もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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前回は内容が薄かったせいか感想が1件も来なかったぜ!
まぁ、普通に1件も来ない事はそこそこあるんですけどね。
う~ん、2話投稿するか結合させるべきでしたね。ちょっと反省です。




08 功労者

 そして、今度こそ週末。

 私たちは長い列に並んでいた。

 

「プロレスかぁ……桂馬くんはプロレスを見たことは……無いよね」

「当然だ。ゲームでもプロレスを題材にしたギャルゲーはあまり見ないな」

「じゃあこういう場所って桂馬くんも初めてなの?」

「そうだな……こういうスタジアム的な場所で観客に混じって騒ぐのは初めてだ。

 って言うか、お前こそ経験無いのか?」

「私がプロレスの? 全然無いよ」

「いや、そういう事じゃなくて、他のアイドルのライブを見たりとか無かったのか?」

「う~ん…………全然無いね。ステージの上に立つ事や裏の方から見る事ならよくあるけど」

「……そうか」

 

 

 

 それから少しずつ列が進み、会場内へと案内された。

 会場に入ってまず感じたこと、それは……

 

「……こんな所でも流れてるのか、お前の歌」

「み、みたいだね」

 

 何故、プロレスの会場で私の歌が流れてるんだろう……

 プロレスなんだから、格闘技なんだからもっとそれっぽいチョイスがあるんじゃないかな?

 

 ……さて、気を取り直して……

 私たちが取れた席はかなり後ろの方で、更に上下で繋がっているという。

 もっと上手く取れてればなぁ……折角一緒なのだからできるなら隣り同士の席がいい。

 ……あ、そうだ。

 

「すいませーん」

 

 私たちが取った席のうち後ろの席、その隣の席に座ってる人に話しかける。

 

「ん? 嬢ちゃんどうした?」

「できれば、席を交換していただけないかなと。お従兄(にい)ちゃんと隣り同士で見たかったんですけど、ちょっと予約に失敗しちゃいまして」

「あ~、なるほど。そこの席か。そんくらいなら構わんよ」

「ありがとうございます!」

 

 席は一列だけ後ろになってしまったけど、どうせ遠いのだから些細な問題だ。

 桂馬くんと隣同士の席に座る。

 

「席の管理、割と雑と言うか大雑把だな」

「前の方の席だったらこうはいかないだろうけどね」

「客同士のチケットのやりとりはトラブルの種になるからな。

 ところで、『おにいちゃん』って何だ」

「え? 桂馬くんの方が年上だと思ったけど……」

「いや、確かにそうなんだが、そこじゃなくてだな」

「『西原まろん』と桂馬くんとの関係性はイトコだから、分かりやすく呼ぶならお従兄ちゃんかなって」

「……そうか、今のお前ってそっちの姿だったな」

「うん、エルシィさんは用事があって来れない事になってるからね」

「僕から見たら全く変わってないからややこしいな」

「そうだね……たまに自分でも分からなくなる事があるよ」

 

 『ちゃんと錯覚魔法で見える手鏡』とか『錯覚魔法で見える虫眼鏡』とかあった方が便利かもしれない。

 今度エルシィさんに……ドクロウ室長に相談してみよう。

 

 

 

 しばらく雑談していると突然照明が落とされ、中央のリングがスポットライトに照らされた。

 

『皆さん長らくお待たせ致しました!

 間もなく、プロレスリング・ノナ タッグカーニバルトーナメント ファイナルを開催致します!!』

 

 始まるみたいだ。

 体育館の出入り口のうち2箇所が再び照らされ、そこから2人ずつのがっしりした体格の男の人達が現れる。

 片方の2人組はほぼ全裸にズボンやパンツだけ履いているシンプルな格好。

 もう片方はそれに加えてボディペイントに覆面……いや、覆面じゃなくてアレも顔に塗っただけのペイントだね。遠くて分かり辛いけど。

 二組のタッグがリングに上がり、互いに固い握手を……固すぎる握手を交わす。歯を食いしばっているようなので相当力を入れて握手しているようだ。これもパフォーマンスの一環なのだろうか?

 

 リング脇に備え付けられたベルがカーンと鳴らされて試合がスタートした。

 『タッグマッチ』と言っても同時に2人ずつの合計4人が入り乱れて戦うわけじゃなくて、1対1での戦いだ。おそらく、試合中に必要に応じて交代するんだろう。多分。

 

 プロレスのルールはあまり詳しくないけど、禁則事項みたいなのはあるんだろうな。拳で殴ったり、足で蹴飛ばしたりといった行為は見られず主に投げ技や関節技が使われてる。

 あ、技が決まった。腰に抱きつかれた状態で後ろに投げ飛ばして床に叩きつけて……うわぁ、痛そう。

 

「オオオォォォーー!!!」

 

『オーーーー!!!』

 

 技を決めた人(例のジャンボ鶴間の後継者さん)が雄叫びを上げる。

 すると、観客の人たちもそれに続くように声を上げた。

 

「……客たちまで声を上げるのか。単なる歓声の声じゃなくて示し合わせたセリフだよな?」

「ちょっと驚いたけど、よく考えたら私も似たような事はさせてるかな。

 ステージで歌ってる時に歌詞の最後の部分を言う前にお客さんたちの方にマイクを向けるとちゃんとその部分を歌ってくれるよ」

「そうか……こういう場では客たちすらも協力をする。

 と言うより、舞台の上の演者が客すらも引き込んで一つの劇に仕立て上げるのか」

「う~ん、そういう見方もできるかもね。私は『協力してもらってる』っていう意識でやってるけど」

「だとしても、客に協力させられるのは、協力しようという気持ちにさせるのはお前の実力のおかげだろう」

「……ありがと」

 

 

 こうして、プロレスの試合を見ていた私たちだけど何故か『大舞台での主催者側とお客さん達の関係』に関する議論に発展し、気付いたら試合が終わっていた。

 私も桂馬くんもプロレス自体に興味があったんじゃなくて、長瀬先生が好きなものに興味があっただけだから仕方ないと言えば仕方ないかな。

 なお、その議論は最終的には『演者とお客さんが息を合わせられるタイミングの作り方が重要。なので、事前の根回しをするマーケティングをする人や舞台上でタイミングを作る段取りの設計者が功労者である』という結論に一応達した。その人たちに同じ質問をしたらまた答えが変わりそうだけどね。

 関係者の皆にはいつも感謝してるけど、次会った時はもっと感謝しておこう。







 今回の話、と言うより今章の話を執筆するに当たって情報を得る為にアニメ2期の長瀬編を何度か見直しましたが、マジでプロレス会場にかのんちゃんの歌(ハッピークレセント)が流れているという。
 流石に試合開始前に止まってましたが、もっとプロレスっぽい選曲は無かったんでしょうかね? いやまぁ、『らぶこーる』とかを流されるよりはマシでしょうけど。

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