もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

144 / 343
神の休日、姫の平日
前編


 純の攻略を終えた次の週末。僕は1人で電車に乗っていた。

 目的地は舞島市の隣の鳴沢市、その目的は2つ。

 1つはゲームショップを巡って掘り出し物が入荷していないかを探る事だ。流石の僕でも入手ができなかった過去に少数だけ販売された隠れた名作や、販売数が限定されすぎていた代物などがたまに紛れ込んでいる事があるからな。こういう定期的なチェックは欠かせない。

 もう1つは……まあ、あくまでついでだが、かのんのコンサートを見に行く事だ。かなり見通しが悪いが、それ故に売れ残って席があったのでPFPからネットに繋いで購入しておいた。この前のプロレスの時みたいに場の雰囲気を感じ取るだけならこんな席でも十分だろう。

 

 コンサートが開かれるのは夕方頃だが、現在時刻は9時過ぎだ。のんびりとショップを見て回ろう。

 

 

 

 

 

 と、思っていたのだが……

 

 

「あ、かのんちゃんだ!」

「こんな所でイベントやってたのか! よし、俺も並ぼう!」

 

 

 どういうわけか、いきなりかのんと遭遇してしまった。どうやらサイン入りCDの配布と握手会のようだな。

 僕が最初に来た店はゲーム専門店ではなく音楽CDなども売っている店だからそういうイベントが開催されていても不思議ではないんだが……何でよりによって今日やってるかな。

 ……よく考えたら、夕方頃に鳴沢市で仕事があるんだから移動ロスを少なくしようとしたら必然的にこっち方面での仕事になるか。

 しかしどうしたものか。かのんは店の入り口近くでイベントをやっている。裏口は当然存在するだろうが、おそらく従業員用だろう。

 仕方ない。正面からササッと入ってしまおう。入ってしまえば気付かれる事はあるまい。

 いざ!

 

「ん?」

 

 慌てて物陰に飛び込む。

 かのんの奴、僕が飛び出そうとした瞬間にこっちを見たぞ。

 まさか僕が居る事がバレた……いや、流石に一瞬チラリと見えたか見えないかのタイミングだった。恐らくは大丈夫だろう。

 だが、また飛び出したら今度こそ見つかる。何故だかそんな気がした。

 ……この店は今日はいいか。元々専門店ではないのであまり期待はしていなかった。飛ばしても問題ないだろう。

 次の店へと向かおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ、フハハハハ!! 今日はなんて良い日なんだ!!」

 

 次に向かったゲームの専門店、そこでは素晴らしい出会いがあった。

 かつて、ヒロインの1人に問題があるとされて発売日当日に回収騒ぎに遭い、後に出された修正版ではそのヒロインは削除されていたというゲーム『らぶ・てぃあ~ず』。その修正を免れた初回版(特典CD付き)が今この僕の手に!!

 そして……ワゴンセールの一番下、そこに隠されていたのは古き時代の隠れた名作……『西恩灯籠』!! この世のものとは思えないような体験ができると噂され、すぐに回収され処分されたと言われていた曰く付きの逸品、そのオリジナルロットが、今僕の目の前にある!

 ゆっくりと、噛み締めるように、僕はそのパッケージを手に取り……

 

 

「こんにちはー!」

「いらっしゃいませーって、かのんちゃん!?」

 

 ちょっ、おいっ!? どうしてここに居るんだ!?

 また物陰へと飛び込む。

 あ、しまった。『西恩灯籠』を回収し損ねた。しかし、また取りに行こうとすると見つかりかねない。

 まぁ、あのゲームのパッケージはギャルゲーにしてはかなり不気味だし、そうそう持っていく奴など居るまい。後でまた回収すれば……

 

 

「ん? コレだ。気に入った」

「えっ、そんな不気味なのを買うんですか……?」

「おいおい、見た目で物事を判断してはいけないぞ?」

「そうかもしれませんけどねぇ……」

「ククク、僕の直感は外れたことが無いんだ。レジに行くぞ姫っち」

「ああもう、後悔しても知りませんよ?」

 

 

 僕が後悔してるよ!!

 今からでも所有権を主張するか? いや、流石にマナー違反だろう。断腸の思いで引き下がるとする。せめてしっかりと愛のある攻略がされる事を祈ろう。

 

 で、僕が隠れる原因となったかのんは一体何をしにこんな所に来たんだ?

 

「店長さん、今日は宜しくお願いしますね」

「いえ、こちらこそ。

 しかし驚きましたよ。あのかのんちゃんが音ゲー、リズムゲームまでできるとは……」

「音楽に関わるゲームなので。

 とは言っても、ソフトは少ししか知らないので今日は色々と教えていただけると有難いです」

 

 音ゲーの宣伝番組か何かの収録か? かのんの音ゲーの種類とか歴史とかに対する知識はともかく、実力はかなりの物になっているから確かに適任なのかもしれない。

 しかしよりにもよって今日じゃなくても良かっただろ。

 まあいい、さっさと脱出をしよう。

 …………いや、違う。『西恩灯籠』は逃したが『らぶ・てぃあ~ず 初回版(特典CD付き)』までも逃すわけにはいかない!

 僕の手元にあるパッケージはまだ会計を済ませていないのでレジを通す必要がある。しかしそのレジの側にはかのんが居る。

 ここで顔を見せるわけには行かない以上、かのんがレジの前から移動する瞬間を見計らい……

 ……いや、無理。これはゲームじゃないんだ。かのんがゲームのように固定ルーチンで動くわけもなく、こちらはコンティニューも不可能だ。

 あいつがレジ近くから離れる『瞬間』はあるだろう。しかし会計を済ませるのにかなり急いでもらってもレジへの移動と出口までの脱出込みで30秒はかかる。

 その間にかのんが戻ってきたらアウトだ。

 

 となると、ここでの収録を完全に切り上げて帰るのを待つしか無いな。

 一体何分……いや、何時間かかるんだ? ゲームして待つか……







 Q、西恩灯籠って何?

 A、小説版2巻で出てきた曰く付きのゲーム。
   簡単に言うと、ホラーゲームの中に出てきそうな感じのゲーム。一応ギャルゲーらしい。
   一般人に渡ると冗談抜きで死人が出るが、どっかの異世界の逸般人が購入していったのでもーまんたい。

 誰が『西恩灯籠』をかっさらっていくのかは少々悩みました。全力で遊べそうな所だったので(笑)
 候補としては某許嫁系理論派メイドとか、某哲学するねじの人とか。(それぞれ若木先生の作品の登場人物です)
 ただ、戦闘力に不安があったので没に。完璧で洒落なメイドの人とか学校生活な感じの人とか、木葉にて最強な感じの人とか混沌より這い寄る過負荷の人とかなら余裕で処理できそうなんですけどね~。
 ……え? 結局誰が買ったのかって? 分からないなら気にしないでください。ただの身内ネタなので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。