少し状況を整理してみようか。
いつものように1限目(英語)の授業が始まり、そして駆け魂センサーが鳴った。
センサーはそこまで動作が不安定な代物ではない(はず)だから、その時移動していた人物がセンサー圏内に入って来たのだろう。
急いで顔を上げて確認すると、例の教育実習生がエルシィの席の横を通って後ろの方の見学用の椅子に向かっている最中だった。
はぁ、本物の教師ではないとはいえ、教師属性持ちの攻略なんて勘弁してくれ。
「コラぁぁぁ!! ダレだ授業中にアラームを鳴らす奴は!!
ノーバディ・ハズ・テレフォン!!」
「えっ、あっ、ゴメンナサイ」
「せめて英語で謝れ! セイ、ソーリー!」
「そ、そーりー!」
「セイ! ヒゲソーリー!」
「ひ、ひげ? ソーリー……
あの、何の意味が?」
英語教師の児玉がうるさいな。やれやれ。
ゲームを始めようか。3面同時攻略だ。
「あっ、おい桂木! 何をしている!! 授業中にゲームするなと何度言えば……」
「? 今は授業してないでしょう?」
授業中でも関係ないが。
「ぐぬぬぬぬ……授業をコンティニューする! お前ら、テキストブックを開け!」
始まったか。2面攻略に切り替えよう。
流石の僕でも授業を聞きながらの3面同時攻略は少々疲れる。やってやれんことは無いが。
「よーし、トゥデイの授業はここまでだ!
ちゃんと復習しておけよお前ら!!」
児玉の授業は何の問題もなく終了した。
途中で質問を当てられた回数がやや多かった気がするがどうでもいい事だな。
そう言えば、例の教育実習生はどんな様子だろうか?
そう思って振り向いてみると、こちらに一直線に向かってきている所だった。
って、ヤバい! 方針もまとまらないうちから下手なイベントを起こすのはマズい!
だがしかし、この状況で逃げるのもどういう影響があるか……うぐぐぐぐっ!
しかし、助けは意外な所からやってきた。
「桂木! アンタやるじゃん!」
「っ!? なん、だと?」
僕のすぐ斜め後ろの席に座っていたちひろが教育実習生より先に僕に声をかけたのだ。
おそらく完全な偶然だが助かった。このままちひろと話を続ければ割り込んでくる事は無いだろう。
「小阪、どういう意味だ?」
「え? だって授業の最初の時にわざわざ目立つようにゲームしてたのってエリーを助ける為だよね?
いやー、桂木が人の心を失ってなくて良かったよ」
「僕は物の怪か何かなのか……?
と言うか、僕は児玉がうるさかったから授業に戻らせただけだ。決して他意は無い」
「またそんなコト言っちゃって~。
でも、その方がアンタらしいか」
どんなおめでたい思考回路をしてるんだコイツは。
いや、それよりここで話が打ち切られては困る。何とか話題を……
「あれ? 何の話をしてるんですかぁ?」
かのんナイスだ! 空気と状況を読んで会話に強引に入ってくるとは、エルシィだったら逆立ちしてもできない行動だ。
……いや、あいつなら天然で同じ事をやりかねないな。意図して行動したかのんの方が遥かに優秀なのは変わらんが。
「あ、エリー、今アンタのお兄様がツンデレだって話をしてたのよ」
「誰がツンデレだ!」
「え、違うの?」
「断じて違う! いいか、ツンデレというのはだな、」
「神様みたいな人のコトですよね~」
「お前もかぁあ!!!」
かのん、お前は味方なのか敵なのかどっちだ!!
……いや、会話で普通に時間を潰そうとしてるだけだから味方でいいのか。
いいんだよな? いいんだが……
「あ、そうだちひろさん、お兄様にバンドのメンバーの事話しました?」
「ん~? メンバー? 特に話してないけど」
「やっぱりそうでしたか~。メンバーも揃ってきて軌道に乗り始めたんだから、メンバー紹介くらいはしても良いんじゃないですか?」
「あ~、それもそうだね。よし桂木、とくと聞きなさい!!」
メンバー紹介ねぇ。あまり興味は無いが、時間は稼げそうだ。
「まずはこの私、小阪ちひろ! 担当はボーカル兼ギター!!」
「ほぅ? 主役じゃないか。凄いな」
「まあ、それほどでも……あるよ♪
では続いて、ベース担当、桂木エルシィ!!」
「はーい! ベースの担当です! ところでベースってどういう意味なんでしょうか……?」
「ああ、低音パートの弦楽器の総称らしいぞ」
「ほぇ~、そうだったんですか~」
「サラッと答える桂木スゲェ。
次っ、ギター担当! 舞高の非誘導陸上ミサイル! 高原歩美っ!!」
「なっ、何っ!?」
ちょ、ちょちょちょちょっと待て、歩美だと!?
歩美だよな? あの歩美だよな!?
「あれ? どうしたの桂木?」
「い、いや、何でもない。続けてくれ」
「うん。
ドラム担当っ! 五位堂結っ!!」
「ゲホッ! ゲホゲホッ!!」
ま、ままま待て!! 歩美はまだ同じクラスだから分かる。しかし結は一体どういう繋がりで引っ張ってきた!!
「いや~、ドラムが足りない~って愚痴こぼしてたらエルシィがどっかから連れてきてくれたんだよ。
元吹奏楽部らしいけど、色々あったらしくてね~。ウチらみたいな新興バンドに協力してくれてるの」
ギギギギ、と音を立てながらかのんの方に首を向ける。
かのんは首をぶんぶん振っている。それはもう必死に振っている。
という事は本物のエルシィの仕業か。あいつ、いつか倒す。
「んじゃ、次いくよ~」
「ま、待て! お前のバンドは一体何人なんだ!? まさか7人とか言わないだろうな!?」
かのんと他校生は流石に除外するとして、残りは麻美、栞、月夜だが……
「え? 後1人だけど?」
良かった、流石に攻略ヒロイン全集合とかは無かったわけだ。
しかし、誰だ……?
「キーボード担当!
「…………誰だ?」
「反応薄っ!」
誰だかはよく分からんが、攻略ヒロインでないことは確かだ。
……確かだよな?
かのんの方に視線を向けると僕を安心させるかのように深く頷いた後、言葉を続けた。
「神様、京さんはうちのクラスの人ですよ~」
「……なるほど、分かった」
うちのクラスなら少なくとも今現在駆け魂が居るという事は無いだろう。
寺田京……そう言えばうちのクラスに居たか。よく考えたら歩美の攻略の時にその名前を見た覚えがある。
確か陸上部員だが、それだけではなく何でもできそうな感じの優等生だ。
キーボードまでできたのか。あいつ。
しかしなんつう過密具合だ。バンドメンバー5人中完全な一般人は1人しか居ないぞ。
残り4名のうち3名は駆け魂が憑依していたヒロインだし、エルシィに至っては(一応)悪魔だ。悪魔っぽくないが。
う~む、駆け魂持ちが2人集まるくらいならまだ『偶然』の一言で納得できるんだが、3人も集まるってのはどうなんだ?
いや、集めたのはエルシィか。あいつが帰ってきたらはっ倒そう。
児玉「せーめて英語で謝れ!! セイソーリー!!」
エル「そ、そ~り~」
児玉「セイ!! ヒゲソ~リ~~」
エル「ひげそ~り~~」
児玉「セイ!! ゾウリムシ~~」
エル「ぞうりむし~~」
(原作5巻より抜粋)
……児玉先生のキャラの本質が分からないっ! お茶目過ぎるよ! この場面の児玉先生!!
他の所では大抵は性格が悪いだけのキャラなのに、何故ここだけ……
ちひろがいつの間にかバンドメンバー5人を集めていますが、この辺の話は天理編の前の期末テスト編、その更に前にちひろが主人公の回想回を設ける予定です。
本当はその時までメンバーは隠しておこうと思っていたんですが、丁度いい話題だったので書いてみました。