お客さんも私しか居なかったので注文したラーメンはすぐに届いた。
「頂きます」
情報を少しでも集める為に食レポのような気持ちで目の前の料理と向き合ってみる。
まず、率直に言って見た目は地味だ。美味しく見せる配置とかそういったものが全く見られない。私自身もそこまで詳しいわけではないけど、プロの手に託せばかなり改善できそうだ。
次に、スープの味を確認する。メニュー表にはシンプルに『ラーメン』としか書かれていなかったので何味なのか分からなかったけど、どうやら醤油ベースの出汁にいくつか改良を加えてるみたいだ。
そしてお待ちかねの実食。麺を箸ですくい上げて勢いよく啜る。
「どうですか? うちのラーメンの味は」
「……凄く美味しいです。正直に言うと見た目が地味だったので味も地味かと思いましたが全然そんな事はありませんでした。
もしかして、品質を落とさずに作れる量が限られているからわざと地味な見た目にして一見さんお断りの雰囲気にして客数を制限してるんですか?」
「え? いや、うちの親父はそんな小難しい事は考えてないはずだけど……」
実際の所どうなんだろう? この子が父親の深い意図を読み切れてない可能性も普通に有り得る気がしてきた。
そんな事を考えていたらその父親が声をかけてきた。
「……おいスミレ、少しは静かにしてろ。隣でギャーギャー喚いてたら客が落ち着いて食えねぇだろ」
「ふん、何よ。親父の愛想がゼロだから私が足してやってるのよ。
今日だってどうせ私が居ない間は接客もテキトーだったんでしょ?」
「いいじゃねえか別に。それに、お前に手伝いなんざ頼んでねぇよ」
「このバカ親父! 少しは私の言うことを聞いてよ!
このままじゃいつか店潰れるよ!!」
うわぁ、ドラマに出てきそうな親子喧嘩だ。
あの、まだ私が食事してるんですけど? そんな事を気にも留めないほどに追い詰められているんだろうか?
心のスキマは親子関係の不和、かな? これ、親父さんの方も攻略する事になるかもしれないなぁ……
ギスギスした雰囲気の中、やや早めに完食してお会計を済ませる。
「ご馳走様でした」
「ありがとうございました! またのご来店をお待ちしています!」
ひとまず店を出て、これからの事を考える。
スミレさん……店の名前が『上本屋』だから『上本スミレ』さんかな? 彼女がこの店の娘だって事は分かったから帰っても大丈夫だとは思うけど、もう少ししたら桂馬くんとエルシィさんも来るはずだからこの店を見張っておこうか。スミレさんがまた外出したら捜すの面倒だし。
~時は少し遡って~
「ごっつぉさんでした!」
「ごちそうさま」
七香と一緒に頼んだ醤油ラーメンをなるべく急いで食べ終えて会計を済ませる。
「それじゃあ、僕は用事があるからここで解散だな」
「おう、また来週な~」
さて、どう動くべきか。
かのんの後を追うというのが一番分かりやすい行動だが、それよりもエルシィを連れてきて羽衣で攻略対象のプロフィールを透かした方が良いだろう。
かのんが持ってるペンダントの発信器の機能はまだ有効のはずだから、エルシィの羽衣を使えばかのんの居場所も分かるはずだしな。
よし、急いで家まで帰るぞ。
「エルシィは居るか!!」
今日のあいつはうちの店で母さんの手伝いをしている事は分かっていたので、店に乗り込んで呼びかける。
「あ、神様! お帰りなさいませ!
どうですかこの服? お母様が用意して下さって……」
「んな事はどうでもいい。さっさと行くぞ!」
「え? ちょっ、神様ぁ!?」
エルシィが何か言ってるので服装を確認してみたが、素人が考えそうな浅はかなウェイトレス姿になってるだけだった。
かのんも待ってるんだからサッサと着替えさせて迎えに行こう。
僕にとっては久しぶりの羽衣による飛行でかのんの下へと向かう。
3人で飛ぶとキツキツだったが、2人でもそこそこ狭い。
「ほぇ~、駆け魂が現れたんですか。そんな所でバッタリ出会うなんて運が良いですね!」
「……お前にとってはな」
駆け魂の処理数は成績に直結してるもんなぁ。
僕達の成績は駆け魂隊でも優秀な方らしいが、そんなに優秀なら何らかの見返りがあっても良い気がする。
……今度ドクロウ室長を問い詰めてみるか。
「それより、中川の場所はちゃんと把握できているか?」
「はい、バッチリですよ! 急いで良いなら30秒で着きます!!」
「ちゃんと地面を傷付けずに着地できるならいいぞ。できるならな」
「……あと10分くらいです!」
うん、それでいい。
かのんを9分30秒ほど余計に待たせる事よりもクレーターを作らない事の方が重要だ。
原作でも桂馬が『ラーメン』とだけ注文しているのでメニューの書き方が雑だと邪推してみたり。
実際には桂馬の頼み方が雑だったんでしょうけどね。