もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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中編

「おうお前ら! 準備はいいか!」

「いえ~い!!」

「お~!!」

「テンション高いなぁ……」

 

 私たちのバンドが結成されて数日が経過した。

 もちろん、活動の方も絶好調!!

 

 

 

 ……とは、言い難かった。

 

「よし、これで録音できたはずだよ」

「マジか! でかした京!! 後で肉まん奢るぜ!」

「いや、そんな大したことしてないけど……」

 

 いやね、活動自体は割とノリノリで楽しくやってるんよ。

 でも、問題もあったんだ。

 

「よし、それじゃあスイッチオン!!」

 

 

ボェ~ ホゲェ~

ギョギョギョ

ア~ア~

 

 

「「「「…………」」」」

 

 自分で音を鳴らしているとき、その音がどれだけ下手かは気付けないらしい。

 また新しい世界の真理を悟ってしまった……知りたくなかったけど。

 

「こ、この録音機器壊れてるな!」

「いや、それ買ったばっかりの新品……」

「そ、そんな不良品を掴ませるなんてヒドい店だね!!」

「……あ、あれ? 私の楽器の音、入ってないような……」

「? もしかして、シールド繋ぎ忘れた?」

「しーる? どこかにシールが貼ってあるんですか?」

 

 

 こんな感じで、結構グダグダだ。

 音楽の素人が集まったんだからしょうがない部分もあるんだろうけど、流石にちょっとマズいんじゃなかろうか?

 しかも、ドラム居ないし。

 

 

「う~ん、どこかに音楽にある程度詳しくてドラムの経験豊富で私たちに協力してくれるような部活にも入ってない暇人って居ないかなぁ」

「ちひろ~、そんなの居る訳ないでしょ~」

「流石に部活に入らずに暇してる人なんてねぇ」

「だよね~。言ってみただけで……」

 

「……あ!!」

 

 その時、エリーが閃いた。

 

「い、居ます! 居ますよ! ドラムができて部活にも入ってなさそうな暇人の人が!!」

「えっ、マジで!?」

「はいっ!」

「本当にそんな都合の良い人が……? で、どんな人なの?」

「ちょっと待ってくださいね。えっと……」

 

 エリーはどこからかタブレットを取り出して何かを調べ始めた。

 

「ご…い…ど…う……あった、ありました!

 五位堂結、2ーA

 身長160cm、体重50kg、血液型AB型、誕生日は10月10日。

 以上です!!」

「ちょっと待てい!! 何でそんな詳しい体格まで知ってるの!?」

「え? ああ、いつものノリで……すいません」

「あ~……まあいいや。続きお願い」

 

 色々とツッコミたい所はあるけど、エリーがツッコミ所だらけなのは今更だ。軽く流して続きを促す。

 

「はい! この結さんは元吹奏楽部で打楽器の担当だったのですが、色々とあって吹奏楽部を辞めてしまったんです」

「色々ねぇ……止めちゃったような人がウチらみたいなのに協力してくれんの?」

「多分大丈夫です。音楽自体はやりたがってましたし」

「ん~……とりあえず明日にでも会ってみようか」

 

 

 

 

 

 というわけで翌日の昼休み

 

「たのもー!」

 

 隣にある2-Aの教室に殴り込み……じゃなくて普通に訪ねた。

 流石にバンドメンバー全員で行くと狭くなりそうなので私と、あと五位堂さんの顔を知っているエリーだけだ。

 

「エリー、例の人物はどいつだ?」

「え~っと、あの人です!」

 

 エリーが指差したのは窓際の席に座っている女子生徒だった。

 黒髪ロングで頭の後ろに大きめのリボンをつけて軽くまとめているみたいだ。

 ところで……気のせいかもしれんけど……

 

「え、エリー、何か凄く良い所のお嬢様っぽい雰囲気があるんだけど……」

「え? 私がですか? いや~照れちゃうな~」

「違うよ! 五位堂さんの事だよ!!」

「え? そりゃそうですよ。良い所のお嬢様ですから」

 

 それを先に言えよっ!

 って言いたい所だけど、音楽には関係無い……はず。

 と、とにかく話しかけてみよう。

 

「あの~、五位堂さん……ですよね?」

「あら? 私に何か御用ですか?」

 

 すげー、『わたし』じゃなくて『わたくし』という一人称を使ってる事に格の違いを感じる。

 いや、こんな事で怯んじゃダメだ。ドラマーを確保するのだ、小阪ちひろ!

 

「あの、えっと……ドラムが上手いって聞いたんですけど……もしよかったらウチらのバンドで一緒に活動してもらえないかな~なんて」

「バンド、ですか?」

 

 目の前のお嬢様の目つきが変わった気がした。

 音楽関係に興味があるというエリーからの情報は間違っていなかったようだ。

 

「そそ。ウチらのバンド、今ドラムが欠けててさ。いい人が居ないかなって」

「ふむ……それでしたら、一つだけ注文させて頂けないでしょうか?」

「な、何?」

「貴女方の生の演奏を一度で良いので見させていただきたいのです。その様子を見て参加するか決めさせて頂きます」

「むぐっ……」

 

 い、今の私たちの演奏なんて人様にお聴かせできるような代物じゃあない……

 かと言って、ここで断るわけにもいかないし……

 

「わ、分かった。いいよ。

 但し、準備とかがあるから1週間後で良い?」

「ええ。宜しくお願いしますね」

 

 とりあえず、自然な流れで1週間の時間を貰った。

 ……特訓するか。そうしよう。







 男装女子なんて居るわけ無いじゃないですか。ファンタジーやメルヘンじゃああるまいし。

 と言う訳で、結(お嬢様var)の登場です。
 駆け魂のレベルが低い上に恋愛とはやや離れた手法による攻略だったので原作のあの状態まで持っていくのは少々やりすぎだと判断してこうなりました。
 その結果、結の属性が一つ消し飛びましたが……『大和撫子なお嬢様』っていうだけでも十分個性的なので大丈夫でしょう。きっと。
 ……え? お嬢様ならもう1人居る? あっちは『没落令嬢』なのであんまり被らないでしょう。きっと。

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