もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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弱点と許容

『結果……不合格! もっと頑張りましょう!』

 

「くっ、何故だ!!」

 

 お、おかしい。始めてから数時間経過してるのに第一ステージすら一向に突破できる様子が無い。

 こんなヒドい事は言いたく無いけど、エルシィさんの料理並みと言っても過言ではない。

 

「桂馬くん、あの、そろそろ時間が……」

「まだだ! まだやれゲホゲホッ」

「無茶しすぎだよ。はい、お水」

「……すまん」

 

 桂馬くんでも咳き込みながら続ける気は無かったらしい。私が差し出した水を一気に飲み干すと腰を下ろした。

 

「今日はもう一旦帰ろう?

 時間も色々とキリが良いし」

「くっ、だがしかし……」

「…………」スチャッ

「わ、分かった。確かに時間も遅いしもう帰ろう!

 帰るからその物騒なスタンガンを仕舞ってくれ!」

 

 私がお願いしたら桂馬くんは快く頷いてくれた。

 スタンガンの力って偉大だね♪

 

 

 

 

 

 帰り道にて、私たちは今後の事を話し合う。

 

「次、どうする? また明日挑戦する?」

「そうしたいのはやまやまだが……最初の取引で設定した時間はもう過ぎたよな?」

「うん、そうだね。でも、流石に第一ステージすら突破させられずに終わりっていうのは……」

「お前が気にする事じゃない。僕の力不足のせいだ。

 僕達の関係はあくまでも対等であるべきだ。無償の手助けは要らない」

「……じゃあ桂馬くん、明日もまた別の科目を教えてよ。

 勉強が終わってから……ううん、テストの予想問題さえ教えてもらえればある程度は自分で何とかなるから、それだけでも教えてもらってからまた挑戦しようよ」

「……分かった。また明日、な」

 

 あくまでも対等、ね。

 私たちの関係はあくまでも仕事上の協力者、同じ事件に巻き込まれた被害者。決して善意や厚意、好意の付き合いではない。

 確かに間違ってない。けど、少し気にしすぎじゃないかな?

 桂馬くんってば、妙な所で不器用というか何というか。ま、桂馬くんらしいけどね。

 

 それじゃっ、明日も頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……1週間後……

 

『結果……不合格! もっと頑張りましょう!』

 

「くそっ、もう少し、もう少しのはずだ!!」

 

 毎日挑んで、気がついたら1週間経っていた。

 おかげで私のテスト対策は無駄に完璧になったけど素直に喜べない。

 

「桂馬くん、根詰めても良くないから少し休もう?」

「ダメだ! まだクリアできて……」

「……」スッ

「ぐっ、わ、分かった。少し休もう」

 

 桂馬くんが無茶しようとする度に私がスタンガンを取り出すからもう鞄に腕を入れるだけで反応するようになった。

 何度も私に注意される事に呆れるべきか、予備動作だけで反応する事に呆れるべきか……どっちも呆れてるから大して変わらないけど。

 でも、少し気になる。桂馬くんなら休むタイミングくらい分かってそうなものだけど。

 

「桂馬くん、もしかして焦ってる?」

「な、何? どういう意味だ?」

「何となくそんな風に感じただけなんだけど、どうかな?」

「そんな事はない……はずだ」

 

 いつまで経っても未だにクリアできない原因が技術的なものじゃなくて精神的なものなら、これも一種の攻略になるのかなぁ。

 焦っていると仮定してその原因は……もちろんクリアできないからだけど、それが大きな影響を与える原因は?

 私に負けたから? いや、流石に歌で私に勝てない事は納得してると思う。そうじゃなかったら私なんて放っといて自分一人だけで攻略から討伐までやろうとするだろうし。

 う~ん……私だったらどういう時に不調になるかな? 歌に限らずダンスでも何でもいいけど。

 仕事をしててたまに難しい難題を押しつけられて失敗する事はたまにあるけど、どれもが技術的な失敗であって精神的なものじゃない。

 精神的な失敗をする時は……そういう事だね。

 

「桂馬くん、まさかとは思うけど、『こんなの出来て当然』なんて考えてないよね?」

「何だと?」

「桂馬くんはゲームの神様で、大抵のゲームは完璧にこなせるけど、カラオケは普通のゲームじゃない。

 更に付け加えるなら、これは命懸けの攻略なんかじゃない。ただの遊び。

 だから、失敗しても良いんだよ? クリアできるのが当然だなんて思わないでね」

「…………そっか。そうかもな」

 

 私の言葉を聞いた桂馬くんは一度大きく深呼吸した後、穏やかな表情に戻っていた。

 

「悪い、手間かけさせたな」

「ううん、歌い方を教えるのが私の役目だからね」

「それじゃ、再開するか。よろしく頼む」

「うん! その意気だよ!」

 

 

 

 

 

 この後、そう遠くない未来に桂馬くんは念願の第一ステージを突破する事になるが、それはまた別のお話。

 

 ……ついでに、テスト勉強をしすぎた私が平均点98点を叩き出してカンニングを疑われるんだけど……それもまた別のお話だ。







 というわけで今回はここまで。少々短いですが、最近少々忙しいのでこれで勘弁してください。

 カラオケでデート……もとい、バトルの構想は実は結編の辺りからありました。日常回Aを引いたら即やろうと思っていたのですがなかなか出ず、結局ドローを無視して書く事に。まぁでも、ちひろ編の後だったのでかのんの勝利により深い意味を持たせる事ができましたし、ハクア編の後(≒天理編に手が届く)なので期末テストも絡める事ができて結果オーライだったかな。

 次回は前回引いた某2年の攻略です。最近忙しいのでいつになるかは分かりませんが、次回もお楽しみに。

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