月夜の捜索を始めた僕達はエルシィの案内でまず真っ先に天文部の部室へと向かった。
で、センサーを使ってみたんだが……
ドロドロドロドロ……
「……こ、この中みたいですね。ホントに居ましたよ」
「あっさりと見つかったな」
言うまでもなくこんな所は真っ先に調べられているだろう。それでも未だに見つかってないという事はやはり駆け魂絡みの何らかのトラブルに巻き込まれたのだろうか?
「とりあえず入ってみるか。
……鍵がかかってるな」
「お任せ下さい! こういう時の羽衣さんです!」
羽衣の先端が鍵の形状に変化する。
それを鍵穴に入れて回すとあっさりと鍵が開いた。
羽衣……ホント良く働いてるな。
「よし、開けるぞ。お前はここで待機」
「了解です!」
ノックしてから入るべきか一瞬迷ったが、何も知らない体でいきなり入った方が自然だろうと判断してそのまま突入する。
勢い良くドアを開け、中に入る。
するとそこには……月夜が居た。
彼女が抱えていた人形と同じくらいの大きさの、月夜が居た。
「えっ、あ、あなた、鍵は?」
なるほどな。これなら発見されないのも頷ける。発見されたとしても人形と間違えられたのかもしれない。
さて、ここで取るべきベストな行動は……
「お、おわぁああ! ひ、人が! 人が小さく!!」
「きゃぁああああああ!!!」
「お、おわぁ! おわぁあああ!!!」
「きゃああ! きゃああああ!!!」
「ひえぇぇええ!! お、お助けをぉぉおお!!」
「…………?」
「お、オラ夢を見てるだ!? なんまいだー、なんまいだー!」
「……フッ、騒ぐのは止めるのですね。こんな事で騒ぐなんてみっともないわ」
よし、ひとまずは成功したようだ。
こういうツンキャラは大抵の場合、他人に弱みを見せる事を極端に嫌う。
突然体が小さくなって混乱している彼女の事は見て見ぬふりをして、思いっきり慌ててやった方が良い結果に繋がるというわけだな。
「まるで色付き始めた秋のような色と香り。紅茶は相変わらず美味しいのですね。
もしかすると、この姿は夢が叶ったのかもしれない。ルナみたいになりたいって、ずっと思っていたもの」
完全に立てなおしたようだな。ひとまず序盤は彼女のサポートに徹するとしよう。
「あら、もう夕方。ルナ、月を見に行きましょう」
「え? まさか今から屋上に行くのか?」
「こんな事くらいで私の日課を止めるわけにはいかないのですね」
「おい、待て待て」
と、僕が制止する間も無く、机をよじ登って窓から外へと出ようとする。
しかし、自分と同じ大きさの人形を抱えてそんな事ができる訳も無く、転んで椅子の上に落ちてしまう。
ふかふかした高級な椅子だったからまだ良いが、固い椅子や床だったら大怪我になりかねないぞ。
「流石に無理だろ、その体じゃ。僕が連れてってやろうか?」
「冗談じゃない。人間の手など借りないのですね。
私が頼りにするのは、ルナだけなのですね」
そんな事を言っているが、屋上からこの部屋に来るだけでもかなり大変だったはずだ。
強情と言うか無謀と言うか……
「いや、やっぱりどう考えても無理だろう。
そもそも、夜と違ってまだ生徒が居るんだぞ? その姿が見つかったら騒ぎになるぞ」
「……あなた、さっきまでうろたえていたのに急に冷静になったわね」
「そんな事より、僕に良い案がある。誰にも騒がれないアイディアがな。
その人形、ルナだったか? そいつの服、他に無いか?」
僕のアイディアはシンプルだ。
月夜が人形と同じくらいの大きさになってしまったのなら、そのまま人形に見せかけてしまえば良い。
月夜に服を着替えてもらってグッタリとしててもらえば何も知らない人が見たら人形にしか見えない。
それを僕が抱えていけば万事解決というわけだ。
まぁ、そうすると人形を2体も抱えている僕自身が目立つというデメリットもあるが、そんな僕に話しかけてくるような物好きは……
「おっす桂木! って、何やってんの!?」
……居たよ、居やがったよ。空気を読まない
「……小阪ちひろ、何の用だ?」
「いや、特に用事は無いけどサ。どしたの? それ」
用が無いなら話しかけないで欲しいんだがな。一体何を考えているんだ、コイツは
「それって西洋人形だよね? ポルターガイストでも引き起こしそうな」
「……ポルターガイストだと? 貴様、この人形をバカにしているのか?」
「バカにしてるわけじゃないけど……」
「いいか? ポルターガイストとはドイツ語で騒がしい幽霊という意味であり、西洋人形との直接の関係性は一切無い。
また、西洋人形と一口に言っても多数の種類があり、その源流はルネサンス期の女性服展示用のマネキンのようなものだったとされている。当時は陶器で作られていたが、第一次世界大戦を境にその生産量は減少、第二次世界大戦以降はアメリカで合成樹脂による……」
「わーーー! もう分かった、分かったから! じゃあね!!」
僕の勢いに気圧されたのだろう。ちひろは一目散に去って行った。どうやら本当に用事は無かったらしいな。
「ふぅ、気を取り直して屋上に行くぞ」
「…………」
ポルターガイストや西洋人形(フランス人形)の知識はwikipediaとかからテキトーに拾ってきました。
何か間違いがあっても、よっぽど変な所じゃなければ生温かい目でスルーして頂けると助かります。
しっかし、こんな知識でも桂馬はちゃんと知ってるのだろうか? 普通に知っててそうでちょっと怖いです。