「とうとう私の出番ですね!! 真の地獄から生きて帰ってきた私に死角はありません!!!」
「あー。よろしくたのむぞー」
月曜日。
『真の地獄から生還してきた』などとのたまうエルシィとともに学校に行く。かのんも透明化の羽衣を分けてもらって着いて来ているはずだ。
悪魔が地獄から生還してきた所で何の自慢にもならない気がするが、エルシィだから仕方ないな。
念のため言っておくと、エルシィが行ってたのは『アイドルとしての特訓』である。異世界的な意味での地獄では断じて無い。
「昨日の時点で中川から聞いてるかもしれないが、攻略はもう9割方終わってる。
後は僕が指示したタイミングでこの紙に書いた通りに行動してくれ」
「りょーかいです! この生まれ変わった私のデキる悪魔っぷりを見せつけてさしあげましょう!!」
このポンコツっぽさはかのんのマネージャーですら矯正はできなかったようだな。
エルシィにはいつも通りに働いてもらおう。
朝のホームルームの時間、純はクラスの皆に対して一つの提案……いや、宣言を行った。
「ちょっ、先生本気!?」
「うん、勿論!
今度開かれる舞島マラソン、皆で参加しましょう!!」
これだけなら、ただの提案で済む。
こういうのに興味がある人が……例えば歩美とか? だけが参加するかもしれないだけだ。
だが、それだけで済むほど奴は大人しい性格じゃない。
「もう皆の分も申し込んでおいたからね♪」
「ちょ、待てい!!」
「強制かよ!!!」
本当に参加したい人にとっては手間が省けてありがたいんだろうが、マラソンなんて好き好んでやる奴は少数派だ。
当然、殆どの生徒から反発を喰らう。
「わ~、神様! ひやしあめ飲み放題って書いてありますよ! 何か美味しそうですね!!」
……殆どの、生徒から、な。
悪魔の身体能力ならマラソンなんて楽勝だったりするのかもしれないが、余計な事は言わないで欲しい。
「せ、センセー、もういいって」
「フツーでいいじゃん、フツーでさ」
「そういうドラマみたいなの、そろそろ、重いよ」
集団っていうのは残酷なもので、誰か1人が不満を漏らすとそれに便乗して全員が不満を漏らす。
この中には自分から純に相談を持ちかけた奴だって居るだろうに、酷い手のひら返しだ。
「最初は良かったけど、しょっちゅう電話とかされてもねぇ」
「こっちも予定とかあるし……」
純の方にも問題はある。だけど、こういう集団の方にもある程度問題はあるんだろうな。
ま、僕が解決するのは純の方だけで十分だがな。
「みんな、勝手だよ。勝手過ぎるよ!!」
打ちのめされた純はそれだけ言い放って教室から走り去って行った。
教室に残された連中は何が起こったのか分からずポカンとしている。
「何だアレ。何で俺たちが怒られるんだ?」
「何か……結構アブない先生だったんだな」
「まあでも、まだ実習中で良かったね。本当の先生になってもやられたら堪ったもんじゃないよ」
確かに、実に勝手な連中だ。
純を見て、『可愛い若年女性教師』という見た目の印象で勝手に判断し、『悪い意味でドラマチックな熱血教師』だと分かると勝手に文句を言う。
純みたいな考え方はこういう連中に淘汰されていくものだが、そういう意味では純はよく頑張っているよ。
「まったく、長瀬もよくやるよな。
お前らみたいなバグだらけの連中、何しても無駄なのにサ」
その点だけは、攻略とは関係無しに心から同意してやろう。
「あン? 何だオタメガ!? 今なんつった!!」
「エラソーな事言えんのか! このクレイジーゲーマーが!!」
「事実を言っただけだ。お前らの相手をするくらいなら無限ループのバグゲーをやってた方がまだ楽だっていう話だよっと」
ノートを破いて作った紙ヒコーキを明後日の方向に放り投げる。
そうやって視線を誘導した隙を突いて教室から抜けだした。
「あれっ、どこに行きやがった!! 捜せ!!」
「いや、放っとこうよ。べつにいいでしょ」
そんな教室から聞こえる声を背に純の向かった先へと向かう。
恐らくは……女バスの部室跡だろう。
う~ん、若干短いですが、次回がそれ以上に長いのでこれで勘弁して下さい。
ふと疑問に思いましたが、悪魔の身体能力ってどのくらいなんでしょうね?
腕力とかは人間並な気がしますが、体力は未知数だと思います。新悪魔の方々が息切れする描写はほぼ無いので。
原作では羽衣人形による身代わりの術で教室を脱出しますが、本作では視線誘導を使ってみました。
本作では今のところ羽衣人形は使ってないので。
特に『使えない』という設定があるわけではないんですが、せっかくだから縛ってみてます。
作中で使わない合理的な理由としては『桂馬が存在を知らないから』という事で。
……まぁ、必要になったら解禁するでしょうけど。