もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 失踪と探索

「で、今回の攻略対象のプロフィールは?」

「モチロン! と言いたい所ですが流石に時間が無かったので最低限だけです。

 『九条月夜 2年生。

  身長142cm、体重は35kg、血液型はA型、誕生日は7月22日』

 とりあえずは以上になります」

「中学2年生か。となると後輩ルート? いや、あの属性だと……」

「あの、神様? ()()2年生ですよ?」

「……何だと?」

「少なくとも羽衣さん情報ではそうなってますね」

 

 羽衣情報だと? と言うことはつまり……

 

「……とうとう、過労で壊れたか」

「いつかはそうなるんじゃないかって思ってたけど、まさかこんなに早くお亡くなりになるなんてね……」

「いや、正常に動いてますからね!? 姫様までボケないで下さいね!?」

「え? ボケたつもりは無いんだけど……」

「えええええっ!?」

 

 僕もボケたつもりは無いが、確かによく考えてみると高等部の制服を着ていた気がする。

 そこらの中学生よりも小さいと思うが、それでも高校生なんだろう。

 

「ま、焦る事は無いさ。ひとまずは情報収集だな」

 

 

 

 

 

 

 

  ~~一方その頃、学校の屋上にて~~

 

 

「ふふっ、完全な静寂。やはり学校は夜に限るのですね」

 

 大抵の学校で言える事だけど、夜の学校には数名の夜間警備の人を除いて誰も居ない。

 え? 私はどうして居るのか? 時間外施設使用の申請をまとめて数ヶ月分出してあるのですね。

 月は毎日その姿を替え、私にその美を魅せてくれる。24時間ずっと夜ならその美しい姿をずっと眺めて居られるのに。

 

「それに比べて地上の醜さと言ったら、身震いがするのですね。

 特に今日のあの男、あんな落書きが美しいとか神経を疑いますわ」

 

 あんな無粋な輩の事など忘れて、ルナと、私の美しいお人形と一緒に月を楽しもう。

 

「ルナ、私はあなたと月を眺めているだけで幸せなのですね」

 

 そんな言葉を言った時だった。

 

ドクン

 

「……えっ?」

 

 何か妙な気配を感じた直後、目の前の望遠鏡が勝手に離れていく。

 それと同時に手元のルナがどんどんと大きく……いえ、これは……

 

「か、体が、小さくっ!?」

 

 望遠鏡も、ベンチも、敷物も、ルナも、何もかもが大きく見えるようになった世界で、月だけが何も変わらず私を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……翌日……

 

「か、神様! たたた大変です!! 月夜さんが! 月夜さんが!!」

「ちょっと待て、あと1ターンでセーブできる。

 ……よし。で、どうした?」

「大変なんですよ!! これを見て下さい!!」

 

 エルシィが差し出してきたのはどっかの部活だか同好会だかが発行した新聞のようだ。

 今回のタイトルは……『舞校ふしぎ新聞』か。

 一面に月夜の顔写真が載っており、『失踪』だとか『マリーセレスト号の再来』だとか書いてある。

 

「どどどどうしましょう!? 失踪なんてされちゃったら攻略なんてできませんよ!?」

「ったく、落ち着け。状況を少しずつ整理していくぞ」

 

 エルシィの持ってきた新聞には関係者からの証言もある程度纏められているようだ。

 

 要点をまとめると、月夜は昨日の夜に屋上を利用していたようだ。おそらく月を見る為だろう。

 少なくとも学校に入る所は警備員が目撃しており、記録も残っている。

 その後、巡回中の警備員が様子を見に行った所、望遠鏡や敷物、ティーセットはそのままに本人の姿だけが消えていたという。

 

 と言うことは、夜の時間帯に何かがあったと見るべきだろう。

 

 誘拐とかの線は考えにくいかな。現場に争った形跡は無かったみたいだし、この学園のセキリュティはそんなに甘くは無い。

 本人の意志による家出……でもないよな。わざわざ学校に来る意味が無いし、わざわざ見つからないように学校から出る意味も無い。

 

 と言うか、学校を出た記録が残ってないなら普通にまだ学校の中に居るんじゃないのか?

 それが見つからないって事は……駆け魂の影響、か。

 人の身体を入れ替えるような事もできるんだ。人を透明にするとか、そんな事も余裕でできるはずだ。

 

「……エルシィ」

「は、はいっ! 何でしょうか!」

「月夜はまだ学校の中に居る可能性が高い。駆け魂センサーとかで月夜を探せないか?」

「え? 学校の中? そんなの皆も調べてると思いますけど……いえいえ、神様の事だからきっと何かお考えがあるのですね!

 センサーですか? モチロン大丈夫です! 月夜さんの駆け魂のデータは既に登録済みなので、ある程度広範囲を調べられますよ!」

「ん、そんな機能があったのか」

「はい! と言っても、せいぜい1教室分を入り口から調べられるくらいですし、他の駆け魂は調べられないですけどね」

「じゅーぶんだ」

 

 と言うか、他の駆け魂を見つけないというのはメリットしか無いな。

 最悪の場合は同時攻略も覚悟していたが、問題なさそうだ。

 

「それで、どこから調べますか?」

「まずは屋上……いや、天文部の部室も候補になるか。

 近い方から調べよう」







 実際に24時間夜だったとしても月は公転してるから24時間は見れないのはきっと気のせい。

 原作で新聞を書いたのは『   リー 楽部』(一部が見切れて読めない)となっていました。
 ミステリー倶楽部、でしょうね。きっと。
 しっかし、夜に起こった事件を翌日の夕方までに関係者の証言を集めて新聞の発行まで済ませるというのはかなり有能なのではなかろうか?

 原作では駆け魂センサーで月夜さんをアッサリと発見してますが、一度発見した駆け魂とはいえあまりに広範囲を調べる事ができるとなるとハクアが駆け魂を取り逃して延々と探してた意味が無くなるので、『ある程度広がる』くらいに解釈しておきました。

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