もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 アイドルと妹と

 どういうつもりだ現実(リアル)め。

 僕は極めて友好的に拒絶してやっているというのに!!

 

「か~み~さ~ま~、どうしたんですか神様!

 聞こえてないんですか?」

「桂馬くん、実は頼みたい事があって……」

 

 どうしてこう問題の種を持ってくるんだ!!

 ひたすら無視して家に帰ろうと思っていたが、中川はまだしもこのアクマに特定されるとかなり面倒な事になりそうだ。

 仕方がないので振り向いて怒鳴りつける。

 

「一体どういうつもりだお前ら!

 って言うか何だよ妹って!!」

「あ、やっと反応してくれました。

 今後の駆け魂の撃破をより円滑に行う為に、色々手続きしてきたんですよ!」

「ちょっと待て、『今後の』ってどういう意味だ?

 もう駆け魂は倒しただろ!?」

「いえいえ、この近辺にはまだまだ沢山の駆け魂が忍んでいますから♪」

「お、おいまさか、それを皆倒せって言うのか!?」

「はい♪ ですから、神様といつも一緒に居られるように妹としてこっちに来ました!」

「ちょっと待て、まさか家まで来るつもりじゃないだろうな!?」

「……? こちらでは兄妹は同居しないのですか?」

「お前は妹じゃないだろ!!」

「妹ですよ? 今日から!」

「そうじゃなくて!!」

「だから~」

「だーもう、お前は後回しだ!

 中川! お前は一体何の用だ!!」

 

 頼むからマトモな内容であってくれ。エルシィ1人でも手が焼けるというのに、こんなのが2人に増えたら堪ったもんじゃない!!

 

「実は、一晩だけで良いから家に泊めてほしくて……」

「お前もかぁーーーーー!!!

 お前らまさかグルじゃないだろうな!?」

「そ、そんな事無いよ!? エルシィさんの話、殆どって言うか全部初耳だし!!」

「もうこれ以上現実(リアル)への譲歩などせん!

 家への進出なんぞ、断じて認めるものか!!」

 

 やはり現実(リアル)はクソゲーだ。

 その事を再認識し、どうやって撒こうかと思考を巡らせる。

 ……その時だった。

 

「あら、桂馬じゃないの。こんな所で奇遇ね」

 

 後ろから聞こえてくる、僕にとってはよく馴染んだ女性の声。

 

「あら? お二人は桂馬のお友達?」

「桂馬くん、どなた?」

「お姉様、でしょうか?」

 

 そうか、そう見えるか。でもな……

 

「初めまして。桂馬の母です♪」

 

 うちの母さんなんだよ。

 こうなったら家に上がられるのは防ぎようが無いな。

 はぁ……頼むからこれ以上面倒にならないでくれよ……?

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ入って入って!

 桂馬がお友達連れてくるなんて何年ぶりかしら!」

「友達じゃない」

「優しそうなお母様ですね!」

「お前の母じゃないだろ!!」

「お、お邪魔します」

「……はぁ、もうツッコミ疲れた」

 

 桂馬くん、凄く疲れた顔してるな。

 ……半分くらい私のせいなんだけどさ。

 

「改めて、桂馬の母の桂木麻里(まり)です」

「あ、私、エルシィって言います!」

「まぁ、エルちゃんって言うの」

「はい! ここのお父様の隠し子です♪」

 

 空気が、凍った。

 知らん顔してゲームしてた桂馬くんもギョッとして振り向く。

 

「お、オホホ……面白い子ね」

「これ、死んだ母からの手紙です」

「どれどれ……」

 

 麻里さんはにこやかな顔のまま手紙を読み進め、読み終えると電話機に向かいどこかに掛けた。

 

「もしもし? あなた? うん、私よ」

 

 そして、雰囲気を一気に豹変させた。

 

「話、聞かせてもらおうか?

 何の話? テメェの下半身に訊けこの外道!!」

 

 さっきまで凄く温厚そうだったのに、今は鬼の形相で受話器に向かって怒鳴っている。

 

「……うちの母さん、元暴走族だから」

「な、なるほど……それよりエルシィさん? あの手紙って?」

「室長入魂のニセ手紙です!」

「…………はぁ……」

 

 そんな話をしている内に怒鳴り終えたのか、麻里さんが受話器を壁に叩きつけて私たちの所にダッシュしてきた。

 

「桂馬! 父さんの事は忘れな! 奴はもう死んだ!!」

 

 け、桂馬くんのお父さん、勝手に殺されちゃったよ!?

 

「安心おし! あんたら兄妹3人の面倒は私が見るから!!」

「待て待てぇ!!」

「す、ストップ! わ、私は違いますよ!?」

「お前はって言うか両方違うだろうが!!!」

 

 

 

  ~しばらくして~

 

 

 

「それじゃあ、あなたはうちの旦那の隠し子ではない、と?」

「は、はい、そういう、事、です」

 

 異様なテンションになってる麻里さんを何とか宥めて、自分の素性と家に帰れない事情を話した。

 桂馬くんは隙を見てどこかに逃げ出しちゃったし、エルシィさんはそれについて行っちゃったから大変だった。

 エルシィさんについては話してない。って言うか悪魔がどうこうなんて説明しようがない。

 

「にしてもテレビでも有名なあのかのんちゃんがうちのバカ息子と同じクラスだったなんてね」

「アハハ……」

「まあ、そういう事ならいつでもうちに泊まりなさい。4人くらいなら普通に暮らせる広さの家だからね」

「ありがとうございます!

 ……あれ? 4人?」

 

 桂馬くんのご両親と桂馬くん、あとエルシィさんと私? で5人な気が……

 

「うちの旦那は普段は出張ばかりだし、もう少ししたら離婚する予定だから♪」

「あ、アハハハ…………」

 

 桂馬くんのお父さん、とんだとばっちりだよ。

 

「ところで、あの子の学校での様子はどう? いつもゲームばっかりしてるから親としては不安なのよね」

「そ、そうですか……そうですね」

 

 授業中もゲームしてたもんなぁ……流石に小テストの時とかはやめてたけど。

 麻里さんが不安になるのもよくわかる。

 

「どうかあの子と仲良くしてあげてね」

「はい、勿論です!」


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