もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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偽アイドルとアイドルと
アイドルの襲来


 はい皆さんこんにちは! 今日はこのパーフェクトな替え玉であるこの私が主役ですよ!!

 今から私が語るのは、七香さんを攻略していた時に起こった事!

 そう、私の大事な『先輩』との出会いのエピソードです!!

 

 

 

 姫様から昨日突然『入れ替わってほしい』と頼まれました!

 そんじょそこらの人間や悪魔だったらそう簡単には対応できないでしょうけど、なんたって私は優秀なアクマですからね!

 頼まれた翌日からアイドルとして堂々と活動します!

 

「おはようございます!!」

「あらおはよう。今日からそっちのキャラなのね」

「? キャラ……?」

「何でもないわ。それじゃあミーティングを始めるわよ」

「はいっ!」

 

 姫様はまめな性格なのでいつもちゃんと予定表を私に渡してくれます。なので、ミーティングで聞くまでもなく大体把握できています。

 今日の予定は確か、午前中はラジオの収録、午後はデゼニーシーでのイベント、夕方からガッカンランドでのイベントだったはずです!

 

「今日の予定はグラビアの撮影、市内のボランティア活動、あとプチコンサート……」

「……あ、あれ?」

 

 姫様から渡された予定表をもう一度よく見てみます。

 ……あ、これ先週の予定でした!

 

「かのん? 大丈夫?」

「え、あ、はいっ! 大丈夫です!」

「なら良いけど……この予定にちょっと修正が入ったわ」

「え? はいっ、何ですか!」

 

 ミーティングの段階で修正が入るというのは珍しいです。一体どうしたんでしょうか?

 

「実は、うちと仲良くしてる事務所のアイドルがこっちに研修に来るのよ」

「研修、ですか?」

「ええ。研修って名目だけど、『ちょっと売れてるくらいで調子乗ってる奴が居るんでシメて欲しい』って頼まれたのよね」

「は、はぁ……あの、売れてる事は良い事ですよね?」

「それはそうだけど、才能があってもっと上を目指せるはずなのに慢心しちゃってるらしいのよ。

 だから気合を入れ直して欲しいってさ」

「なるほど。それで私は何をすれば良いんでしょうか?」

「意識して特別な事はしなくて良いわ。

 一緒に付いてきて見学したり、たまにちょっと手伝ってもらったりするだけだから。

 先輩として堂々とした態度を見せつけてやりなさい」

「せ、先輩……はいっ! 分かりました!!」

「いやに気合入ってるわね」

 

 そりゃそうですよ!

 なんたって先輩ですよ先輩!

 凄くカッコいいじゃないですか!

 

(いつものかのんなら心配無いけど、こっちのキャラだとちょっと不安だなぁ……)

「え? 何か言いました?」

「ううん、何も言ってないわ」

「そうですか?

 あ、そう言えばその後輩のアイドルってどんな人なんですか?」

「名前は黒田(くろだ)(なつめ)

 どんな人となると……ちょっと調子乗ってる感じの人らしいわ」

「……余計分からなくなりましたね」

「会ってみれば分かるはずよ。頑張りなさい」

「はい! 頑張ります!」

 

 一体どんな人なんでしょう、私の後輩!

 キラキラした目で私を慕ってくれるような、そんな後輩がいいな!

 

「ここが中川かのんの居る事務所? ずいぶんとみすぼらしい場所ね」

「……え?」

 

 私が未来への希望に胸を馳せていたら聞き覚えの無い声が聞こえました。

 声のした方を振り返ると金髪サイドテールの女の子が立っていました。

 ま、まさかとは思いますが……

 

「ま、今日は世話になるわけだから一応挨拶しておいてあげるわ。

 私が567プロダクション所属の黒田棗よ」

 

 ……私のささやかな夢は、一瞬で砕け散ったようです。

 明らかに敬意のカケラも無い感じです! 向こうの人に『シメて欲しい』って言われるのも納得です!

 で、でも私は心の広い()()ですからね! この程度は笑って許してあげようではありませんか。

 

「は、初めまして、私は中川……」

「フン、アンタが中川かのん? 実物を見ると大した事無いのね」

「…………」

 

 何なんですかこの人! 後輩のくせに生意気です!!

 い、いえ、取り乱してはいけません。今の私はほんのちょっとだけドジで落ちこぼれのエルシィではなく完璧アイドルである歌姫様こと中川かのんちゃんです!

 この程度の事で動揺していては……

 

「今一番の人気だって言うから何か得られるかもしれないと思ったけど、とんだ期待はずれだったわね。

 はぁ、時間の無駄だわ」

「ちょ、ちょっと待ってください! まだ何もしてないのにどうしてそこまで言われなきゃならないんですか!」

「うるさいわね。本物のアイドルだったら会った瞬間にビビっと来るような本物のオーラを持ってるはずよ。

 それが無いアンタは、所詮は運が良かっただけの紛い物よ」

「うぐっ!」

 

 た、確かにそうなんですよね。私は所詮は替え玉で、ただ運が良かったからここに座っているわけで……

 あ、あれ? この人の言ってる事は正しいんでしょうか?

 

「か、かのん! 気圧されちゃだめよ!」

「はっ! す、すみません」

 

 そうだ、ここで私がへこたれてたら姫様が舐められます!

 パーフェクトな替え玉として、この生意気な後輩をうならせてやりましょう!!





 黒田棗という名前はほぼオリジナルですが、元ネタとなったキャラは漫画に一応登場しています。
 黒っぽいイメージを持ち、
 もとの名前をちょっといじってナツメにしました。
 元ネタは……最終話くらいで明かしましょうか。

 前日くらいに連絡されてもできる仕事なんてたかが知れていると思いますが、そこはご都合……岡田さんの本気が炸裂したという事にしておいてください。
 一応、飛び入り参加は流石に有り得ないもの(かのんちゃんがメインとなるイベントなど)は最後以外は避けたつもりなので。

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