もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

136 / 343
05 聞き込み調査

「……レアなエルシィさんの出番だね」

「こういう時に限って居ないんだなあいつ」

 

 長瀬先生の『過去』の調査と、クラスでの評判とかの調査。

 本命である1人の人間をピンポイントで狙った調査ならともかく、集団からの情報収集、教師や生徒たちから浅く広く聞き込みをする事は私たち3人の中ではエルシィさんが一番上手いだろう。

 私だとまともに調査しようとすると凄く目立つし、エルシィさんの姿を借りるとボロが出ないようにする為に制限がかかる。

 桂馬くんは……人から聞き出す事はほぼ不可能だね。クラス中の会話を拾うなら簡単だけど。

 

「と言うか、よくこれだけの会話でそこまでの仮説を立てられたね」

「何となくそんな気がしただけだ。まだ確定じゃないからな?」

「勿論分かってるよ」

 

 長瀬先生は舞島学園の卒業生、それもまだ3年半ほど前に卒業したばかりだ。

 その時の事くらいはその時に学校に居た先生に話を聞けば容易に調べられる。

 その上、私たちの担任である二階堂先生は長瀬先生の1つ上の先輩だ。間違いなく情報が得られるはずだ。

 ……あくまで『高校時代の』情報に限るけどね。

 

「中川、明日は頼んだぞ」

「うん、任せて」

 

 

 

 

 

 

「お前が私の所に来るとはな、何の用だ?」

 

 お、おかしいな。言葉自体はそこまで不自然じゃないけど何か雰囲気に刺を感じる。

 エルシィさんは桂馬くんと違って二階堂先生の逆鱗に触れるような事はしてないはずなんだけど……

 

「どうした黙り込んで」

「あ、いえ、なんでもないです!

 それで、え~っとですね……」

 

 どうしようかな? 単純に私とは関係なくたまたま不機嫌だとかであれば出直した方が良いかもしれない。

 けど、エルシィさんが何かやらかしてる可能性も十分にある。

 

「……あいつに伝えろ。ゲーム機を返してほしければ妹に頼まずに自分で来いと」

「え?」

「ん? 違うのか? てっきりあいつに頼まれたのかと思ったが?」

「いえ、全然違います。お兄様とは関係ないですよ~」

「……お兄様、ねぇ」

 

 二階堂先生は深い溜息を吐いた後、刺々しい雰囲気を収めてくれた。

 桂馬くんの使いだと思われてたからだったみたいだね。

 

「で、結局何の用だ?」

「あ、はい! 長瀬先生の事を教えてほしいんです!」

「あいつの? 本人に訊けばいいだろう」

「いえいえ、二階堂先生は高校時代も長瀬先生の先輩だったそうじゃないですか!

 だから、その時の事を客観的に教えて頂きたいな~って」

「……そんな事を知ってどうするつもりだ?」

「いけませんか?」

「そういうわけではないが……私とあいつは2年間一緒だった。漠然と語ってくれと言われても昼休みの時間ではとてもじゃないが足りないぞ?」

「…………」

 

 誤魔化されてるみたいだね。話したくないって事は桂馬くんの推理は当たってたのかな?

 ところで、今の会話で気になる所があった。『2年間一緒』って所。

 確かに長瀬先生は二階堂先生の1つ下の後輩だから同じ高校に2年間通ってたのは分かる。けど、学年が違ったら交流は殆ど無いはずだ。

 それにも関わらず仲が良さそうな理由、良く考えたら話を聞く前でも思い当たることができてたかもしれない。

 

「……部活」

「っ!?」

「長瀬先生の、当時所属していた部活を教えていただけませんか?」

 

 二階堂先生が沈黙する。どうやら当たってたみたいだ。

 

「…………はぁ、桂木妹にしては鋭すぎるぞ」

「そうでしたか? まあそういう日もありますよ。きっと」

「……女バス」

「?」

「女子バスケ部だ。後は自分で調べろ」

 

 それだけ言うと二階堂先生は机に向き直り、小テストの採点を始めた。

 どうやらこれ以上話すつもりは無いみたいだ。

 

「ありがとうございました。それでは失礼します」

 

 必要な情報は得られた。桂馬くんに報告だ。

 

 

 

 

 

 

 

  ~~一方その頃 2-B教室~~

 

 

「いや~、昨日長瀬センセーと電話で話しちゃったよ。

 悩んでるフリしたら一発でサ」

「ん? お前も? 俺も電話貰ったぞ」

「うぇ? おっかしいな。割と長い時間話してたと思ったんだけど」

 

「長瀬先生と言えば、昨日体力に自身無いって言ったらジョギングに誘われちゃったよ。

 流石に断ったけど」

「いかのんも誘われたの? 私も誘われたよ~」

「え、マッピーも? で、どうしたの?」

「私も断った。流石にちょっとねぇ」

「良かった~、私だけ断ってたらどうしようと思ったよ」

 

 

 ゲームプレイを1台に減らして余った処理能力で会話を拾ってみているが、意外と色んな情報が入ってくるな。

 僕自身は会話に入ってないので話の流れを誘導する事は不可能だが、現在の環境ではそんな必要はなかったみたいだ。

 まったく、人と話していて何が楽しいのやら。そんな時間があるなら皆ゲームしたほうが人生の役に立つだろうに。

 

 

「すっげーな長瀬先生、1人でほぼ全員の面倒見てるのかよ」

「いわゆる熱血教師ってやつ?」

「ドラマみたいだよね~。ホント熱い」

「う~ん、熱すぎるくらいだよ」

 

 

 熱血教師、ねぇ。

 台本が用意された予定調和の物語の登場人物としてなら人気キャラになれるんだろうが……

 現実から逃げたがっているのは、現実に苦しめられてるのは案外アンタの方なんじゃないか?







 モブ解説
・いかのん
 原作で度々出てくるモブキャラ『怒野(いかの)モブ子』さんの事。
 原作中でこんな愛称で呼ばれる場面は存在しないが、流石にモブ子と呼ばせるのはどうかと思うのでこんな呼び方をしてみました。

・マッピー
 原作2巻と17巻4コマでそれぞれ1度ずつだけ出てくるモブの事。
 その正体は若木先生の神のみより一つ前の連載作品『聖結晶アルバトロス』に出てくるモブ。
 モノバイル達の陰謀渦巻く木梢町から生還してきた彼女は舞島の街で一体何を求めるのか、それは原作が終わった現在でも未だに明かされる事は無い。

 ……まぁ、単に名前が付いたモブを神のみでも使いまわしただけだから目的なんてあるわけがないが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。