もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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05 閉ざされた世界

「とまぁ、ざっとこんな感じだな」

 

 夜、家に戻った僕達は3人でいつものように作戦会議を開く。

 なお、月夜は天文部の部室に置いてきた。一応、他に希望する住処が無いか尋ねてみたが、あそこが一番過ごしやすいらしい。

 とは言え、ただの部室に小人が住む用意があるわけも無いのでエルシィの羽衣で適当なドールハウスを作っておいた。

 

「『1人で居たい』っていう願望か。

 今回の駆け魂の影響は月夜さんのその願いを反映してるみたいだね」

「結の時だって本人の願望は現れていたな。やや遠回りではあったが。

 駆け魂の影響ってのはそういうもんなんだろう」

「今までも1人で居て、それでも心のスキマが出来ちゃったのならやっぱり私たちの介入が必要になるよね」

「そういう事になる。ただ……」

「……月夜さんを支援するとなると満足されちゃうよね。悪い意味で」

「そういう事だな」

「……あ、あの~……」

 

 かのんと議論していたらエルシィが口を挟んできた。

 

「ん? どうした?」

「私にはお二人が何をおっしゃっているのかサッパリ分からないんですけど……」

「ああ、だったら気にするな。お前は駆け魂を討伐する時までしょーぼーしゃの事でも考えてりゃいい」

「な、なるほど! わっかりました!!」

 

 僕としては助かるがそれでいいのか、駆け魂隊の悪魔。

 

「仲良くなる為には支援しないといけない。

 だけど支援すると心のスキマを守ってしまう。厄介なジレンマだね」

「だが支援すらしないのは論外だ。ひとまずは支援を続けて様子を見るしか無いだろう。

 問題の先送りと大して変わらんがな」

「頑張ってね。私もいつでも手伝う……って言いたいけど、今回は『恋愛』以上に適した手段は無いみたいだから多分何もできないよね」

「だろうな」

 

 恋愛を主軸に攻略する以上は他の女子は邪魔でしかない。

 裏方で働いてもらう事はできるが、そっちはエルシィ(羽衣)が居れば何とかなる。存在がバレても『妹だから』という魔法の一言を使えば恋愛による攻略の妨げになる事も無いしな。

 

 

 

 

 

  ……攻略2日目……

 

「おーい、起きてるかー?」

 

 まだ授業が始まる前の早朝の時間帯、月夜の様子を見る為に天文部の部室までやってきた。

 

「……またあなたなの」

「ずいぶんとご挨拶だな。調子はどうだ?」

「なぜ私に構うの? そんな事、誰も頼んでないのですね」

「そうは言っても放っとくわけにもいかんだろ。

 朝飯買ってきたぞ。テキトーに好きなの選んでくれ」

「……頂きます」

 

 他人を拒絶してはいるが、僕の助けが必要な事も十分理解はしてるんだろうな。

 そんな所にツッコミを入れても何の得にもならないから言わないが。

 

 

 

 

「ふぅ、ごちそうさまでした」

「ちゃんと足りたか」

 

 月夜は僕がコンビニで買ってきたサンドイッチの一部を千切り取って食べていた。

 小人という存在を生物学的に考えると色々と問題が発生しそうなものだが、少なくとも食事に関しては見た目通りの量で十分のようだ。

 他の諸問題は駆け魂の魔力で何とかしているのだろう。多分。

 

「ルナ、今日も一緒に月の観測に行きましょう」

「…………」

「…………」

「……じゃあまた僕が連れていこう。準備はできているか?」

「当然なのですね」

 

 自分で強引に移動しようとせずに僕のセリフを待つ辺り、攻略は一応進んではいるみたいだな。

 

 

 

 

 

 

 

 最初はどうなる事かと思ったけれど、小さい体の生活も悪くは無いのですね。

 家具も服も、ルナの為に用意した物がそのまま使える。

 食事も少なくて済み、移動も桂馬が運んでくれる。

 煩わしく醜いものの無い、完璧な世界なのですね。

 

「こういう体なら牛乳風呂も試せそうなのですね」

「どっかで聞いたことあるような風呂だな。

 確かに大した量も要らないだろうから今度持ってこよう」

「…………」

 

 お、お礼は言わないのですね。私は頼んでない。

 しかし、桂馬は一体何者なの?

 私の事を誰かに話すわけでもなく、ただ私の手助けをしてくれ……勝手にする。

 彼について分かっている事と言えば落書きを完全無欠だと言い張る壊滅的なセンスだけ。

 ……そんな事、どうでもいい事なのですね。私の世界には私とルナが居れば何も要らない。

 

「桂馬、今度はあっち」

「はいはいっと」

 

 この完璧な世界が、いつまでも続きますように。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女にとっての完璧な世界を作り上げてしまうと、彼女の心に介入する余地が無くなってしまう。

 仮に強引に踏み込もうとした場合、その世界に逃げ込んでしまうからだ。

 その世界を維持しているのが僕だと理解していても、こういうキャラは意地でも逃げ込み、僕の手が届かない所に行ってしまう。

 

 この現状を打破する手段は言葉にしてしまえば簡単だ。

 『完璧な世界を破綻させる』

 そうすれば月夜は危機感を感じ、僕が介入する余地が生まれる。

 だが、それが失敗した場合、月夜に僕の行為がバレた場合、どんな事になるかは言うまでも無いだろう。

 慎重に、かつ大胆に、計画を立てよう。


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