もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 連絡手順

 桂木を呼ぶ。

 そんな私の案に対する皆の反応は様々だった。

 

「ええっ、桂木を呼ぶの!? あの桂木を!?」

 

 まず強く反発したのが歩美。

 陸上部のスピード狂である彼女にとってインドア派のオタクゲーマーとは相性が悪いんだろう。

 

「凄い良い案だと思いますよ!! 神様ならきっと何とかしてくれます!!」

 

 逆に強く賛成の意を示したのはエリー。

 気のせいかもしれないけど『何とかしてくれます』って発言が何でもかんでも桂木に厄介事を度々押しつけているように聞こえた気がした。

 もしそうだとしたらこのアホっ娘の尻拭いをしている桂木が不憫でならない。

 

「桂木、かぁ。

 確かにいつも授業すら聞かずに100点取ってるのはどうやってるのかなって思ってたけど……

 この際に聞いてみたい気もするね」

 

 京は消極的肯定……かな?

 

「桂木さん? どなたですか?」

 

 結はそもそも知らなかったみたいだ。

 隣のクラスだし、私みたいな情報通でもないから『色んな意味で凄いゲーマーが居る』事くらいは知っててもその名前までは知らなくても不思議じゃない。

 

「どんな奴かは呼べば分かるよ」

「えっ、ホントに呼ぶの!?」

「歩美……その成績をどうにかするには悪魔に魂を売り渡すくらいしなきゃダメだよ」

「怖いよ! って言うか桂木は悪魔なの!?」

「いえ、そもそも悪魔は魂の売り買いなんてしませんよ!」

 

 エリーの電波な発言はいつものようにスルーして話を続ける。

 

「私も桂木が悪魔だなんて思ってないけど……手段を選んでる場合じゃないってコトだよ」

「うぐぐぐぐ……わ、分かった。呼んでみよう」

 

 これで全員の同意が(一応)取れた。後は呼ぶだけだ。

 いつも100点を取っている桂木に100点の取り方を教えてもらうという私の作戦はスタートし……

 

「それじゃあエリー、桂木を呼んで」

「え? 無理ですけど」

 

 いきなり障害にぶち当たった。

 

「ちょっ、何で!?」

「神にーさま、携帯持ってないですから」

「マジで!?」

 

 このご時世で携帯持ってないってどんだけなのよあいつは!!

 ……そう言えば、ユータ君への告白を手伝ってもらった時も電話で済むような話をわざわざ口頭で言っていたような気もする。

 番号やメアドの交換もしなかったような……

 

「……と言うか、あいつは日頃どうやって他人と連絡を取ってるの?」

「う~ん……連絡を取る必要がある人は家族くらいなので電話は要らないんじゃないですかね」

「どんだけ交友関係が狭いのよ!」

 

 学校でもずっとゲームしてて誰とも話さないとは思ってたけど、まさかそこまでだったとは。

 確かに要らないのかもしれないけど、こういう時に不便だから持っといてもらいたいよ。

 

「あ、でも何かメールを使ってたような気がします。ゲーム機で」

「あ~、確かにPFPってネット繋がったような気がするわ。

 で、そのアドレスは……?」

「勿論分かりません! でも、分かる人になら連絡が付くと思います!」

「分かる人?」

「はい、姫様です!!」

「西原さんかぁ……」

 

 桂木の従妹とは話したことがあった……気がする。

 ……あれ? どこで会ったんだっけ?

 まあいいか。

 いや、それよりどうして妹が知らないメアドを従妹が知ってるの!?

 

「ちひろさん? どうしました?」

「う、ううん、何でもない。

 西原さん経由で連絡取れる?」

「やってみます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルルルル

 

「あ、電話だ。岡田さん、ちょっと失礼しますね」

「ええ、どうぞ」

 

 こんな時間に誰からだろう? 岡田さんから電話を受ける事はしょっちゅうあるけど、その岡田さんは目の前に居るし……

 とりあえず出てみよう。

 

「もしも

『あっ、姫様! 私です! エルシィです!!』

 

 ……携帯、スピーカーモードにしてなくて本当に良かった。そんな機能そうそう使わないけど。

 

「何か用?」

『はい! 神様のメールアドレスってご存知ですか?』

「……メールで送るから、一旦切るね」

『りょーかいです!!』

 

 桂馬くん、メアドまだ教えてなかったんだね。

 教えた方が良いって言ったの結構前だったよね。

 勝手に教えちゃっても問題ないはず。そもそもエルシィさんが知らないのがおかしいんだから。

 …………これでヨシ。送信っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、来ましたよ! こんな感じだそうです!」

 

 エリーが示した携帯の画面にはタイトルも無く本文も一つのアドレスだけが記されたシンプルなメールが表示されていた。

 otoshi-god@zumcities.co.jp……落とし、神?

 あいつ、メアドでもそんな風に名乗ってるのね。

 

「さて、ようやく連絡が取れるね。

 ……何て送ろう?」

 

 こっちから物を頼むわけだから、少し下手に出ておいて……

 あ、そもそもこっちのメアドを知らないんだから名前も書いておかないと。タイトルに入れておけば流石に読まずに無視される事はないはず。

 『勉強を教えてください、お願いします』みたいな感じで大丈夫かな。あの桂木なら回りくどい手紙っぽい文章よりも好感を持ってくれるはずだ。

 

「よし、送信っと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[メールだよっ! メールだよっ!]

 

「ん? メールか。

 今日も迷える仔羊たちが僕に助けを求めているのか。

 やれやれ、神というのも楽では……」

 

『件名 小阪ちひろです』

 

「ってオイ!! 何でお前が僕のメアドを知っているんだ!?」

 

 イタズラメールや同姓同名の別人の可能性も考えたが、流石にイタズラの為だけにわざわざ僕のメアドを調べるとは思えないし、同姓同名の別人がわざわざフルネームを名乗ってメールを送ってくる意味は全くない。

 仕方あるまい。メールを開こう。ウィルスが添付されているという事は……無いな。ちひろにそんなスキルがあるとは思えん。

 メールを開くとそこにはちひろらしからぬ実にシンプルな文章が表示された。

 

『私たちに勉強を教えてください!

 お願いします!』

 

 ……ひとまず、状況を整理してみよう。

 (恐らく)ちひろからメールが送られてきた。内容は『私たちに勉強を教えろ』といった物だ。

 『私()()』という事は相手は集団、エルシィも居るはずだ。

 エルシィに僕のメアドは渡していないが……かのん経由で聞いたのか?

 つまり、かのん→エルシィ→ちひろという順番で伝わったんだろうな。

 エルシィはちひろの近くに居るのか?

 もしそうなら電話してみれば話が早いな。

 

 いや待て、何であいつの話を聞く前提なんだ?

 別に無視しても問題ない。僕はゲームで忙し……

 

[メールだよっ! メールだよっ!]

 

 差出人はさっきと同じアドレス……って、またかよ。

 で、内容は?

 

『追記 せめて返信か何かして下さい。

 もし無視するならメール爆撃する』

 

 テロリストかよ!

 ちひろなら……遠慮なく爆撃してきそうだな。サーバーがパンクする量を送ってくるかは微妙だが、いちいちゲームが中断されるのは面倒だ。

 一旦話を聞いてやってテキトーにあしらうか。

 家の固定電話は1階にあったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

[♪ ♪ ♪ ♪♪♪♪♪~ ♪ ♪ ♪ ♪♪~♪♪ ♪♪♪~]

 

「あ、電話です! 家からみたいですね。もしもし~?」

 

 2通のメールを送ってすぐ、エリーの電話に着信が入った。

 家からという事は……

 

「あ、はい! ちひろさん、神様が替わってほしいって」

 

 やっぱり桂木だったみたいだ。

 そっか、家には固定電話があるんだから携帯が無くても電話できたんだね。

 

「もしもし~」

『おいお前、どういうつもりだ?』

「あ~……脅したのは謝るよ。でもどうしても話を聞いて欲しくてさ」

『……僕の時間は貴重なんだ。手短に話せ』

「私たちバンドメンバー全員で次の英語のテストで100点取んないといけないの!

 お願いだから力を貸して!!」

『……おい、何で僕がテストなどというお前たちの自己満足に付き合わないといけないんだ?』

「ち、違うって! これができないと部活が作れないんだよ!!

 児玉のヤツが意地悪でさ!」

『部活……児玉……そういう事か。

 大方、陰湿な児玉に部活を作る条件を無茶振りされたんだろ?

 で、いつも100点を取ってる僕に泣きついたと』

「そうそうそうそう! 話が早いね!」

『だが、僕には関係ないな。お前たちの部活なんてどうでもいい事だ』

「ちょっ、そんな言い方は……」

 

 いやいや、落ち着け。ここで怒っちゃダメだ。

 確かに桂木の言うことは間違っちゃいない。こんな話を引き受けた所で桂木は何にも得しないんだから。

 ちょっと言い方はヒドいけど、正論だ。

 かと言って桂木に何か支払えるようなものがあるだろうか?

 う~ん……私と1日デートする権利とか♪ 女日照りの桂木ならこれでイチコロ……いや、止めとこう。何かこれだけはやっちゃいけない気がする。

 結局できるのは……

 

「お願いだよ桂木。私たち本当に困ってるの。

 ほんのちょっとだけでいいから助けて下さい。お願いします」

 

 誠心誠意、頼み込む事だけだった。

 

『…………………………』

 

 電話の向こうから沈黙が流れる。

 

「あの……」

『明日の放課後、1時間だけ付き合ってやる。後は自力で何とかしろ』

「あ、ありがとう!! それじゃあまた明日ね!」

『ああ』

 

 それだけ言って電話は切れた。







 前にも後書きどころか本文中で書いた気がしますが、神にーさまは携帯を持ってません。
 原作で一度も出てない上に女神編で無駄にエルシィの携帯を使う描写があったのでそう判断しました。
 エルシィの携帯を使うべき場面もありましたが……酷い風邪を引いてる状態でわざわざ某アホバディに他人の携帯を取らせるよりは自分の携帯を(あるなら)使ってるんじゃないかなと。
 判断基準とした描写がやや怪しいので原作においては明確ではありませんが、本作では持ってない設定で行きます。

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