろ先端を左手でトンッと押したような動作をした。その刹那、あいつが持っていた小太刀が消えた‥‥

 

 いや、消えたんじゃない、飛んだんだ‥‥‼

 

「伏せろ‼」

 

 咄嗟に後ろにいる連中に叫んだ。が、叫ぶよりも早く勢いよく飛んだ小太刀は引き金を引こうとした武偵の顔面に突き刺さった。彼は銃を撃つことなく鮮血を飛ばして倒れた。倒れた武偵の隣にいた武偵の女子は悲鳴を上げた。

 

「ほら言わんこっちゃない」

 

 仮面の忍者はやれやれと肩を竦めて呆れたようにため息をついた。俺とジャンヌはただ驚くことしかできなかった。どうやってあの構えのまま飛ばしたのか、ジェット噴射のような勢いを出して飛ばしたのか想像もつかない。

 

「あいつの狙いは俺だ!死にたくなかったら下がれ‼」

 

 これ以上被害を出すわけにはいかない。朝ッパから武偵が死にまくったらシャレになんねえって!仮面の忍者はフンと鼻で笑って他の武偵達が下がるのを待った。なんかなめられてる‥‥

 

「ノブツナ、どう出るのだ?相手はもう得物は持っていないぞ」

 

 ジャンヌはそう言うが俺はうかつに手を出せない。ああいった奴はまだ他に武器を隠し持っているはずだ。こちらは銃を持ってるから距離は牽制できる‥‥と思いきや、仮面の忍者はどこから取り出したのか両先端に重量のある分銅がついた長い縄を取り出した。

 

「‥‥大人げないと思わんでくれよ?」

 

 仮面の忍者は嘲笑うかのように告げると、両手に紐をもって勢いよく振り回した。ただ手で回しているだけで風が巻き上がるだなんて‥‥しかも速い!先端につけられている分銅が全く見えねえ。

 

「‥‥ふんっ!」

 

 仮面の忍者が投げるような動きで腕を伸ばした。飛んでくる分銅は速すぎて見えねえが相手の腕と手で軌道を読むしかねえ‥‥!俺は急ぎ身を屈めたその刹那頭上で空を切るような音が二度通り過ぎた。間違いなく分銅が俺の顔面を狙って飛んできたのと忍者がすぐに分銅を引き戻した。急いで動かねえと次が来る‥‥!

 仮面の忍者は低めを狙うかのように手を横へ薙いだ。次は膝だ、後ろへと飛んで避けて先手を打たれる前にLARグリズリーを撃った。放たれた弾丸は俺の顔面を狙って飛んできた分銅を弾かせる。

 

「‥‥いい目だ」

 

 仮面の忍者は関心したかのように呟いた。紐や鎖を介して使われる武器は先端の速度が目にも止まらぬ速さになるが、全ての軌道は術者の手に伴われる。武器本体が何処から飛んでくるか、術者が教えてくれる‥‥本部師匠から教わったいつ使われるのかなーって思ってた賜物だけど今すっごく役に立ってる。

 

 そして今回はジャンヌがいる。とても好都合だ。

 

「ジャンヌっ!」

「分かってる!銀氷よっ‼」

 

 俺の横でジャンヌは床に手を置くと床が凍り付き始め、彼女の能力で発現された氷は忍者の足下めがけて広がっていく。相手に異能者がいる事に気づいた忍者はすぐさま後ろへと下がる。相手の足に氷を張り巡らせて足止めさせる作戦は失敗したが牽制はできたはずだ。

 

「ふむ‥‥異能者もいたか」

 

 相手は想定内だとでもいうかのような余裕綽々な様子だ。ちょっとなんか本当にムカつくな‥‥

 

「残念だ、少しは遊んでやろうと思ったが時間はなさそうだね」

 

「当たり前だこの野郎‼てめえはもう袋のネズミだっての!」

 

 ここは今も走行中の電車、そして行先は学園島。もう連絡はされているだろう、他の武偵も向かっていたり待ち構えていたりしている。俺とジャンヌがいるし、こいつには逃げ場はねえ。どういった料簡で俺を殺そうとしたのかとっ捕まえてみっちりと絞ってやらねえと。

 

「それならば―――――」

 

 忍者は持っていた長い縄のついた分銅を投げ捨てた。何をするつもりだ?このままお手上げか?ふと不審に思ったその直後、忍者の雰囲気が変わった。一瞬、冷たい殺気を感じた。

 

「―――――本気で殺さなければね」

 

 言いだしたと同時に仮面の忍者が一気に動いた。1歩、2歩、そのわずかな歩数で間合いを一瞬にして縮ませ数秒でジャンヌへと迫って来やがった。

 忍者は右手を貫手の構えにしてジャンヌへと突こうと動く。まずい、忍者野郎はジャンヌを殺す気だ‥‥!すぐさまLARグリズリーを奴の右手に狙いをつけて引き金を引いた。放たれた弾丸は奴の右手を―――――――貫かず弾かれた。

 俺は見開いて驚くが忍者はそれを待っていたかのようにジャンヌの体を貫こうとしていた右手を大きく開かせ、腕を脱力させたようにしならせて体を横に動く勢いで俺の体めがけてその右手を打ち込んできた。

 

「っっでぇっ!?」

 

 その威力は引っ叩かれたのと比べ物にならない程の威力だった。ビンタじゃない、まるでデカイ鞭で思い切り叩かれたような痛さだ。

 

「ノブツナっ!?」

 

 ジャンヌはすぐさまCz・Cz100を撃とうと引き金を引こうとしたが忍者は彼女よりも速く右手による掌底を打ち込まれ吹っ飛ばされた。やばい、本当にマジで殺しにかかってきてる‥‥起き上がろうとしたが忍者が俺を抑え込んできた。

 

 

「っ‥‥何が目的なんだ、てめえは‥‥‼」

「君が知る必要はない。君が死ねば好都合だと言われているだけだ」

 

 俺が死ぬと好都合‥‥いやいやいや、本当に心当たりがないんですが!?いや、あるとすればまさかレキ関連か!?

 

「少しクイズを出してあげよう‥‥‥‥この地球上で最も強力な毒ガスは何か分かるかね?」

 

 最も強力な毒ガス?それって一体‥‥と考えている間にも忍者は左手をゆっくりと俺の顔へと近づけようとしてきた。その左手を見た瞬間、ぞくりと冷たい気配が‥‥いや、気配じゃない。これは予感、これをくらったら間違いなく死ぬかもしれない予感だ。

 

 あ、やばい――――これマジで死ぬ

 

 

「―――――朝から早々事を起こすだなんて、相変わらずねノブツナ君」

 

 どこからか聞き覚えのあるような声が聞こえた瞬間、忍者の仮面と体に何か弾丸の様なものが当たった音が聞こえた。忍者は痛みを耐える声を漏らして俺から離れる。拘束された身が自由になったと同時に俺はすぐさま転がって離れ、声のした方へと振り向いた。

 

 武偵校の女子制服を着た、茶髪の綺麗な三つ編みと絹のように白い肌に華奢ながらも力強さをも感じる凛々しさを持つ人物がいた。どこの馬の骨とかいうレベルじゃない、あいつは間違いなく見覚えのある人だ。

 

「カナ‥‥さん!?」

 

「久しぶりね、ノブツナ君。キンジとは仲良くやってるかしら?」

 

 カナは驚く俺にウィンクをした。彼女、否彼は遠山金一、あの遠山キンジの兄である。どういう訳かは分からないが女性に変装している時は遠山カナと‥‥なんかややこしいがれっきとしたキンジのお兄さんである。驚くのも当たり前だ、彼女‥‥いや彼は、いや今は彼女か‥‥ああもうややこしい、カナは一年前の豪華客船沈没事件で行方不明になっていたんだ。メディアや他の武偵は死んだとされていたが‥‥まさか生きてて帰って来たとは驚きだ。

 

 カナは微笑むと持っているコルトS.A.Aの銃口を仮面の忍者へと向ける。

 

「何方か知らないけど‥‥次は狙いを外さないわよ?」

 

 見たことはあまりないのだがカナの撃つ銃弾は仕掛けは分からないのだが不可視レベルの速さで放たれる。いわば不可視の銃弾、軌道を読まれることなく確実に仕留める超強力な技だ。静かに見つめるカナに対して仮面の忍者はため息を漏らすと左手を電車の扉へとぺたりと密着する様に押し付けた。

 

 

「邪魔が入ったか‥‥まあいい、まだ時間と余裕がある」

 

 左手を強く押し込んだ直後、電車の扉がベコン‼と大きなお音を立ててひしゃげて吹っ飛んだ。な、なんつう力だ‥‥!?というかどうやって左手だけで扉をぶち開けたんだ!?

 

「また今度会いに行くとしよう」

 

 忍者はそう言い残して飛び降りていった。追いかけようとしたがカナに止められた。電車はかなりの高さのある場所を走ってる。ここから追跡は不可能ってか‥‥

 

「ノブツナ君、取りあえず今はけが人の手当てと事態の収拾をしましょう」

「‥‥カナさんの言う通りっすね。それと、この後時間はあります?」

 

 カナがどっか消えてから色々と面倒な事が起き続けているんだ、積もりに積った鬱憤を聞かせてやらなければ。察したカナは苦笑いして頷いた。

 

___

 

「なんで死んだふりしてたんです?おかげでメディアに騒がれてうざかったんですから」

 

 学園島の公園のベンチでリーフパイを食べながらジト目でカナを睨む。勿論、学校はサボりだ。それよりもカナが死んだと思われたその後が本当に面倒だった。メディアは武偵を叩いてマスコミ連中はキンジの部屋の前まで押しかけてきやがった。おかげでキンジはノイローゼになりかけるし、隣に住んでた俺は連中がうるさくて居眠りすらままならなかった。まあ腐った生卵ぶん投げて追い払ったけど。

 

「ノブツナ君やキンジには迷惑かけたのは謝るわ、でも死んだふりをした理由は話せない」

「俺にも言えない理由っすか?」

「ごめんなさいね‥‥どうしてもやらなきゃいけないことだから」

 

 様子から見てとても重要な事なんだろうな。キンジのお家にキンジを奴隷扱いしてるピンクツインテロリ、ドエロい下着を身に着けてる幼馴染の巫女と最近じゃ金髪ロリ巨乳な怪盗までにも色使ってて修羅場になってるし‥‥ああ多分それがお兄さんにバレて家族会議ものになったんだろうな。

 

「‥‥なんというか、お察しします」

「?」

「そうだ、カナさん。今朝の忍者野郎、心当たりはありませんか?」

「あの忍者ね‥‥」

 

 カナは静かに首を横に振った。武器や暗器の使い手の上に徒手空拳もかなり強い曲者、いったい何者だったのか。気になるのはあいつの手。右手は弾丸を弾いたことから恐らく頑丈な義手だろう。そして蹴り開けることすらできない電車の扉をぶっ飛ばした左手。あの左手からはぞくりと嫌な気配を感じたが一体何を仕掛けていたのか‥‥

 

 というか、また今度会おうと言ってきやがったし下手したらすぐにでも再会しそうで怖い。どういう理由かは分からないが俺を狙っている。

 

「次はいつ貴方に襲いかかってくるか‥‥警戒しておいた方がいいわ」

「勿論っす。トラバサミや地雷とかトリップマインとか仕掛けておきますから!」

 

 警戒は万全にしておかければ。カナは苦笑いして頷く。

 

「さてと、私はそろそろキンジに会いに行くわ‥‥そうだ、ノブツナ君。貴方に伝えなければいけない事があるの」

 

 するとカナは真剣な表情で俺を見つめてきた。去年、一度手合わせをしてくれた時と同じ様に、キンジの前からいなくなる前日の時と同じ様に、重大な事をやる覚悟を決めたような顔をして見つめる。

 

「急ぎなさい、世の中は貴方を待っててくれない。貴方がやるべき事を、決断を下す日はもう目の前に迫って来ているわ」

 

「それって‥‥もしや」

 

「ごめんなさい、貴方に力を貸してあげたいけれど私にも時間がないの。教えてあげれる事はこれだけ‥‥」

 

 カナはそう述べて武偵校に向かって去っていった。ジャンヌといい、仮面の忍者といい、カナさんといい、誰もかれも意味深な事を言い残すよなぁ

 

 急ぎなさい、か‥‥はやくレキを笑わせないとな




 
 今回は少し短め

 諸事情で更新が遅くなります
 申し訳ございません(焼き土下座

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