僕に対して美に関する事で因縁を付けてきた無謀な
その女はそのあまりの美に衝撃を受けたのか両手で口元を抑え、そして……
「アハハハハッ!」
大声で、笑い出した。
「何それ。ただの落書きじゃないの!」
「…………は?」
「おっといけない。大声で笑うなんて美しくないのですね。もうこんな時間ですし、帰りましょう」
それだけ言うと目の前の女子は望遠鏡と敷物を手早く片付けて去って行った。
その時、そっちの方から『ドロドロドロドロ……』という聞き覚えのある全く聞きたくない音が聞こえた気がした。
「あ、神様。やっぱりこちらにいらしたのですか。授業が終わったので呼びに来ましたよ!
あと、センサーに反応がありました! 今回も頑張って攻略しましょう!」
バグ魔がやってきて何か言っているが、そんな事は今はどうでもよかった。
僕の胸中を占めているもの、それは……
「……よくも」
「ん? どうかしましたか?」
「よくもよっきゅんをバカにしたな! あの
あの女への激しい怒りだけだった。
よっきゅんは、絵師が悪いだけなんだ!! 彼女に非は無いというのに、あの女は!!
「断じて許さん!!」
「あ、あの、神様……攻略を……」
「攻略? あいつの? フン、誰がそんな事をするものか。
よっきゅんをバカにするような愚か者は駆け魂に取り込まれてしまえば良いんだ!!」
「駆け魂狩りには私たちの命もかかっているのですが……あ、ちょ、神様!? ホントに行っちゃうんですか!?
ま、待ってくださいよ神様ぁ!!」
「というワケなので、神様の説得をお願いしたいのですが……」
「……フン」
家に帰ってきた私を待っていたのは縋るような目つきでこちらを見るエルシィさんと凄く不機嫌そうな桂馬くんだった。
人間の
まあいいや。桂馬くんにボイコットされて困るのは私も一緒だし。
「とりあえず、桂馬くんはその子に一体何を見せたの? 落書き扱いされるって相当だと思うけど?」
「フッ、そこまで言うなら見せてやろう。理想の結晶であり、美の極致でもあるこのよっきゅんの姿を!!」
堂々と言い放った桂馬くんが突きつけたPFPに映っていたのは……
……落書きと称されてもおかしくないような絵の少女だった。
これ、絶対に私の方が上手く描けるよ。ゲームキャラクターの絵として良い絵が描けるかはちょっと分からないけどさ。
これが、美の極致……? いやいや、恐らく外見だけで言ってるんじゃないんだろう。と言うかそうであって欲しい。
「……落とし神様。ちょ~っと説明してくれないかな。この『よっきゅん』って人がどういう理由で理想の結晶であり美の極致なのか」
「良かろう。とくと聞くが良い」
この後、落とし神様のありがたい解説が2~3時間続く事になるけど、バッサリと割愛させてもらう。
ただ、かいつまんで言うのであれば『設定がどうこう』とか『性格がどうこう』といった事を延々と聞かされて、外見に関する事は一切出てこなかった。
「とまあそういうわけだ。どうだ? 理解できたか?」
「…………桂馬くん」
「どうした? 何か質問か?」
「……私、怒っても良いよね?」
「ん?」
仕事柄、営業スマイルを浮かべる事はよくあるけど、そのストレスを遠慮なく発散させてもらうのは初めてかもしれない。
それじゃあ言わせてもらおう。
「私は! 最初にPFPの画面を見せられただけなんだよ!? それだけだと外見しか分かんないよ!!
なのにその外見に関する話が数時間出ないってどういう事なの!?」
「い、いや、外見はその、絵師が悪かっただけでありよっきゅんの責任では……」
「そういう問題じゃないよ!! って言うか外見が変な事は桂馬くんも認めてたの!?
それだけしか見せられなかったら誰だって落書き扱いするよ!!」
「ぐっ、だがしかし、このよっきゅんから溢れ出すオーラがあれば……」
「そんな曖昧な代物で理解できるのは桂馬くんだけだよ!!
結局桂馬くんがやったのは落書き見せて笑われたっていうだけの当然の事だよ!
それでへそ曲げて攻略を放棄するって、バカじゃないの!?」
「う、ぐぐ……わ、悪かった」
「うん、分かればいいよ。分かれば。
それで、ちゃんと攻略してくれるんだよね?」
「……ああ。そうだな。やろう」
ふぅ、良かった。これで安心だね。
しっかし、桂馬くんにこの程度の事が理解できないはずは無いんだけどなぁ。
桂馬くんって時々凄くバカっぽくなるね。
「それにしても姫様、何か凄かったですね! まるで棗さんみたいでしたよ!」
「う~ん、少し影響は受けてるかも。
あの子、誰に対しても正しいと思った事ならズバズバ物を言うから」
「そーですねー。私も毎回毎回色々と言われてますよ♪」
「いや、それは頑張って減らそうよ」
原作では神様を乗り気にさせる為にエルシィが月夜さんに呪い(?)を掛けますが、本作のエルシィはそんな事はできません♪
久しぶりに出てきた棗さんの名前。
かのんちゃんがブチ切れるシーンを書いてみた後に流石にやり過ぎたかと思ったのでこんな言い訳を入れてみたり。
棗さんの出番は今後あるのだろうか……?